二段 山高帽盗人
薔薇門署、九時。
花中嶋チョウジが戸口に佇み、捕えた犯罪者の書類を読み返す鵜崎の働く姿を夢想しながら見つめる歌川お九龍に近づき、手を彼の肩に載せて言った。
「な――」
が、口にしたのはその一言だけ。お九龍は振り返ると、お化けでも見たかのように甲高く叫んだ。それを聞いた鵜崎は豆の入った箱を持って廊下に飛び出してきた。
「お九龍くん、どうなさったのです? ……まさか、鬼でございますか!?」
チョウジは左手で鵜崎の箱に入った豆を押さえ、右手を挙げて、轟くように唸った。
「静かにせい! しないと鬼になっとるわい――」
しかし、鵜崎は引き下がらなかった。寧ろ――隊長の手を払い退け、豆を彼に撒き散らし、
「どうしてあたしに、女に、お声を荒げられるのです? あたし、女でございますから――」
と云いながら、お九龍が鯨のように喚いて、
「もう、辞める! 何もしたくねぇ! ただで金が貰えば、それで……」
ようやく、十秒程で、お九龍も鵜崎も落ち着いた。隊長を見つめて、「あ……花中嶋か……」と溜め息を吐いた。
「無論、俺だ! お前さんら、その『大変だ――鬼だ、助けてくれ』って? ……って、鵜崎くんは仕事に戻りなよ。と、お九龍は……何の話だっけ? ……君がどれほどの滑稽者であろうと、この署の見回りを任せる。」
「で、兄貴は?」
「極秘任務。俺が戻るまで何事も起きないようにな。」
チョウジとお九龍は互いに敬礼した。
チョウジは活き活きと街へ向かって歩き出すと、お九龍は鞘から木刀を抜き、廊下をあちこち行き来し、辺りを見回し始めた。
「おれが見回ってやるぜ、兄貴……。雑魚がひとつ残らねぇほどに見回ってやる! そしたら……」
と、お九龍の顔は、鵜崎を見つめていた時と同じ笑みに歪むと、
「……そしたら、鵜崎がすっげぇ褒美を……! うっひょ、鵜崎! おれのもの――!」
その時だった。彼の思いは廊下に響いてくる足音で遮られた。頭を振ると、お九龍はさらに厳しい表情になり、木刀を足音の方向へ向け、歯を剥き出した。そして、その足音に向かって行った。
いや、行く事ではない――走るのだ。稲妻より速く走ると、戸口の向こうに丁髷をした誰かの影を見ると、すぐに戸を蹴開け、刀を頭上に掲げた。
お九龍の雄叫びが胸から響くと、彼は木刀を頭の禿げた部分へ――バキッ!――と振り下ろした。
「これだ、護摩の灰め! 誰もおれ、この歌川お九龍を甘えるな! 鵜崎どころか――百合一文字全体でさえも、おれを誇りに思えるぜ!」
――多分、それは彼の故郷、百合一文字市の話しだった。薔薇門署のある街の北に位置する百合一文字市は、平安時代の貴族的生活の美の全てを此方へ移したかのような、貴族的な厳格さと優雅さで知られていた。お九龍の振る舞いを考えると、彼が百合一文字産まれとは思えぬ。
残念な事に――殴ったのは、何らかの破廉恥者などではなかった。無実の被害者はゆっくりと床から起き上がり、頭頂を擦りながら、暴力愛好家の方へ向き直り、自身の不満の全てをぶつけるために言った。
「この悪魔の落とし餓鬼め……! 貴様を滅茶苦茶にしてやるッ! 貴様の柄も!」
怒鳴りに駆けつけた鵜崎が尋ねた。
「回さん、いったい何が起こられたのです? お痛みのでございますか?」
「ああ、この歌川って奴が、畜生、頭をぶん殴りやがって!!! 俺の、この回治郎兵衛の……!」
鵜崎は、神経質に後頭部を掻きながら愚かにもつかない笑顔を浮かべるお九龍の方へ向き直った。
「歌川さん、どうなさいましたの? あたしもこの回さまのことはあまり……ではございますけれど、些細なことで彼をお殴りになるなんて、あまりではございませんか!」
――どうやらチョウジは特にどこにも出かけていなかったらしい。彼は全てを署の裏庭から見ていた。仲間がまたも何らかの馬鹿げたことを犯したと理解ると、自身の額を手で叩いた。
「何かがうまくいかないが……此処までとは……」
チョウジは考え、首を振りながら街へと歩き出した。
「さて、如何――もう誰か捕まえられたかな。」
家で、チョウジと竹之助は縁側に座り、饅頭を食べていた。チョウジは首を振った。
「今の処、まだ探してるけど。」
「で、僕が聞いた話をいくつか……」
竹之助はパンを飲み込んで言った。
「父から聞いて――街中で何者かが人々の頭から山高帽を引っ手繰るらしいの。しかも、誰が引っ手繰ったのか誰にも分からないほど目立たない方法で。」
「どれほど目立たぬ。」
「例えば、まるで背後にいきなり木が生えてきたみたいに。」
そう聞いて喉を詰まらせそうになった。
「本当か……。木が一本……?」
とチョウジは考えて、云ったのは、
「仏像が一体かと思ったけど――」
今度は竹之助自身が喉を詰まらせそうになった、もう一つ饅頭を齧る前に。チョウジは素早く彼女の背中を軽く叩きながら、
「息、息……落ち着いてくれよ。」
と繰り返した。息を整えた竹之助は、
「は、ありがとう――。でも、父の耳には、その男が何か昔の都の貴族生活の絵巻に出てくるような筆舌に尽くしがたい美男子だったって噂が入ったらしいの。変わった桜色の髪で、だけど……」
チョウジはゆっくりと肯き、何も知らない通行人の背後に忍び寄り、頭から帽子をひったくる桜色の犯罪者を頭の中で描いた。そして、通行人が振り返ると、男の場所にいきなり生えた木――道の真ん中に。が、彼の思考の流れは、竹之助が頭をピシャリと叩いたですぐに断ち切られた。
チョウジは声を荒げて、頬に手を当てた。
「痛――! 痛いんだよ、そもそも。」
「これはね、他の美人の事を考えないためよ! 解ってるわい、チョウジの浮気。」
と竹之助は指を振って脅したが、チョウジは鼻を鳴らし、頬を膨らませた。
「他の美人なんて考えてないよ。君だけが僕の唯一の女だ。」
「まあ、まあ。」
二人は一瞬互いに背を向け、花中嶋はその街のならず者の引き起こした犯罪についてさらに考え始めた。地面に落ちた帽子、当惑した通行人、道中の木。竹之助からの頭叩き……
「他の美人のことを考えないでって言ったでしょう!」
応えて、花中嶋は今度は牙を剥きながら彼女に唸った。髪と顎鬚は一瞬、元から熱血のその男の頭と顔の炎のように見えたかもしれない。
「考えてないよ、莫迦!」
「なら考えなきゃいい――でなければ、全部父に話すから。」
再び背を向け合い。再び、ならず者の行為についての思考。帽子、人、木、街――閃き。
「おう、ならず者を誘き出す方法が理解ったぞよ!」
竹之助は好奇心に満ちた笑みを浮かべてチョウジに向き直った。彼は続けた。
「囮を作らなきゃな。例えば、僕である囮が衣装を見つけて、それを着て街を歩き、ならず者が帽子を地面に落とすのを待つ。で、奴が落としたら……」
「そしたらアンタが謝罪を強要するの?」
「強要じゃない、丁寧に頼むだけど。」
とは云え、花中嶋チョウジの計画は彼の数千もの計画同様――単純さの中に天才的だが、馬鹿げているほど荒唐無稽で狂っている。竹之助を家まで送ると、彼はすぐに署へ走り戻り、仲間を集めた。
彼は木刀で床を叩いて宣言した。
「皆、やるべきことが理解った! 逢瀬――じゃなくて、任務中に、自身が帽子を被って歩き、できるだけ早く悪党を捕まえられることを発見した! 誰が一緒だ?」
「お伺いしますけれど、あの山高帽、いったいどなたのお心遣いで求めさせていただきましょう?」
鵜崎が尋ねたが、チョウジは手を振ると、
「否、否。『お心遣い』とか要らんわい。」
と、懐から手作りの山高帽を取り出した。
見た目は……継ぎだらけで、糸が飛び出し、しわくちゃ――卵焼きには見えないだけありがたい。少しでも動くと秋の葉のように震え、チョウジが頭に被ると、眉を隠した。
だが、チョウジ自身は単なる自信以上に見えた。
「小さい時に自分で作ったんだ。」
鵜崎は口を押さえるために全力を尽くし、手で、そして着物の袖を噛み――爆笑しないように必死で、それを堪えるうちに顔はまず赤く、次に青く、そして緑に……そして、結局虹色に変わった。そして彼女自身は寒さのように震えていた。
「誰が行く。」
チョウジは部隊に尋ねた。頭から帽子を脱ぎながら。彼の顔の笑みは太陽より明るく輝いていた。
お九龍と回は互いを見つめ合い、すぐにお互いを指差して、
「アイツを行かせろ!」
と叫んだ。その間、鵜崎の目は裏返り、自身、歯を緩め、床に倒れた。肩を擦りながら、大声で表情豊かに罵った。
街中をチョウジは穏やかな足取りで歩いた。曲がった山高帽を、有能な叔父が慌てて被ったかのように斜めに被って。そしてスーツまで着ていた――が、彼のような大男にはこのスーツが不便だとは気づかなかった。
「筋肉が突き出てる……」
と彼は独り言をつぶやいたが、自信に満ちた歩みは止めなかった。
そして、彼自身が囮であるだけでなく、この時間を有益に過ごしていた。例えば、彼は今日、もし竹之助と結婚する事になれば、扇合せの儀式の後、彼女の髪にリボンを結んであげるために買った。その考えに、花中嶋の心臓は少し早く鼓動し、頬は温かな深紅色に覆われた。
しかし、彼が別の通りに入ると、三人の娘が鮮やかな着物と、結び目が前に結ばれた帯を着て彼に駆け寄ってきた。彼女たちは花中嶋に襲い掛かり、尋ね始めた。
「旦那様、たくさん稼いでるんでありんすか?」
「お疲れでありんすか? あがりに誘えんすえ。」
「あたしの秘密のアルバムを見んせんか? 望む全てのあたしの写真と肖像画がありんすえ……!」
「あたしには何も――」
しかしチョウジはただ首を振り、冷静に答えた。
「すみません、私の心は既に誰かに占められています。ほら、結婚式のリボンも買いました。スーツは気にしないでください――私自身にとてもきつ過ぎます。」
そして、彼が別の区画を曲がると――パシッ!――何かが彼の帽子に当たり、帽子が飛んだ。
「おう、落ちた!」
チョウジは喜び、帽子を拾った。しかし、ひったくった悪戯っ子も捕まえると……
「蜥蝪? 人を揶揄って、頭から帽子を引っ手繰ってるのはお前さんじゃないか? 小悪党さん。」
そして、彼はお九龍と回の方へ振り返ろうとした――
お九龍が回の前に身を屈め、解けやすい帯のさらに派手な着物を着て、たくさんの簪と栓だらけの馬鹿げた髪型と、化粧品仕事をしたい女の子に見せればその願望を永久に失わせるような化粧を施し、
「ほっほ、何をおっしゃいんすか、早油実なまれだぶつ殿? まことに鰊とお戦いになりんしたんでありんすかぇ?」
「何より真実だぜ、お駄々!」
回はお九龍に狡猾に歯を見せて笑った。自身はさらに馬鹿馬鹿しい鶏冠のように見える帽子を被っていた。
「是論巍が浦には人を群れで飲み込むような鰊がいた! だが、おれは恐れず戦いに出て、剣を抜き――」
「――馬鹿野郎共ッ!!!」
チョウジが回とお九龍に怒鳴ると、蜥蝪は凍りつき、青ざめた。
「オイ、君ア何を怖がってん? 俺はアイツらにだ、ほら、遊女の芝居をやってる連中に。見たか、あのバカどもを? で、侍風のあれは俺に何か言ってんのに――」
蜥蝪は震えながら、帽子の継ぎ色に同化しようとしたが、恐怖からその色は水玉から格子まで飛び跳ね、完全に正体を現した。チョウジは丁寧にそれを取り外そうとした処で――角から、優美そのものの化身のように、竹之助が話していたあの桃色の髪の貴族が現れた。彼の視線は馬鹿げた二人組に落ち、彼の美しい顔は純粋な恐怖の表情に歪んだ。
「何てことを!」
彼は叫び、チョウジに駆け寄り地面に押し倒した。蜥蝪は男の手から主人の手へ飛び出した。
「静かに、ツトム――これらの南の蛮族はお前を傷つけぬ。」
チョウジは尾てい骨をさすりながら、涙を必死に堪えて唸った。
「オイ、俺が何をやってんって!? 何故かよ――俺が全てを丸く収めようとする時、ろくでなしどもがのんびりしてる間に、俺ばかりが痛むんだ!? 役立たず――!」
その時だった。叫び声に公園で鳥に餌をやっていた鵜崎が駆けつけた。彼女は眼前の無言劇――馬鹿げた帽子を被った回、遊女のように着飾ったお九龍、地面に尻餅をついたチョウジ――を見て、
「これぞ……地獄絵図。」
と考えようとしたが、蜥蝪を手にしたあの「ならず者」を見た時全てが帳消しになった。彼は朝焼けの色をした、銀の鶴が刺繍された洗練された着物を着ていた。彼の髪は蜥蝪の鶏冠と同じ優しい桃色の陰で、優雅な貴族の髪型に結われていた。彼の顔は古い人形のように美しかった。
「わあ、なんて美男子!」
彼女はキーキー声をあげて少年に駆け寄り、梅色の着物とポニーテールに結ばれた髪は同じく美しく翻った。
「あたし、鵜崎と申します。十六歳で、お近くにいさせていただくことは?」
「其処は可愛い蜥蝪ちゃんだ、とは云え……」
チョウジはぶつぶつ言った。
鵜崎に希望を見出し、若き貴族はすぐに冷め、目に希望の光が宿った。蜥蝪を胸に押し当て、少女に縋りつこうとしながら、声を震わせて言った。
「これが、真の美だ。こんな温かい肌、こんな絹のような髪が背中に滝のように落ち、こんな美しく、しかし同時に毒々しく危険な着物――全てが一人の少女に! 結婚まで本名を言い出すことは許されていませんが……あなた、美しい方、私を夕闇と呼んでください。」
夕闇と名乗った少年はもう一度チョウジや回とお九龍を見回し、手を挙げ、より怒った声で続けた。
「ほら、彼女から例を取れ。でなければ、お前ら全体からどんな利益があるんだ? はあ、南蛮の風習のくせに……」
彼の声は旋律的で憂鬱なものに変わった。
「騒ぎ、慌て、この醜い帽子も……我々北の、優雅さと静寂を尊ぶ場所とは違う。」
その時だった。チョウジは、地面から立ち上がりながら夕闇に訊いた。
「じゃあ、君がその『貴族ならず者』なのか。君の蜥蝪が空中から皆の帽子を引っ手繰ってたんか。そして、自身の悪さを我々の風習が君を悲しませると言って正当化するのか。」
少年は傲慢に顎を上げた。
「私はならず者ではありません――啓蒙家です! 私はこの無趣味な山高帽から人々を解放することで、美についての記憶を彼らに戻そうとしている! 私の使命は……」
「その使命って黙れ!」
お九龍が爆発した。
「俺自身が百合一文字市出身だ、幸いにも俺たちのところにそんな馬鹿はいねぇ!」
夕闇は凍りついた。彼の傲慢な仮面は一瞬揺らいだ。チョウジはそれを見て、自身の切り札を使うことを決めた! ……これは犯罪を解決するだけでなく、この自惚れた伊達男をこらしめるチャンスだった――セクシーコマンドーのチャンスが来たんだッ!
と、チョウジは一歩前に出て、
「夕闇君、君ん伝統の言葉は俺が魂の深くまで感動させました。君とその蜥蝪に、忘れぬよう、我らがここで復興している古代の武術をお見せすることを許可してくだされ。」
夕闇は軽い軽蔑で眉を上げた。
「武術? ここで? 疑わし……」
が、チョウジは既に始めていた――
彼は、少年から真剣な視線を外さず、彼の力強い体型には信じられない優雅さで……踊り始めた。出鱈目な踊りではなく――同時に鶴と酔った子熊の動きを彷彿とさせる奇妙な何か。彼は足を踏み鳴らし、手で複雑なパスを作り、その間『源氏物語』からの一節を、お九龍でさえ額に皺を寄せるほど古語で詠唱した。
限りとて別るる道の悲しきに
いかまほしきは蒲団なりけり
夕闇はこれを見つめ、彼の貴族的な仮面は継ぎ目で割れんばかりだった。彼は何かを期待していたが、これではなかった。彼の脳は起こっていることを処理することを拒否した。これがセクシーコマンドー――期待破壊の技。
「何……これは?」
チョウジは自身のステップを止め処無く、笑みを隠さずに言い放つ。
「あ、これ? 例の武術の『セクシーコマンドー』。とある帝の時代の宮廷護衛たちはこう戦った……。と、そん帝、なんて云うんだっけ……台伍天皇、だそうだ。百合一文字市ではこれを実践しないのか。残念。我々はこの『遅れた』南の薔薇門で、復興している。」
チョウジは呆然とした貴族にぴったりと近づいた。彼は完全に混乱して凍りついた。そしてチョウジは、踊りを止めずに、鋭くくしゃみをした。強く。大声で。そして空から夕闇の洗練された肩にまさに落ちてきた……油で汚れた、しわくちゃの芭蕉。
沈黙が訪れた。全員が当惑して固まった。芭蕉だと!? どこから? なぜか……
夕闇は自身の高価な着物の上の果物を嫌悪して見つめた。彼の神経は耐えられなかった。貴族的冷静さは、ようやく蒸発した――
「臭ッ――こん熟しすぎたあっぱ、何だぇ!?」
彼は自身の着物から芭蕉を振り落とし、あれから約三尺跳び退いた。そして、頭を振りながら、彼の桃色の髪は乱れて、
「よし! 目を明かそう、しょうがない。美のためじゃなく……! 私の……私の最愛の人、布商人の娘のため……。彼女、何か……優美で大胆なことを成し遂げる者にのみ、彼女の心は動くと言った。伝説になる何かを。と、私は思った……帽子を引っ手繰る事――これはとても詩的で謎めいている、古の都の英雄的恋人の行動のようだ。そしてこのあなた方の馬鹿げた帽子……それらはとても……引っ手繰りやすく――」
と、最後の言葉をほとんど吐き出すように言った。
鳥のさえずりだけが妨げる、墓場の静寂が訪れた。
お九龍が最初に正気に返り、化粧を袖で拭い取り、ほとんど鬼の面を彷彿とさせるようにして。
「オイ……お前は全て、女の子を感動させるために仕組んだのか? そのため、お前は自身の蜥蝪を人々に向けさせたのかい?」
「彼は向けさせてはいない! ……美の探求を手伝っている!」
夕闇は言い訳しようとしたが、声は震えた。
チョウジはゆっくりと息を吐き、哀れみと彼の頭を叩きたい欲求の間の感情で若き貴族を見つめた。
「坊や。もし君ん最愛の人が、君が蜥蝪を使って人々の財産を台無しにすることに夢中なら……君ら二人ア精神病院にぴったり――率直は悪いけど。」
少年は完全に落胆した。彼の蜥蜴は、少年の恥を感じているかのように、褪せた灰色になった。そして鵜崎は懐から手帳を取り出し、書いた。
『犯罪者発見――夕闇という俗称、本名はまだ不明。犯罪の動機、少女の心を征服するため。
――鵜崎』
「だが、蜥蝪と一緒に帽子を引っ手繰った事に対して、ただ謝罪すればいい。」
花中嶋は優しい笑みを浮かべて云い、そして地面から自身の手作り山高帽を拾い上げながら、
「そしてそんなに美しくもない行動に対して。」
夕闇はチョウジを見上げ、彼の心は罪悪感で疼いた。疼く心をこらえて、彼は息を吐き、頭を下げた。
「私をお許しください……あのう、名前は……」
「花中嶋チョウジ。」
男は胸の前で腕を組んで自己紹介した。
「薔薇門署の犯罪対策主任。」
「はい、はい……花中嶋卿。もう私とツトムはこんなことしません。」
応えて、チョウジは友好的に笑い、牙を光らせた。
「落ち込まぬぞ、坊! あの女の子の愛を他の方法で勝ち取れる――皆から帽子を引っ手繰るだけじゃない! どこかの庭で鳩を放てるとか。」
すると、夕闇は手を叩いた――彼の蜥蝪ツトムが主人の肩へ這う道を進んでいる間に。
「そうだ! これは大胆で優雅だ! 羽がどれほど美しく飛ぶか……咲ききれずに全世界を見る花のよう……。ありがとう、花中嶋卿! どう美しく成し遂げるか分かりました!」
喜んだ少年は花中嶋にお辞儀をし、方向へ走り出した――そして去った。彼のそばを竹之助が通りかかった。彼女は、
スーツ姿の自身をわずかな不快感で調べているチョウジを見つめた。彼女は笑みをこらえられなかった。
「まあ、サイズをもう少し大きくするべきだけど。」
「それはもう分かった……」
とチョウジは、自身のスーツを直そうとしながら延びた声で云った。
「だが、僕らは事件を解決した。本当に桃色の髪の男だった。」
回とお九龍は肯き、鵜崎は二人に拍手喝采した。彼女の目には、愛する人たちへの喜び――特に、花中嶋と彼のセクシーコマンドーへの喜びが輝いていた。
「ほら、つまり父の勘は正し。さて、アンタは普通の服装に戻らない? この……何かの中で、まるで全体が圧迫されてるみたいに見える。」
チョウジは頷き、スーツの胴部分を外した。
「あいよ、戻る、戻る。僕にゃ兎に角気に入らないから。」




