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抜錨

たくさんの方に見ていただけて光栄です。自身の生活との兼ね合いで今後も長くお待たせしてしまうかもしれませんが、もし、自分の作品を楽しみにしていただけているのであれば、気長にお待ちいただけると幸いです。 荒谷上総

席に乗り込むと、席が前に動き出し、ガシャンという音を立てて密閉した。

「さながらアニメだな」

そんなことをつぶやきつつ俺は辺りを見回した。だが明かりがついていないうえに密閉されているため、真っ暗で何も見えなかった。だが自身の右下に怪しく誘うように紅く輝いているスイッチのようなものがあった。これを押せばいいのか。ふと、そう考えると俺の体は無意識のうちにそのスイッチに手を伸ばした。

カチッ

押し込んだ瞬間に軽快な音がした。とてもこんなに大きく鈍重なものを動かすためのものからするような音ではなかった。

そうして席についていた計器やらスイッチやらが光だし、操縦席の明かりもついた。すると今までは真っ暗で気が付いていなかったが、自身の目の前に明らかに本来の使われ方ではない、様々な赤や青や黄色やらの配線が張り巡らされ、とても大きな機械にはめ込まれている。

「舵輪?」

まるで燃え盛る炎のような模様の深紅の舵輪。確か授業で習ったことがある。船を造る際に最も最後に行われる儀式のような工程。それは“醒船式(せいせんしき)”と呼ばれる工程で。船が完成した後、最後の最後に舵輪をはめる。そうすることで船乙女が船に宿り、舵輪にはその船特有の模様が焼き付くのだとか、だが色まで変わるなんて言っていただろうか・・・

「違う重要なのはそこじゃない」

なんでこんなところにあるのだろう。舵輪は船の操作には欠かせない部品だ。本来なら艦橋に設置されているはず。それに操縦席がこんなところにあるのもおかしな話だ。見ていたアニメの影響もあってこれが操縦席だと思ったが、本来ならこんな周囲の見えない場所を操縦席にするなんて頭がおかしいとしか考えられない。それに艦は決して一人では動かせない。それなのにこの艦は人を全く寄せ付けてこなかった様子だ。なぜだ?しかもあれほどまで船乙女が表に出て船の装備を動かすなんて聞いたことがない。考えれば考えるだけ謎は深まっていくばかりだ。・・・

ウィ―――ン

そんなことを考えていたら前にあった舵輪が奥の方へ引っ込み、いやどちらかというと隠され、上の方から前そして左右に液晶が下りてきた。降りてきて真っ黒だった液晶に文字が浮かぶ。

起動プロセス実行中・・・

船体センサー各種・・・問題なし

エンジン八基・・・それぞれ問題なし

対空用兵装各種・・・問題なし

主砲46㎝三連装・・・問題なし

魚雷発射管・・・問題なし

ミサイル発射管・・・問題なし

機動補助用モータ・・・問題なし

HLシステム同調良好

HLシステム用冷却装備各種・・・問題なし

起動プロセス完了、日輪(にちりん)起動

何やら機械的に淡々とした文字が流れていった。かなり早くて見切れなかったが最後の一文で何となく理解する。おそらくは起動に必要な準備をしていたのだろうと。だがあまりにも準備というには早いものだった。本当に一息つく間もない一瞬だった。そうして起動の文字が表れて間もなく、画面に外の景色が映し出され、ひとりでに錨を上げ始める。

「日輪って出てたっけ」

余りの急展開に頭が全く追い付かず呆ける。そうして息をつく間もなかったので改めて一度深く息を吸い込む。

スウ―――フゥ

唇をかみしめる。手が経験したことないほど振れる。怖い。やっぱり怖い。発進すれば後戻りなんてできない。米国の爆弾に狙われることになるだろう。だけどこんなに怖くても、死にたくなくてもこのまま何もできないままの自分は嫌だったんだ。あのひからずっっと心の中で燻り続けて来た思いが。この艦の甲板に乗り込んだ時、いや、爆弾を落とされて、いつもの凛の笑顔に満ちた表情が恐怖に染まっているのを見た時から、紅く熱く燃え始めたんだ。この覚悟に、思いに嘘はない。だったら、行くしかないだろう。そうして俺は二本の操縦桿に手をかけた。


「まさかあの艦が人を乗せるとは」

今までどんなに高潔で清純な将校にも心を開かなかったというのに、あんな少年に心を開くとは。あまりにも予想外のことが連続して、開いた口が塞がらないどころか地面につきそうなくらいだ。

ガラガラガラガラ

そんな風に呆けていると日輪が錨を上げ始めた。

「まさか発進する気なのか?!」

あの少年を何の訓練もしないで戦場に放り込むなんてあまりにも無謀だ。だが・・・

「あの艦の事だから止めても無駄だな。最悪主砲を叩き込まれかねん」

仕方ない、最低限出来ることはしよう。そう思って通信室まで走る。これ以上ないほどの想定外が連続したが、なぜか心は踊っている。年甲斐もなくワクワクしてしまって仕方がない。やっとあの艦の力を見ることができるかもしれない。そう思うと足がさらに速く回りあっという間に通信室までたどり着いた。そうして焦っている通信官からマイクを奪い通信をつなげる。

ピピ

急にどこからか音が鳴り驚きに体が跳ねた。

「なんだ?」

「聞こえているか?少年」

「あっ・・・ああ」

いきなり誰かもわからない声で問いかけられ、一瞬返答が遅れた。だがこの声聞き覚えがある。そう感じて思い返すと、俺が日輪に乗り込もうとしたときに忠告してくれた声と同じだということに気が付いた。

「いいか、今から扉を開ける。君は右足にあるペダルを少し踏んでから、操縦桿を両方とも傾けなさい。それで前進できる。」

「は、はいわかりました。ですけど攻撃はどうするんですか?」

「何心配いらない。それは日輪がやってくれる。君はただその艦を動かすことにだけ集中しなさい。」

“日輪がやってくれる”という言葉に疑問和感じたがすぐに晴れた。そう言えばこの艦は乗り込んだ瞬間に俺に銃口を向けてきた。おそらくそれと同じように火器管制をすることができるのだろう。

「その二つの操縦桿は左右舷の進行方向を独立して決められる。片方ずつ別々の方向に動かすことで機敏に曲がることができる。そしてペダルは出力調整だ。難しいことは考えずそれだけ取り敢えず覚えていなさい」

そうやって言いたいことだけ言って声は途切れてしまった。まあ、うだうだ考えていても仕方ない。そう思って俺は言われた通りにペダルを軽く踏み込み、両方の操縦桿を前に傾けた。


もう一度急いでドッグ内に戻る。絶対に日輪が動き出すところを見たいと思ったからだ。

着くと、丁度エンジンが回りだしたところだった。ゆっくり、ゆっくりその大きな船体が前へ動き出してゆく。水を押しのけ、かき分け、なんて雄々しいくたくましい後ろ姿だろう。俺は、こんなにも素晴らしいものを作ることができたのかと、自分が誇らしくなる。

「がんばってこいよ~」



気が付けばそう叫んでいた。

大和のように雪風のように。

かつて戦場を駆け、味方に希望を与えてくれた彼女らのように・・・


この国の未来を背負って輝く“日輪”になってくれ


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