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それでも僕は帰りたい~スキル【異世界転移】を持って異世界に転生!?~  作者: うどん米
第一章・始まりの一歩目、最初の世界ワァヘド
9/40

第9話・アポロの徒

前回のあらすじ

アインツの孫であるエナと会って、黒ローブとすれ違った




 評判の店に入った僕たちは全員がメニューの中に『おすすめ!』と書かれていた海鮮丼を注文し、舌鼓を打っていた。


『…警察によりますと、今朝8時ごろ、『アポロの徒』と名乗る宗教団体の一部信者が、市内の民家を含む建造物5棟に連続で放火を行い。死傷者は10名、負傷者は……』

「え?」


 海鮮丼を食っていると急に聞き捨てならないニュースが飛び込んできた。


「『アポロの徒』か聞いたことないのぉ…」

「おじいちゃん知らないの!?この間元総理大臣を暗殺してたじゃん!」

「あ…エナさん、僕たち山にいる間は外の情報が入って来づらくて、元総理大臣暗殺とかも初耳です。よければ、教えてくれません?」

「うん、いいよ!」


 新興宗教団体、アポロの徒……人民の救済を願い、神アポロを信仰する宗教団体らしい。

 だが、救済を謳ってはいるもののやってることはテロリストと同格で、建造物爆破や放火、人質を取って色々要求したり、飛行機ジャックも行っているらしい。


 犯罪のバーゲンセールと言うか、もう国家転覆罪に該当するのではないかと言うくらいの役満組織だが、その中心人物である教祖の足取りは全くつかめず、捕らえた教団員も軒並み会話が成立しないため情報収集にも難儀しているということだ。



「…なんというか、ここまで行くと逆に尊敬すら湧いてくるよ」

「やめとけ阿歩炉、自分たちの思想のために他者を傷つけるような奴は決して許してはならんのだぞ」


 エナさんの話を聞いて出てきた感想はそれだけだった。

 一連の話を聞いて絶句し、唖然となったのもあるが、それ以上に嫌な予感があった。


(試練ってこの組織を潰すことじゃないよな?)


 もし、実際にこの組織が立ちふさがるならもちろん乗り越える。

 ただ、話しを聞く限りろくでもない上に厄介であることは確定なので僕が太刀打ちできる相手なのかがそもそも謎だ。



「おじいちゃんの言う通りね!私も、誰かを勝手な考えで傷つける奴は絶対に許せないけど、それよりも海鮮丼を食べよう!」

「そうだね、考えても仕方ないし、海鮮丼がマズくなる…」


 一口また一口と口に運ぶ。

 久しぶりの海鮮丼は酢飯がそもそも美味しいし、口に入れた刺身もとろけるように消えて行って食欲が尽きることはなさそうだった。


 でも、何だか妙に引っかかる。

 もちろん、僕と同じ名前と言うことで少し憤りを感じているのもあると思うが、それ以上に胸をざわざわさせる気味の悪さがこみあげてくる。



「どうしたんじゃ、阿歩炉。海鮮丼が美味しくないのか?」

「…ッ、いえ!ちょっと、久しぶりに魚を食べたので感動で……その、呆然としてまして」

「そうか…」


 どうやら、相当顔に出ていたらしい。

 適当に返した逃げの一言は違和感マックスでそれを聞いた師匠はなんとなく察してくれたのかそれ以上に聞いてくることはなかった。


 ニュースを無視して食べ進めようとしたその時、流石に無視できない報道が入ってくる。



『ニュース速報です。本日午後、今朝8時頃に放火テロ事件の首謀者とされる宗教団体の構成員が、現在アジーン内にいると目撃情報が入りました。

 構成員の特徴は全身が黒いローブ、深くフードを被っております。構成員は武器を所持している可能性が高く、魔法を使用してくるため、接触した場合は……』


 このニュースを聞いたときに、すぐに思い当たった。師匠も同じらしく、微妙な表情をしながら顔を見合していた。



「‥‥師匠、もしかしなくてもあの人ですかね?」

「特徴は一致しとるの。エナ、食べたらすぐに家に帰るぞ」

「え?う、うん…おじいちゃんともっと遊べると思ったのに…」


 意外と世界は狭いとはよく言ったものだが、あの特徴にピッタリハマる人とすれ違っていたなんて、今になって少し肝が冷えてきた。


 残念そうにしているエナさんには申し訳ないが色々やらかしまくっているテロリストが出没している上に、それが近くにいたこの町で外をうろつくなど正気の沙汰ではない。



「ありがとうございました!」


 店員さんに見送られ、店を出ると師匠は少し寂しくなった財布を眺めながら寂し気な目になっている。



「結構な出費になったの‥‥‥」

「師匠、ありがとうございます」

「いいじゃん!おじいちゃん、お金持ちなんでしょ?お父さんが言ってたよ!」

「変な入れ知恵をしおって……まあ、いいかの可愛い孫の笑顔を見れるなら安いもんじゃ」

「やったー!おじいちゃん、大好き!」


 孫に抱き着かれてデレデレとした表情になっている師匠におごってもらったお礼を言いつつ、少し懐かしい風景に視線を右往左往させていたその時、あることに気づいた。



「師匠、人がいません」

「…本当じゃの、テロリストが出たと言っておったからもう皆が家に入ってしまったのかもの」

「何だか、世界に私たち三人しかいなくなったみたいだね!」


 エナさんのメルヘンチックな発言の言う通り、ガラッと誰もいない商店街は僕も見たことがない。

 僕が住んでいた地域の商店街は少しシャッタ―が多くなって子供の頃と比べて寂しくなっていたがそれでも毎年お祭りをやるくらいにはにぎやかな商店街だった。


 そう考えると、こうもガラッとしているのは物寂しいと同時に、僕にさらに帰りたいという気持ちを強くさせた。



「確かに、そうです‥‥‥いえ、残念ながらもう一人いたみたいです」

「それも、最悪の相手じゃの」


 だけど、そんな物寂しさもすぐ晴れることになった。警戒心を強め、呼んでいないこの商店街に現れた無法者に視線を向ける。


「エナ、下がっていなさい。儂らが相手をする」

「う、うん」

「オマエが、アインツだな」


 先ほど肩がぶつかった奴と同一人物かは顔を見ていないのでわからないが、目の前の奴はフラッとまるで幽霊のように現れた『アポロの徒』の団員と全く同じ特徴をしていた。

 それだけでも、警戒すべきものだのだが師匠の名前を知っていることでさらに警戒レベルが上昇する。



「確かに、儂がアインツじゃがお前は誰じゃ?もしや、儂のファンかの?」

「ファンではない……だが、我らと共に来てもらいたい」

「断る、儂はテロリスト共に行く用事などないし、これから孫と弟子と家に狩るところなんじゃよ」

「テロリストではない、我らは救済のために教えを広めているに過ぎない。だが、来てもらえないというなら…」

「うわわ!いっぱい出てきた!?」


 スッと手を上げると、無人だと思われていた商店街の陰から続々と同じ姿をした教団員たちが現れる。

 それに、目の前の奴の魔力が動き始めていることを、つまり魔法を使おうとしている。


「阿歩炉、戦うぞ」

「……でも‥相手は…」

「わかっとる、お前が人間を攻撃したことがないくらい。いつもの模擬戦で痛いほどわかる、じゃが…やらなきゃお前も周りにも危険が及ぶ」

「……わかってます」


 相手は飛行機ジャックや放火、爆破など様々なことをやってきているテロ犯。

 ここで魔法をまき散らしていくら被害が出ようと奴らは気にしないだろう。



 それをわかってなお、僕の体は震えを隠せない。

 ヒグマの時ですら攻撃は一定の不快感を生んだ、それが人間ならなおさらだ。


 だが、僕は家に出たそこそこ巨大な虫をティッシュ越しに潰すことすら不快感を抱き、日本育ち日本生まれの通常の倫理観を兼ね備えた激甘な育ちなのでどうにも心が追いつかない。



「…阿歩炉、儂だって人を傷つけるのは嫌いじゃ。むしろ、お前のように逃げてやりたいと思っとるし、お前のように戦いを知らぬ若者が増えて儂らの戦いには意味があったとそう感じるほどじゃ」

「師匠…」

「じゃがな、儂は戦争で学んだ。逃げてばかりじゃ何も変わらん。自分も、他人も、未来もじゃ。お前がやりたいことは何じゃ!!」


 この世界でも75年前には多くの人たちが英霊となっていった。

 それは何のためか、守るためだ。決して、奪われぬように物資を、家族を、尊厳を――未来を守るために戦った。


 それが、まだ20歳ほどの若者に言われては鼻で笑うだろうが、師匠に言われては僕が奮い立たないわけにはいかない。



「…そんなこと、とっくに決まってます。僕は、僕のために家に帰る!それを、邪魔するなら…お前を倒すよ」

「よく言った!敵の攻撃が来るぞ、阿歩炉!」


 心はまだ追いついていない、けどやらなくちゃいけない日はいずれ来る。

 それが今日だったと言うだけで、僕が試練を受けて帰ると言った日から逃げられないのは決まっていた。


 覚悟を決めた僕には奴がヒグマと比べて圧倒的に弱く見えた。

 爪は奴ほど無いし、時速50㎞で走ってくるわけでもない、腕力が異次元と言うわけじゃない。



「もう遅い【火の魔法!】」


 奴がそう詠唱すると、ちょうどボールサイズに火が集合しそれが僕たちに向かって放たれた。


「阿歩炉、こやつらくらい一人で倒すんじゃ」

「…わかりました、師匠。エナさんはよろしくお願いします【煙の魔法】」


 当然、火の玉なんて煙幕で防げるわけがないので普通の使い方はしない。

 振りかぶった右腕から煙幕を全力展開し右腕を守りながら常時発動している身体強化の魔法の力に任せて右腕を振り込むとファイアーボールは消えていった。



「なっ!拳で粉砕しただと、こいつも魔法使いか!…総員、取り囲み魔法を同時発動だ!」

「って、言うと思ったよ【煙の魔法!】」



 敵は合計5人、僕たちを囲むように五芒星で展開している。

 もし、同時に攻撃されればエナさんの身を“僕は”守れない。


 だとすれば、相手の連携を断ったうえでの各個撃破が望ましい。


 それこそ、煙の魔法の真価と言ってもいい相手の攪乱だ。

 全身から煙幕をまき散らしながら敵の視界を塞ぐ、展開した煙はある程度は僕が操れるし、中に入った人間の位置も探知できる。



「慌てるな!これは、ただの煙だ、ごほっごほっ。毒ガスじゃない!慎重に、魔法で煙を晴ら、ごほっごほっ…」

「それをされると困るね!!」


 咳き込みろくに指示が出来なうちに、リーダー格と思われるこいつの顔面に向かってぐっと、強く握った拳を煙で視界が安定せず慌てている教団員へ思いっきり放った。


 瞬間、手に嫌な感覚が残るも止まっている場合ではないのですぐさま次の敵に向かう。


 煙をまき散らしている間は、イメージを限定しているため他の魔法は使えない。

 エナさんは師匠が守っているから大丈夫だろうが、煙の中では呼吸がしにくい上に視界も悪い、ずっといれば酸欠状態になって死亡するだろう。


 だからこそ、常時発動している身体強化の魔法が最も相性がいい。

 敵からすれば、視界が悪いときにゴリラが思いっきりパンチしてくるようなものだ。



「ひ、来るな!【水の魔法!】」

「水は悪手だろ!!」


 詠唱と同時に、奴の手に水が集まるが生憎ここは不純物だらけの空間のため水の内部にある粒子を操作すれば魔法の権限をすぐ奪うことができる。

 そうして、操ったウォーターボールを相手にぶつけた後、濡れた顔面に拳をぶち込んで吹っ飛ばした。


 後、3人――だが、位置的に一人が冷静に煙幕の外に脱出しようとしている。

 煙は物理的障害とはならないため、外に出られては位置の感知も出来なくなる。それでは、不利になると考えた僕は全力でそいつの元へ向かった。



「くっ、追いつかれたか!だが、我の魔法さえあればお前の矮小な煙など無意味と知れ!【土の魔法】」

「魔力反応……下か!」


 相手の魔力の反応が足元にあることに違和感を覚えた僕は、発動の直後足元に相手の魔力が移動したのを見逃さなかった。

 すぐに跳躍したからよかったものの、見事な落とし穴が出来上がっていた。


「確かに、煙の中なら見づらい‥なッ!!」


 跳躍の勢いと共に放った拳は顔面に命中し、うめき声を上げながらまるでボウリングのピンのようにはねて転がっていった。



(煙の動きに違和感がある。おそらく、風の魔法で自分の周囲だけ煙を晴らしてるな……)


 師匠とエナさんは煙を展開した後から全く動いていないので、そこは気にしなくてもいい。

 それ以外で煙が不規則に動いているとすればそこに敵がいるということだが、煙での視界不良のアドバンテージも薄れているということだ。


(かなりの魔力を込めてるから、師匠でもない限り煙を全部晴らすなんて芸当はできない。なら、後回しにすべきだな…)


 倒したのは3人なので、後二人。周囲の煙を晴らしているやつは後に回して、最後の一人を追い詰めるため迫る。



「そこだ!【斬撃の魔法】」

「おっと‥‥危ない、危ない」


 流石に、煙の中と言えどある程度接近すれば気づかれる。

 目が合った瞬間に、奴は斬撃の魔法を繰り出してくるも、煙の中であればすぐに察知できるためすぐ右に避けるが、その後も馬鹿の一つ覚えのように斬撃の魔法を何度もこちらに放ってくる。



「【斬撃の魔法】【斬撃の魔法】【斬撃の魔法】【斬撃の魔法】【斬撃の魔法】」

「しつこい!その口塞がせてもらう【煙の魔法】」


 僕は、現在展開している煙を奴の周辺だけ動かし、顔に向かって濃度を集中させる。

 今の僕は、イメージを煙を展開し続けることに注いでいるため、攻撃手段はぶん殴るか蹴り飛ばすくらいしかない。



 もちろん、身体強化の魔法をかけているため並の一撃ではないが近づけなければ意味はない。


 だが、煙の操作で濃度を濃くすればいくら魔力の放出で煙が器官に入ることを防いでいようとも、最初にぶっ飛ばしたやつのように器官に煙が侵入し咳き込み始めるのだ。


「何を!ゴホッ、ゴホッざ、ん撃、ゴホッ」

(魔力が乱れたな、詠唱も出来ない。顔に煙を集中させたから、目も開けづらいだろうな)


 先ほどまで、マシンガンのように斬撃の魔法を繰り出していた奴は戦闘そっちのけで、煙が口に入らないように反射的に口を手で押さえながら咳き込み続けている。


 そうなれば、もはや身体強化した僕の敵ではない。煙で苦しむ奴と視線が交差した、その一瞬――振りぬいた拳は顔面に的中しぶっ飛ばした。



(最後の一人、まだ煙の外には出てないけど風の魔法は厄介だな…なら…)


 今までの相手は奇襲だったからこそ、対人戦闘に抵抗のある僕が勝利できたと言っていいだろう。

 相手の風の魔法によって周囲の煙が晴らされているこの状況で正面切って“まとも”に戦えば勝利はない。



「愚かだな、なぜ煙を解いた?」


 敵の最後の一人と僕の視線が交差する。つまりは、最初に発動させ奇襲の要となっていた煙幕を解除したのだ。

 あちらこちらに、僕にぶん殴られ地面に伸びている教団員たちと風の魔法で煙を防いでいた師匠とエナさんが露わとなった。


(よかった、師匠たちも無事みたいだ。なら、最後くらい手伝ってくれないかな…無理そう)


 ちらっと師匠の方を見ても面倒くさそうな笑みを浮かべて早くやれと手招きするだけだった。



「意味が無いし、魔力の無駄だからね。それよりも、出来れば傷つけたくないから帰ってくれない?」

「出来ぬな、ちょうど優れた魔法使いを集めよというご命令なのでな…連行させてもらう」

「……話せばわかると思ったのに」


 人を傷つけたくない、けれどそんな、なまっちょろい覚悟じゃ奇襲無しに相手には勝てない。

 僕はそんな現実に歯ぎしりしながら、戦いへの覚悟を今一度固めた。


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