第38話・殺意の衝動2
前回のあらすじ
ボスが出てきた
野次馬から情報を仕入れ、ツヴォーさんたちの元に合流すると二人と情報をすり合わせた。
特に、ディオが連れ去られた方向というのは良い情報になると思った。
「なるほどな、ディオがセカンドダンジョンにか……こいつは厄介だな」
「そうだね……」
だが、ツヴォーさんやホヨルさんの反応はそれほど芳しくない。
「セカンドダンジョンって何かあるの?」
「そうだな、まあダンジョンはどこでもそれなりに深いが特にセカンドダンジョンは深くてな。逃げまくられたら追いつくのは不可能って言ってもいい」
そもそも、ダンジョンが生まれるのは一説にはその周辺の魔力だまりが、ダンジョンコアなるものを形成し、周囲の物を吸収して生まれる――という事らしい。
つまり、吸収すればするほど階層は大きくなるしダンジョン内も吸収した物の影響を強くうけるようだ。
話によれば、セカンドダンジョンというのはここイスナーンで二番目にできたダンジョンで深さは100階層と最も深い。
その上、厄介なことに10階層ごとにボスと呼ばれる強力なモンスターが出現し行く手を塞ぐらしい。
「ボスモンスターがさらった奴らを足止めしてくれることを前提に行くしかないってことだな」
「もし、ボスが倒されていたら僕たちもまたボスを倒さないと追えないってことですよね……」
この世界に来て、戦ったモンスターは『ドゥ・ラビット』と『ドゥ・ボア』だけ、はっきり言って足手まといになる気しかしない。
「ねぇねぇ、それって私たちがダンジョンの入り口で待ってるってのはダメなのかな。相手は人間なんだから必ず出てくるんじゃないの?」
「それなら犯人とは会えるだろうが、ディオの命はない。それじゃあ、証拠が手に入らねえ」
一瞬、ディオの命なんてどうでもいいんじゃないかと頭をよぎったが、確かに証言を得られればディオの裏にいる僕を狙う『アポロの徒』と思われる組織の情報を得れるかもしれない。
「とりあえず、まだセカンドダンジョンに行ったって確定したわけじゃないんですから、まず情報収集しません?」
「ああ、そうだな」
「私もそれに賛成だよ!」
どっちみちダンジョンにいるのであれば、僕たちが追いつくのは難しい。
ならば、僅かばかりの確率でもダンジョン以外でディオを見つけられないか賭けた。
「………ッ」
しかし、方角に沿って聞き込みをすると、出てくるのはセカンドダンジョンの方向に走って行ったという証言だけ。
横道に逸れたりすることなく真っすぐ向かっているらしい。
「アポロ……これ以上は街の外だが、ほぼほぼ確定で良いだろうな」
「……同じ方角にセカンドダンジョン以外のダンジョン、もしくは身を隠せるような場所はありますか?」
「ないな、あったとしても憲兵に簡単に見つかっちまうだろうな」
もしかしたら、僕たちも誰も知らない秘密の隠れ家とかに身を置いている可能性もある。
だが、それはそれとして今一番奴らが身を隠すのに使えるのはダンジョンしかない。
(…でも、違和感がある、何であそこまで堂々と姿をさらして逃げた?)
ここまでの一連の流れがあまりにもできすぎているような気がするのだ。
まるで、僕たちをダンジョンに誘導しているようだった。
「……っ、だとしても追わないわけにはいかないよね」
「ああ、ほっといたらいつ俺たちがまた襲われるかわからねえ」
「それに、火事まで起こしてディオを連れて行ったなら、それだけ相手も追い詰められてるってことじゃないのかな?」
ここで、追わないと言えばきっと二人は追わないでダンジョンに潜ることもないだろう。
そうすれば、少なくともダンジョンで命を落とすことはない。
だが、心なしかスキル【異世界転移】が今こそ試練の時と告げている気がする。
「…どうする、アポロ。俺はお前に委ねるぞ」
「私もだよ、追うって言うなら私もついてくから!!」
「僕は……」
心臓の音がうるさい。
脳裏に何度も、何度もフラッシュバックするのはワァヘドで師匠を失った時の記憶だった。
もう師匠はいない、もう誰も守ってくれない。
今、自分の手の中にはツヴォーさんとホヨルさんの命が乗っかっている。
その中で僕が選んだのは――
「……行き、ませ…ます!!」
「どっちだ!?」
これは、決して自らの力に己惚れたとか調子に乗ったわけじゃない。
ただ、ここでディオの件を放っておけばホヨルさんやツヴォーさんに何が起こるかわかったもんじゃない。
そう思うと、胸の奥がざわざわしてやらなくちゃと勇気が湧いて来た。
まあ、ぶっちゃけダンジョンなんて怖いし行きたくないのが本心だがギリギリその勇気が勝利したので葛藤の中行くことにした。
「話は聞かせてもらったわ!!」
決心を固め、宣言したその時どこから声が聞こえ僕たちの元に影が降りてくる。
「「ドライツェン(さん)!?」」
金色の長髪に、森を思い起こさせる緑の瞳、僕たちの前に降り立ったのはつい最近カクシ亭を追放されたSランク冒険者のドライツェンさんだった。
「ど、どうしてドライツェンさんが!?」
それよりも、予想外なのはドライツェンさんが登場すると決まって警報を出していた【第六感】が何の反応も示さないのだ。
「ふふっ、今日の朝あなた達三人がどこか出かけるのを見かけて気になったからついて来たの」
「襲われたときには来ないくせに……」
「お、襲われた!?ホヨル、それって本当なの!?」
「うん、危うくここにいるみんな死にかけたよ」
ホヨルさんは昨日の出来事を事細かくドライツェンさんに説明した。
途中、表情が何度も変わっていくドライツェンさんは見ていて面白かった。
だけれど、僕に魔道具を仕掛けていてよく顔を出せたなとか小言を言われ始めてからはドンドン彼女の肩身が小さくなっているように見えた。
「…なら、なおさら私が協力するわ!」
「確かにSランク冒険者の手を借りれるのは大きいんだが……アポロ、彼女は信頼できるのか?」
「……そうですね、うーん」
信頼できると断言したいところだが、勝手に魔道具を仕掛けられて位置と音を拾われていたことを考えるとぞっとする。
「その、まあ…信頼できる?と……その、思いますよ?」
「アポロ君!?」
「ダメじゃねぇか!?」
残念ながら、ストーカー紛いのことをされていた恐怖が心の中で勝ってしまったので渋々という形で口から漏れ出てしまった。
日本にいたころの自分ならこんな美人にストーカーされてもむしろ嬉しいと思ってしまうだろう。
だけれど、異世界で命の脅威に対して緊張の糸を張ってきた今の僕にそこまでの寛容さは生まれなかった。
「大丈夫よ、アポロ君。もし、何かされても私が絶対にぶちのめすから!!」
「流石に私も反省したわよ!それに、そこの御仁のいう通り、Sランク冒険者の私を連れて行けば確実にその誘拐犯を捕まえられるわ!!」
だが、今はその感情は割り切るべきだ。
考えるのは、連れ去られたディオを捕まえ僕たちを狙う組織の情報を得ることにある。
なら、Sランク冒険者の力を借りるのは絶対条件と言えるだろう。
「…わかりました。こちらこそ、協力を頼んでもいいですかドライツェンさん」
「えぇ、もちろんよ!」
信頼の証として、差し出した手を彼女は強く握り返す。
だが、握り返された瞬間――【第六感】越しに猛烈な嫌悪感が僕を襲った。
(どうして…?【第六感】が反応していたのは、ドライツェンさんのストーカー行為じゃなくて、ドライツェンさん自体だったってこと?)
だとすれば、その警戒反応はカーアと対峙した時を優に超える。
むしろ、感じすぎて気持ちが悪いくらいだ。
「それじゃあ、準備を終えたらギルドに集合で良いわね?」
「「「おう/はい/了解です」」」
ということで僕を含め四人は、ダンジョンに潜る準備を整えるため一旦解散した。
「ドライツェンさん……」
***
「………」
宿屋に戻り、立てかけてあるミスリル製の棒を短くした状態で腰に下げ、その他にもいざという時に使えないかと買っておいた道具をリュックに積み込む。
「……ねぇ、嘘だと言ってくれないかな」
これから、ダンジョンに行くというだけでも最悪の気分だというのに、今日の朝からずっと僕の中で警鐘を鳴らしていたそれが、扉の向こうにいる“彼”によって確信へと変わる。
「【剛腕】」
扉の向こう側から声が聞こえたと思えば、突如として木の扉が破られる。
「本当に残念です、気づかれなかったらもっと後にネタバラシしてあげるつもりだったんですか」
「……僕だって、気づきたくて気づいたわけじゃないよ」
扉を破った【剛腕】の持ち主の正体はツヴォーさんの顔で、彼の声で、彼の表情で別人の言葉を話す“誰か”であった。
気づいたきっかけは、後から僕の部屋にツヴォーさんが入って来た時【第六感】がけたたましく反応したことだった。
この時点ではまだ憶測の域を出なかったけれど、話している内に妙に説明口調でディオの館に誘導しているように感じられた。
「最後におかしいって思ったのは、ツヴォーさんが僕に委ねるって言ったことだ。少なくとも、僕一人に考えを預けたらどうなるか知らない人じゃないのにね……」
「なるほど、それは盲点でした。本当になりきるのって難しいんですよね」
彼の声で、女性の口調で喋るのを聞いて頭に上る血を何とか抑えながら冷静に対話を続ける。
「ちなみに聞くんだけど、ツヴォーさんの体はどうやったら返ってくるんだ?」
「それは、生きてですか?それとも、死体で、ですか?」
「…生きてる状態で」
死んだ状態で渡すなよと、物干し竿を引き抜こうとする手を抑える。
「無理ですね」
「は?」
大きく目を見開いて驚く僕を見て、ツヴォーさんの体に憑りついたやつはおどろおどろしい笑みを浮かべた。
「だって、もうこの体……死んでますから!!」
「……嘘だ」
嬉々としてツヴォーさんの死を伝えられるが、頭が理解を必死に拒んでいる。
「嘘じゃありませんよ………」
「ッやめろ!!」
「ほら、痛覚ないのでこんなことも出来ちゃうんですよ」
信じない僕を不思議に思ったのか、奴はツヴォーさんの胸に剛腕で強化された自身の腕を突っ込み中から心臓を取り出し宿屋の床に投げ捨てた。
「…ッ、おえぇぇぇぇっ」
それを見て、ついに限界が来た僕はその場に蹲りイスナーンに来て初めて吐き出してしまった。
「あーあ、吐いちゃいましたね。そ・れ・で、どうしますか?仇を取りに行きますか?」
崩れるように四つん這いになった僕を心臓のないツヴォーさんの顔をした何かがのぞき込みながらそう言った。
「ああ、行ってやるよ!!お望み通りな!【煙の魔法.EVL2】」
だが、こちらもこれ以上ツヴォーさんの体で蛮行を許すことはできないと魔法を発動させ拘束した。
「なら、セカンドダンジョン第100階層にてお待ちしております。アポロ君」
そう言い残し、ツヴォーさんの体から憑き物が晴れていくと同時に、体は糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。
「アポロ君!どうしたの、今の音!」
扉が破壊された音を聞きつけてホヨルが部屋に入ってくると目に入ったのは、煙の魔法に己を任せ亡くなっているツヴォーと、声にならない声を上げ涙する阿歩炉だった。
「殺してやる……」
握られた拳は彼の決意程固く、強く――そして、殺意に満ちていた。
楽しい、アポロ、追い詰めるの、楽しい
最初から長く書く気がないと、結構勢いよく書けるので楽しい。
目指せ、総合評価160!




