第37話・ご都合主義を作るのが良い人とは限らない
前回のあらすじ
アポロが漏らした
色々な謎を残しながらも一応カーアを打倒し一段落したその次の日の朝は決してすがすがしいものではなかった。
「アポロ君、アポロ君!!」
「ど、どうしたんですか!?」
昨日の今日と言うことで一日のんびりしようと思っていた僕の部屋にホヨルさんは焦った表情で勢いよく入って来た。
「れ、冷静に聞いてね……」
「は、はい」
明らかに冷静でないのは彼女の方だったが気にせず襟を正し言葉に耳を傾ける。
「カーアがいなくなったの!!」
「…………え?」
その報告は僕を仰天させるのに十分なものだった。
思考がまるで鈍器で殴られたように鈍くなったのを感じる、それほど劇的な昨日から少し安らいだ心には重かった。
詳しい話を聞くと、僕たちがカーアを撃退したその日には牢屋に入っていたのだがその夜、ちょうど僕がホヨルさんと話していた頃に憲兵が見回りに来ると残っていたのはカーアの物と思われる血痕だけだったらしい。
「血痕……?それって、つまり戦闘があった?もしくは脱獄で血が必要だったってことかな」
「それは、わからないけど憲兵さんが見回りに来るまで物音一つなかったみたい。でも、妙なことに牢屋の中では争った形跡も、逃げた形跡もないの!」
カーアの血なのは、彼女しか血を流したと考えられないからだとわかる。
だが、その理由が何一つわからない。
第一、彼女が逃げた痕跡がないというのに姿が消えたというのは密室事件と言うことだ。
もしかしたら、転移魔法のようなもので逃げた可能性もあるがそれができるならホヨルさんとの戦闘で使っていたはずだ。
「…とりあえず、ツヴォーさんが無事か確認しないと。もしかしたら、もうカーアに襲われているかもしれない」
「その心配はない、俺はここにいるぞ」
扉の方に視線を向けるとタイミングでも計っていたのかと思うくらいジャストタイミングでツヴォーさんが立っていた。
「悪いな、話し声が聞こえて鍵もかかってなかったら入っちまった。それで、もう聞いてるみたいだなカーアがいなくなったって」
「はい、もしかしたらまたツヴォーさんに魔の手が及んでるんじゃないかって思って見に行こうと思ったんですけど、無事でよかったです」
「ああ、俺もだ。いなくなったって聞いてお前らのことが心配でな」
様子を見るにカーアに襲われたという様子もなく、襲撃者もいなかったようだ。
「……でも、どうするべきなんですかね。カーアがいなくなったって言われても……このまま、襲撃におびえながら暮らすんですかね」
ただでさえ、異世界に来ていつも心が休まらない毎日なのにこれから先はカーアの存在を頭の片隅に置いておかなくちゃいけないなんてストレスでどうにかなりそうだった。
「それなんだが、俺に一つだけ心当たりがある」
「本当なの!?ツヴォーおじさん」
「ああ、アポロが狙われた理由はわからんが、俺が狙われる理由なら見当がつく。ズバリ、俺が鍛冶屋ってことだ」
「か、鍛冶屋だから?それが、狙われる理由なんですか!?」
「俺はそうなんじゃないかって思ってる実はな……」
ツヴォーさんが狙われる理由、それは簡単に言えば商売敵を武力で消そうという物だった。
去年、ここイスナーンが属している国トゥネーン王国である革命が起こった。
それは、決して良く想像する革命ではなく僕の世界で言うところの“産業革命”と言うやつだった。
つまり、手工業から機械工業への転換が起こったのだ。
もちろん、最初は僕たちの世界のように繊維工業が中心に伸びていったのだが、ある時ここイスナーンに目を付けた資本家が安価な武器を製造して販売しようと考えた。
周辺にダンジョンが多く、絶えず冒険者が往来する分武器消費のペースも相当だったため、この市場への参入をもくろんだというわけだ。
ただ、実際は簡単に物事は進まなかった。
機械で自動化された分、大量生産と人員コストの削減によって従来とははるかに低価格で売り出したが品質は手作業ほどのものは作れなかったのだ。
「そこから奴らはどうしたと思う?」
「どうしたって……あ、まさか!?」
「いや、その前に奴らは中々に狡い手段を使ってきてな……俺たちのような優秀な鍛冶屋に名前を貸せと迫ったんだ」
確かに、いくら馬鹿な奴と言えど自分の命を任せるような武器はなるべく良いものを選びたい。
それで、安価かつ優秀な鍛冶師が作ったと銘打てばついつい手に取ってしまうだろう。
「で、でも!本当に貸した奴なんているんですか?」
「……ああ、奴らは相当に姑息でな。店に嫌がらせは序の口で、原材料の仕入れ先に口出しをしたりしてそもそも武器を作らせないようにしてな。金貸し業者もやってるから、土地や店を担保にしてふんだくる……なんて所もあるくらいだ」
やり方が現代的と言うか妙な生々しさを感じて気味が悪い。
と言うか、大資本がそんなやり方を取れば個人経営の店は歯が立たないどころじゃない。
「うちは、独自の仕入れルートがあって原材料は問題なかったが、乗っ取れないとわかったら奴らは徹底的にうちの悪評を広めて同業者を潰しに来たってわけだ」
そういえば、最初に行った時武器の良し悪しなんて知らない僕ですら一目見てすごい武器が並んでいるのがわかるほどすごい店なのに客は全然いなかった。
その理由が、そいつらに悪評を流されていたというなら頷ける。
「本当に許せないよね!ツヴォーおじさんの武器が欠陥品なんてそんなはずないんだから!!」
「ありがとう、ホヨルの言う通り俺の店は常連によって成り立っていたから対した問題はなかった。だから、経営出来ていたんだが……」
「そこを襲ったのがカーアだったってわけなんですか」
残念なことに、カーアからは全く情報を引き出せなかったので真偽はわからないがツヴォーさんの話を聞くに相当怪しい。
「そうだ、それでその資本家の名はディオ。ここ、イスナーンの武器市場を健在牛耳っている男の名だ」
「ディオ!?……あの、一応聞くんですけど人間ですよね?」
「…?人族とは聞いているが、それがどうかしたのか?」
「い、いや……何でもないです」
何というか、人間を辞めたり、気化を冷凍したり、時を止めたりすることができるゲロ以下の匂いがする人が頭をよぎったが気のせいだろう。
「とりあえず、その人が黒幕の可能性があるってことですよね」
「ああ、奴の住まいはちょうどここイスナーンにある!どうにか忍び込んで、俺たちを襲った証拠を引っ張り出せれば奴を捕まえることができる」
そうすれば、鍛冶師たちを取り戻すことも出来るし、いつ襲われるかわからないカーアの脅威を取り除けるかもしれない。
何より、ツヴォーさんやホヨルさんの命が狙われる可能性があるということに僕は妙な胸の引っかかりを覚えていた。
「そこなら、私知ってるよ。前に、お客さんが話しているのを聞いたことがあるんだ」
「でかしたぞ、ホヨル!よし、アポロ今から偵察に行くぞ!」
「い、今から!?」
「時間が経てばたつほど俺たちが不利になるからな、行くぞ!」
「おー!」
「お、おー!?」
***
と言うことで、ホヨルさんの案内の元で僕たちはディオが住む屋敷にまでたどり着いていた。
だが、ここでも簡単に物事は進んでくれなかった。
僕たちが屋敷についたころには、既に門の前に人だかりができておりその原因はすぐわかった。
「も、燃えてる!?」
「どういうことだ!?」
そう、ディオの屋敷が炎に包まれていたのだ。
容赦なく燃え移っており、屋敷全体に火が回っているのがすぐわかるほどだった。
当然、ここまでダイナミックな証拠隠滅をされては僕たちをカーアに襲撃させた証拠なんて出て来やしないだろう。
「あ、あの何があったんですか?」
とりあえず、何か情報を知るために適当な野次馬に話しかける。
「あん?あぁ、もう俺たちが来たときにはこうなってたんだが何でも放火らしいぜ」
「放火?事故とかじゃなくて、それで怪我人とかは」
「ああ、近くで火のついた棒を持っている奴がいたらしくてな、怪我人とかは知らねえよ」
最初は事故を装ってのダイナミックな証拠隠滅かと思ったが、わざわざ放火と言う形を取ってまでこんなことをする理由がわからない。
考え付くとすれば、僕たちが全く知らない第三者が意図的に放火したくらいだろう。
そのように、限られた情報の中で頭を捻っているとタイミングを見計らったようなタイミングで男が話しかけてくる。
「俺なら知ってるぜ、どうやら使用人やらはみんな避難できたみたいだが、主のディオだけ行方が分からないみたいなんだ」
「主を見捨てて逃げたってこと?」
「そうだろうな、評判は最悪だったし……だけどな、俺見たんだよ」
「見た?」
にやりと優越感がにじみ出ている笑みで僕の表情を覗き込んでくる。
「実はな、放火された後すぐに屋敷を飛び去っていく黒ローブの集団が見えたんだよ!」
「…黒ローブ!?」
「ああ、聞いたことがあるだろ。数年前スタンピードを起こしてこの街を襲った組織『アポロの徒』が復活した。そう俺は睨んでる」
だとすれば、急にきな臭くなってきた。
『アポロの徒』が関係しているとすれば、放火してディオを連れ去ったのにも何か意味があるように思える。
それに、奴らが世界を移動できる能力を持っているならワァヘドで僕が基地を襲撃しているのを知っていてもおかしくない。
そうなれば、鍛冶師であるツヴォーさんを潰したいディオ、基地を襲撃し滅ぼした僕を殺したい『アポロの徒』が結託している可能性も十分にありえる。
「それで、その黒ローブはどこの方角に行ったんだ!」
「お、おぉ……確か、あっちだな。ちょうど、セカンドダンジョンって呼ばれるダンジョンがある方に向かってったぜ」
「そう、ダンジョンかぁ……ありがとう、そっちも気を付けて」
「お前こそな~」
互いに手を振って別れ、ツヴォーさんたちと情報を共有しようと元居た場所に戻る。
***
「……はあ、あの小僧には悪い事しちまったな。いくら、逆らえないとは言えあんなこと言っちまうなんて」
男が、そう呟いたころにはアポロの姿はなく彼自身も路地裏にまで歩いていく。
「お疲れ様です!それじゃあ、さっさと解除しちゃいますね~」
すると、暗い影の奥から現れたのは、見覚えのある受付嬢の制服に身を包んだ女性。
間違いなく、冒険者ギルドで受付嬢をやっており阿歩炉とも顔見知りである“アール”あった。
その姿を見ると男はすぐ諦めた表情になりこれから起こることをただ見ることしかできなかった。
「スキル【死者転生】解除……さようなら」
「…クソッたれ」
彼女のスキルが解除されると、男は淡い光に包まれ次の瞬間影も形も消えてしまった。
「さてと、後は迎え撃つだけですね。今の持ち駒は【剣聖】と【賢者】……ああ、それに【元Aランク冒険者】【鍛冶師】もいましたね…さて……」
暗闇をじっと見つめ、アポロにはもちろんこれまで見たことがないくらい邪悪な笑みを彼女は浮かべる。
「楽しみですよ、アポロ君」
さーて、出ましたね。
うん、こっからどうなるかは……楽しみにしといてね!!
ついでに、モチベ維持のために感想とか総合評価を上げてくれるとすごい励みになります!!




