第35話・勝利を掴んだ者たちよ
前回のあらすじ
アポロが負けた
ホヨルは、この世界のアポロとその妻ツヴァイの間に生まれた娘である。
そして、父譲りの黒髪と母の紺碧の瞳、そして何の因果か父と似たスキルである【強健】を持つ元Bランク冒険者である。
「ふんっ!!」
「ッ、手がしびれるほどの強打……ただものじゃないわね」
その戦闘スタイルは愛用のメリケンサックとその細腕からは想像できないほどの剛腕による近接戦闘であった。
彼女の拳を受けたカーアはその衝撃に手を震わせながら曲がってしまったダガーを取り換える。
「でも、これならどうかしら【エアストライク】」
だとしても、カーアには【エアストライク】がある。
レイピアに込められた魔力は魔道具によって小さな竜巻へと変わり、ホヨルの体を傷つけ毒を食らわせようと迫る。
「【強健】」
そんなことは百も承知と言わんばかりに顔の前で腕で十字に構え、スキルの名を呼ぶ。
すると、体全身からエメラルド色の淡いオーラがあふれ出し彼女全身を包み込む。
「まるで、壁に放ってるみたいよ……」
「それが私のスキル【強健】だからね。並の攻撃は……通さないよッ!!」
ヒュッ、とカーアの鼻先をメリケンサックが掠め空を切る音が耳に響く。
「本当に固いわね…」
上体を逸らせ、何とか回避した彼女は自慢の体幹からダガーを突き刺そうと振るうがかすり傷一つつかない。
そのまま、地面を蹴り一回転と同時に蹴りをホヨルの顎目掛けて放つも避けられる。
それもそのはず、例えばツヴォーのスキル【剛腕】は腕力増強に特化しており、彼女の【強健】はその防御版と言ってもいい。
ちなみに、アポロの【剛健】は【剛腕】と【強健】の間くらいのスキルなのでもし、【エアストライク】を食らえば易々と吹っ飛ばされ死んでいた。
「逃がさないよ!」
怒涛のラッシュに思わず、二三歩退くカーアは思わず冷汗を流す。
サブウェポンのダガーならまだしも、レイピアは肉弾戦の距離では向いていない。
なので、どうにか間合いを離そうとするも張り付かれたまま離せず。
どうにか隙を作り出そうと抵抗しても、まともに使えるダガーだけでは全く作れない。
(なーんて、こういうスキルには発動できる時間に限りがある。そこを狙えば私の勝ちよ、さっきの奴とそう変わりないわね)
「とうぉりゃぁぁぁ!!」
ならば、隙ができるまで待てばいいだけの話だ。
瞬時に、レイピアを腰に引っ込め予備のダガーを取り出しダガーの二刀流を行う。
両手に刃があるため、相手の攻撃方向に素早く対応できるだけでなく、なおかつ片手剣よりも反応の自由度が高いためその防衛線を切り崩すのは至難の業だ。
「取った!」
しかし、突破は難しいと思われた防御にも限界がある。
攻めに攻めたホヨルの拳に彼女のダガーを吹き飛ばし、決定的な隙を作る。
「わけないでしょう!!【エアインパクト】」
「ッ、レイピアの刃先がこっちに!?」
だが、それこそカーアが作り出した罠でありホヨルは、ほいほいと嵌ってしまったのだ。
彼女がレイピアを腰に引っ込めた時刃先だけはホヨルの方を向くように調整し、相手が一歩こちらに踏み込み避けられないタイミングで放つ。
普通これを食らえば立ってなどいられないはずなのだが
「ッ……くぅ」
「本当に頑丈ね。これをまともに食らって悲鳴一つ上げずに立ってるなんて」
【エアインパクト】は【エアストライク】の威力を単純に上げたものであるため、普通に食らえば余裕で致命傷だ。
しかし、魔法が発動する瞬間に回避を捨て防御の体制を取ることで元来の頑丈さも合わせて耐えきって見せたのだ。
「【ハイヒール】……仕切り直しよ」
「回復魔法…スキルだよりの冒険者ってわけじゃないようね。なら、今度は一撃で殺してあげるわ」
ホヨルはだてに元Bランク冒険者と言うわけでもなく、圧倒的な肉弾戦の技能とパワー、そしてスキル。
それらのパフォーマンスを最大限に引き出し続けるための回復魔法を合わせたインファイターである。
「その必要はないよ」
「何を言っているのかしら?」
戦いが一段落したころ、ホヨルは笑みが抜けてきたカーアに向けて微笑む。
「だって、もうアナタの動き読めちゃったから、ね」
「戯言を!!」
真っすぐ、突き進みながらそう宣言した彼女にカーアは戯言だと一蹴するが、すぐにそうではないと気づかされる。
カーアの基本的な戦い方は二刀流によって相手の手数を上回り毒でトドメを刺すというものだった。
しかし、ホヨルには毒は効かないし、実質的な二刀流ともいえるホヨルには手数はほぼ互角まで追い込まれている。
ならば、搦め手として【エアストライク】や【エアインパクト】その他にも【エアカッター】など、空気を武器にする威力の高い魔法で立ち回ろうとするしかない。
「【リジェネレーション】」
だが、大きな問題としてホヨルが回復魔法の使い手と言うことだ。
今、使った魔法の【リジェネレーション】は使い手の肉体を回復させ続ける魔法で細かい傷などは瞬く間に治癒されてしまう。
(現状の手札で最高火力を出せるのは【エアインパクト】……だけれど、さっきみたいに防御されたら倒しきれない)
なら、狙うべきは防御されていない状況で頭か心臓を最大火力でぶち抜くことで回復の間もなく倒さなければいけない。
「【エアカッター】【エアストライク】【エアストライク】」
「【ヒール】【ハイヒール】【ハイヒール】」
まず、魔法を用いてどうにか防御を崩そうと思って乱発する。
だが、悲鳴一つ上げず、足も止まらず、拳も止まらず致命傷だけは避けて突っ込んでくるため暴走した猪を相手にしているようだった。
その上、ダガーの二刀流によるカーアの立ち回りを理解してきたようで徐々に追い詰められる回数も増えている。
(時間をかければ確実に負けるのは私……撤退したいけど、許してくれないでしょうね。魔力も残り少ないし……なら、賭けに出るしかないわね!)
単純な話だが【エアインパクト】を何十発、何百発放ち続ければ大体の敵は倒せる。
だが、それができないのは使っている魔道具の限界もあるが、一番の問題はとてつもない負担が彼女自身にかかるのだ。
実力以上の魔法はその身を滅ぼしてしまう、たとえ魔道具越しとはいえ二連続ですら相当な負荷を与え戦闘の続行は不可能になる。
(それでもいいわ、1%でも勝利の可能性があるなら!)
私は常に、自分の生存と言う勝利を掴んできた。
初めて冒険者になった日も、巨大な魔物を殺した時も、ダンジョンの罠にはまった日も、たとえ依頼主を殺してでも勝利を私は掴んできた。
それこそ、自分自身の生の実感であり興奮であり幸福であった。
「私は勝つ、掴んで見せるわ!!」
狙うのは相手の拳が私の体に突き刺さった瞬間、少なくとも片腕分の防御力はなくなる。
「とうぉりゃぁぁぁ!!‥‥‥ッ!?」
「ぐっごほっ……この、瞬間を狙っていたわ!」
鋭い痛みが腹部に走るのを感じながら、腕が引っ込まないようにダガーを捨てた左腕で必死に抑える。
動揺する表情、それをしり目にまるでガンマンのピストルのような早抜きでレイピアを腰から片腕で引きぬき構える。
ガシッ、と今私の手の中に勝利を掴んだ感覚があった。
「これで、私の勝ち…「いや、僕たちの勝ちだ」…え?」
掴んで離さないと勝利を確信したすぐ後、自分の脇腹から骨がきしむ音が聞こえた。
それと同時に掴んでいた勝利が横やりによってぽとっと地面に転がっていく。
首は動かさず、視線だけを動かすとついさっき腹部にダガーを刺して戦闘不能まで追い込んだはずの男が伸ばした棒で突いていた。
そう、ツヴォーに担がれて避難したと思われたアポロは、彼の手を振り払いホヨルの元まで駆け出していたのだ。
「ありがとう、お父さん。これで、終わりよ!!」
「……ええ、どうやら今日は取りこぼしたみたい」
自分の手から勝利が抜けていく感覚がする。
あと一歩、と後悔しながらカーアは潔く一言残し、勝利を拾い上げた勝者を讃えホヨルの一撃をもろに食らいその場に倒れ伏した。
***
実際の時間では10分ほどしか経過していないこの濃密な攻防戦の軍配はギリギリで僕たち勝利した。
「…はぁ、はぁ…ゴホッ、ゴホッ」
「お父さん!!待ってすぐに直すから【ハイヒール】【キュアポイズン】」
ダガーをいったん抜き、その傷も毒もすぐさま彼女の魔法で癒されていく。
だが、毒を直そうと使った【キュアポイズン】は一向に成功しない。
「ッ、知らない毒は成功率が著しく下がっちゃう……お父さん、戻って来て【キュアポイズン】【キュアポイズン】【キュアポイズン】」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
だけれど、体中から力が抜けていく感覚と共に指先も痺れてきた。
(………)
ついには思考すら黒く塗りつぶされていき、意識が遠くなっていく。
「くそ…アポロ!起きろ、寝るんじゃない!そうだ【剛健】を使え、使えば毒への耐性もさらにつくはずだ!」
「……【剛け…】」
口も動かない、舌先に重りでもついているのかと思うほど重たい――そして、ついには僕の意識は、闇に消えた。
『【剛健】』
それと同時に、僕の胸の奥から一言そう聞こえたんだ。
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あとENS9大賞始めました。初作品でいけるかな?




