第31話・僕は偽物なんですよ…
前回のあらすじ
悪は滅びた
「あ、アポロ?人違いじゃないですか……そ、それではこれで!」
「おいおい、そんな下手な誤魔化しで誤魔化されると思ってんのか?」
目を丸くしながら僕の名前――いや、かつて僕だった者の名前を言ったツヴォーさんは5,000イラ払ってとっとと逃げようとした僕の手を掴んで離さない。
「つ、強…潰れる【剛健!】」
ドワーフ特有なのか知らないが、圧倒的握力で掴まれた僕の腕は身体強化の魔法を貫通し容赦なく握りつぶされる。
それに対抗するためスキル【剛健】を発動させ肉体を30秒間強化する。
「おっ…そのスキル、やっぱりアポロじゃねぇか!【剛力】」
しかし、それは悪手だったとすぐに気づかされる。
相手がこの世界の僕のことを知っているということは【剛健】のことも知っているのだ。
僕が【剛健】を使うと嬉々として相手も【剛力】と言うスキルを発動させてきた。
「痛ッ、たたたたっ!?逃げません、逃げませんから~!」
名前から漂う嫌な予感から反射的に魔力を大量に掴まれている腕に突っ込み、何とか耐えようと歯を食いしばる。
しかし、案の定圧倒的な万力によって僕の腕は悲鳴を上げ、骨から聞いたことがない音が鳴りだしていたので降参するしかなかった。
「……はぁ、はぁ痛い」
「久々に会ったのに早々に逃げようとするからだ。それにしても……なんか、若返ってないか?声も高いし、足も治ってるじゃねぇか!?」
「そ、それは…」
そりゃそうだ、若返っているどころの話ではない限りなく同一人物の別人と言う意味不明に矛盾している状態なのだ。
それに、別の世界と言う発想がなければ僕がこの世界のアポロではないことなんて気づきようがない。
「…ツヴァイさんが亡くなってお前が行方不明になって5年たった。そしたら、若返って帰って来やがった。一体お前に何があったんだ?」
「い、言えない…‥それは、だって…」
心臓がうるさい、ただ言えばいいだけだ。
アナタが知っているアポロはもういない、昨日亡くなったと――
けれど、身近な人が突然いなくなる苦しみをよく知っているからこそ、その言葉が喉で詰まっている。
それに、何よりも僕が僕ではないと否定されるのが一番辛い。
「教えてくれよ、俺たち友達だろ!」
違う、違うんだ。
僕はその友達じゃなくて偽物で、いや偽物でもないんだ。
だけど、ツヴォーさんにとっては僕は間違いなく偽物の『影山阿歩炉』だった。
「……僕は、その友達じゃない……偽物なんだよ…」
「あ?…どういうことだ」
なんか、もう心が辛くなって全てを投げ出してしまいそうなくらい心がきつくなった僕はツヴーさんにこれまでのことを勢いよく全部話してしまった。
僕が、急に殺されて異世界に転生したことアナタが出会った僕は同一人物だけど別人なこと、そしてアナタが知る影山アポロはもう亡くなっていること、彼の娘を探していることを伝えた。
ツヴォーさんは決壊したダムのように情報を垂れ流す僕を見て頷きながら黙って話を聞いてくれた。
「……なるほどな、お前の話は大体わかった」
「し、信じてくれるんですか?」
「ああ、あらかたな。ていうか本当にお前らは同じ人間なんだな、話し方も、表情もまるっきり同じ、追い詰められた時に全部吐き出す癖も同じじゃねえか」
実際に、道中で道が変わったと言え元の人間は同じなのだ。
性根がそう簡単に変わるはずもない。
「知ってるんですね……昔の僕のこと」
「まあな、アイツが働いてた宿屋に色々卸していたからな。アイツが冒険者を始めたいって言いだした時は本当に驚いたぜ。虫も殺せなさそうなやつだったからな」
「そこも、同じなんだ」
おそらく、ツヴォーさんは僕で言うところのアインツ師匠のような人だったのだろう。
予想するに、雇い主兼恩人のおばあちゃんが死んで心が限界を迎えてた時に彼に会って全て丸々話してしまったのだろう。
「でも、別の世界の同一人物とはな。お前を送ったのは女神ってやつなんだろ、何でわざわざ同じ人間が別の世界とはいえ3回も送られてるんだ」
「それは、確かに…」
あのクソッたれ女神が僕に転生を進めてきたとき、確か『あなたはあたしの目に留まった』と言っていた。
そもそも、パラレルワールドの自分が来ている時点でどうにも怪しい。
これまで生きることに精一杯だったから気にしなかったけど、僕の異世界転生は決定事項とも言っていた。
決定事項だとして、あのクソッたれ女神が悠長に僕の死を待つのだろうか。
(……僕を殺した黒ローブは去り際に『ごめん』と謝っていた)
何だか点と点が繋がって線となり最終的にあの女神が全部悪いに収束されつつある気がする。
「俺が話を振っておいてなんだが、あんまり気にしなくていいじゃねぇか?とりあえず、生きて……帰るんだろ」
「はい!」
ツヴォーさんの言う通り、あの女神がどれだけ邪神だとしてもやることは変わらない。
「だが、一つだけ信じられねぇことがある……アイツがそう簡単に死ぬとは思えねぇ」
「でも…死体が実際にあったんですよ!」
「そいつは本当にアイツだったのか?お前のことだ、きっと別の世界の自分の死体を見て気絶して見てないとかだろ」
「はい、おっしゃる通りです……」
言われてみれば、通行人の人は誰もあの死体の身元について話をしていなかった。
死んだのがこの世界の僕だというのも勝手な憶測にすぎない。
「なら、アイツは生きてる。お前ならわかってるだろ、そう簡単にくたばる奴じゃねぇってな」
「…どうですかねぇ?」
周りに恵まれたおかげで、命を何とかつなぎとめている僕にとっては自分単体になるとそれほど長生きできない気がする。
「…ま、アイツのことだどうせひょっこり出てくんだろ。今度来たら、一発ぶん殴ってやるけどな」
「そうだと、いいですね……」
「辛気臭ぇ顔すんな、それで買ってくのはそのナイフだけでいいのか?」
「はい、まともに武器なんて使えないんで」
そもそも、買う金がないのだがここで解体用ナイフを買った後、値段が高いと言っていた魔物の毛皮やら角やらを売って何か武器を買ってもいいかもしれない。
と言っても、剣や槍なんて扱えるわけないし使ったとしても今の【煙の魔法.EVL2】でやっている鈍器のような扱い方になるだろう。
「…そうか、なら……今、お前は魔法を使って戦ってるんだよな」
「はい、煙を撒いたり固めてぶん殴ったりできます」
「大雑把だな…そういやアイツも切れそうなところを切るとか言ってやがった……」
ツヴォーさんによればこの世界の僕は魔法を扱えず、大剣を振り回して戦っていたらしい。
異世界に来たばかりの非力な自分を想像すると意外に思えるかもしれないが、スキル【剛健】を合わせればそれなりに様になる。
「だったら、明後日また来い。お前に武器を作ってやる」
「ぶ、武器!?言っときますけど、剣とか振るったら跳ね返ってきたら自分の顔面を切る自信がありますよ!!」
「そういう武器じゃねぇ!安心しろ大雑把で馬鹿なお前でも扱いやすい鈍器を作ってやる」
大雑把な僕でも使いやすい武器と言われて最初に思い浮かんだのはドゥ・ボアを倒した時に使った巨大ハンマーのような物だった。
「あ、その…でも、あの~お、お代とか…は、その、無いんですよ。なので……」
だが、悲しいかな今の僕にここで並んでいるようないかにも高級で凄そうな武器たちに払える金はない。
「17歳のクソガキがいちいち気にするな!……この世界のお前に受けた恩を返すだけだ」
「いや、この世界って16歳で成人でしょ!!僕は十分大人です!それに、知らない恩を僕に返されても困ります。ぜひ、この世界の僕に返してください!!」
「変なところで頑固なところもそっくりだな!!【剛力】さっさと出てけ、明後日また来いよ!」
「おわぁぁぁぁぁ!?」
【剛力】で逃げられなくなった時とは逆に、片腕で持ち上げられた僕の体は宙に浮き店の前にぶん投げられた。
結局、アポロの娘についての情報を聞くことなく追い出されてしまった。
(…ここで、僕にもう一度入って娘さんのことを聞く勇気があれば……ごめん、この世界の僕……)
内心、謝りながら踵を返し冒険へ早速向かった。
師匠のアインツが死んだ時ほどではないにせよ、阿歩炉君の心に多大なるダメージを与えた話でした。
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