第30話・悪は滅びた
前回のあらすじ
ドライツェンの過去が思ったより重かった、それはそれとして怖い
「な、何で!?私、エルフだからこれでも薬草のことについては詳しいのよ!」
「そういう事じゃないです。Sランク冒険者と新人が一緒にいるとなったら昨日のように諍いを起こすかもしれませんし、薬草採取なら僕一人でも十分です」
ドライツェンさんと一緒に行動すれば僕の安全は保障されたものだろうが、ここから降りかかってくるだろう試練に巻き込みたくない。
後、この人と一緒にいるとスキル【第六感】が反応し続けるので機能しなくなり突然の危機に対応しづらくなる。
「…わかりました。でも、必ず日が落ちる前にはギルドに帰ってくるんですよ」
「はい、ありがとうございます。心配してくれて、さようなら」
渋々と言う感じではなく思いの外すんなり了解してもらったことに違和感を抱いたが流石にただの自意識過剰だったようだ。
最後に挨拶した僕は早速門の方に向かい薬草採取のため駆け出した。
「頑張るぞ…」
***
――彼が門の方に向かって背中が見えなくなるとそっと私は魔道具を起動させる。
『頑張るぞ…』
「ふふっ、ちゃんと機能してるわね」
少し高かった迷宮産の魔道具だけれど、その性能はお墨付き。
彼が倒れた時は、ものすごく驚いたし焦ったけれどこの魔道具を気づかれないうちに仕掛けることができたのはラッキーだった。
「これがあれば、いつどこにいても声と位置がわかるわね」
そう、これがドライツェンがすんなりと阿歩炉を通した理由であり仕掛けたのは現代で言うところの盗聴器とGPSを合わせたような魔道具である。
自分自身の死体を見て、気絶してしまった阿歩炉を宿屋まで運びホヨルの監視はあったが看病することができた。
その際にどさくさに紛れて仕掛けたのだ。
これさえあれば、服を買う余裕すらないアポロの日常生活の音やどこに行っているのか四六時中知ることができる。
『あれ?これ、なんだろう……服の襟になんかついてる?ボタンみたいな……なんか怖いし、置いて行こう』
「あ!?ま、待って頂戴アポロ君!」
しかし、急に立ち止まった阿歩炉は何か違和感を察知したのかなんと魔道具を発見し適当に置いてしまった。
そう、なぜかドライツェンの行動に対しては過敏に反応するスキル【第六感】によって彼女の計画は水泡に消えた。
悪は滅びたのだ。
「……今度はもっとバレにくい場所に仕掛けましょう」
だが、そこはSランク冒険者らしく諦めることはないし、懲りることもない。
ドライツェンは、置いて行かれた魔道具を回収するために駆け出した。
***
薬草採取を始めて数時間が経過してた、うっかりミスでお昼ご飯を用意することを忘れていたいたことを除けば大成功と言っていいだろう。
だが、流石に取りすぎてしまいこれ以上北の森で薬草を採取したいなら森の中に入る必要があるだろう。
そんなこんなで、今回はドゥ・ボアなどの魔物と出会うことなく無事にギルドに帰ってくることができた。
「はい、全部で29,666イラですね。薬草だけでこんなに稼ぐなんて、もう名人ですね」
「まだ二日目ですけどね」
「ふふっ、ですがアポロさんは十分戦えるんですからそろそろダンジョンに行ってみたらどうでしょうか?」
昨日と同じように買取窓口に行くとてっきり人でごった返しているかと思ったが以外に空いている。
なので、ちょうど窓口にいたアールさんと雑談していた。
「ダンジョンですか…」
これでも男子高校生らしく興味はある。
ただ、草原のようにいざという時すぐ煙を撒いて逃げられる場所ではないだろうし、魔物との戦闘は死と隣合わせのためできれば行きたくない。
(だけどなぁ……ずっとこの世界にいる訳にも行かないし)
このまま冒険者としてちまちまその日暮らしで稼ぎ続けられれば生活できるかもしれないが、突然の怪我などすればこの世界の僕のようにバッドエンドルート直行の可能性すらある。
この世界でまともに生きようとした僕を見たからこそわかる。
絶対に定住したくない、定住するなら100歩譲ってもワァヘドにする。
「少し…考えてみます。あの、アールさんここで昔Bランクの冒険者だったアポロと言う人に何か心辺りはありますか?」
「もちろんです。そもそも、私がギルドの職員になったのは彼に助けられたからなんです!」
もしかしたら、冒険者ギルドの受付嬢ならこの世界の僕について何か知っているんじゃないかと思って聞いたら、思わぬ関係を知ることができた。
数年前に起きたスタンピードでイスナーンは進行する魔物と『アポロの徒』の襲撃を受け、大きな被害を受けた。
アールさんもその被害者の一人で、魔物に襲われたところを助けてもらったらしい。
「本当にすごかったんですから!ミスリルの大剣でズバッと、一撃で巨大な魔物を倒して……かっこよくて憧れでした」
アポロのことを話しているアールさんは本当に楽しそうで、早朝に彼が殺されたことはどうか知らないで欲しいと強く願った。
「ですが、冒険者の才能がなくて受付嬢になったころにはもう引退していてその日以来会ったことはないんです」
「そう、なんですか……いつか、その会えると…いいですね」
彼女の反応があまりにもキラキラしていて気まずいなんてもんじゃない僕は思わず視線を逸らしながらそう言った。
「はい!!そういえば、同じ名前ですけどもしかしてアポロさんって親戚か何かですか?」
「…そんな所です」
「やっぱり!実は、似てるって思ってたんですよね!」
流石に並行世界の同一人物だと言うわけにはいかないので適当に流しながら、彼の娘について情報を収集してギルドを後にした。
***
「おかえりなさい、アポロ君」
「…あ、間違え…てないですよね」
宿屋に帰って来て追加の宿代をホヨルさんに払った僕は今日はもう休もうと扉を開けると、なぜか満面の笑みでベッドに座っているドライツェンさんがいた。
自分の鍵で入ったのだが、一応部屋を確認しても間違いなく僕の部屋だし、彼女がいるのも幻と言うわけじゃない。
「大丈夫、安心して私はもう出るから」
「……はい?」
いったいどこを安心すればいいのかわからないが、突然のことで脳内が停止状態だった僕は横を素通りしていくドライツェンさんをただ見つめることしかできなかった。
「ダメだ、これ以上突っ込むとストレスでどうかなりそうだ……あれ?何だかベッドに違和感があるような?」
別に、特段変化があるわけではないのだが嫌な予感がするのだ。
「あれ、このボタンどこかで見たような……なんか、怖いし捨てとくか」
ベッドの下を覗いてみると、ふちにどこか見覚えのあるボタンがついていて、もしかしたら備品かと思ったが【第六感】がめちゃくちゃ反応する。
流石に、この状態では寝れないので適当に窓を開けてそのボタンを外に放り投げた。
(あ、でもホヨルさんに一応聞いとけばよかったかな…)
後日ホヨルさんに聞いたのだが理由は不明だが、僕がこのボタンを捨てたくらいの時間にドライツェンさんが勢いよく外に走り出して行ったらしい。
***
「はい、確かに…これで、無事あなたは正式に通行することが認められました」
「お世話になりました」
翌日、僕はやっと通行料の10,000イラを払い終え晴れて契約に縛られない自由の身になっていた。
まあ、払ったところで何か特段メリットがあるわけではないのだが【異世界転移】のスキルによってワァヘドに行けるようになったり、余裕があるうちに払っておけば気分も軽くなる。
「…さて、そろそろ覚悟を決めないとなぁ」
昨日で北の森の近くにある安全な草原から獲れる薬草は取り切ってしまった。
これ以上稼ごうと思えば、反対側の普通に魔物が出てくる草原か森の中になるだろう。
どちらにしても、魔物が出現するし戦うことも視野に入れる必要がある。
***
「いらっしゃい、何か入用か?」
魔物と戦うとしたら必要なのは武器――
「はい、解体用のナイフを一本頂きたくて…」
ではなく、倒した魔物を解体するために使うナイフを求めて僕はアールさんに紹介された武器屋に訪れていた。
まあ、武器を扱えるなら使ってみたいロマン魂は存在するが【煙の魔法.EVL2】があるので必要ない。
「解体用のナイフか……なら、そこに置いてある奴なら一つ5,000イラだ。適当に選びな」
「わかりました」
ここは不愛想ながらも、その言葉の奥には暖かい優しさを感じるドワーフの店主が経営する店で、扱っている武具は超一流との呼び声高いらしい。
彼の名前はツヴォ―この世界の僕と知り合いで、ミスリル製の大剣を売ったのもここらしい。
「それじゃあ、これで」
「おう……あ?」
目利きなんてできないので適当に選びカウンターまで持っていくと、そこで初めて店主と目が合う。
「何やってんだ、アポロ」
心臓が跳ね上がる音がした。




