第22話・スキル【異世界転移】
前回のあらすじ
老人から【第六感】のスキルを手に入れ基地を脱出した。
全てが終わった後、師匠の葬式はイエクさんが主導してくれて恙なく進んだ。
葬式は僕とエナさん以外にも大勢の関係者が駆けつけて見たことのないくらい大規模なものになっていた。
当然、喪服なんて持っていなかったので急遽旅行から帰って来たご両親から借りて参列した。
「君が阿歩炉君かな、爺さんが世話になったみたいだね」
「この度はご愁傷さまです。……むしろ僕がお世話になりっぱなしで……本当に、すみませんでした」
「いいんだよ、うちの爺さんらしい最後だって聞いたしむしろ君みたいな弟子がいて満足だったと思うよ」
「…そうですかね」
式場の隅っこで一人、ぼーっとしていた僕に話しかけて来てくれたのは師匠の息子さんでありエナさんのお父様だった。
「…君が気に病む理由もわかる。だけど、爺さんができなかったことを引き継いでやり遂げた君を誇りに思ってるはずさ…だから、そんなに自分を責めないようにな」
「はい…」
確かに、師匠を殺したやつをぶっ飛ばしたものの、あれは師匠が弱らせに弱らせたからこそ勝負が成立したようなもので僕の功績とは言えない。
むしろ、師匠が最後に渡してくれたスキルがなければ五体満足にはいられなかっただろう。
果たして、最後の最後まで情けない姿をさらし続けた弟子を誇っているものだろうか。
「阿歩炉君……爺さんに師匠がいたって知ってるかい?」
「いえ、存じてませんでした…」
師匠に師匠がいたなんて話は聞いたことがない。
と言うか、あの人はあまり自分のことを僕に話そうとはしなかった。
「だろうね、あの人は秘密多いし……俺もあの人は最強だと思ってたけど、昔師匠を失ったらしい。今の君みたいにね」
「師匠も、師匠を…」
「ああ、すごい師匠だったらしい。爺さんにとっての生涯の恩師だって言ってたよ」
「僕も同じです。師匠は生涯の恩師ですよ」
異世界に来て孤独で崩れ落ちて自暴自棄になって山を彷徨っていた僕を助けてくれて、魔法と居場所をくれた人だ、恩を感じないはずがない。
だからこそ、失った時の苦しみは計り知れないものだった。
「爺さんの師匠はこう言ってたらしい…『ここで俺が死んだとしても、未来の礎になれるなら後悔はないよ。だから…次はアインツが頑張ろうな』ってね。そのすぐ後に亡くなってしまったんだ」
「師匠の師匠らしいですね…」
「爺さんは君になんて言った?」
「……生きろと、生きて家に帰れと言ってました」
涙がぽつぽつと静かに足元へ落ちていく。
「なら、自分の死を悲しめなんて一言でも言ったかな?」
「言ってません…でもッ!!」
僕のせいで死んだんですと喉まで出かかった言葉が住んでの所で止まる。
「ならいいんだ、君の師匠は自分の師匠との約束を果たしただけなんだから。次は君が、約束を果たす番だ」
「僕の番……ッ、そうですね。今は、せめて師匠を精一杯送ろうと思います」
「そうだね、俺からもお願いしてもいいかな」
「はい!」
僕は、参列者の列に並んで順番に焼香を上げていった。
幸いにも、葬式に参列したのはこれが初めてではなかったのでスムーズに終わらせることができた。
その後は、出棺から火葬、収骨が終わり供養された。
「…ねぇ、阿歩炉くんはもう行っちゃうの?」
「はい、師匠との約束なので」
葬式が終わった後もしばらくエナさんたちの家にご厄介になっていた僕は今日、師匠と一緒に住んでいた山小屋に帰ることになった。
「そっか…うん、そうだよね。あのさ、おじいちゃんの家に行ったらまた会える?」
「ごめんなさい、きっと会えるのはこれが最後だと思います。もう、家に帰るしここに帰ってこれそうもないので」
「そんなに遠いの!?」
「はい」
距離が遠いと言うか世界が違うのだ、おそらくもう二度とここに戻ってくることはできないだろう。
だからこそ、この家に情が生まれる前にさっさと退散しようとしているわけだ。
「…阿歩炉くん、君のおかげで、おじいちゃんも私も助けてもらって本当にありがとう」
「助けて…なんて、そんな僕の方こそ二人にはたくさん助けてもらいました。離れても絶対に忘れない。もし、また会えたら友達って言ってくれますか?」
「ふふっ、無理ね。だってもう、友達じゃない…良ければ、エナって呼んでくれるかしら」
きっと、この瞬間を忘れない。
彼女の見た最後の笑顔は後ろで輝いている太陽のようで、僕の未だ情けなく曇っていた心を溶かすように照らし出した。
「うん、さようなら。なら僕は阿歩炉って呼んでください…エナ」
「えぇ、さようなら。阿歩炉」
互いに自然と滴っていた雫を拭いながら、改めて笑顔で互いを見送った。
そこから、電車を乗り継いでからバスに乗って、最後はゆっくりと歩きながらこれまでのことを思い出していた。
「…ただいま」
山に入り、良く見慣れた山小屋の中に入るもそこには誰もおらず、返事が返ってくることもない。
だけど、そこら中にこの間まで師匠がそこにいた痕跡を見つけることができた。
僕は再び泣き出す前にさっさと準備を済ませようと自分の部屋に入って行き、師匠が用意してくれたここに転生したときに着ていた制服の入ったリュックサックの中を確認する。
「あれ…?」
制服の上下を出した後、何か固い感触があったので出してみるとちょうどティッシュ箱の半分くらいのサイズの木箱が入っていた。
少なくとも僕が転生したときには持っていなかったので師匠が入れたものだろうが、とりあえず中を見てみようと木箱を開ける。
「これって…手紙と指輪かな?」
開けると、たたまれた手紙と銀リングに灰色の宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。
阿歩炉へ
これを読んどると言うことは、もう家に帰ってリュックから制服を取り出した時じゃろうな。
その指輪は魔道具じゃ、風の賢者アインツから弟子への選別じゃよ。
着けて魔力を通して魔法を使えばお前の魔法が扱いやすくなるはずじゃ、果たしてお前が元の世界に戻って魔法を使うかは知らんが、土産のようなもんじゃもらっとけ。
ちゃんと帰ったら色々事情があるじゃろうが親御さんとはきちんと話すんじゃ、お前ひとりで抱えたりせぬようにな。
…お前は、魔法使いが廃れたこの世界で儂の弟子になってくれてありがとうなのじゃ。
元の世界に帰っても元気でな。
アインツより
「………!」
出る言葉はなかった。
手紙を持つ手が震えながら、ぽつりぽつりと紙を濡らしながら言葉にならない声を上げた。
師匠が残してくれた指輪はいつ計ったのかわからないが人差し指にピッタリ収まり、僕の手の中で宝石輝いている。
(ダメだ、この家の中にいたらずっと泣いちゃう…)
拭っても、拭っても絶えない涙をぬぐいながら足早に山小屋を出ていった。
「ありがとうございました。本当に、お世話になりました」
最後に僕が一か月を過ごした山小屋に頭を下げ、ステータスを開く。
【異世界転移】
【風の賢者の加護】
【第六感】
ステータスに並ぶ三つのスキルたち、そしてこの間まで灰色に染まっていた異世界転移のスキルも発動可能になっていた。
「試練は超えた…あとは、行くだけだ」
この世界に未練がないかと言われれば嘘になるが、それでも分かれを告げなければいけない。
「【異世界転移!】」
スキル名を唱えると、目の前に眩い光が広がった。
やがて光は形を持つ、ゆっくりと輪郭を描き、やがて一枚の扉となった。
金でも銀でもない、太陽の光のような輝き。
「これが異世界への扉…」
なぜかこの扉の前に立った瞬間、嫌な予感がしたが今の僕には他の選択肢などない。
僕は、ドアノブに手をかけゆっくりと開いていく――
その直後、体は光の奔流に飲み込まれ視界が白く染まった。
「ん…うぅ……」
光が収まった後、目を開けると視界に入って来たのはだだっ広い広大な平原だった。
すぐに周囲を見渡してみても人っ子一人おらず、この時点で公園じゃないだろうなとは思い始めていた。
「あ……」
それよりも、目を疑ったのは見渡していると目に入った石造りの建造物。
さて、ところで一体いつから日本は周囲の防衛に石塀を採用していたのだろうか。
「あ、あの…クソ女神ィィ!!」
思いっきり地面をぶん殴るが、帰ってくるのは痛みだけ、もしかしたら夢じゃないかという幻想すらこれで潰えた。
まあ、スキルを渡されたころから自力で帰ってみなさいよと言われただけで日本に帰るスキルだとは一言も言われていない。
それに、スキルの名前が【異世界転移】なのだ、別の異世界に飛ばされる可能性だってあるはずだ。
まあ、それはそれとして勝手に解釈していた僕がすべて悪いのはよくわかっているが――
「別の異世界かよー!!」
ちょっとくらい、あのクソッたれ女神に文句を言っても許されないでしょうか。
本当は、仲間キャラがもう2、3人くらい増やしてみんな殺す気だったんですけど、殺すなら最初からいらなくね?と思って消しました。
でも、ここからドンドン犠牲が増えていくと思います。”それでも”僕は帰りたいですからね。
と言うことで、第一章が終わりました。
ここから第二章・偉大なる二歩目、冒険の世界イスナーン編が始まります。
この先、待っているのはどんな絶望か!それとも希望なのか?……それは皆さんの目で確かめてみてください。
感想、ブックマークなどお待ちしております。




