第21話・あったかもしれない自分
前回のあらすじ
なんか、敵を倒したらもう一人の僕が出てきた。
「そんなわけあるかぁ!!」
謎のおじいちゃんからの自己紹介を聞いてこう叫んだ僕に非はないはずだ。
目の前の白髪のじいちゃんが老けた自分自身だなんて陳腐なSF的要素が目の前に現れて「はい、そうですか」と信じられるはずもない。
「そんなわけがあるんだよ。俺は君、君はかつての俺なんだ」
「いやいや!!確かに親戚のじいちゃんに似てるなと思ったけど、喋り方も全然違うじゃないか!」
「転移して60年異世界にいれば、喋り方の一つも変わるよ…どうやら、君は転移いや転生して1年も経過してないみたいだね」
「60!?…ん?」
僕がこの世界に転生した年齢がほぼ17歳と言うこと同時期に転移したという前提ならこいつは少なくとも77歳まで生きたことになる。
「そうだよ…そうだ、どうしてもこれだけは聞きたかったんだけど戦争は終わった?」
「え、はい1945年の8月15日終戦したって聞いてますけど」
「俺と言う存在がこの巻物に転写されたのが8月10日だからギリギリ間に合わなかったね。本物は見れてるかな…」
感慨深そうに瞳を閉じ思い返すようにそう言うが残念ながらそれを直接口からきく手段はもう存在しない。
1945年に推定77歳と言うことは戦争から75年経過した現代に彼が生きているはずもない。
「って、違う違う。本当に貴方が僕なら僕しか知らないことを言ってみてくださいよ!」
ここで、本当に僕しか知らないことを言ってくれるならすぐ信じることができるのだが答えは否と首を振った。
「俺に転生前の記憶はほとんどない。南無阿弥陀仏くらいはわかるけど、それは自分自身の証明とはならないだろう」
「日本から来たのはわかるけど、自分自身とは…ていうか、本当に自分なら何で二人存在してるんですか?」
「そうだね…俺も驚いたんだけど、おそらくパラレルワールドってやつじゃないかって思う」
「パラレルワールド?」
ピンとこなかった僕に目の前のおじいちゃんは丁寧に説明してくれた。
パラレルワールドとは日本語で並行世界と言う意味であり、現実と同時に存在している、もう一つの世界、宇宙を表す概念とのことらしい。
「馬鹿な君にわかるはずないから何となくでいいよ」
「おい!お前は僕だぞ…って違う違う、危うく目の前のおじいちゃんを僕と認めるところだった」
ちなみに理解できなかったのは本当だ。
「要するに君と俺は同じだけど、同じじゃないってこと」
「……うん、わかった!!」
何もわからなかったが、とりあえずそう言っておけばわかった気がするので適当に返答しておく。
「…そうだ、お前が僕ならわかってると思うけど日本に帰る方法って知らない?」
「それを知ってるなら俺はとっくに帰ってるよ」
「でしょうね…やっぱりスキル頼みか」
あの女神が与えてきたという時点で疑いの目を向けざるをえないので、もっと確実な方法がないか知りたかったが知っているなら既に帰っているはずだろう。
「でも、手がかりがないわけじゃない」
「ッ、本当!?」
さっきまで残念そうに視線を下げていた僕が目を輝かせたのを見て、何か満足したのかおじいちゃんは「うんうん」と笑顔で頷いている。
「いい反応だね。でも、良い話と悪い話があるんだけどどっちから聞きたい?」
「…悪い話で」
「いいよ、悪い話はこの世界の魔法で日本に帰るすべはない」
一応この世界に来て調べていくうちに何となくそうだろなと思っていた。
もし異世界に転移する魔法が本当に存在するとすればそれを行使できるのは『ザ・ワン』を使用したときくらいだろう。
「良い話は?」
「異世界を移動する手段が存在するってこと…」
「それってつまり、異世界から何かが来たもしくは送ったってこと?」
異世界を移動する手段が存在すると知るには実際に異世界から来たもの、送ったものを観測しなければいけない。
これで話の落ちが女神の力で転移とかだったらこの巻物を破り捨ててやろうと思いながら話を続きを待った。
「そう、異世界から来てしまったんだ…『アポロの徒』と名乗る侵略者たちがね」
「『アポロの徒!?』」
「知ってるの?」
「は、はい…」
まさかの名前がおじいちゃんの口から飛び出したことに驚きながら僕は事の詳細を彼に全て話した。
「…そうか、俺はその『アポロの徒』の教祖を名乗る奴に襲撃されて……その、色々あったんだ」
襲撃されて何が起こったのか言いたくなかったのか、それとも思い出したくなかったのか言いよどむ素振りを見せた後、話しを続けた。
「その教祖が自分で言ったんだよ。異世界から来たってね…確証は薄いけど、あそこまでの魔法を見せられたら納得するしかなかった」
「それだけとんでもない魔法を使ったってこと?」
「そう、正直神の類じゃないかと思ったくらいね」
詳細を聞くと、僕も耳を疑う魔法の数々が彼の口から飛び出してきた。
なんとその教祖は『ザ・ワン』を使わずに多種多様な属性の魔法を扱い、辺り一帯を吹き飛ばす威力の魔法を使ってきたり、極め付きは『時間停止魔法』と来た。
「時間停止魔法…?そんなのがあるなら勝てるわけがないじゃないか!?」
「そう思ったんだけど、俺の時間は止まらなかったから何か抜け穴があるんだと思う」
「抜け穴…?」
魔法の常識に当てはめて見れば、自分の周りに大量の魔力を纏っていれば他の魔法と同様に防げるのではないかと考えられる。
だが、止まらなかったのがこいつなら異世界人の時間を止めることはできないという可能性もある。
「って…何で、僕がそいつと戦う前提なんだ」
「ははっ、いずれ戦うことになるかもね。もし、そいつに会えれば異世界に転移する魔法も知っているかもしれないし聞いてて損にはならないよ」
「ま、まあ…帰れなかった時の案の一つには考えておくよ」
絶対、絶対に戦いたくはないが家に帰れないのはもっと嫌なので一応記憶の片隅には置いておくことにする。
「それじゃあ、他に聞きたいことはあるかな?」
「…いや、無いよ。帰るための手がかりを一つでも知れてよかった」
疑ってはいるものの目の前の自分を見て将来こんな感じに老けられるならいいかなと思いながら感謝を伝えた後、巻物を元に戻そうとしたその時だった。
「そっか、なら最後に“これ”を託すよ…【―――】」
「え!?ま、眩し!」
何を言っているのか聞き取れない詠唱と共に突如としておじいちゃんが光り輝いたのだ。
至近距離で受けた僕は思わず目を手で覆い光を遮っていると頭の中に聞き覚えのある音声が流れる。
・スキル【第六感】を習得しました。
光が収まるとやり切ったという感じで額の汗を拭うような仕草をするおじいちゃんがいた。
「『す、ステータスオープン』」
【異世界転移】
【風の賢者の加護】
【第六感】
・自分自身から託された彼が女神から渡されたスキル。
インターバルは存在せず、所持者に直感的、本能的な感覚を付与する。
一方の僕は、突然起きたアナウンスの内容を確認するためステータスを確認していた。
増えていたスキルは【第六感】で長押しで詳細を見てみると要するに『理屈では説明できないけど、なぜか感じ取れる力』を与えるという事らしい。
「こ、これは一体?」
「俺が女神から与えられたスキルだよ。ピンチな時とか色々感じられたりするから便利なんだよね」
「…もらっていいの?」
「いいよ、戦争が終わったならもう無用の長物だからね。それに、君はまだ何かに巻き込まれそうだし…」
ただの冗談のように聞こえるが、今までこのスキルを持っていた奴が言うと妙にぞっとした感覚に襲われる。
それに加えて、スキルの詳細欄を見る限りこいつが本当に僕自身だということに間違いないだろう。
「ありがとう、僕…」
「信じてくれた?それにしても、最後の最後に会うのが自分自身なんて思わなかったよ…」
「僕も自分と会うだなんて思わなかったよ」
全ての仕事を終えてホッと一息ついたように真っ暗な天井を見上げながら呟く。
そして、ついにその時が来たのか彼の体が少しずつ透けてきた。
「どうやら、お別れみたい。ありがとう、君は絶対に日本に帰るんだよ」
「うん…あ、そうだ……」
彼が消える前に一つだけ聞きたいことがあった。
「あんたは最後まで帰るのを諦めなかった?」
「…初めて人を殺した時に諦めちゃったよ」
「そっか…」
彼の深刻そうな表情を見てなおさら僕は人を殺してはいけないと理解する。
薄々わかっていたが、僕は一度でも人を殺せばきっと後戻りできなくなってしまうのだろう。
「さようなら、まだ間違えていない僕」
「…肝に銘じておくよ。さようなら、あったかもしれない僕」
最後に言葉を交わした後、何かを間違えた僕は光と共に消え去ってしまった。
彼が封じ込まれていた巻物もそれと同時に燃えて塵になった。
「…さて、脱出しますか」
『アポロの徒』との戦いは終わった。
犠牲は決して安くはないものだったし、僕たちの心に癒えることのない傷を残していった。
地下で、師匠の亡骸と煙でガチガチに固めた奴を抱えながら安全な場所に置いてきたエナさんの元に向かった。
「…ッ、おじいちゃん……」
「エナさん…」
抱えてきた物を見て何となく理解したのだろうか顔が青ざめていた、そして亡骸を見せた瞬間に決壊したように彼女はその場に崩れ落ち涙を流した。
それを見ていた僕もさっきまで主に殺気や怨嗟で抑え込まれていたものがあふれ出しそうだった。
一か月ちょっとしか一緒にいなかった僕ですら今にも胸をかきむしりたいほど感情が抑えられないのだ。
あんな仲の良かった祖孫なのだ、その心情は想像に余りある。
「…行きましょう」
だが、ここにずっといても辛いだけなので涙を流す彼女にそう言うと何も言わずただ頷くだけで動かなかった。
仕方ないので、男の方を煙のロープで引きずりながら空いた手で彼女の手を取って地上まで歩き出した。
「ありがとう…阿歩炉さん」
ここで一言でも僕を罵ってくれれば気分が楽になったというのに、僕の方は申し訳なさでどうにかなりそうだった。
「君が阿歩炉くんかの」
「…あの、どなたですか?」
ほぼ放心状態のまま地下を脱出した僕たちが外に出るとそこには腰のすっかり曲がった眼鏡が似合う御仁と物々しい装備を着込んだ集団が立って待っていた。
「儂か?儂は、アインツの友であるイエクと言う。この基地を特定した者じゃよ」
特定と言えば師匠との会話でそんな人物が出てきたような。
「もしかして、御年99歳の元諜報部の質調さんですか!?」
「うむ、生涯現役だからの、アインツに言われてこうやって後片付けをしに来たのじゃが…」
イエクさんの視線がちらっと僕の手の中で眠る師匠の方を向く。
「アインツは逝ったようじゃな…」
「ッ、はい…」
「あやつの最期はどうだった?」
「勇敢で、最期まで僕たちのことを考えてくれていました。本当に、お世話になって……ッ」
師匠のことを思い出すたびにこみあがる感情が抑えきれなくなってしまう。
心なしか、僕の手を握るエナさんの力も強くなっている。
「そうか、あやつらしいの…安心せい、後片付けは儂らがやっておくから二人はもう家に帰りなさい」
「家に…はい…‥お願いします」
ここに攻め入る前の阿歩炉であればアインツの友人を名乗るイエクを疑っていただろうがもはや彼にそんな気力は残されていなかった。
阿歩炉にとって幸いだったのは、イエクの言動が彼のスキル【第六感】に反応しなかったことだろう。
もし、嘘をついていたのならここにいる全員が彼らの敵に回りボコボコにされていたことだろう。
師匠の亡骸は後日、葬式が執り行われるとだけ聞いて僕たちはイエクさんが呼んでくれたタクシーで足早にその場から去って行った。
「おやすみ、阿歩炉くん」
「…おやすみなさい、エナさん」
家に帰った僕たちは今日はとにかく疲れたということで早めに眠りについた。
空いた部屋にあるベッドに体を預けながら今日のことを思い返す。
師匠が死んだ後はとにかく夢の中にいるように意識がぼやけていた。
ここに帰ってくるまでも記憶が曖昧でどうやって帰って来たのかもよく覚えていなかった。
そもそも、殺された直後なんて僕らしくもなく躊躇もなく殺してやるとか平気で言い始めていた。
たくさん、泣いた後も何故か急に冷静になって戦闘を始めることができたし僕じゃない誰かが勝手に体を動かしているような気分だった。
「……」
誰もいない夜の闇の中、この一夜は涙を流すことなくぽっかり胸に穴が開いたままただ頭に靄がかかったまま天井を見上げていた。
さて、そろそろスキルの出番ですね。




