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それでも僕は帰りたい~スキル【異世界転移】を持って異世界に転生!?~  作者: うどん米
第一章・始まりの一歩目、最初の世界ワァヘド
17/40

第17話・神の如き魔法使い

前回のあらすじ

師匠が風の龍で男を名乗らせる前に粉砕した。だが、『ザ・ワン』を起動しようとしている。



 風の龍を前になすすべもなく壁ごと突き破られ吹っ飛ばされた後、彼は暗闇の中で“それ”に手を掛けた。


「…風の賢者は、アインツは…殺さなく、ては」


 一見ただのヘンテコなヘルメットに見えるが、それこそ『ザ・ワン』であり現在は無線で集めておいた大量の脳みそと接続されており今すぐ使える。


 本来なら、アインツを素材として扱う必要があったがそれはもう敵わない、ならばせめて瞬きの間だけでも――



「我は神に至ろう」





『ザ・ワン』


 その正体は、風の賢者アインツが戦時中来たる本土決戦に備えて開発した対国兵器である。

 しかし、未だ技術がそれほど発展していなかった時代に圧倒的力技によって作成されたそれには重大な欠陥がある。



 起動するためには優れた魔法使いと、それ以外の大量の脳みそが必要になるという倫理的に最悪の欠陥があったのだ。

 これは、複数の脳みそを一人の優れた魔法使いに連結させるというわけだが、使用するのは優れた魔法使いではない第三者でも可能になる。



 優れた魔法使いはあくまで複数の脳みそと連結させるためのいわば中継地点のような役割を担い、補助を行う。


 だが、理論上は処理を行う脳みそたちと直接連結している優れた魔法使いもその処理能力を扱えるようになりさらに優れた魔法を扱うことも可能になるだろう。



(優れた魔法、それは儂のように基本を極めた者がたどり着く極致とは違う。本来、人間が至れないところに手を掛けることでもあるじゃが)


 魔法の基本は魔力とイメージ、だがそのイメージは“想像”であって“妄想”であってはいけない。

 時計の魔法を発動させようとも時計の仕組みがよくわかってなければ時間の合わないポンコツが生まれると同じように、逆を言えばイメージさえそろってしまえば魔法は何もかもを叶える“奇跡”となる。



「ッ、来るのじゃ!」


 壁の向こう側の部屋から漂う気配に悪寒を抱きながらも、アインツの目は死んではいない。



「アハハハ!!コレが神ィの力ァデェスネエ!!」


 そして、暗闇の奥から現れたその男は見るに堪えない姿をしていた。

 先ほどまでとは違いヘンテコなヘルメットを被っているが、そこから何本も管が伸び男の脳みそに接続していることがわかる。



「使いおったな、しかも直通で使うとは……もう、戻れんぞ」

「ソレでも、我ガ神ノためにィ!!」


 既に言語能力もおかしくなり始めている、確かに『ザ・ワン』は使用者に莫大な処理能力を提供するが優れた魔法が持つ緻密なイメージを紡ぐ脳みそがない状態で使えば使用者はただでは済まない。


「せっかくじゃ、今一度名を聞こう。太陽の神の狂信者よ」

「我の名ハ…「そうか【風の魔法】」無駄ダ…【電車の魔法】」


 アインツは必殺である、名乗り中に魔法の攻撃と言う外道戦法を取り横殴りの竜巻を放ったが、奴が詠唱した途端に空中を走る電車が現れ竜巻をかき消した。



「電車…複雑な魔法も扱えるようになっとるか。ここまでは、予想通りじゃな」

「まだマダ、コンナものではナイ!【電車の魔法】【車の魔法】【飛行機の魔法】」


 本来、構造を知り動く仕組みを理解していなければ発動しても動くはずのない、それらが圧倒的な処理能力の力によって次々と作動していく。

 空を電車が駆け、地上を無数の車がレーシングゲームのように走り、アインツの元に真っすぐ飛行機が墜落してくる。



「じゃから、予想通りと言っとるじゃろ【風の魔法】」



 だが、アインツが放つ風はそれらをもろともしない。

 空を駆ける電車は本来ありえない底面からの風によって吹っ飛ばされ飛行機と激突、消滅し、車はそもそも走る地上を荒らすことによって行動不能にして見せた。



 確かに『ザ・ワン』は使い手に絶対的な力と自由を与えるが、人間はその力と自由を存分に使いこなせる存在ではない。


「クッ、ナラ【沈黙の魔法】【盲目の魔法】【難聴の魔法】【嗅盲の魔法】【蝕盲の魔法】【疫病の魔法】【毒殺の魔法】【呪いの魔法】【絶望の魔法】【岩の魔法】」


 だが、奴も優秀な魔法使いであることに変わりはない、沈黙で魔法を、目と耳、そして鼻、触覚を封じ込め、疫病と毒、呪いで身を蝕らせ、絶望で心を折り、得意の岩石で仕留めにかかる。



「それも、予想通りじゃよ【風の魔法】」


 だが、アインツの取った行動は岩石の魔法に対して風の魔法をぶつけて砕き、さらに横殴りの竜巻で追撃したのみだった。

 まさか、迎撃どころか反撃まで飛んでくるとは思わなかった男は口をあんぐり開け、さらに岩の魔法を使うことで迎撃して見せた。



「魔法が…ナゼ、まとも二戦エル!!」

「簡単な話じゃ、お前が使う魔法が儂の防御を突破できなかった…それだけじゃ」

「ナンだト、我は神の力を行使してイルのだ…アリエン!!」

「そう、お前は確かに今は圧倒的な力を持つ魔法使いと言っていいじゃろう。じゃが、儂はここに入ってから常に魔力を纏い魔法を防御しておったのじゃよ」


 そう、魔法と言うのは魔力が想像によって形になったもの。

 一見、沈黙の魔法や絶望の魔法など回避が不可能な最強の技に見えるが、魔力制御によって纏った魔力によって防ぐことが可能なのだ。



「魔力ノ制御…ダト、そんな基本的な技二!!」

「何言っとるんじゃ、いくら優れた魔法属性を扱おうとも基本をおろそかにしたものの魔法などたかがしれとる。基本を極め切った者こそ、魔法の極致なのじゃ」

「ソンなはズが…クソォォォ!!我ハ最強にナッタノダァァァァ!!【身体強化の魔法】【肉体硬化の魔法】【筋力増加の魔法】【フローに入る魔法】【痛覚を封印する魔法】【剣を創造する魔法】」

(身体強化に振り切ったの…)


 奴の纏う魔力がさらに上昇していく、体には次々とその身体能力を向上させる魔法が何重にも重ねられもはやそれは人間とは言えない存在になりつつあった。

 全身にはハリネズミかと言わんばかりに皮膚を突き破り剣山が現れ、その両手にも剣と言うか鈍器のような巨大な剣が握られている。



(完全に暴走しとる、このまま魔力切れ…もしくは、処理の限界を迎えてくれると嬉しいんじゃが)


 現状の戦況はアインツ有利に傾いてるように見えるが実際は常にその逆である。

 なぜなら、彼の見越しでは不発になった先の魔法たちを放った時点でてっきり処理の限界――最悪、魔力が枯渇する予兆くらいはあると踏んでいた。


 しかし、戦闘を継続して普通の人間がまともに扱えないような魔法を連発してもなお処理能力の底が見えない。

 強いて出すならば、敵の言語能力に少しばかり違和感があるくらいでまだ弱い。



「グオォォォォ!」



 その場から、トランポリンでも踏んだのかと思うほど跳躍したまま重力に任せてアインツに突っ込んでくると同時に彼の体に刺さっていた剣山がアインツ向かって放たれる。



「完全に獣のそれじゃな【風の魔法】」


 そして、再び姿を現した風の龍が放たれた剣を全て粉砕しながら、まっすぐと獣のように変わってしまった向かって行く。


「【加速の魔法】…オォォォォ!!」


 だが、当たるかに思われたその瞬間――男が急に冷静さを取り戻し魔法を詠唱、加速して見せた。

 ただの、加速と侮るなかれ放ったことでタイミングがズレて風の龍の一撃は空振りに終わる。


(くっ、フローに入る魔法の影響か!)


 フローとは心理学的な意味で、時間間隔が薄れ、雑念が消え、全力を自然に出せる感覚のことを指す。

 その状態に入ることによって極限の集中からとてつもない速度で迫る風の龍を回避させるタイミングで魔法を発動させることすら可能にした。



「ウォォォォォ!!【衝撃の魔法】」

「ぐっ、【風の魔法】」


 既にこの距離でまともに防ぐ方法はなく敵のとてつもない一撃は衝撃の魔法と共に放たれ地面を抉る。

 そこから放たれた無数の石礫を迎撃するために風の魔法を展開するものの回避のために体制を崩したアインツでは全てを落とすことができず頬を掠める。



「マダ、コレでも予想内カ…!」

「そうじゃ、まだ儂の予想内じゃ」


 礫が頬を掠め、血が流れてもそれを拭い去りながらアインツは不敵に笑う。


 事実、遠距離に頼らず自身の肉体を強化し殴り込もうというのは、対魔法使いに関してはかなり効果があるだろう。

 だが、それでもアインツが笑うのは『ザ・ワン』の開発者であることならではの理由があった。



(良いのじゃ良いのじゃ、身体強化系の魔法は魔力の燃費は良いがその分だけ肉体に負荷をかけるからの、たとえ痛みを封じていようともいずれ限界は来るじゃろ)

「【治癒の魔法】」

「なっ……!!」


 ここで初めてアインツは驚愕の表情を見せた。

 その原因はもちろん、敵が詠唱した【治癒の魔法】であり、それは本来なら人間が扱うことなどできない魔法だったからだ。


 光が敵の体を包み肉体の損傷を瞬く間に修復して見せた。



「なぜ、その魔法を扱えるのじゃ…いや、そういう事なのか」

「ハハハハ、開発者のアナタなラよく知ってルでしョウ!!」

「そうじゃ!!お前ら『アポロの徒』は、一体何人の人間を犠牲にした!!答えるんじゃ、一体何人がその『ザ・ワン』に繋がれとる!!」


 治癒の魔法、それは長年の魔法研究の中で特に待望された魔法属性である。

 ただ、他の魔法とは違い人体にかける魔法のため少しでもイメージにほころびがあれば重大な後遺症を残すことになり、最悪死もある魔法。


 そもそも、治癒の魔法の発動が難しいのにはイメージを完璧に固められないというのが一つに上がる。

 そもそも、人間の体にはまだ謎が多く、脳が損傷した場合や免疫系や腸内環境が完全に壊滅した場合などはどうにもならない。



 その上、人間の体には無数の微生物たちが生息していたり、個体ごとにも大きな差があるなど要求される処理能力は計り知れないものになる。



「1億人ダ、これ以上ハ我も知らン」

「……なん、じゃと」


 元総理の暗殺、爆破事件の主犯、放火魔、飛行機ジャック――これは、アインツが 知る『アポロの徒』が行った業の数々である。

 だが、こいつらの業はそんなものではなかった。



「一体……どうやって、ありえんのじゃ!そもそも、人が、人としてそんなことをしていいはずがないのじゃ!」

「わざト外国デ戦争を起こシ。人を攫イ、脳を奪い補完すルのハ大変ダッタが可能ダ」


 絶句、今のアインツの心情を表現するならその一言で十分である。

 そもそも、それは果たして人間が行うのか、行っていい事なのか――だが、まぎれもなく『アポロの徒』が『ザ・ワン』のために無数の命を奪ったのはゆるぎない事実。



「だガ、アナタのせいでかナリ減ってしまった」

「じゃろうな…くっ、ただの外道の類ではなく悪魔の類じゃったとは……どうやら儂はお前らのことを勘違いしとったようじゃ」


 アインツの目には燃え滾る強い怒りが籠っていた。

 それは、平和を願い『ザ・ワン』を開発し自国の民を守ろうとした彼と反対に『ザ・ワン』で救済と言うなの絶望をふりまこうとする奴を絶対に許してはならないという強い信念でもあった。



「お前らはこの世界の何とも形容出来ぬ、筋金入りで底なしの絶望そのものじゃ!!」

「違ウ、我らハ救済のタめにヨり多クの人間をこノ世かラ解放するノダ!!」


 彼らに和解などもちろん最初から存在しなかった。

 互いに、相手を悪だと見定め自身の正義を絶対のものだと疑う余地もない。



「今度ハ、逃がサン…ぶっ殺シテやルゥゥゥゥゥ!!!」

「…全ての犠牲になったものの弔いのためにお前を倒すのじゃ【風の魔法】」



 再び、全力強化の男がその身体能力に任せて突っ込んでくる。

 先ほどと同じように放たれる剣山、そして同様に放たれた剣を次々と飲み込んでくる。


 ニヤリ――思わず男の口角が持ち上がる、この似た状況では当然風の龍を突っ込ませざるをえない。

 それをすれば、先ほどと同じように【加速の魔法】を使うことによって通常はできない回避行動を行い今度こそ、アインツを倒すことができるだろう。



「来タ…!!【加速の魔法】」


 詠唱と同時に地面を滑るように加速した男はタイミングをずらすことに成功し風の龍を避けて見せた、ここまで近づけば次の魔法の詠唱よりも早く剣を振りアインツを真っ二つにすることができるだろう。



「終わリだァァァァ!!」

「どうやら、知らんようじゃな。魔法の基本は基礎じゃが戦闘には基礎だけじゃなく搦め手も必要になるじゃよ」


 だが、アインツの眼光は全く光を失っておらずむしろ罠にはまった得物を見た時のように薄ら笑いすら浮かべていた。



「何ヲ…グアァァァァァ!!」


 剣を振るおうとしたその時、男の背中に猛烈な衝撃が加わった。

 痛みはないが、突然のことに雄たけびを上げ振り返るとそこには避けたはずの風の龍が自身に突撃していた。



「簡単なことじゃよ、避けられた一回目の龍を空中で待機させて二発目を囮にして背後からぶつけただけじゃ……もう、聞こえておらんじゃろうがな」


 風の龍は先ほど避けられた鬱憤をここで晴らしているのか大きく咆哮し男にかぶりついたまま何度も壁に突っ込んでいく。

 その攻撃を前に強化された肉体も意味をなさず、抵抗なんて禄にできないまま男は風の龍と共に下に落ちた。



(…ダメじゃな、ダメージは入っとるが治癒の魔法の回復スピードが速すぎる。頭を狙いたいが、相手の警戒が強すぎてどうにもならん……やはり、耐久戦じゃな)


 既に、ここに来るまでとここでの戦闘でアインツの魔力はほとんどとは言えないが減少しているのは事実。

 その上、戦う時間が長ければ長いほど奴の戦闘スタイル、対応力なども格段に上昇している。


 だからと言ってこっちから仕掛けられて下手に防御を固められてはもはや突破は不可能であり敗北は確定する。

 だからこそ、迎撃メインで戦いたいのだが全然、男が土煙の中から立ち上がらない。



「【叡智の魔法】」



 数秒の何もない時間の後、狙い通り男は立ち上がり攻撃魔法を使ってくるかに見えたが使用したのは全くノーマークの魔法であった。



「…一体なんじゃ?」



 叡智の魔法を言葉通り受け取るならば、優れた知恵、深い知性のことを指すのだがこの状況でそれを使うのがアインツにとっては意味不明であった。

 そして、何よりも気がかりなのは魔法の詠唱後に男が何もしてこないということだ。




「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」

「な、なんじゃあ!?」


 だが、異変はすぐその数秒後に起こった。

 急に頭に手を添えながら高笑いを始める男、その姿はまるで灯台下暗しな真実を知った時のような、真剣に考えたなぞなぞの答えがものすごくつまらない時のようだった。



「終わらセましょウ…【沈黙の魔法】【盲目の魔法】【難聴の魔法】【嗅盲の魔法】【蝕盲の魔法】【疫病の魔法】【毒殺の魔法】【呪いの魔法】【絶望の魔法】【浸食の魔法】【虚無の魔法】【苦悩の魔法】【恐怖の魔法】【悲哀の魔法】【孤独の魔法】【虚脱の魔法】【堕落の魔法】【傲慢の魔法】【強欲の魔法】【嫉妬の魔法】【色欲の魔法】【憤怒の魔法】【暴食の魔法】【怠惰の魔法】【苦痛の魔法】【脱力の魔法】【狂乱の魔法】【飢餓の魔法】【腐敗の魔法】」

「なんじゃ、一体何なんじゃあ!!…はっ、まさか!?」


 まるでマシンガンのように男の口から詠唱される呪いの言葉たちは次々とアインツに向かって行き、魔力の盾に阻まれ消えていく。

 だが、そのたびにアインツの魔力は減っていきこれほどの連射の前にはその圧倒的な魔力制御ですら一瞬緩んでしまうほどだった。



 そして、その緩みを男は決して見逃さない。


 その一瞬に『ザ・ワン』が使えるリソース、処理能力を全て注ぐ。


 風の龍に食われ地面に激突したときに思い出した『ザ・ワン』の研究資料に書かれていた叡智の魔法によってもたらされた究極の知恵にして最強の魔法を発動させる。




「【風の賢者アインツを殺す魔法】」



 ドクンッ



 心臓が跳ねた音がした。

 それは、本来はありえない”奇跡”が行使された瞬間でもあった。



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