第11話・才能の差って恐ろしいよね
前回のあらすじ
煙の魔法を駆使して何とか勝ったが『アポロの徒』の本部にカチコミに行くことになった。
阿歩炉が半強制的に『逝きます』宣言している中、追い出された彼女は階段の陰からこっそりと聞き耳を立てていた。
(…おじいちゃんと阿歩炉さんが、二人で危ないことしようとしてる!?)
私と阿歩炉さんやおじいちゃんは別の世界の人間で、魔法使いであり、命を奪い合う立場にいるのだ。
そして、偉大な魔法使いの血を継いでいようとも私自身は魔法を使うことができないバスケ好きの一般人であることが戦いを見てより無力感を引き立たせていた。
「そういえば、エナさんはどうするんですか?両親はまだしも、もし僕たちがいない間に襲撃されたらマズいんじゃ…」
「そこが問題なんじゃよ。できれば連れて行きたいのじゃが、エナがそれを良しとするかの」
サラっと、ついて行けば危険には晒さないと言っている自信に思わず引いてしまうが、何度も模擬戦をした僕には理解できる。
実際、僕が苦戦したあいつらが何人束になってかかって来ようとも師匠は傷一つなく、相手にも傷をつけることなく制圧するだろう。
「私も行くよ!!」
それを聞いた私は勢いよく階段の陰から参上した。
驚愕と言う表情で口をあんぐり開けている阿歩炉さんとは対照的にまるで最初からこうなるとわかっていたようにじっと私を睨んでいる。
「だそうじゃ、明日には出るぞ」
「いやいや、待ってください!……えっと、エナさん?ものすごく危険なことをしようとしているんですよ僕たちは、それでも来るんですか?」
当たり前のように了承する師匠に任せてはおけないと、改めてエナさんに問い直すも一瞬の躊躇もなく首を縦に振るのみだった。
「マジですか…あのですね。本拠地に行くってことは人と戦うってことなんですよ……エナさんに人を傷つける覚悟はありますか?」
「…そこら辺はまだわからないです。だけど、おじいちゃんや阿歩炉さんが危険なところに行こうって言うのに私だけが留守番なんてできません!!」
「で、できませんって…ゲームじゃないんだよ。死ねば一発でゲームオーバー、コンティニューはできない。僕も、戦いは全然得意じゃないですし、おすすめもしたくありません。だから、しっかりと考えてください!」
この異世界に転移して一か月ほど経過したが、戦闘は全くと言っていいほど慣れない。
一応、師匠から戦いの筋は良いと言われたがヒグマ戦の時にも重要な局面でこけたりと運が悪ければ死んでいた。
それに、生き物の肉を切る感触と言うのはスーパーで買った肉を調理するのとでは雲泥の差がある。
きっと、僕が異世界にいる間はビビッて剣すら振れないだろう。
人間相手に暴力を振るうのも相当ストレスになるし、師匠に殴りかかっていった時もちょっと泣きそうになるほどだった。
「大丈夫です。私、戦ったことありますから!」
「戦ったことって…学校での喧嘩とはわけが…「ヒグマとです!」…うそーん」
「言ってはおらんかったの、エナは中学生の時に儂の小屋に遊びに来てヒグマも倒しておる。流石に、魔法じゃなく猟銃じゃが」
「ぼ、僕…あんな苦労したのに…」
一応言っておくが、猟銃だから魔法より簡単なわけがない。
むしろ、魔法より難しいと言っていいだろう、猟銃でヒグマを狙うとなればスナイパーのように遠くから狙うのではなくある程度近づいて撃つ必要がある。
それも、猟銃のため一撃で仕留めなければ一瞬でヒグマの間合いに入りお陀仏だ。
僕のように必死の全力ダッシュと、罠、そして熊を誘い込む魔法があれば倒せるかもしれないがそれは魔力が多かったり、魔法属性の相性が良かった時くらいだ。
(ちゅ、中学生…?もしかして、エナさんって僕より強い?)
流石に魔法がある分、勝っていると思いたいがヒグマを殺せるほどの精度がある猟銃で狙われれば命はないだろう。
それを、中学生の少女が成し遂げたというのだ、才能と言うのはここまで恐ろしいのかと思わず震える。
「じゃが、ここに猟銃はないからの。その代わり、魔法を覚えてもらうことになるのじゃ」
「え、いいの!?やったー!おじいちゃん!」
「うむ、孫の笑顔は嬉しい物じゃ……わかっとる、わかっとるからそう睨むな阿歩炉」
さっきまで、魔法を教えないどころか興味も持たせないように振舞っていたというのに一転して魔法を教えると言い出した師匠は僕をどうどうと抑えながら、魔法の危険と習得にかかる諸々を説明した。
「と言う事じゃ、阿歩炉は先に部屋で休んでなさい」
「了解です…えっと、どこの部屋ですか?」
「階段を上ってすぐ右にある部屋で今日は寝てくださいね~!!」
魔法を覚えられるということでウキウキなエナさんにこれから起こる悲劇のことを思いながら内心『頑張れ!』と念じながら言われた部屋に入った。
「…僕も大丈夫なのかな」
言われた部屋にあった、布団に横たわりながらついさっきの出来事を思い返す。
お察しの通り、僕は人を殺せないし、人を傷つけるのですら体が拒否反応を示している。
そんな状況で、テロ――じゃなくて、宗教組織の元に挑むというのだから堪ったもんじゃない。
その上に、僕の【煙の魔法】ではこちらが複数の場合は逆に煙をまき散らすのがマイナスとなる可能性がある。
「せめて、煙に実体を持たせられればいいんだけど」
いくら想像したとしても煙は固形にはならないし、パンチ一発防ぐことなく貫通していってしまう。
視界を塞げるのは利点だが、相手の攻撃を防げるわけじゃない。
「僕って、自分のことしか考えてないな…」
煙の魔法は、最初から他の味方を前提としていない。
少し、自己嫌悪気味になりながらも休んでおくかと僕は昼寝しようと意識を手放した。
憂鬱、その言葉ピッタリハマるような気分で首をさすりながら目を覚ます。
「‥‥首痛い、変な寝かたしたかな」
時計を見るにちょうど、夕方くらいまで眠っていたようで窓の外は夕焼けに染まっていた。
ちょうど、部活終わりもこんな景色で途中のコンビニに寄ったり、定期試験が終わった後は自販機で少し高いジュースを買ったり過ごしていた。
(そういえば、日本にいた頃より圧倒的に強くなっちゃったな)
先ほどまで眠っていったが【身体強化の魔法】は継続している。継続させるだけの魔力も、筋肉も今の僕にはある。
きっと部活でも力いっぱいスパイクを打てばうっかり殺しかねないだろう。
「さてと、そろそろ下に行ってみるか」
僕の時は魔法を習得するまで一か月もかかった。
師匠のことだし、何かしらのショートカットをして習得させるのだろうが、おそらく一日二日では終わらないし『アポロの徒』を襲撃するのもしばらく後になるだろう。
それに、とにかく魔法を使うための魔力を感じる工程は彼女にとって相当苦痛なものになるだろう。
今頃、相当な回数嘔吐して目の前が真っ暗になって床にキスしている頃だろう。
「あ、阿歩炉さん!!ちゃんと、休めました?」
「え、あ…はい…あれ?」
だが、予想とは裏腹にエナさんは元気いっぱいだった。
この満面の笑みが何回も嘔吐した末に生まれたのであれば彼女は天性のポジティブシンキングを持っていることになるが、そうには見えなかった。
「し、師匠…もしかしてエナさんは既に魔法をしゅ、習得しているんですか?」
「…そうじゃの、才能とは恐ろしい。儂の血筋であるというもの加味してもエナには才能が満ち溢れとる。頭はそこまでよくないがの」
「お・じ・い・ちゃ・ん!!余計なことは言わないでよ!!」
もごもごと口を押えられている師匠を見ながら気づけば僕は呆然とそこに立ち尽くしていた。
才能の差、確かに日本にいた頃もスポーツをしていれば僕より明らかに生物的にも違うだろ!!ってやつはいた。
魔法をまともに扱うまで一か月間も修業して、嘔吐した回数は100回超えるまで頑張った僕が馬鹿みたいに思えてきた。
誰かが、努力した者が成功するとは限らない、だが成功した者はみな等しく努力をしているとか言っていたのを聞いた記憶がある。
それは確かにそうなんだろうが、一つ文句が言いたい。
(才能はやっぱりずるいよ~!!)
仕方ない、所詮僕も成人君主ではないし羨ましいと思うことはいくらでもある。
「そ、それで何があったんですか?」
「実はの…」
時間は阿歩炉が昼寝に入って少しまで遡る。
阿歩炉は凡人の魂を運ぶ女神であるタナトスに運ばれているだけあって凡人です。




