第10話・君が後戻りできなくなるその日まで…
前回のあらすじ
そして、あまりにも狡すぎる戦法で敵を倒した。そして、話せばわかるなんてクソ甘々なことを主人公がほざきやがった。
煙幕は晴れ、奴と視線が交差する。もはや、僕の姿を隠すことはしないし、したとしても奴の周りだけ風の魔法で煙を動かされては奇襲は成立しない。
誠に残念ながら、こいつだけは正面切ってぶっ飛ばさなくてはいけない。
「【風の魔法】
「切って【煙の魔法!】」
戦闘が開始されると正面での真っ向勝負から始まる。相手は、師匠と同じように風の魔法を斬撃のように展開し僕を襲う。
それを迎撃しようと、手刀に乗せた煙の斬撃を使うが詠唱分と手刀と言うことが災いして若干押されている。
(手数じゃこちらが負けている、後から出現してある程度相手の視界を塞いでくれているけど、相手の次の斬撃でかき消されるなんてやってられない)
動きながら狙うも煙は風と違ってわかりやすく煙の色がついているため、結構簡単に迎撃される。
だが、あちらの風は見えにくいため意識をあまり割かないくらいの若干の煙を体から噴出させながら戦うことで探知しながら避け続けている。
埒が明かない。でも、こっちの方がイメージが強固なのと煙の分、質量があるから威力は勝っている。
それをもってしても風の斬撃は煙の斬撃を物量で押し返し、ついでに撒かれる煙幕の除去まで行っている。
(ホント、つくづく相性が悪いな)
だけど、相手の攻撃が一撃で致命傷になるわけでもないし、身体能力は僕が勝っているし、意外と五分五分のまま戦いは続いて行った。
「くっ、薙ぎ払え【風の魔法】」
「とてつもない、魔力が腕に集中して!?……マズいッ!!【身体強化の魔法】」
危険を察知したのも束の間、常時発動している身体強化の魔法にさらに魔力を突っ込み、全身を強化した瞬間、奴の手元から文字通りニュースで見るようなサイクロンが現れた。
「この距離では逃げられん!」
(全くだよ!なんで、商店街で竜巻を作り出すかな!?)
たとえ、サイクロンであろうとも全力で身体強化の魔法を発動すれば相手の魔力が尽きるまで逃げ切るのも不可能じゃない。
だが、ここで逃げればこの風の渦を師匠たち、ここの住人たちにも向けるだろう。
流石の師匠と言えど、ここまでの大規模なサイクロンをまともに食らえば守っているエナさんもろとも無事では済まない。
「阿歩炉、これくらい対処して見せるんじゃ」
「…‥‥……はい」
風の魔法の応用で音が耳の中は行ってくる。
もう頭を使わずに身体強化の魔法で体を固くして耐えようとしたことがバレたらしい。
だが、もう目の前までサイクロンが迫ってきているのは事実。
一応方法がないわけじゃないがうっかりやらかすと周辺の商店街に被害を及ぼしかねないので使いたくない。
だが、師匠に弟子のかっこいい姿を見せるいいチャンスかと思った僕は身体強化の魔法を解除する。
それは、つまりこれから発動させる魔法に全神経を注ぐという事だ。
「入り、留まり、飛ばされず、操れ【煙の魔法!】」
「また、馬鹿正直に煙を撒こうと、我の【風の魔法】の前には塵同然!」
そうだ、その通りだ――いくら、煙が集まろうとそれは塵芥の集まりであることに変わりはない。
だが、それが超濃度に濃縮した煙だとすればどうだろうか。
もちろん、それが少量では意味ない。だが、毎日毎日嘔吐し続けながら魔力の湖を鍛えてきた僕の魔力をありったけ注ぎ込んだ魔法なら、さらに話は別になる。
「…なっ」
奴は今、こう思っているだろう。
なぜ、サイクロンが自分の言うことを聞かなくなっているのか、なぜ吹き飛ばされ拡散しているはずの煙が風の内部に残り続けているのか。
まず、大前提として僕が使ったのはついさっきウォーターボールを操った時と同じ原理で魔法の中に大量の煙を含ませることでその煙を動かして操るという方法だ。
「煙を吸い込みすぎたな……」
「な、何をした!!」
その要領で、簡単に飛ばされないように超濃縮した煙を一気にサイクロンの中に放り込み魔力操作で大雑把とはいえ何とか固定することでサイクロンの権限を奪ったのだ。
ちなみに、これは僕が考えたわけではなく師匠が考えた技なのでまだ分不相応な技な上に、体外の魔力操作が大雑把な僕にとっては使いづらいこの上ないのだ。
(やっぱり、操れるのは煙が内部にある間だけだから……だいぶ、しんどい)
何というか、自分の目的地の駅に到着するまで数駅と言う間で急に催してきたトイレと腹痛を何とか我慢した体験を思い出しながら早期決着のために最後の魔力を込める。
「な、ぜだあぁぁぁぁ!?」
「安心して、僕が操作して多少渦の勢いを収めているから死にはしないはずだから…多分」
少し、不安になりながらも自分で作ったサイクロンに自分で飲まれていった教団員は吹っ飛ばされていった。
「ふぅ、遅かったの…そうじゃ阿歩炉よ。なぜ、煙の爆弾を使わなかった?」
「…その、殺しちゃいそうですし」
「甘ったるいの、それに抑えればあの程度の威力じゃ死にやせんよ…多分」
教団員を撃退したと思えば、すぐさま今回の戦闘について師匠に詰められた。
師匠の話にあった“煙の爆弾”とは、僕が扱う煙の魔法で最も危険なもので、師匠に教えられて使った時は木をなぎ倒してしまったので、それから使っていない。
もちろん、ヒグマ戦の時も使えなくはなかったがあの時はアドレナリンドバドバ状態ですっかりその魔法の存在を忘れていた。
この爆弾は先ほどまでやっていた煙を濃縮するやり方と同じで、それをゴルフボールサイズまで圧縮することで発動できる。
それを一気に開放することで解放された圧力によって辺りを吹き飛ばすという必殺技的なものなのだ。
「もう、おじいちゃん!勝ったんだからいいじゃない!…煙で何が起きたのか全然わからないけど、すごかった!!さすが、おじいちゃんの弟子ね」
「ありがとう、エナさん。そっちも無事でよかった‥‥それにしても、奴らはなんで魔法使いを狙ってここに来たんですかね?」
「今は話すべきではない、奴らは警察に任せてさっさとここを離れるとするのじゃ」
突如現れた宗教団体『アポロの徒』何故か僕たちを狙って現れた。
成果は煙の魔法を始めて人を傷つけるのに使った実戦経験と、腕に残るのは人を殴った嫌な感触。だが、師匠とエナさんを守り、誰一人殺さなかったことは大金星と言えるだろう。
そう自分に言い聞かし、胸に一抹の不安を覚えながらもその場を離れた。
その場を離れた僕たちは再び駅に向かった後、電車に乗って少し歩いた後二階建ての一軒家に到着していた。
「阿歩炉くんは初めてだよね!ここが、私の家だよ」
「………」
「うん?どうしたんじゃ阿歩炉、そんな所に突っ立って先に入っとるぞ」
「…ッ、はい。今、行きます」
一瞬、懐かしさで涙が零れそうになった。
離れていた時間はついに一か月の大台を超え、家族の顔も懐かしく覚えていた頃、商店街を見た時ですら少しうるっと来たものがあった。
目の前にあるのは本当になんの変哲もない一軒家、だけどそれが今は何よりも愛おしい。
地球に残してきた未練がぶるっと心の中で震えたのを感じた。
「……殺しはしない方が良いの」
アインツは少し立ち止まって振り返りながら少し涙目になっている阿歩炉を見ていた。
この世界でも、阿歩炉がいる世界でも殺しは普通じゃない、儂のように戦争に出ていた者ですら心の傷は相当なものになる。
平和な世界で平和な暮らしをしていた阿歩炉が一歩、その一線を越えた瞬間、果たして彼はまともにいられるのか。
覚えは早い方だ、元から要領がいいのだろう、戦闘でも思考停止しないタイプ、おそらくバレー部と言うのが効いているのだろう。
だが、絶望的に心が戦闘に向いていない。
「師匠、待ってくれたんですか。すみません、早く入りましょう」
「……そうじゃの」
そう考えているこちらの思考は露も知らず呑気な顔で家に入って行った。
「あの、師匠。エナさんのご両親はどちらにいるんですか?ご挨拶に伺わないと」
「お前、そこら辺はきっちりしとるんじゃな。安心せい、エナの両親は二人とも儂らにこの子を任せて旅行中じゃ」
「高校生の娘一人残して…旅行ですか?」
家族旅行で置いていかれたことなんて僕にはない。それに、エナさんにとっては僕と言う赤の他人が来ると言っていたのに残していることが理解できなかった。
「なんでも、エナが行きたくないと言ったそうじゃ」
「エナさんが?」
「うん…予約できるホテルの日がバスケの練習と被っちゃってね!!それに、お父さんめちゃくちゃおじいちゃんのこと信頼してるからね!」
「信頼は嬉しいのじゃが…この情熱を勉強にも向けてくれるともっと嬉しいの」
確かに、なんやかんや面倒見のすごくいい師匠がいれば何かと安心なのはとても理解できる。
それに、家族旅行があれば普通に部活を休んで行っていた僕に比べてエナさんの部活に注いでいる熱量は相当なものであることがわかる。
「エナ、これから儂らは大事な話をするから自分の部屋に戻っといで」
「えー私も聞かせてよ!」
「ダメじゃ、特にお前には聞かせるわけにはいかんのじゃよ……わかってくれ」
「…はーい」
少し不満そうな表情を見せたエナさんも、いつにもましてまじめな表情をした師匠を見てそそくさと上の階に上がっていった。
「…それで、師匠。大切な話とはあの組織のことですか?師匠のことを知っていたみたいですけど」
「そうじゃ、一応言っておくが儂に『アポロの徒』などと言う組織が存在したという記憶はない。儂は元々戦争中は国のお抱え魔法使いじゃったからの名前は知られていても不思議じゃない」
「元団員とかじゃなくてホッとしましたよ。でも、それならあいつらが優れた魔法使いを探していた理由って何でしょうか?」
奴らの目的は人々の救済、だがその方法は酷すぎるの一言に尽きる。
そのためには、優れた魔法使いを集める必要がありそのために5人も団員を差し向けてきた。
「…そうじゃの、心辺りはある」
「師匠の心辺りと言えば、戦争の…兵器とかですか?」
「うむ、その前に優れた魔法使いとは何じゃか覚えておるな?」
「はい」
魔法を扱うのに必要なのは魔力と具現化させる想像力だ。
そして、優れた魔法使いと言うのは魔力が大量にあるのはもちろん、それ以外にも僕が最初に鍛えた操作力、想像力――すなわち、脳が優れた動きをする者たちのことを指す。
僕も魔力量は師匠の特訓のおかげでたくさんある方だし、操作力は体外はまだ大雑把にしか動かせないが、内部は無意識にでも手足のように動かせる。
想像力は知識や経験が足りないことからまだ未熟な面が見られる、なので優れた魔法使いではないという事なのだ。
「もちろん、優れた魔法使いと言うのはそう数がおらん。特に、戦争が終わったこの国では魔法使いの数が減りさらに減少しておる」
「だから、元軍属で顔が割れている、なおかつ年配の師匠を狙ったってことですか?」
「そうじゃろうな…まあ、まだまだ若いもんに負ける気はせんの」
この齢になってヒグマ狩ってたり、握力でリンゴを潰しているこの人が言うとやたら説得力がある。
「それだったら、また奴らは僕たちを狙ってくる可能性があるってことですよね?」
「じゃから、儂に提案がある」
「…却下とかできません?」
「出来ぬな」
僕の嫌な予感センサーが点滅しだしたのでヤバいと思い提案したがすぐさま取りやめが決定する。
「…あの、師匠。まさか、やられる前にやってやろう…なんて考えてませんよね?」
「そのまさかじゃ、テロリストの出方を座して待つなんぞ。殺ってくれと言ってるようなものじゃ」
「そりゃそうですけど、相手は結構大規模な組織みたいですし、そもそも居場所だってわからないじゃないですか!!」
『アポロの徒』はここ、ワァヘドで飛行機ジャックや放火、今回であれば誘拐、暴行などやりたい放題している組織なのだ構成員の数も数十人ほどじゃないだろう。
それに、僕たちは最近街に来てその組織の存在を知ったばかりのため居場所なんて当然知るわけがない。
「安心せい、いくらあのレベルが束になってかかってこようが儂の敵じゃないわい、それに居場所も少し当てがあるのじゃ」
「当て?」
「ついさっき、連絡した古い友人でな。軍時代は、諜報部の室長をやっておった男なのじゃ、ちなみに今年で99歳じゃ」
「…大丈夫ですか?もう、ボケてません?」
「大丈夫じゃよ。儂と同じで生涯現役じゃからの」
日本では若年性認知症とか、定年したらすぐにボケてしまったなど報道されているというのに、この世界の老人はあまりにも強かすぎる。
「それで、話しを戻すかの。儂には、優れた魔法使いを兵器に転用する方法を一つ知っとる」
「……神風特攻ですか?」
「それは、魔法使いじゃないものが魔力を貯蔵した石と共に突っ込んでいく兵器じゃよ。儂が言った兵器は優れた魔法使いを生体部品として組み込み通常ではあり得ぬ演算能力を得て魔法を行使する兵器なのじゃ」
「……そんな兵器が」
甘っちょろい、平和な世界で生きてきた僕には考え付かない発想だ。
戦争で負ければ敗戦国には何が起こるかわかったもんじゃない、だからこそ負けないためにはなんだってやる、それがどれだけ倫理を無視していようとも。
「そして、他でもない…その兵器の開発者が儂なのじゃよ」
「…え!?」
戦争が始まって数年が経過するとワァヘドにも火種が飛ぶようになり同盟国と共となった。
しかし、同時は外国との兵力差も、物資も戦略も完全に敗北しワァヘドは圧倒的な力の前になすすべがなくなってきた。
特につらかったのが熟練のパイロットや優れた魔法使いが続々と戦死し、最新兵器の開発や量産が追いつかなくなり、性能差が開く一方だったことである。
それによって、神風特攻隊が編成され師匠が開発した悪魔の兵器が生まれることとなった。
「その兵器の名こそ『ザ・ワン』じゃ」
「ザ・ワン……」
優れたパイロットが少ないなら神風特攻と言うように、優れた魔法使いを補填するなら育成するよりも一人を長く使えるようにすればいい。
そういう考えから生まれた非人道的な兵器である。
「大半の材料に特別なものはないのじゃ。じゃが、問題は起動するためには優れた魔法使いとそれ“以外”の大量の脳みそが必要になる」
「…た、大量の脳みそ?」
「うむ、その当時はあまりAIなども発達しておらんからの、一人の魔法使いに複数の脳を連結し計算処理能力を上げ大規模な魔法を使いまくるという計画じゃった」
「倫理がどこにも存在してないですね…」
複数の脳みそを連携させるなんて発想は天才と言うか狂人のそれだが、師匠ほどの人間がそこまで追い詰められるなんて、戦争とは命だけを奪うものではないと否が応でも実感させられた。
「そうじゃ、だからこそ我に返ったあの時にすぐこの計画を封印した。多くの人間が犠牲になる前にな」
「…それで、もしかしたらその兵器のために優れた魔法使いを探しているかもしれないってことですよね。流石に、考えすぎじゃないですか?」
「それがそうとも言えんのじゃよ」
ピッ、と師匠がリモコンを使ってテレビをつける。
ちょうど、僕たちが海鮮丼を食べていた店で流れていたニュース番組がまだ流れている。
『速報です!本日、宗教団体『アポロの徒』がアジーンに現れ男性5名、女性3名が誘拐されたと発表がありました。警察によると…』
「…ゆ、誘拐!?それに、誘拐事件が起こったばかりなのにテレビに情報が行くのが早すぎません!?」
「これは、確実に意図的にテレビにリークされとるな。それで、報道してしまうテレビもテレビ…じゃが、これは挑発かもしれんの」
この誘拐が単に身代金目的ならいいが(よくない)今、さっきこの話をしたばかりだと嫌な想像が頭をちらつく。
「ちょ、挑発って流石に考えすぎじゃないですか?」
「じゃといいがの、もしや今頃誘拐されている者どもは既に脳をほじくられとるかもの」
「…じゃあ、奴らが僕たちをおびき出そうとしているってことですか?」
「もう、儂らを襲った奴らが倒されたことは知っとるだろうしの。正面から殺さず捕まえるのを諦めたと考えてもいいかもしれの」
要するに、これ以上被害が広がる前に叩き潰そうということだ。
だが、常に脳裏に死にたくない、逃げたい、帰りたいとちらつかせる僕にとっては非常にやりたくないのは明白だ。
「それに、これがお前の試練かもしれんしの」
「気のせいですよ。きっと、その……ワァヘドのグルメを食べつくすとかの可能性もあるじゃないですか」
「逃げるな、阿歩炉。お前も薄々わかっとるはずじゃぞ、逃げてばかりでは何も変わらん」
「…ます」
「もっと、大きな声で言ってくれんかの?」
「逝きます!!!!!」
僕の死にたくない、逃げたい、帰りたいという腐った根性は全力で『行きたくない!!」と宣誓していたはずなのだ。
だが、逃げてばかりでは何も変わらないのも事実、これは自覚していたことだし間違ったことは何一つ言っていない。
だが、逆に考えてみれば『アポロの徒』とやらをぶっ潰せば、僕は町を救ったヒーローとなり、日本に大手を振って帰ることができる。
そう“思い込む”ことで、唇を噛みしめながらも『行く』と言う決心を固めることとなった。
ぜひぜひ、感想待ってまーす!!




