第8話
「…四宮さんには言ったのか?いや、言えるわけないか」
「いや言ったよ?普通に「ファンです」って」
「はぁ……お前はファンじゃなくてストーカーだろ」
「?いや、ストーカーではないでしょ」
「……それガチで言ってる?」
「何話してるんだろ…」
トイレを済ませた私が、会議室に戻り、入る前にハンカチで手を拭いていた時だ。丁度2人が話している声が聞こえたので、咄嗟に私は聞く姿勢に入った。
と言ってもぼそぼそとしか聞こえないので内容はあんま分からん。
にしても桜見さんがこんなに喋るの意外だな。2人とも互いにタメだし、青乃さん、「さくちゃん」って呼んでたし…って、あっ、そっか!そういえば桜見さんって私より年下じゃん!青乃さんもきっと私より若いだろうし…って、この中で1番歳取ってるの私!?
自分の不甲斐なさに悲しみつつも扉を開ける。
「ていうかさくちゃんには言われたくないんだけど、!だってさくちゃーーあっ、四宮さんっ!」
…なんか、青乃さんテンション高くない?
やばい⋯なんか青乃さんにしっぽが見えてきた!しかもブンブン振ってる!!
うっ、眩しいっ⋯!私とは違う種類の人間だ!!
「…では、コラボについて話を進めましょうか」
その後は主に、桜見さんと青乃さんの話し合いだった。全くコラボをしてこなかった私は為す術もなく二人の会話をただ聞いて、たまに相槌を打つくらいしかしていない。
それを見ていると、やっぱ青晴はコラボ慣れしてるって改めて思い知らされたし、年上としての不甲斐なさも感じた。
「それではまた、いいの探しておきますんで。あ、でもそちらでも案は出してくださいね」
時刻は16:10。時間が来た私達は、会議室を後にし1階のロビーに行った。
桜見さんはこの後も用事があるらしく、そう言い残し、足早に去っていった。
⋯にしても、気まずいっ⋯!
いや、青乃さんがあの、今超人気のVTuber青宮 晴って事もそうなんだけど、単純に私が極度の人見知りだから、会話が弾まない。どころか、していない⋯!ずっとシーン状態なんだが!!?
うっ、マジで青乃さんに申し訳ない⋯
と思いながら横を見る。
すると、横から青乃さんが、すっごい笑顔で私を見てたのに気がついた。
「えっ⋯!なっ、どうした!!?」
「?どうかしました?」
本人は無自覚なのか、きょとんとしている。
そして何事もなかったかのように満面の笑みに戻った。
「いや、そのぉ⋯」
「青乃さん、この後なにか予定ありますか?」
「いっ、いや特にはないですけど⋯」
「それなら、一緒にどこか、食べに行きませんか!」
彼女は私の両手を握ってそう言った。スキンシップが多い。これが陽キャか⋯!!
でも、なんか青乃さんは陽キャだけど、安心するっていうか、なんか、怖くない。
最初に正体を知らずに話したおかげなのかな。陰キャな私でも、仲良くなれそう!あ、もしかしてレイン交換もしちゃうかも!?キャー!!レインなんて、仕事相手と家族ぐらいしか使う相手いないから、友達追加できるのめっちゃ嬉しいんだが!!?
「いっ、行きます!」
「よしっ、じゃあまぁ、そこらへんブラブラしながら考えましょう!お店はたくさんありますし!」
そう言って楽しそうに歩く青乃さんに「はいっ!」と元気よく返事をする。
うふふふふ⋯友達、ゲットだぜ!そう、期待に胸を膨らませた。