第6話
「青宮、晴⋯?」
「はい!青宮 晴です!」
⋯⋯⋯あおみやはる?⋯⋯アオミヤハル?⋯青宮晴?
「⋯って、えぇぇぇぇぇ!!?あの青宮 晴!!!!??」
驚きのあまり声に出てしまった。しかも大声で。
「あ、やっぱり気づいてなかったんですね。まぁ始めましてだからしょうがないかぁ、」
めちゃくちゃ驚いている私とは違い、落ち着いた口調で彼女が言う。
私に関しては、驚きすぎて現在思考が停止している。
⋯え、この人が、あの青晴?確かに、言われてみれば声が似てる気がするけど、いや、実際に会うなんて想像もしてなかったし!
ていうか、え、青晴が私のファン?しかも古参!?
私がもんもんと考えている間、彼女はスマホをしまい、しばらく窓の外に映る景色を眺めていた。かと思えば、急に体の向きを変え、私を眺め始めた。
ずっと見られ続け、気まずくなった私は、とりあえず青宮 晴に話を聞くことにした。
「え⋯っと、青晴⋯いや、青宮 晴さんは、その、私とコラボがしたいんですか?」
「あ、その前に、一ついいですか?」
「え、あ、はいっ、どうぞどうぞ」
「あのっ、一旦普通に自己紹介しませんか?VTuberの名前ではなく、本名で」
おぉ!自己紹介!ていうか同期以外のVの人の本名知るって初めてだ!初対面なのにすごい進歩だよ!
いやぁ、今日は付いてるなぁ〜
⋯⋯ん?ていうか、私が黒宮って言ってたっけ?初対面なはずだよな⋯って、今はそんな事どーでもいっか!
「あっ、黒宮 怜もとい、四宮 晴です⋯!よ、よろしくお願いしますっ!」
「青宮 晴もとい、青乃 奈緒です!よろしくお願いしますね、四宮さん!」
四宮さん⋯宮さん⋯さん⋯⋯⋯
そっか、青宮晴は12期生だからそりゃ敬語かぁ、ってか12て。若いなぁ、んでもって抜かれたのか私は⋯
「四宮さん?」
「あっ、えっと、その、⋯ほんとにコラボ相手私でいいの!?」
青宮 晴とコラボ。今朝も思ったとおり、青晴はコラボのプロ。だから心強いよ、めちゃくちゃ。
でもさぁ、ほんとにそれ、私でいいのかぁ!!?
そう思っていると、彼女が私の両手を握ってきた。急に握られ、驚いて目線を上げる。
そこには、真剣な眼差しをした彼女の顔があった。
「はい。四宮さんでいいです。いや、四宮さんがいいです。」
そう真剣な表情で両手を握られたまま言われ、顔が熱くなる。
きっと顔が真っ赤になっているだろう。
「⋯だめ、ですか?四宮さん」
ぐふっ、いや、真剣な表情からの顔傾けの上目遣いはダメだろ!反則だろ!
「わっ、私でよければ⋯」
「あっ、ありがとうございます!」
いやいや、お礼を言うのはこちらですとも。コラボしてくださり、ありがとうございますとも。
「あ、じゃあ早速内容とか決めちゃいます?って言ってもまずはマネさん通さないといけませんよね」
「⋯あ、ていうか青晴さん、なんでここにいるんですか?今朝は配信してたじゃないですか」
そうじゃん。そういえば朝配信してたわ⋯っていうかお酒飲んでたわ!!?
え、どうやって来たんだ!!?
「⋯あー、今日はたまたま寄ったんですよ。家近いんで、徒歩で来ました!⋯ていうか配信見てたんですか、そうですか⋯⋯」
ん?なんか気まずそうだ⋯あっ、そっか!そうじゃん!青晴今日の配信で告白してたわ!
「あっ、いや、途中から見始めたんで、全部はまだ見れてないんですよ〜帰ったら見ようかな、」
「いや、見ないでください。」
「あ、はい⋯」
先程と同じく真剣な目⋯やはり彼女にとって、あれはすぐに忘れたい記憶なのだろう。
私はそっと青晴の告白シーンに蓋をした。
「あっと⋯今日歩いて、って事は1人で来たんですよね?ならまずお互いのマネさんに話してからコラボの事決めましょうか。」
私は話題を切り替えるため、コラボの話を切り出した。
「あぁ、それなら心配いりませんよ」
「?」
「あ、ていうかずっと休憩してて大丈夫ですか?この後も会議があるんじゃ⋯」
そう言われ、急いでスマホを開き時間を確認すると、休憩してからざっと40分が過ぎていた。
「やっ、やばい!!!桜見さんに怒られる!!!」
「うわっ、もうそんなに経ってたんですか」
私のスマホを覗き込み、彼女が驚いた様子で言う。
急いで立ち上がり、青晴、いや、青乃さんに軽く礼をして、私は休憩スペースを後にした。