第5話
「あー、はははは⋯⋯」
⋯え、いつからいたの!?
ていうか今までの独り言、全部聞かれてたりしないよね!!?
焦りと恥ずかしさで、私がワタワタしていると、相手の女性はにこりとはにかみ、ソファの背もたれに両腕を置き、ゆっくりと身をかがめてきた。
目が合った瞬間、思わず息をのむ。
⋯かっ、可愛い〜!!!
茶髪のセミロングに大きな丸い目が特徴的で、一言で言うなら可愛い系だ。5月という季節にぴったりな涼し気なブラウスもよく似合っている。the犬系な見た目だが、銀色のダイヤの形をした小さなピアスや、淡いピンク色のリップから色っぽさも感じる。
って、私なんかキモいな⋯
⋯⋯ていうか、あれ?なんかずっとこっち見てないか?
「あ、あの〜⋯」
私が話を切り出そうとすると、彼女は少し顔を傾けた。
「なんですか?」
そう言うと、今度は顔を近づけてきた。
「ちょちょちょっ⋯!」
距離を取ろうと横に移動するも、すぐにソファの肘置きが背中に当たった。
もう逃げらんないじゃん!と思ったその時、彼女は急に顔を引っ込めた。⋯かと思えば、ソファの後ろから前に移動してきた。
私はすぐに立ち上がり、急いで逃げようとするも、その頃には彼女は私の真ん前に来ており、私はもう、逃げるに逃げられない状況になっていた。
にしても誰なんだこの人は!!!可愛いけどなんか距離近いし!!⋯え、もしかして一度どこかであったりしてるのか!!?
いろいろ考えてみたものの、一向に答えは出ない。
そうこうしているうちに、彼女はいつの間にか私の隣でソファに腰を下ろしていた。
ソファに座った後も、彼女はこちらをじっと見ている。
こんなにじっと見つめられる事がなかった私は、流石に気まずくなり、勇気を持って話しかけることにした。
「えっっとぉ、私達、どこかでお会いしましたっけ⋯?」
そう聞かれた彼女は、少しの間動きを止めた。
⋯あっれぇ、もしかして本当に何処かで会ったことある感じ?
えぇ〜それなら私って、やっぱダメダメじゃんかぁ!!!
「あっ、あのっ!第4期生の黒宮 怜さんですよね!」
「あっ、はっ、はいっ!そうです!!」
しばらく黙り込んでいた彼女が急に大声で話しかけてきたため、私はついオーバーな反応を取ってしまった。
え、何?怒ってるの、怒ってるのぉ!?
「あの、⋯⋯私と、コラボしませんか!!!」
?
⋯⋯?
コラボ⋯?
「⋯って、えっ!?あなた、もしかしてVの人!!?」
「はいっ!ずっと、いつかコラボできたらって思ってたんです!」
えぇ〜、私って他のVの方に認知してもらってたのか〜
なんか、そう、改めて実感したなぁ〜。いやぁ〜嬉しいなぁ〜
「えっ、いつから知ってくれてるんですか?」
ついつい調子に乗って質問する。
影が薄い私を認知しているVって、もう同期くらいかなって思ってたから、なんか嬉しいなぁ〜
「初期の頃から知ってます!私、あなたが居たからレオレイン受けたんです!」
「えっ、えへぇ〜、そうなんだ〜」
なんとなんとなんと!初期の頃から知っていて、そして私がいるからVになったぁ!!?
いや、もうそれファンじゃん!もうこの人私のガチファンじゃん!
うっわマジかぁ〜いたんだ、すご〜。いや、もう、うん。この人とコラボろ。絶対いい子じゃん。
あ、ていうかまだ名前聞いてなかったわ。もうこの際先輩だったとしてもコラボるわ。うん。なんかこの人なら私のこと詳しくしってそうだしぃ、なにせ初期ファンだし〜、上手くいけそうな気がする!
「あの、ちなみに、お名前は⋯?」
満面の笑みで言う。
その言葉を聞いた彼女はズボンのポケットからスマホを取り出し操作する。
スマホのケースには、ピンクの背景を背負った可愛らしい犬のイラストが描かれている。
「これ、私のアカウントです」
彼女はそう言いながら、私の見やすいようにスマホの向きを変えて、見せてくれた。
どれどれ、と前かがみになって出してくれた画面を覗き込む。
⋯⋯⋯⋯⋯え、
“青宮 晴”
画面には、あの“青宮 晴”のアカウントが表示されていた。