第49話
「⋯⋯」
思わず息を呑んだ。
そこは先ほどよりも開けた場所で、ここを取り囲むように置かれた花壇。そして、2mほどの生け垣には、種類がまばらな白色の花が、あちらこちらに咲いていた。
屋上の一角に、こんな場所があるなんて。
そっか、ちょうど曲がり角の先にあるから、さっきは見えなかったんだ。
青乃さんに連れられ、足を一歩踏み出すと、私の全身は、温かな安心感で包まれた。
白色の木製ブランコ、ガーデンテーブルとイス。所々に立てられたガーデニングの柵。
箱庭の中にいるような、不思議な感じがする。
にしても、天気が晴れててよかった〜
青々としている花に囲まれながら、私達は一通りここを見物した後、二人してブランコに座った。
「いやぁ、こんな場所を独占できるなんて、ついてるねぇ〜」
「ほんと、見ないのはもったいないですよね」
「これも青乃さんが教えてくれたからだよ、ありがとね」
横にいる彼女の方に顔を向け、目を合わせて言う。
いきなり目線を向けた事に驚いたのか、少しだけ目を見開いた彼女が「こちらこそ」と優しく微笑む。
そして少し間をおいて、
「そういえば、ちゃんと言ってなかったなって、思ったんです。」
突然、改まった声でそう言われたものの、私の頭にははてなマークが浮かんでいた。
何の事か、そう考えている間にも彼女の上半身はすでにこちらを向き、彼女の両手が私の両手を包みこんでいた。そうして、お互いに見つめ合ったままの状態が続いた後、青乃さんが口を開いた。
「四宮 晴さん。好きです。私と付き合ってくれませんか。」
ほんと、青乃さんにはいつも驚かされてばっかりだ。
「――はい、もちろんっ⋯!」
次の瞬間には、お互い、相手をがっしり掴んで抱き合っていた。
何も話さない。ただ必死に互いを抱きしめているだけなのに、彼女の思いが伝わってくる。
服越しに伝わる彼女の鼓動に、込み上げてくるものを必死に抑え、この幸せを噛み締めながら、私は彼女の体温を肌で感じた。
しばらくして、私達は再びブランコに横並びに座った。
恋人繋ぎをして、最初よりも近い距離で。
「これからは、晴さんって、呼んでいいですか?」
「⋯えぇっ!!?」
いきなり言われたものだから、つい大きな声を出してしまった。
お、屋上で良かったぁ⋯⋯
「わ、分かった⋯!じゃっ、じゃあ、奈緒、さん⋯⋯?」
うひゃ〜!!言ってしまったぁ!!!
奈緒さんって、奈緒さんって!!
にしてもこれからは下の名前で呼ばれるのかぁ⋯やば、耐えられるかな⋯⋯
や、やっぱり徐々に呼んでもらうことにしようかな?
「あ、あの、奈緒さん⋯⋯あれ、奈緒さん?」
少し下に向いた目線を上に上げると、そこには顔を真っ赤にして、固まった奈緒さんがいた。
「あ、あの、奈緒さん?」
「―――あっ、ちょっ、えっ⋯⋯!?」
「は、晴さん!どうして私の下の名前、知ってるんですか!?」
「えっ、だって、一番最初に会ったときに、教えてくれたじゃん。」
「⋯お、覚えててくれてたんですか」
「⋯⋯そりゃ、好きな相手だもん」
「は、晴さん!!!」
もう一度熱烈なハグをされた私は、いきなり近くなった距離感と、先程の自分の発言を思い出し、徐々に熱くなる顔を、奈緒さんの肩に押し付けた。
「あ、晴さん耳真っ赤」
「しょ、しょうがないじゃん⋯」
こうして、どうにか私の顔を見ようとする奈緒さんと、どうにかしてこの真っ赤になった顔を隠したい私の対決はしばらく続いた。




