第48話
屋上への階段を登り、扉を開ける。
すると、先程までの色鮮やかなデパート内とは打って変わった、一面真っ白な花景色が、私達の歩みを止めた。
昼下がりのカラッとした空を背景に、屋上にずらりと並ぶ花壇には、これでもかと言うほど、白い花が植えられていた。
「すっ、ごいなぁ⋯全部が全部白い花なんだ⋯」
私の腰ほどの高さがある花壇に身を寄せ、近くで見てみる。
すると、全て同じ花だと思っていたものの、所々形が違ったり、匂いが違ったり――全部が全部同じ花というわけではなく、色が白いだけで、種類はバラバラみたいだ。
それでもちゃんと統一感があるし、むしろ個々の香りがいい具合に混ざりあって超絶いいハーモニー作り出している。
「いい景色だし、いい匂いだし⋯でもなんで全然人が居ないんだろう⋯⋯」
屈んでいた体を起こし、辺りを見回す。
こんなに綺麗なのに、屋上には私達以外誰もおらず、ただ花々が風に靡くだけだった。
「――実は、さっき四宮さんに見せたサイト、結構古いもので、もう、一年以上経ってるんです。だからきっと、最初は人気があって、人もたくさん来て。でも流行が過ぎて、それ以降人もぱたりと止んじゃって⋯みたいな感じなんじゃないですか」
「流行り、か⋯⋯」
青乃さんと出会う前の私は、人と話すのも苦手な陰キャで、配信では毎回強気口調になっちゃってて。
でも青乃さんと出会って、コラボして――って、今思い返すとめちゃくちゃ濃いな⋯⋯ていうか懐かしい⋯
そんでもって、優さんともコラボして⋯⋯紆余曲折あって、それで自分の気持ち理解して、青乃さんと両思いで⋯⋯って、恥ずっ!!!
恋愛のことはとりあえず置いとくとして⋯で、こんな感じでいろいろあったおかげか、人と話すのもちょっとずつマシになってきたし、配信する時も、ちょびっとずつだけど緊張も減ってきた。
まぁ口調については定着しすぎて変更不可なんだけど⋯⋯
最初の目標だった30万人もいつの間にか突破してて(こっちでいろいろあった間に)――って、お祝い配信まだやってなかったよな?青乃さんと一緒にしたいなぁ⋯
この勢いも“流行り”なのかもしれない。
そんなすごい大きい流行りとかじゃないだろうけど、ずっと登録者数が横ばいだった私にとっては、流行り同然だ。
そんな私も、いつかはこの花みたいに流行りが過ぎて、昔みたいに横ばいになるかもしれないんだよな⋯⋯ま、でも今はただ普通に配信続けるだけだよな。この波が続く内に、登録者数を増やして、青乃さんと肩を並べるぞー!!!
「――さん、四宮さん!」
「―えっ、あっ、ごめん」
「なにボーッとしてるんですか?」
「いやぁ、この景色に見惚れてて」
「なるほど、でも四宮さん、これはまだほんの序章ですよ」
そう言うと彼女は私の手を掴み、まっすぐ、花壇と花壇の間を歩き出した。
風が吹くたび、花の香りがダイレクトにぶつかってくる。いや、いいんだけどね。
にしても四宮さん、これはまだ序章って言ってたけど、これ以上に綺麗なものってあるのか?
だって今の時点で五感満たされまくってるし⋯
左右に植えられた花を見つつ、青乃さんに連れられるがまま広い屋上を歩くこと数十秒。歩みを止めた青乃さんに気づき、目線を上にした私は、目の前の光景に息を呑んだ。




