第41話
しばらくして、家のチャイムが鳴った。
とりあえず人に会える格好になった私は、急いで玄関へ向かい、鍵を開けた。
「はっ、は〜い」
「四宮さんっ!!!」
ドアを押すと同時に、彼女もまたドアを引いた。
かと思えばその瞬間、彼女は真っ先に私に飛びついてきた。
「えっ、ちょっ!!」
「会いたかった!凄く、会いたかったです!!」
私の方に顔を埋める彼女の声は今にも泣きだしそうだった。
サラサラな髪は、風呂から上がった直後だったのか、少し濡れていて。いつもの、明るく清楚を纏った感じの服装も、今は普段着全開で。
急いできてくれたんだろうなぁ⋯⋯
こうして来てくれたこと、そして、いつもと違う彼女の一面を見れて、少し嬉しくなる。
「⋯⋯私も、あ、会いたかったです⋯」
青乃さんにならって、私も自分の思いを伝えてみる。
うん、凄く恥ずかしい。
一方青乃さんは方に顔を埋めたままだし⋯⋯やっぱ言うんじゃなかった!!
込み上げてきた恥ずかしさで顔を真っ赤にさせながら、青乃さんを見る。
あっ⋯!!!
耳の先が少し赤くなっている。こっ、これはまた意外な一面⋯!!
いつもはグイグイ来て私を照れさせる青乃さんが、今、私の言葉で照れたのか⋯!!?
ニヤけそうなところをなんとか抑えて、私は彼女の背中をさすった。
「青乃さん、ほら、とりあえず中に入りましょ」
「⋯はいっ!」
バッ、と顔を上げ、私の言葉に返事をする。
靴を脱ぎ、揃える彼女を見守った後、私は彼女を中へ招いた。
「うわぁ〜久しぶりの四宮さん家だぁ⋯!」
廊下を渡りリビングに来た彼女は、いつもの彼女になっていた。
あの少し弱ってる感じの、私に頼ってくる彼女も良かったけど、やっぱりこっちのほうがなんか落ち着く。
そう思っていると、手を洗った彼女が、私の座っている椅子の真正面に座った。
机を間にしばらくの沈黙が流れたあと、会話を切り出したのは彼女の方だった。
「その、この前は冷たい態度取ってしまって、すみません⋯」
少しうつむき加減に言う彼女の言葉に、私は思考を巡らせる。
冷たい態度?えっと、あれ、なんだろ⋯?
「あの、レインの事です⋯」
「あぁ、それかぁ、別に気にしなくていいよ!私なんのことか分からなかったし」
「それでも、四宮さんにあんな態度を取ってしまって⋯⋯」
気まずそうにそう言う彼女に、私は気になっていたことを告げた。
「えっと、その、ちなみに、どうしてあんなに避けてたんですか⋯⋯?」
それを聞いた彼女は少し黙り込んだ後、気まずそうに口を開けた。
「えっと⋯ですね⋯⋯実は、その、あなたを取られたくないとか、他の人と仲良くしてほしくないとか⋯⋯」
「⋯ん?えっと、それってつまり⋯⋯」
「⋯嫉妬、ですね」
「し、嫉妬!!?」
「はい。それでその、嫉妬心が爆発してしまいそうで⋯避けてました⋯⋯」
「げ、原因は⋯?」
「⋯秋咲さんです。四宮さんがコラボするって、あまりなかったじゃないですか。だから滅多にないコラボ相手に私が選ばれたってはしゃいでたのに、コラボの次の日には別の相手とコラボする〜なんてこと言うんですもん」
「そっ、それは!その、一応青乃さんに聞いたほうがいいかなって」
「?」
「えっと、青乃さんがどれだけ嫉妬するかなって⋯」
それを聞いた青乃さんは目を丸くしていた。
そして、しばらくして、今度は頭を抱えた様子を見せた。
「⋯じゃああの時は素直に引き下がらずに自分の思いを伝えてたら良かった、ってことですか」
「⋯分かりづらくて、その、ごめん⋯⋯でも、あの時はまだ自分の、その、“好き”って気持ちに気づいてなかったから、まぁ、結果オーライっていうか、なんというか⋯⋯」
語彙力が欲しい。
自分の気持ちを伝えようとしても、うまく表現ができない。
「⋯なんか、分からなくなってきた⋯⋯」
「私もです⋯」
そうして、二人共がうつむく。そして同時に顔を上げ、互いの目を見つめた。
たったそれだけのことなのに、なんだかおかしくて。二人してふっ、と顔がほころんだ。
「あぁ〜、でもそっかぁ、四宮さん私のこと好きになってくれたんだ。やっばい、ほんとに嬉しい。」
「すっ、好きって!!」
「好きじゃないんですか?」
「⋯⋯すっ、好きですよっ!!!」
今更ながら、“好き”と人に言うのが恥ずかしい。
しょうがないだろ!こっちは恋愛経験ゼロのド陰キャなんだから!!
だんだんと顔が熱くなるのが分かる。
そしてそれを真正面でニンマリしながら見られているのも恥ずかしい。
ほんと、照れてるのが丸分かりな自分に、嫌気が差す。
⋯あぁもう、そんなに見ないでって!!青乃さん!!!




