第37話
その後私達は会計を済ませ、カフェを出た。
その頃にはもう、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ってことで、バイバイだね、四宮っち!」
「あ、えっと、相談、乗ってくださって、あ、ありがとうございました⋯!」
「ん、応援してるよ。笑顔な四宮っち、見せてよね!」
少し冷えるからか、頬を赤く照らした優さんが、こちらを向き、にかっと笑う。
カフェの入口に掛けられた照明に照らされたその笑顔が、とても眩しく見えた。
「⋯はい!」
私がそう言うと、優さんは目を細め、優しい笑みに切り替わった。
そして、街頭に照らされたタイルの上を、一人真っ直ぐ歩いていった。
「⋯ふぅ⋯⋯」
その後、無事家に帰った私は、風呂、歯磨き、その他諸々を終え、今は一人、スマホと格闘している。
青乃さんに送る言葉が思いつかない⋯⋯
青乃さんへの思いを自覚した今だと、余計送る言葉に悩むのだ。あと、多分彼女は、その、私を、避けてるんだし⋯⋯⋯って、その理由をまずは聞くんだろ!?
えっと、何を送ろう⋯そうだなぁ⋯⋯
「今日は楽しかったですか?」
いや何だそれ!急に送られてきたら怖いだろ⋯
「青乃さん、大切な話があります。」
って、なんか固くないか!?
「青乃さん、最近、私のこと避けてますか?あの、私なにかしましたか!」
って、これは流石に直球すぎるか⋯⋯あっ!!!
つい誤って、送信ボタンを押してしまった。
急いで文章を長押しし、取り消そうとするも今度は全文コピーを押してしまった。
焦りと緊張が徐々に押し寄せてきて、並行してどこを押せばいいのかも分からなくなってきた私は、そのメッセージにすでに既読が付いていることに気が付いた。
「あ⋯」
もう取り消そうとしても取り消せない所まで来てしまった私は、逆に冷静さを取り戻した。
そして、これを期に攻めの態勢に入ることにした。
「こんばんは、四宮さん。すみません、最近配信が忙しくてあまり返信できずにいました」
⋯これは本当なのか?
うーん、確かに青乃さんは今でもチョー人気VTuberだけど、配信頻度は今までと変わらないし、逆にコラボに至っては減ってきてるんだよな⋯⋯
もう少し攻めてみるか?
「配信お疲れさまです!あの、また良かったらコラボしませんか?」
既読が付いたまま、一向に返事が返ってこない。
しばらくして青乃さんは、ごめんねスタンプとともにメッセージを送ってきた。
「すみません、立て続けに予定が入っていて、しばらくは一緒に配信できそうにないです」
立て続け⋯⋯あまり青乃さんと話さなくなってきた時、ちょうど秋咲さん関連で桜見さんと話す機会があった。その時、試しに青宮 晴の予定を聞いた所、通常配信はいつも通り行うが、コラボはあまり入れていないと言っていた。理由を尋ねると、桜見さんは口籠り、結局最後は諦めて別の話題に移ったのだが、あの時もっと押してればと少し後悔している。
結局、ちゃんと聞くしか無いのか⋯⋯。
「あの、すみません。私、青乃さんに嫌われることしましたか?」
またしても、既読が付いて、返事がこない。かと思えば、今度はさっきよりも早く、返事が返ってきた。
「違います、四宮さんは何も悪くありません」
そうして、私が返信する間も無く、立て続けに青乃さんは送ってきた。
「私が悪いんです」
これで最後だったのか、これ以上彼女からのメッセージは無かった。
「どういうこと!?ちょっ、青乃さん!」
既読すらつかない。いや、メッセージ自体は見ているのかもしれないけど、メッセージ画面を開いていない。
最後のは一体どういう事だ?
青乃さんが悪いって、私なにか怒ったりした?
いや、青乃さんは私が本当に嫌なことはしないだろうし、私だって、その、めちゃくちゃ恥ずかしいとか、めちゃくちゃ照れたりとかはあったけど、別に本気で怒ってなかったいうか、そんな青乃さんが私を避けるほど怒るなんて、一度もしてないはずなんだけど⋯⋯はぁ、やっぱ分からないって!!!
うーん、こういう時ってどうすればいいんだ!?
えっと、青乃さんに直接聞く?って、家知らないよぉ!!!
じゃあ配信に凸る?って、それじゃあ言うことも言えないよ!
あっ!電話すれば⋯って、電話番号知らないし、レインに電話機能無いし⋯⋯って、そうじゃん!!!
レインを開いたまま、ホーム画面の友達欄を見る。登録人数が少ないおかげで、すぐに見つかった。
――桜見寧々
彼女なら青乃さんのマネージャーでのあるから、電話番号はもちろん。青乃さんが私を避ける理由も知っているかもしれない。
夜遅いし、申し訳ないけど、今は急がないといけない。
じゃないと、どんどん青乃さんが離れていくような気がするから。
そうして私は桜見さんとのメッセージ画面を開き、メッセージを送信した。




