第35話
「じゃあ二人は晴れてお付き合いかぁ〜。いいなぁ青ちゃんー!!!」
「⋯⋯それなんですけど、ちょっと最近あれでして⋯」
しばらくして届いた、いちごショートケーキを頬張りながら言う秋咲さんに、私は少しの気まずさを胸に、話を切り出した。
最近青乃さんと実際に会うことがないこと、レインはするけど、最近はそれもすぐ終わるようになってきたことなどなど。
私が説明下手なせいで話が少々長引いてしまったものの、秋咲さんはケーキを食べつつ、私の話を聞いてくれた。
「なるほどなぁー⋯⋯ねぇ黒宮っち」
「はい?」
「⋯私なら、黒宮っちに不安な思いさせないよ?」
「秋咲さん⋯!ですがすみません、青乃さんが好きなんです」
「だよなぁ〜」
話を終えた私の、いちごオレを飲んでいる手を握り、秋咲さんはそう言ったものの、私の思いは変わりそうにないので、丁重にお断りした。
「まだ可能性あり!?って思ったけど、そっか、無理だよねぇ〜」
「すみません⋯」
「違う違う、黒宮っち攻めてるわけじゃなくて!⋯⋯あっ!!」
両手を振って、違う違うアピールをしたかと思えば、急に手を止めて何かを考え始めた秋咲さんに、改めて表情が豊かで面白いと思う。ていうか、その「あっ!」ってなんなんだ⋯!?少し怖いんだけど⋯
少しの不安を抱きながら秋咲さんの言葉を待つ。しかし、帰ってきた言葉は想像してないものだった。
「そういえばうちら、まだ本名教えてないじゃん!!!」
「⋯あぁ、確かに」
それ今かぁ!!?と思ったものの、今思えば、確かにお互いにVの方の名前を呼んでいた。
まぁ自己紹介する間もなくいろんなことがバタバタと起こってたからなぁ⋯
これからも仲良くさせてもらうんだ。名前は絶対知っとかないと⋯!!
「じゃあ改めて、うち、秋原 優って言います!よろしく!」
「えっと、四宮 晴って言います!よっ、よろしくお願いします!」
「四宮っち!四宮っちか!いい名前だね!」
元気に、目一杯の笑顔でそう言う、その顔は、青乃さんと少し重なって見えた。
「ごめん、うち普段はVの人に本名聞かないからさ、最初の時聞くの忘れちゃって。あっ!決して四宮っちに興味が無かったてことじゃなくて、いや、逆に興味ありまくりで、最初に会った時聞こうと思ってたよ!!でも、会った瞬間『可愛い〜!!!』って思っちゃて、しばらく君のことで頭がいっぱいで⋯⋯」
「えっ!?」
「それで、ようやく聞こうと思った時には、もう配信が始まってたんだよね」
「じゃ、じゃあ休憩時間の時に聞いたら良かったのでは⋯?」
「ほら、その時にはもうさ、その、聞く余裕がなかったと言うか⋯」
「あっ、なるほど」
「そっか、四宮っちか!じゃあこれからはそう呼ばせてもらうね!」
「はっ、はい!じゃっ、じゃあ、秋原さん⋯?」
「優!」
「ゆっ、優さん!!」
「よしっ!」
本当によく笑う人だ。こっちも楽しくなる。
しかし、優さんの力を使ってもまだ、私の中にある不安は消えてはくれなかった。




