第34話
とりあえず配信を再開することにした私達は、互いの持ち場に戻り、マイクのミュートを外して料理ゲームを再開した――ものの、互いに気まずさが残ったまま始まったせいで、前半よりも格段に会話数が少なくなり、挙げ句私が同じ箇所を何度もミスってしまい、今日の配信は終わりと告げることとなった。
コメント欄では、先程のミュートの間に何があったのかを考察する人や、私達を心配する声、そして料理ゲーの攻略方法を教えてくれる人で溢れていた。
にしても、明らかに秋咲さんの元気がない。
⋯責任感じちゃってるのかな?
でも別に怒ってないし、秋咲さんが私を好きなのは知ってたし、それに、秋咲さんを青乃さんに変えて体験していた私も私だし⋯⋯
配信終わりの曲を流していた画面を閉じ、パソコンをカバンに入れるべく立ち上がる。
そうして帰る準備をしつつ、あれこれと考えていると、同じく帰る準備をしていた秋咲さんが、私の隣にやってきた。
自身の服の裾を両手でぎゅっと握り、俯いたまま黙り込んでいる彼女を正面で捕らえた私だったが、なんて声をかけていいか分からず、とりあえず今日誘ってくれたことへのお礼をした。
「あのっ、今日は誘っていただきありがとうございました!」
「⋯うん⋯⋯」
返事に覇気がない。
どうしたんだろう、やっぱりさっきのこと気にしてるのかな?
本当に大丈夫なのに⋯⋯まぁ、この人なりに反省してるのかな。
いうて反省する所⋯⋯はあったかもしれないけど、私にとっては自分の気持ちが分かって、感謝感激なんですけど⋯
とっ、とりあえず、もう大丈夫ってことを知ってもらわないと!
「あぁっと、そのっ、本当にもう大丈夫ですから!別に怒ってませんし!」
本当なんですよ!秋咲さん!!
「⋯ごめん」
――秋咲さんは私の些細な所に気づいてくれた。緊張だったり、不安だったり。多分、観察力がずば抜けてるんだろう。
だからよく他人に感情移入してしまうんじゃないかな。今だって、きっと私の立場を考えて反省してくれてるんだろう。⋯⋯けど、本当に私は大丈夫なんです!逆にありがとうございますだよ!!もしも今気づかなかったら、手遅れになっちゃってたかもしれないし!!!
って正直に伝えたい!!けど真正面で伝えたら引かれそう!!!
⋯でも、このまま離れていかれるのは嫌だな。せっかく話せるようにもなってきたし、コラボも楽しかったから。
あっ、ならそれを伝えてみるか!
「⋯あの、それでなんですけど、その、今日の配信、私、とても楽しかったです!ですから、また次もコラボしてくれますか?」
そう言うと、目の前に立っていた秋咲さんと目が合った。彼女の目が涙ぐんでいることに気がつく。
「うっ、黒宮っちー!!!」
「うわっ!?」
かと思ったら、いきなり抱きつかれて、つい後ずさりしてしまった。
顔をグリグリと私の胸にこすり付けて、目を潤ませながら安心したように笑う秋咲さんを見て、改めてこの人は笑顔が似合う人だと思う。
これからも、友達として仲良くしていきたいなぁ。
と、思っていたのに―――
「許してくれてありがとう。⋯これからは、ちゃんと手順を踏んで君に好きになってもらうから!」
「⋯⋯え、えぇぇっ!!?」
そういえば秋咲さんに告白の返しをしていなかった事を思い出した。
そっか、いざ言おうと思ったらバンバン落とすって言われるし、その後は青乃さんへの気持ちに気づくしで、いろいろとありすぎて言うのを忘れてた⋯⋯
⋯秋咲さんには申し訳ないけど、ここは早めに言っといたほうが良いよな⋯⋯
ということで、一度場所を移した私達は、近くにあったカフェで話をすることにした。
「⋯ですので、すみません。秋咲さんの告白には答えられません。」
「⋯⋯⋯まじか!」
ちゃんと正直に、最初から青乃さんの方に気持ちが行っていたこと、秋咲さんとは普通に仲良くするつもりだったことを伝え、謝った上で言ったその言葉は、緊張と申し訳ない気持ちが混ざり合ったものだった。
しかしその返答が、思いの外あっさりしていて、一気に肩の力が抜けたのを感じた。
一方その返答をした彼女は、机に肘をつき、だらーんと、届いたメロンソーダをストローでぐるぐるとかき回していた。
すると急に体をまっすぐに起こした彼女が、確認するような言い草で話しかけてきた。
「さっき青ちゃんに夢中でうちのことは見向きをしてなかったって言ってたけど、それってつまり、青ちゃんのことが好きってこと?」
見向きもしない、って流石にそこまでは言ってないけど⋯いや、実際そうだったのか?
でもまぁ、青乃さんに夢中だった、ってことは合ってたかも⋯⋯
「⋯はい。」
「えぇー、じゃあ最初から負け戦だったのぉ!?」
「いや、コラボを承認する時にはまだ、この気持ちに気づいてなくて⋯えっと、その、秋咲さんから攻められて気づいたっていうか⋯⋯だから、あの、こういうのはちょっとあれかもしれないですけど、あ、ありがとうございました」
「えぇー、まじかぁ。まさかお礼言われるとは思わなかったなぁ。ていうかまじかぁ。まさかのキューピッドになっちゃった系かぁ〜」
そう言って机に突っ伏したものの、メロンソーダを回す手は止まらない彼女を慰める。
「ま、まぁまぁ、ありがとうございます、です!」
「本当にうち、黒宮っちのことが好きだったんだからねぇ〜。ほんの一瞬で散っちゃったけど!!」
「⋯でも、こんな私を好きになってくれて、ありがとうございます。」
きっとこの人には、私よりも相性がいい人がいるだろう。
彼女が運命の人に出会うことを願いながら、私は届いたいちごオレを飲みだした。




