第24話
「なんですか?」
立ち上がって、お皿を重ねてくれていた彼女が顔を上げる。
まっすぐこちらを見つめてくる瞳に、最初は戸惑ったりしたものの、今では少し慣れてきた気がする。
私は彼女の目を見て言った。
「実は昨日、秋咲さんからコラボのお誘いをもらったんです、けど⋯⋯」
それを聞いた青乃さんは、ななめ下に目線を逸らし、黙り込んでしまった。
⋯⋯こ、これは、お、怒ったのか?恋敵とコラボするから?
それか、もしかしたら「自分も行きます!」って言うんじゃないか⋯?私としては大先輩と話すなんて絶対緊張しちゃうから、青乃さんが居てくれたほうが安心するけど、その場合秋咲さんはどう思うんだろ。ていうかこの二人を混ぜても良いのか⋯?昨日の配信的に、混ぜたら危険なんじゃ⋯!?
そう頭の中でぐるぐると考えていると、彼女がこちらを向き、なんともないような声色で
「そうなんですか、凄いじゃないですか!ぜひ楽しんでください!」
と言う。
⋯⋯⋯え、それだけ!?⋯って考えるのはおかしいかもしれないけど、君結構黙ってたじゃん!黙り込んでたじゃん!!絶対なにか考えてたでしょ!!!
そう心のなかでツッコミをした。
それと同時に、頭の片隅では「私のことが好きなはずでは?」「なんでそんな明るい表情で、恋敵の所に送りだすの?」という自分でもわけのわからない事をつい反射的に思ってしまう。
「そんなに自分に自信があるのかな」「もし私が秋咲さんのことを好きになったらどうするの」、次から次へと出てくるそれらは、私の頭の中をどんどん侵食していった。
⋯なんなんだ、このヤンデレみたいな感情は⋯!!?
考えたことのない事が次々と出てくる事に焦りを覚えた私は、それらを遮断するため、会話を切り出した。
「う、うん⋯行ってくるよ!⋯あ、あとお皿重ねてくれてありがとう。私が運ぶよ。」
そう言って逃げるように立ち上がった私は、重ねられたお皿を持ってキッチンへと足早に向かった。お皿をシンクの中に入れ、青乃さんの所に戻る。
その頃には先程の考えはやんでいたものの、なんとも言えない不安が、私の胸に残っていた。
この不安を振り払うため、椅子に座った私は青乃さんに今日の予定を聞いた。
「⋯今日はこのあと、どうするんですか?」
「あっ、この後は家に帰ります!今日の夜、友達と食べに行くんですよ!」
「⋯そ、そうなんだ」
“友達”
―――またしても心がズシンと重くなる。
振り払うはずだった不安も、さっきより濃くなった気がする。
なんなんだ、これは⋯ただ彼女が“友達”と発しただけで心が締め付けられた⋯⋯
これ以上は、だめかもしれない。
「な、ならさ、早めに帰ったほうが良いんじゃないかな?ほら、もう10時だしさ、家に帰って準備とかもあるでしょ」
「えっ、速くないですか!?もうちょっと⋯⋯」
そう、うるうると上目遣いで見つめてくる彼女から、思わず目を逸らしてしまう。
慣れたと思ってたのに⋯⋯
「わ、私まだ寝たいんだよねー」
誰がどう聞いても嘘だと分かるぐらいの棒読みで言う。
嘘だとバレたとしても、今は一人になりたい。
「⋯分かりました!」
少し間をおいて青乃さんはそう言った後、立ち上がって帰る準備をし始めた。
寂しい気持ちと安堵の気持ちが混ざりあった私は、ただその様子を見ていることしかできなかった。
「それでは、お邪魔しました!また来ますね!」
彼女は明るく笑顔でそう言って、私の家を後にした。
扉から背を向け、リビングに行く。机の上には2つのコップが残っていた。
コーンスープを飲んだ後、一度洗ってから入れたお茶が、両方ともまだ少し残っていた。
両手でコップをそれぞれに持ち、シンクに運ぶ。
一人でも消えないこの不安をどうすればいいのか、そう考えながら私はコップの中のお茶を捨てた。




