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第17話

「誰か夢だと言ってくれー!!!!!」


両手で髪をかきあげながら少し声のボリュームを下げて叫ぶ。そんな私の両手を掴み、頭から引き剥がした青乃さんが、目線を合わせて言う。


「夢じゃないです、現実です」


そう、にこっと微笑みながら言う。青乃さんが、目線を合わせるため少し前かがみになったので、互いの顔が近くなる。

距離が近い!距離が近いってば!!

そう思い距離を取ろうと、上半身を後ろに逸らすも、両腕がびくともしない。この子、力強いな!!?

それでもなんとか上半身を後ろに倒していると、椅子の背もたれに止められた。もう、下がることができない。

そう思った瞬間、彼女が椅子から立ち上がり、両手を掴んだまま、覆いかぶさるようにしてどんどん距離を詰めてくる。


「あっ、ちょっ!まっ⋯!!」


「待って!」と伝えようとしても段々と縮む距離に焦りが生じて上手く言えなかった。

彼女の動きが止まったのは、互いの顔の間が拳一つ分も無くなったときだった。

彼女の呼吸が伝わる。私の心臓がもう死ぬんじゃないかくらいバクバクしている。

少しでも動いたら唇が触れ合う距離。下手に動けもせず、私はただただじっとするしかなかった。

すると、彼女の私の腕を握る力が強くなった。私は覚悟を決めて目を閉じた。

―――あれ、なにも、ない⋯⋯?

恐る恐る目を開けると、そこには体を起こした青乃さんの姿があった。


「え、あの⋯?」


てっきりキスされると思ったので、体を起こし、青乃さんとの距離がだいぶ離れてるのを見て、少し混乱する。

すると青乃さんは、握っていた私の両手を離して、こう言った。


「最初のキスは、想いが繋がったときにしましょう」


にまっと微笑みながら、後ろで手を組み、少し体を傾かせて言う姿に少しキュンとしてしまう。

しかし、これは可愛さゆえのキュンであって、別に好きだからキュンとしたわけじゃない。うん。

あれだ、そう、あの、雑誌とか見て可愛い子にキュンとする、みたいなあれだよ、うん。⋯だよな?


いくら可愛い後輩と言っても、私が青乃さんと付き合うなんてそんなの考えたことないし、これからもずっと仲良くコラボとかさ、どこか遊びに行ったりするって思ってたから、付き合うなんて想像つかんな⋯⋯いやいや!なんで付き合う前提なんだ、私!!!

たった一人の後輩に翻弄されていると、そういえば、と横のパソコンに目を向けた。


「⋯⋯やっぱ配信してますよねぇ。生配信ですよねぇ」


半ば諦めモードで椅子を回転させ、パソコンを正面に持ってくる。


〈コメント欄〉

「結婚おめ」

「百合や!応援する!皆で見守ろう!」

「「青黒」いや、「晴怜」か?」


相変わらずすごい勢いで流れているコメントには「百合」や「結婚」の文字が多く見られる。ていうか結婚してないし!そこにプラスして「青黒」や「宮宮」、「晴怜」という、いわゆるカプ名なるものも見えた。って、なんで私が下(受け)なんだよ!?なんで全部私が下なんだぁ!!!

ていうかなんだなんだ、なんかめっちゃ応援コメントが多いな。いや、いいんだけどさ、炎上とかするよりだいぶいいんだけどさ、え、めっちゃ応援されてるな⋯⋯でっ、でも私は、まだ付き合うなんて思ってないし、初のV友としてこれからも仲良くやっていくつもりだし!!!

そうやって少しの間じーっとパソコン画面と葛藤していると、隣りに座っていた青乃さんがパソコンに向かって話しだした。


「皆ごめん!黒宮さんに夢中で配信中なの忘れてた!」


〈コメント欄〉

「いいよいいよ」

「気にせず続けてくれ」

「二人のこと、応援する!」


「皆ありがとう!幸せになるね!」


「ちょちょちょっ、まだ付き合ってもないから!」


「落としますから、大丈夫ですよ!」


青乃さんが結婚配信みたいなこと言うから、すかさず“付き合ってない”って言ったのに、まさか満面の笑みに明るいトーンでそんなことを言われるとは⋯青乃さん、恐ろしい子⋯⋯

って、いけない、いけない!私もなにか喋らないと!


「えぇっと、その、ま、まずは、お互いを知るところから⋯」


って何言ってんだ私!!!

「まずは互いを知ってから、付き合いましょう」みたいになっちゃったじゃん!!!

まずは付き合うことを否定しないと⋯⋯って思ってるはずなのに、言えない。なんでだ?もしかして私は本心では付き合いたいと思ってるのか?いや、それか否定してしまったら今の関係、そして初のV友を無くすかもって不安からなのか⋯?


「そうですね!」


あぁーほらこれ、勘違いしてるんじゃん!見てみぃこの顔、ちょー目がキラキラしてるよ!!

⋯い、いったん考えるのはやめとこう。このままだと配信が百合で終わってしまう!!これは、ゲーム配信だ!!!


「ま、まぁ皆さん落ち着いてください。青宮さん、と、とりあえずゲームしましょう!」


「あっ、確かにそろそろ脱出ゲームしましょうか!新たに黒宮さんの一面が知れるかもしれませんし!」


⋯めっちゃこっち見てくる。めっちゃキラキラした目線送ってくる⋯⋯

いやいや、今はゲームに集中だ!!!


「えっと、ということで今回私達がプレイするゲームはこちら、「本からの脱出」という脱出ゲームです」


「あ、ちなみにこのゲーム、ホラー要素もちょっぴりあるっぽいよ」


「え゛」


「ん?⋯あっ、もしかして知らずに決めたんですか、黒宮さん?私はてっきり、今日は喉枯れる覚悟で来たと思ってたんですけど」


「いや、知らな――」


「まぁいっか!早速始めちゃいましょう!!」


「あっ、ちょおっ!!」




ホラーが苦手な黒宮 怜、喉を守りきることはできるのか―――

次回に続く!

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