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第16話

「おっはよー!じゃなくて、こんばんはー!異世界の旅人、“青宮 晴”だよ〜」


〈コメント欄〉

「おはよう?」

「コラボ相手の発表求む」

「始まったぁ!!!!!」


配信が始まった。ハキハキと皆の前で喋る青乃さんを横目に前を向き、切れ長の目に長い黒髪の、“黒宮 怜”のアバターを見た。

⋯だいぶ緊張してる。いつもより多いリスナー。ほぼ初となるVとのコラボ。しかもそれが今超人気のVTuber。

今回は青乃さんの配信にお邪魔する形でコラボする。

にしてもやっぱりプロだ。さっきと少しだけ雰囲気が変わった。まぁ、元気で賑やかなのは変わりないけど。

にしても流石人気V。コメントの流れが早いなこりゃ⋯

これ私出た瞬間止まったりしない?この流れ止まっちゃったりしたらショックなんだが⋯!!


「じゃ、早速だけど、今回のコラボ相手の発表!ささ、自己紹介、お願いします!」


「み、皆さんこんにちは。」


緊張しながらいつも通りを意識して自己紹介をした。

幸い声が震えることはなかったものの、すこし言葉が詰まってしまった。恥ずかしい⋯!!!

にしてもやっぱり、この口調になっちゃうなぁ⋯最初がこれだとキャラブレ防止のために最後まで貫かないといけないんだよぉ、もうそろそろ慣れたいのにぃ!!!

きっといつもとぜんぜん違うから、青乃さんもきっと引いてるよな⋯⋯

そう思いながらちらっと横に座っている青乃さんを見る。

⋯って、えっ、なんか凄く二マーってしてる!!え、なんで!?

そう思っているとまたまたまたまた青乃さんと目が合った。


「何してるんですか、黒宮さん!ほら、大勢の人が来てくれてますよ!」


「え、」


自己紹介した時、流れが止まったように見えたのに、え、なんで!?

え、さっき止まってたじゃん!?え、なんでぇ!!?

そう思いながら流れているコメントに目を向ける。

すると何やら気になる単語が数個、いや何十個と流れていた。

えっ、なにこれ、え、もしかして荒らし!?わっ、私が出たから⋯!!?


「あっ、あの、青宮さん!!こっ、この「百合」とか「結婚」って、なんですか!!もっ、もしかして荒らし―――」


「おっ、落ち着いてください黒宮さん!!!」


横に座っていた青乃さんが、こちらを向き、私の椅子を動かす。そうして互いの体が向き合うと、私の両手を握り、目を合わせながらそう言った。そして、なにかいけないことをしたんじゃないかと不安で震える私の手の甲をさらりと優しく撫でながら言う。


「私、黒宮さんのことが好きなんです。」


「⋯⋯えっ、ファンなんでしょ。それは知って―――」


「違います!私、恋愛の意味で、あなたのことが好きなんです⋯!」


彼女の瞳は私の瞳をまっすぐと見つめていた。こんなにも強くてまっすぐな眼差しを、彼女から、いや、人からもらうのは初めてだった。

⋯⋯⋯って、えっ、ちょっと待てよ。いや、ちょっと待ってください。

え、今彼女、恋愛的に私が好き、みたいなこと言わなかった?え、聞き間違い⋯⋯じゃあないよな。

コメント欄が「百合」「結婚」などの恋愛用語で溢れていたこと。彼女の両手が私の両手を強く、握りしめていること。そして、この情熱的なまでの眼差しを私に向けていること。聞き間違いじゃないことくらい、もう証明されている。


「⋯本気、なんですか⋯?」


本気なくらい分かってる。十分すぎるほど伝わっている。

けど、それでも私は彼女にそう問いかけた。彼女の正気を疑ったからだ。

第一に、私はバイだ。それは最初に言っておく。まぁ恋愛経験はゼロだけど。

だからまぁ女性もいけるっちゃいけるけど⋯⋯え、この私が好きって、正気か⋯⋯!?

嘘だろ!?え、この私だよ!?口下手で陰キャで、配信でも毎回緊張しちゃうし、よく会う人でも、少し緊張して言葉が詰まることだってある私が!好き!?

え、好きになる要素、どこにあった⋯???

そうやって頭の中でぐるぐると考えていると、彼女がさっきよりも強い力でぎゅっと私の両手を包み込み、口を開いた。


「本気です。⋯信じてくれませんか。」


―――っ


「しっ、信じる!信じるよ!⋯けどさ、何で私なんですか?だって私、いいところなんか一つも――」


「何言ってるんですか!黒宮さんのいいところ、私たっくさん知ってます!!試しに100個言ってみましょうか?まずは声がとても綺麗です。聞いてる人を虜にする声で、私も一瞬で落ちました。あと、動きが可愛いです。特にゲーム配信の時に――」


そうやって次々に私への思いをまっすぐぶつけてくる青乃さんに、私は早々ギブアップを宣言した。


「もっ、もう分かったから!!ちょっ、ちょっと黙ってください⋯⋯!!!」


そう言いながら、自分の顔がどんどん熱を帯びてくるのを感じた。

急いで両足を椅子の上に上げ、握られていた両手を、包みこんでいた青乃さんの両手から引っこ抜き、顔を胸と両足の間に埋め込む。まるでミノムシみたいな格好だったが、真っ赤になった私の顔を見られるよりはこっちのほうがマシだった。


「ふふっ、青乃さん、耳まで真っ赤じゃないですか」


「だっ、誰のせいだと⋯!」


顔を埋めながら言う。しばらくこの熱は引きそうにない⋯⋯

ほんと、誰のせいだと思ってるんだ⋯!!!


「でももう、逃げようと思っても逃げれませんよ。こうしてリスナーの皆さんにも宣言できましたし、堂々とアタックしていくんで、よろしくお願いします!」


そう、真正面ではっきりとした口調で言われる。

堂々とアタック⋯何が起こるんだ、まったく。リスナーの皆さんにも宣言できた、って、まぁそりゃ公にしたほうがアタックしやすい⋯よな⋯⋯


「⋯⋯⋯えっ!!そうじゃん!!!これっ、今配信してるじゃんか!!!!!」


埋めていた顔を上げ、今までに出したことのないくらいの大声で言った。

多分音割れしてるだろう。ごめんなさい、リスナーの皆さん、、、

でもさぁ、そうじゃん!配信してるじゃん!なんでこのタイミングで言ったんだよもう、めっちゃ普段のキャラ出てたし、それにさぁ、めっちゃ恥ずかしいんだが!!!

なにこの人、さらっと大勢の前で私の良いところ100個言おうとしてるんだ!!?やめろよ、恥ずかしすぎるだろ!!!


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ」


「落ち着けるかい!えっ、なんで私気づかなかったんだ⋯!?え、なんで!?」


「それくらい私の言葉を意識していたってことですよね?嬉しいです!」


え、なに言っちゃってるの、この子!なにめっちゃ嬉しそうに言っちゃってるのこの子!!

え、嘘、初のちゃんとしたコラボが、キャラめちゃくちゃな私から始まるってこれ、まじですかい?


「だっ、」


「だ?」


「誰か夢だと言ってくれー!!!!!」

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