第1話
「皆、おっはよ〜!異世界からの旅人、青宮 晴、参場!という事で、今日はこのゲームやってくよ〜」
〈コメント欄〉
「これむずいやつじゃね?」
「嘘、すごくね」
「いやまぁ青晴ならいけるでしょ」
「そうそう、これ難しいやつなんだけどさ、攻略動画見てきたから、大丈夫!じゃ、やってこ〜!」
明るくて元気でハキハキしてる。羨ましい。はぁ、私とは大違い⋯
そう呟き、椅子から立ち上がる。ソファに俯けになり、スマホで見ていた配信を大画面で表示した。
そこには最近話題のRPGゲームをプレイする犬耳の生えた茶髪の女の子が映し出されている。
青宮晴。大手VTuber事務所「レオレイン」の新人VTuber。そして、VTuber史上、最も早く登録者数10万人を突破したVTuberでもある。
初配信で2時間寝坊という前代未聞なドジっぷりを発揮しながらも、国立大学医学部卒という異次元な経歴を持っていて、その上ゲームの腕はプロレベル。もうほんと、化物すぎる(褒め言葉)。
⋯⋯⋯ほんと、何でこんな子が私の後輩なんだ!!!!!
「うぅぅ、なんでまだ一ヶ月も経ってないのに10万人行くんだよぉ。私は三ヶ月もかかったんだぞ!」
完璧な後輩への嫉妬からやや興奮気味になっていると、スマホのアラームが私の目の前で鳴り響いた。配信途中の画面を切り上げ、机の前に移動する。
そしてパソコンを起動しながら軽くチューニングをし、マイクを繋げた。
「あー、あー。こんばんは、黒宮 怜です。皆さん、お仕事お疲れさまです。」
〈コメント欄〉
「待ってた、怜様!」
「怜様、こっち向いて!」
「皆、怜様が来られたぞ!」
「皆さん、今日も少しきも…ごほんっ、えっと、今回は私、こちらのゲームに挑戦していきたいと思います。」
〈コメント欄〉
「今キモいって言おうとした?」
「いつも通り」
「まぁまぁ、これが怜様だから。ていうかこれ、RPGで、しかも難しいやつだよね?怜様大丈夫なのかな?」
「はぁ、私ですよ?舐めないでください。すぐにでもクリアしてみせます。」
【1時間後】
「…ということで、今回の配信はここまでにさせていただきます。皆さん、また次の配信でお会いしましょう。」
〈コメント欄〉
「怜様弱すぎ。」
「最初のところもクリアできないってマジ?」
「怜様、ゲーム弱いからなぁ…」
「はぁぁぁぁぁ…」
配信を切ってソファに寝転び、大きなため息をつく。
もう分かったと思うが、一応説明。
私の本名は四宮 晴。
そして仕事は、VTuberだ。
VTuber—黒宮怜。異世界から転移してきた魔術師でこの世界で弟子を作るため、やってきた⋯⋯という設定。
大手VTuber事務所「レオレイン」の第4期生で、今年で活動3年目。登録者数は、現在25万人。
それにしても⋯何が「すぐにでもクリアしてみせます」だ!何でゲームが苦手だって自分でも分かってるのに意地張っちゃったんだよぉ!!!
ていうか何なんだよもぅ、「はぁ、私ですよ?」って。私全然そんなキャラじゃないのに!
配信で緊張しちゃって、強い口調になっちゃうだけなんだよぉ⋯
おまけに暴言まではく始末。暴言はだめでしょ、暴言はさぁ!
結局、今回もあんまり登録者数は伸びそうにないな…
「はぁ、3D配信、いつできるんだろ⋯」
3D配信。VTuberなら誰もが夢見る事。もちろん、私だってしたい!
だって、3Dだと
・自分の動きがリスナーに伝わる!
・体を使った配信ができる!
・後ろ姿も見れる!
・細かい動作もできる!
などなどなど!素晴らしい特典が盛りだくさん!
しかし未だに、その夢は叶っていない。
うぅっ、私以外の同期は全員3D化しているっていうのに、なんで私一人だけ2Dだけなの⋯
3D化の条件は、たった一つ。
・登録者数が30万人を突破すること。
たった一つなのに、それでも私はまだ達成できてない。あと、5万か……
達成した同期たちは皆、運動会とか、チャンバラとかさぁ、めちゃくちゃ3D堪能して、どんどん登録者数も獲得してってるのに、私は、まだ…
おまけに抜かれそうだからって、後輩にまで嫉妬しちゃうし!!!
「はぁぁぁぁ」
再び深い溜息をつき、寝返りを打つ。
⋯昔から根っからの陰キャだった私は、学生時代は本ばかり読んでいてろくに友だちもできず、だいぶ前に行った同窓会でも一人寂しくご飯を食べるだけで終わった。
そんな自分を変えようと、23歳でVTuberデビューしたものの⋯根っからが陰キャ過ぎて同期とはうまく馴染めないし、先輩ともあんまり深く交流することもなく、3年が経ってしまった。
3年経っても配信始めは緊張するしで、もう、何も変わってないじゃん!
「はぁ、変わりたい⋯」
とりあえずまずは、3D化して、同期と肩を並べたい。
となると登録者数を増やすしか無いんだけど⋯うーん、どうしよう。
ゲーム配信⋯って上手くないとそうそう増えなさそうだし⋯⋯なら、ASMR?いやぁ、でもあれ恥ずかしい〜!となると雑談?いや、リスナーと会話するのリスキーだって。荒らしとか来たら私終わるって。なら、歌⋯は自信ないしなぁ、、、
ってなるとやっぱり一番手っ取り早いのは、コラボだよなぁ、、、
「でも誰かと話すのって緊張するなぁ〜!うーん、ま、今日はもう遅いし明日担当さんに言ってみようかな!」
そう呟きながら体を起こし、スマホを見る。時刻は12時を過ぎようとしていた。
「ふわぁ、寝よ〜」
軽く伸びをし、ソファから立ち上がる。リビングの電気を消し、私は自分の部屋へと向かった。