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第7話 嘘から出ない誠

なかなか筆が進みません! 敵を早く出し……たい!

「んじゃあ、最初の質問ね。これまでに、そうね。直近1年間で大便を漏らした事はあるのかしら?」

 

 レイシアが真面目な顔して、チューズデイこと噓発見器を用いた発言の一発目がそれだった。この想定していない質問の到来に和輝の思考は暫し止まる。思う存分好き勝手に質問してくれ!俺が潔白だって事を証明してやる。

 その気概を持つ中で水が差され、フザケタ質問をされた和輝は顔を顰めて強く指摘する。


「おい、その質問全く関係ないだろ。真面目にやれ!」

「え?? ガッツリツリツリ白すぎる潔白を証明するんじゃなかったっけ??え?、え???」

 

 わざとらしく口元に手を当てて驚き、煽り文句を言うレイシア。和輝が動けない状態なのを良い事に、初っ端から好き勝手してくれる。

「――――」

 その煽りに応じず、フザケタ質問に付き合う気のない和輝は一旦無言を返した。

 が、レイシアは頑なに真面目な質問を繰り出そうとしない。仁王立ちの姿勢で且つニタニタとした表情で、和輝の回答を待っているだけだった。明らかに弄んでいる感満載のご様子。

 余計に答えたくない気分になったが、この何も生まぬ膠着状態に嫌気が差した和輝は仕方なく答える。


「俺は16歳だぞ。漏らす訳がない」


 言うと、レイシアはニタニタとした表情でチューズデイを覗く。何の躊躇いも無く針がBに振れた。和輝の返答を嘘だと見極めたのだ。

 変なツボに触れたのか、レイシアはドサッッッ!と崩れたように膝を突くと、涙ながらに腹を抱えて馬鹿笑いを吹き出した。息を切らすように笑うレイシアは、腹を捩って紺色の瞳から零れ落ちる涙を必死に拭い始める。

 

「私も貴方と同じ16歳だけれど、まさか! 人に大小あれど恥じはつきものよ。恥を知るのが人間よ。けれど夢に魘されて漏らすなんてダサすぎる!ってマジで、ほんと 」

「実は一週間前にトレイに間に合わない夢に魘されて、それで目が覚めたら……ってどうでもいいだろ、そんな事! 嫌な記憶を蘇らせるな! アレは16歳の夏で一番の恥だ!」

「対策として、パンツを多めに履くのを推奨するわ!」

「いや、もういっす。もういいわ、それ以上やめてくれ」


 恥辱の余りレイシアから視線を逸らし、頬を赤くする和輝。今日出会ったばかりな他人の前でプライベートの中でもデリケートな部分を晒す破目になったのは人生最大の屈辱と言えよう。

 しかも同い年の異性に知られるのは一番痛い。轟剣一、蓮田友樹といった親友にすら伝えていない話だからこそ余計に和輝へ屈辱感を与えた。

 悔し気に唇を噛み締めた和輝だが、この屈辱は潔白を証明する事で果たせるものだ。返って和輝の魂には戦いの火が灯された。

 逸らした視線を正面に戻し、鋭い眼差しでレイシアを睨み付ける。

「いいさ、この恥の仕返しは潔白を証明する事で果たされる。随分と俺を笑ったろ? こっからが本番だ」

 それについてレイシアは、目の前に掌を突き出すリアクションを取った。

「えぇ、えぇ、えぇ。ちょっと待って……笑いを落ち着かせる……そうね。そうよね。うん。随分と、しかも女性の前で随分な恥を晒したし、十分爪痕は残せたわ。いいわ、はぁ、はぁ、はぁ」

 笑い過ぎて呼吸困難になりけているレイシアは、深呼吸を繰り返す。和輝のクソ漏らしエピソードが余程ツボに入っているようで、笑いの余韻は完全に消せないようだった。

 少し気を抜けば再び馬鹿笑いしそうなレイシアは口元が緩まぬよう、左頬をつねりながら宣言する。

「これから自称異世界転移者の裁判を始めまひゅ!」

  


********************************************


五分後―――――。


「もう、いっそのこと風景と同化したい。私は酸素になりたい。」

 レイシアは大の字に仰向け状態で倒れていた。双眸からは光が消え、まるで魂が抜けきったような死人のような容態だ。あれほど和輝を笑い、煽り、不法侵入者扱いをしていたレイシアは蚊の鳴く声で一人呟いていた。


「いや、いいえ。そんなはずないわ。御婆様から頂いたチューズデイは本物よ。ありとあらゆる嘘を見抜いてきたわ。街の食い逃げ犯を逃した時だって、チューズデイを使う事で見つけ出せた。それっていつやったの? いつでしょ? 昨日ですけど。えぇ、だからきっと壊れてるのよ。きっと壊れているのよ。えぇきっと……これって私まるで悪人じゃない。無実の人を椅子に縛りつけた私は悪。異世界転移なにそれ美味しいの。異世界転移ってなんやねん、そんな魔法あるわけないでしょ」

「悪いけど俺の勝ちだ。それにレイシア、婆様が悲しむぞ。亡くなった人の物には魂が宿るって言われている。チューズデイを信用しないって事は、婆様を信用しないのと一緒だからな~」

 哀れみの言葉を投げると、眼下に横たわるレイシアは軽く眉をあげていた。

 


********************************************

五分前の話 


こんな状況になった理由は単純明快。レイシアがチューズデイを用いた勝負に完敗したのだ。

 レイシアの宣言後、今度こそ真面目にチューズデイを用いたQ&Aが始まった

「早速だけど、貴方は異世界転移者なの?」

「あぁそうだよ。異世界転移した」

 針はTに振れた。嘘ではなく真実であることを示すTに。

「貴方は異世界転移者なの?」

「さっきも言ったけど、そうだと言ってるよな」

 針はTから動かない。

「貴方は異世界転移者なの?」

「三度目ですが、異世界転移者なんですけど」

 針はTから動かない。

「じゃあ貴方の出身は?

「日本。英語で言うなればジャパン」

 それでも針はTから動かない。

「貴方は私の部屋に不法侵入をした。そうでしょ!?」

「いや、違う。俺は異世界転移した結果、運悪くそうなっただけだ」

 針はTから動かない。

「貴方は一度殺されて異世界転移したの?」

「そうだ、俺は異世界転移者だ!!!名前は渋谷和輝だ!」

 針はTから動かない。

「だったら……私の名前はクソ漏らし野郎よ!」

 針は嘘を示すBへと移動した。

 おそらくレイシアはチューズデイが問題なく機能しているかを確認したかったのだろう。

 針がBへ移動した様子を見たレイシアは、白目を剥いて膝を崩した。


 このようにレイシアは悉く綺麗に無様に圧倒的な敗北を喫したのだった。


********************************************


「気を落とすなよ。ま、これで俺の潔白は証明された訳だし、想像以上にギャフンと言わせられたし満足だ。お前を騎士ってのに引き渡して、拷問部屋に監禁されてました~なんて言うのもありだけど正直経緯を話すのは面倒だ。異世界から来た人間の話を真面目に聞いてくれるとは思えないしな」


 口元を緩ませ、このうえない満足感と並びに愉悦に浸る和輝は既に目的を遂げていた。それは悪意が無い不法侵入の証明、異世界転移をした事実の証明は勿論だが、何より直近の大便漏らし案件を散々笑われた事に対する屈辱感をお返しだ。

 故に和輝は、冤罪噛ましたレイシアを騎士に渡して処罰させるという考えは無い。

 あれだけ強気でいたレイシアは想像以上の罪悪感で圧し潰されてるし、これ以上の罰はもうないだろう。


「別に突き出せばいいじゃない。別にいいじゃない。それでいいじゃない。違う違うそうじゃない、そうじゃないなんて言いたくなるけど、実際そうよ。私は悪人よ。貴方は私を騎士に連行する責任がある。

立派な”監禁”を私はしたのだから。私は必ず何かしらの代償を払うべきよ」

「違う違うそうじゃないそうじゃないとか、俺の世界じゃ結構有名な言葉なんだけど」

「私の世界でも昔から有名。なんなら神話の本に載ってるわ。あ~~~そんな事もうどうでもいい、私に審判を下して」


 冤罪だった事実を重く受け止めるレイシアは、望んで裁きを受け入れる態勢だ。性格上、責任を取らないと気が済まない性格なのだろう。レイシアの罰が欲しいと駄々をこねるような行為を前にした和輝は、それを異常だと捉えて大仰に首を傾げた。


「おかしいぞ。普通の悪党なら冤罪有無関係なく、口封じに俺の事を殺すだろ。ほら、外に出て色々と言い降られたら面倒じゃん? そういうの警戒してさ。なのにお前は随分と自分が捕まる事を望みすぎやしないか?」

「仮に言われたとしても仕方ないのよ。それだけの事を私は犯してしまったの。亡くなった御婆様に顔向けできない。あぁこの世の終わりだ、地獄だ。私はミミズのように這いつくばって泥水啜ってる方が良い人生なのよ。 そして来世は酸素になりたい」


 想像以上の罪悪感に蝕まれているようだった。殴って気絶させて椅子に縛り上げて疑いを掛けた行いを、自分の正義感が許せないのだろう。

 

「何度でも言うけどお前に一泡吹かせられたから、スッキリしてるし。それに感謝してる。俺の世界じゃこういう拷問部屋に幽閉された奴は、真実を言うまで爪剥がされて殴られるんだ。幾ら拷問されてる側が真実を言っても、納得のいく都合の良い答えが出るまで拷問側は嬲り続けるんだ。だから、チューズデイで話に蹴りを付ける方法を取ってくれたのは本当に感謝してる。視点を変えれば、そう……転移先がお前の住む部屋で助かった。相手がお前じゃなきゃ俺は今どうなってた事やらってな」


 もし違う人の部屋に飛ばされていたら殴られた後は、そのまま騎士に引き渡されていた可能性もある。

また同じように椅子に縛り付けられて痛めつけられてといった可能性も同じくだ。

 異世界にどのくらいの人間が住んでいるか分からないが、人数分の1の確率でチューズデイを持つレイシアを引き当てたのは奇跡のようなものだ。もし引き当てていなければ、異世界転移を信用されず酷い仕打ちを受けていたのだろう。

 その窮地に陥らなかったのはレイシアという存在あっての事だ。

 今回、異世界転移を証明できたのはあくまでも相手がレイシアだからこそ。

 全体を俯瞰的に見た結果、和輝に芽生えるのは――

「詰まるところ、ありがとうって話だ」

 感謝の感情だ。


”ありがとう”のフレーズに反応したレイシアは、眉根を寄せた。漸く大の字の姿勢を崩して、ヌルっと気怠に緩慢な動作で起き上がり始める。

 和輝から齎された発言に違和感を覚えているのかもしれない。額を抑え始めたレイシアは、物思いに耽るように暫く無言を貫いた。

 暫く――それは1分にも満たない数十秒の話だ。

 暫くの概念は人によって異なるのだろうが、その数十秒がとても長く感じられた。

 やがて、レイシアは首を横に振ってから静寂を切り裂いた。 


「人に関わらず無抵抗の生物に対して暴力を振るうの嫌いなのよ。例えば相手に屈辱的な暴言を吐かれたとしても私は相手を殴れない。多分、この先もきっと。けど、だから感謝の言われはなくて。その感謝は有難く受け取るけど、それとこれとは別」


 感謝さえも真面に受け取らないレイシアの頑固な姿勢。

 良くも悪くも無いその感性に和輝は、やれやれと困惑気味に肩を落とした。


「罪悪感ドッサリサリサリすぎだっつーの。重すぎだっつーの」

「これじゃ私の気が済まないの。私が貴方を無理矢理にも騎士団の詰所に同行させて、私がこんな事をしました、という光景はおかしいでしょう。だから貴方が私の手を引っ張り、詰所に連れてかなくちゃいけないのよ」


 微動だにしない罰を受けたい主張。一貫したこの信念を崩すのは難しいようだ。

 しかし騎士団の詰所に連れて行って刑罰を受けさせるのは和輝の目的にないし、気分も乗らない。

 このままだと同じような会話のループになる。

 罰を受けたい、感謝してる。

 双方の発言がぶつかり合い、ずーっとこれが続く。

 レイシアを大の字に寝させて敗北を与えたのだから、もう何も与えたいものはない。

 それでも罰が欲しいというのなら――。


 深い溜息を吐いた和輝は、それならばと思い付いた答えを絞り出す。

「だったら俺の言う事を聞いてほしいだけど」

「えぇ、いいわ。とっとと連行して頂戴。私を騎士団の詰所に連れてって」

 食い気味に連行を懇願するレイシアの要求。

 飽きる程聞く執拗な言葉。和輝は首を横に振って、その要求を蹴り飛ばした。


「断る」

「何でよ?」

「俺の予想だけど騎士団に連行して捕まったら、刑期どのくらいになる」

「半年~1年とかだと思う。私は半年だと言われても、自ら1年を望むわ」

「たった1年か。そんなんじゃ、刑罰ユルユル味うすめ油うすめだから。そんなんじゃ刑が軽すぎるから」

「私に騎士団が執行する以上の罰を与えてくれるのなら、逆に大歓迎よ。なんでも言っていいわ。24時間レイプでも何でも来なさい」

「それでも甘いな。それより凄い事だ」


 女性が一番受けたくない事さえも受ける覚悟を、鼻で笑って一蹴した。 

 衝撃を受けたのか唾を呑み込んで不安げな眼差しを向けてくるレイシア。殺されるとでも思っているのだろうか。まぁそのくらい不安を纏ってくれた方が罰の下し甲斐がありそうだ。

 和輝は怯みも躊躇いも覚えずに言葉を紡いでいく。


「俺からお前に言う刑罰は2つだ。1つ目はチューズデイを利用して知りたい内容があるから、それに協力する事」


「それの何処が重い刑罰……」


 キョトンとした顔で口を挟むレイシア。軽い刑罰内容に驚きを隠せないようだが、容赦なく間髪入れずにその先を和輝は口にする。


「話を最後まで聞け。2つ目は俺をこの世界で生き抜けるようにサポートする事だ。この世界は魔法があるんだろ?」


「え……えぇ、私の世界では普通に、モリモリあるわ」


「けれど俺は魔法が使えない。そのうえ世界の知識もない。だから魔法を使えるよう鍛えてくれ。この世界の知識を教えてくれ。どんな事に気を付けて生活すれば教えてくれ。旨い食べ物を教えてくれ。不味い食べ物を教えてくれ。流行ってる娯楽を教えてくれ。生き方を教えてくれ。住む家をどう確保すればいいか教えてくれ」


 和輝の発表した刑罰。それを自分の正義感に従った結果良しと思わなかったであろうレイシアは、目の色を変えて立ち上がる。


「私以外でやればいいじゃない! それの何処が私にとっての罰なのかしら」


 確実に気に喰わなかったのだ。和輝の言う刑罰は総括すれば人を救う行為に過ぎない。その中に「罰」とも取れる要素を確認できない。

 罰を受けたいからこそ和輝の発言を到底理解しえなかったのだろう。

 そんなレイシアのために和輝は説明を始める。


「そこらを歩いて、この世界の知識ゼロの人間が魔法教えてくれと頼み込んだって不審者扱いされるだけだろ。この世界で俺の事情を正しく理解しているのは唯一、レイシアという人間だけだ。なら俺にとって現在進行形で都合の良い相手ってのはお前しかいない訳だ。ここまでの理解は良いか?」


「まぁ確かに不審者扱いになるのは間違いないわ。チューズデイを使ってない者には受け入れがたい真実よ」


「だからこそレイシア、お前に頼みたい。なに、心配ご無用だ。自分の生活と俺がこの世界で生きるためのサポート、その兼任は骨が折れるぞ。プライベートも大切に出来い時間が増えるかもな。俺は魔法も何も知らないんだ。1年そこらでお前のサポートから卒業できるとは思えない。クソ長い刑期になるだろ」


「騎士団に連行されようが、貴方をサポートしようが刑期は1年以上。貴方をサポートとなれば私のプレイべートも脅かされる。それもどのくらいの期間になるか未定って事……ね。総合的に判断すれば…」

 

 いよいよレイシアが頭を悩ませ始める。騎士団の連行か、サポートの二択どちらを選択するか迷っている様子だ。サポートをすれば自分に使える時間も限られてくるし、何より今までのプライベートを過ごす事が出来ないのは個人的に痛いのだろう。 

 少なくとも天秤はサポートに傾きかけているので、もう一押しだ。

 

「それと最後に一つ。もう一個の罰だ」

 

 一呼吸だけ間を置いた和輝は、大きい声で堂々と宣戦布告する。


「俺がこの世界で魔法とかを一人前に使えるようになったら、お互い全力で勝負しよう。気絶するほどに最高の戦いを。そして俺が勝って今回の罰は終いだ。それで多少怪我しても恨みっこなしだ。この一件は殴られてから始まったんだ。なんなら最後は正々堂々の殴りで決着をつけるのもありなんじゃないか?」


 魔法を使える世界において魔法を覚えるのは必須だ。その過程を経た終点、自分自身が魔法を巧みに使いこなして戦えるまでの技術を高く身に着けることが出来た時――。

 この一件はお互いの拳を交えて決着を付けよう――。

 一人前になる足掛かりとして魔法の知識を、この世界の知識を与えて最後にはお互いに魔法で殴り合う。そのために渋谷和輝という人間をレイシアはサポートする。


「馬鹿ね……いいわ。その刑期受け入れる。レイシアが責任をもって、シブ・ヤカズキがこの世界で一人前に生きれるようサポートしてあげる。けど覚悟しなさい。」


 この宣戦布告及び罰を聞き、レイシアは敗北後に初めての笑みを浮かべた。漸く罰を下された事への安堵か、それとも魔法を使えない人間に魔法で勝つと言われた馬鹿らしさからだろうか。

 椅子に縛られた和輝の前にレイシアは掌を上に向けて手を伸ばす。


「いや、手を差し出されても俺は縛られてるので握手できませんけど。後、シブ・ヤカズキじゃなくてシブヤ・カズキな。名前の区切りが間違ってる」


「色々とごめんなさい! 今すぐこれを解くわね」


 慌ててレイシアは懐から紺色の鍵を取り出す。手足を縛る錠を解くための鍵だろう。姿勢を屈めると、手慣れた手つきで左の足枷を触り始める。左の足枷を外すレイシアを眼下に和輝は今後の流れを提案する。


「話は長くなるだろうし、ここじゃない別の所で話すでも良いか? 流石に、この場所で長話ってのはイマイチ空気が悪いというか」


「任せて。 折角だから私の隠れ家に案内するわ。隠れ家と言ってもアレよ。初めて会った部屋とは全く別の建物で、あ~ちなみにこの幽閉場所も違う場所というか目立たない廃屋を借りただけなの。私の隠れ家って言うのは、つまりその~うん、行けば分かるわ」


 左の足枷を外しながら淡々と喋るレイシアは、提案を承諾してくれた。

 気絶させた後わざわざこんな場所に一人で運んだのかとツッコミたい所だが、和輝はこれ以上話を蒸し返すのは野暮なので辞めることしにた。


 そしてレイシアが右足枷に手を付け始めた時だ――。


 レイシアの後方、鉄格子の扉がガタガタと震え始めた。

 ガタガタガタガタガタガタガタガタ。

 ガタガタガタガタガタガタ


 屈んだ姿勢でレイシアは足枷を外す動作を止めて、鉄格子の扉に視線をやる。

 和輝も同時に視線を注ぎ、不安を拭いたいがために変な質問を仕掛ける。


「なぁ、レイシア。あの扉……振動する機能でも持ってるのか?」

「いや、手動で開け閉めするただの扉だけど……」

「ですよね~」

 レイシアすら既知していない扉の謎めいた振動。

 鉄格子の扉だけが単独で振動していて、他は特に何の異常も無い。

 

 二人が黙して見詰める鉄格子の扉。

 ソレ(・・)が牙を剥いたのはすぐの事だった。


 鉄格子の扉が外れ、闘牛の如く和輝の顔面に飛来したのだ。

 何故外れたのかは知らない。

 外れたのであれば、重力に屈服してその場に落下するべきだ。 

 外れた物体の末路はそうであるべきだ。

 しかし、その概念を完全無視した鉄格子の扉は、姿勢を屈めるレイシアの真上を通過して和輝の頭部にドガァァァァン!という音を奏でて直撃した。

 頭部に直撃した和輝は血の味、意識が遠のく感覚すら与えられる事無く意識を落とす。

 和輝は眠るように椅子に座ったまま意識を落とす。

 頭部に鉄格子の扉を密着させて。


「なに、ねぇ。カズキ! ねぇカズキってば!」


 倒れたシブヤカズキの身体を揺すり、動揺に酔い痴れるレイシアの声だけが現場に取り残されていた。

 

 シブヤカズキは再び戻る――――。

 






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