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第6話 私の名前はレイシアです。

僕はドMです!!!!!!!!!

どうやったら色んな人に見てもらえる構成になるんでしょうか。

今夜も、ぐっすりすりすり眠りたい。

 白と桃色、計2色の縞模様で構成された寝間着姿。腰に近いところまで長い藍色の長髪。

 モデルのようにしなやかな体型と、宝石のように美しい紺色の瞳。一度見たら忘れる事が出来ないこの容姿、見間違いようのない彼女は、話の聞く耳を立てず和輝を殴り飛ばした張本人だ!


「どういう事だよ! 俺は自宅で寝て……それで……はぁ!?」


 現実世界の自宅で眠ったばかりの和輝は絶叫した。目の前にいるのは、天国?と思しき世界に存在していた少女だ。池田宮公園で何者かに刺殺された事は夢だったのか!?と理解に苦しんでいた矢先に起きたこの邂逅は余計に和輝の思考を苦しめる。

 少女の魅力的な姿に向ける意識は蚊帳の外だ。


「待て。俺は殺されて、そして実は生きていて? それで目が覚めたら、やっぱりぱりぱりあの世? はぁ!?」


狂乱する和輝の素性を知らない少女は、淡々と辛い言葉で追い打ちをする。


「はぁ!?は、こっちの台詞よ! なぁに勝手に私の生きるこの世界を死後の世界だと思ってるの!? それは何? 不法侵入した事に対する言い訳で狂ったフリでもしているのかしら?」


「俺が、ふ、不法侵入!?」


「えぇそうよ!」


 冷や汗を垂らして目を丸くした和輝に対し、少女は容赦なく溜まりに溜まった怒りをぶつけていく。


「完全な不法侵入よ! この私が住む部屋に立ち入ったのよ!? このドアは居住者である本人しか通る事ができないはずよ! 何故!?」

「勘違いだよ! 大前提に俺をこんな拷問みたいな扱いして、君はなんだ!? ここはあの世だろ? 君は天国に遣われし使者か? それとも片道切符地獄行きバスの運転手か?」


 激しく頭を振って不法侵入を否定した和輝は、唾を吐き散らしながら質問を投げつけた。頭部を殴りつけた挙句、人を拷問しようとする少女の正体を掴むための一言だ。 

 その言動を”マジかこいつ”というような侮蔑の目で射貫いてくる少女。真っ当な質問をしたはずが、対する少女の冷たい態度は、まさにブリザードだ。

 訳も聞かず人を拷問部屋みたいな場所に幽閉しておきながら、正答さを態度で振り翳さす少女は強く吠えた。


「ああ待って待って。ぜんっぜんダメダメ! こんなに話が通じない人初めて見た。急にこの世界は死後の世界だみたい事言い始めるし。勝手に私を死人扱いしてほしくないんですけどぉ。マジでアホくさ」

「何がぜんっぜんダメダメだよ! 話が通じないってのは、こっちの台詞だ! 勝手に俺を不法侵入者扱いし……ん、待てよ? 」


 拷問みたいな理不尽な事態に耐えかねている和輝が言いたい事は山ほどあった。しかし途中、少女の発言がふと脳裏に過ぎって思考が止まる。


 ”勝手に私を死人扱いしてほしくない”


 少女の発言に含んだこのフレーズ。これは和輝の頭の中で自然と”死後の世界ではない”という否定の言葉に置換された。

 何者かに刺殺された直後、天国?で少女に殴られ、現実世界で目覚め、寝て、再び少女と邂逅する。その少女から齎されたものは、死んだのか生きているのか良く分からない渋谷和輝の存在位置を裏付ける証言だ。

 聞き間違いでない事を確かめるため、和輝は少女の瞳に真剣な眼差しを向ける。


「ここは、死後の世界。つまりあの世って訳じゃないのか?」

「そうって言ってるじゃない!」

「マジか……」


 この世界は死後の世界ではない。

 は?

 だったら、今いる世界は何なんだ。

 一つの疑問が解決されたところで、モグラ叩きのように次の疑問が飛び出てくる。

 謎①この世界の正体は?

 謎②刺殺されたのに傷跡が腹部に残っていない原因は?

 謎③死んだはずなのに少女に殴られて再び現実世界で目を覚ましたのは何故?

   そもそも現実世界で目を覚ました事は夢だった?

 謎④刺殺されたのに平然と生きている原因は?

 謎⑤自宅のベッドで寝ていたのに、目が覚めたら目の前に謎の少女がいるのは何故だ?

  池田宮公園で目覚めて自宅まで歩いて帰り、自宅で寝落ちまでの感覚は生物(なまもの)だった。


 

 死後の世界とされていれば産まれるはずの無かった疑問の数々。

 

 (刺殺をきっかに、こうもおかしくなった。なら……ん~確証は無いけど、このパターンって)


 一つの体感した死をきっかけに人生の歯車が狂い始めている事は自覚していた。”死”と、あの世ではない”見知らぬ世界”。二つのキーワードを絡めて模索して脳裏に浮かんだのは、現実世界で若者なら誰しも一度くらいは耳にした事がある現象だった。


「つまりこれはラノベで噂の……異世界転移したって事か?」

「はぁ!?異世界転移ぃ? どんな昔話よ、それぇ!」


 ”異世界転移”の単語に眉根を吊り上げた少女は鉄格子の扉を開けて、足早に中へと入ってくる。物凄い剣幕で荒い鼻息を鳴らすと、椅子に縛られた状態な和輝の胸倉を掴んできた。

 和輝の導き出した自分を納得させる回答に苛立ちを覚えたのだろう。

 

「この期に及んで次は異世界転移って言い訳。全く馬鹿馬鹿しぃ! 異世界転移で偶然、私の自室に入ったとか言うんじゃないでしょうね。異世界転移なんて古代の伝奇にしか記されていない空想上の産物よ! 神様か何かに呼び出されて転移でもした? んなわけない。そんな事も分からないの?」

「分かってるさ。俺の世界でだって小説にしか記されてない空想上の産物だよ! 実際、自分の身に起こるなんて思っていなかった。それに異世界転移で片づけられない出来事だってまだ残ってる!けれど、この世界が死後の世界じゃないってなら、そう言う事になるだろ。刺し殺された俺は異世界転移をした」

「異世界転移なんてあるわけないじゃない! 私達が今いるこの国は第7魔法都市ノア。異世界でもなんでもないのよ!」

「その単語が出た時点で十分理解した! 魔法って言葉がどう見ても異世界を証明する決め打ちだろ!」


 戯言を捻じ伏せんとする少女の纏う威圧に負けじと、和輝は一歩も引かずに主張を貫き通した。

 少女に殴られた後に現実世界で目が覚めた現象関連は謎として残る。

 しかし、この世界があの世でない理由は”異世界転移”なら、十分納得できるものだ。第7魔法都市ノアとかいう地球上の誰も聞いた事のない単語を聞けば、それは明らかだ。

 

 謎①この世界の正体は?=異世界

 謎②刺殺されたのに傷跡が腹部に残っていない原因は?=死んで異世界転移し新たな人生へ

 謎④刺殺されたのに平然と生きている原因は?=死んで異世界転移し新たな人生へ

 これら3つの謎は死んで異世界転移となれば解決したという事で問題ない。


 だがこの現実世界絡み2つの謎は解決できない。

(現実世界で目覚めたのはマジで謎だけどな)

 夢として一蹴できれば楽なものだが、味わった感覚がそれを否定しろと執拗に言っている。

 謎③死んだはずなのに少女に殴られて再び現実世界で目を覚ましたのは何故?

   そもそも現実世界で目を覚ました事は夢だった?

 謎⑤自宅のベッドで寝ていたのに、目が覚めたら目の前に謎の少女がいるのは何故だ?

  池田宮公園で目覚めて自宅まで歩いて帰り、自宅で寝落ちまでの感覚は生物(なまもの)だった。



 そもそも異世界転移とは、異なる世界の女神さまやら正直誰でもいいが第三者に呼び出されて異世界に移動してしまう事を言う。服装も身長も顔も同じ状態で転移された本人は、そう簡単に元住む世界に戻れる事は無いし、転移した瞬間に滅茶強い能力を持っている訳でもない。誰かに与えられるか教えられるかで、異世界転移者は初めてその世界で能力を発揮する。

 異世界にはその世界におけるラスボスないし、任務を果たし終えるまで帰れないのが原則だ。最悪、何をしても帰れない場合がある理不尽ケースもある。

 おそらく少女と和輝の間で”異世界転移”とは何ぞやの概要はある程度一致しているのだろう。

 

 お互いに異世界転移とは現実に起こり得るはずがない非現実的な現象だ。その話を鵜呑みにするなど簡単にできないだろう。和輝も少女の立場にいたら、相手が”異世界転移しました”と主張しても簡単にそうだなと頷けない。


「一度俺は殺されてる身だ。普通なら異世界転生って感じで、この世界で生まれ変わって赤子から一からやり直す人生になってたはずだ。けれど現状が、異世界転移したんだと俺に告げている。なんせ格好が元居た世界のままだからな。」


 和輝の場合は刺殺されて転移という極めて異例な転移仕様だった。

 最も殺害された場合は新たな世界で命が生まれ変わる。その新たな世界が異世界、つまる所の異世界転生。転生者は前世の記憶を鮮明に持った状態で生まれる。また転生者は生まれ持って才能に恵まれ、成長するにつれて能力が更に開花し、世間を騒がせる存在になる。


「次は異世界転生と来たわ。転生者は以前の世界の記憶をよく覚えていて、しかも世間を騒がせる程の力を持って生まれるなんて話は聞くけれど……残念、それも空想上の産物よ」


”異世界転生”とは何ぞやの概要もお互い、ある程度は一致しているようだ。

胸倉を掴む手を乱暴に離した少女は、汚れでも落とすように両手をパッパッと振り払う。呆れた様子で溜息を吐いた少女は寝間着のポケットから、丸系の方位磁石的な物を取り出した。大航海時代に海賊が甲板で使ってそうなやつだ。

 方位磁石の淵は金色のメッキ加工が施されている。赤い針が中央にあり、針の振れてない左側にはT

右側にがBが記入されている。

 異世界にしては随分と馴染みのある文字だ。現実世界離れの、読解不能な文字ではなかった。ラノベとかだと異世界の文字は訳の分からない文字が記載されてるものだが、実際はそうではないという事だ。

 ラノベの世界はあくまでも創造の世界、詰まりこれがリアルだ。


 勝ち誇ったかのような余裕の表情で少女は、方位磁石のようなものを掲げる。


「私はいつも警戒して生きてるの。そんな私に亡くなった御婆様はこの道具を渡してくれた。その名も、チューズデイ。私が質問した事に対して嘘を吐けば、針はBに振れる。嘘を吐かなければTへ。んまぁ、超高性能なウソ発見器って事ね……例えば、そう」


一呼吸の間を置いた少女は、ニヤリと笑って呟いた。


「私の名前はレイシアです」


唐突にサラッと自己紹介を始めた少女。その言葉に呼応するようにチューズデイの針はゆっくりとTに振れた。


「私は別に細工なんてしてないわ。このチューズデイは方位磁針に似ているかもしれないけれど磁力に反応しないの。というか磁石で作られてないし。詰まり、チューズデイは私の言葉に反応して動いたって事。だから、そう」


満足げに語るレイシアは次に、人を馬鹿にするようなとぼけた顔で異なる名前を呟いた。


「私の名前はアーノルドです」


 わざとらしく呟いたその名前に対し、チューズデイの針はTからゆっくりと移動してBまで移動した。

チューズデイは”アーノルド”という名前を嘘だと見抜き、Bに振り直したのだ。

Bに振れた針を見て不敵な笑みを浮かべるレイシアは、額に手を当て藍色の長髪を後ろに掻き分ける。


「会ったばかりの人間に、普通は名前を明かさない。これは僅かばかりの土産よ。これから嘘に塗れた貴方の着ぐるみが剥がされるんだから。私の部屋に不法侵入した目的も全てね! 最後はこの国の騎士団に連行されて終いよ」


 冷たい声で騎士団だの現実世界では馴染みの薄い物騒な単語を散らつかせる。話の流れでこのワードのチョイスって事は現実世界でいう警察に当たる存在だろう。御婆様から貰ったチューズデイを味方につけているレイシアは強気だ。 

 レイシアからすれば和輝の喉元にナイフを突き付けている気分なのだろう。

 俯瞰的に見れば鎖で繋がれて身動きが取れない以上、主導権はレイシアに握られている。暴力的な少女で爪を剥がすとかガチな拷問行為を一方的にされれば抗いようも無かった。 

 しかし、暴力は皆無。

 レイシアが投じてきたのは噓発見器チューズデイを用いた会話による決着だ。

 

 その部分に関して和輝は一切の物怖じを覚えなかった。

 自分でも未だ信じられないが異世界転移したのは事実であり、和輝は事実を武器として持っている。

 噓発見器の前で対抗できるのは事実のみだ。人に話を聞いたとかではなく、自分自身が実際に見て聞いて体験し感じた事実がある以上、嘘発見器を前に負ける道は見えない。


 湧き上がるのは”やってやるよぉ!”の喧嘩上等スタイルだ。転移影響で勝手にレイシアの部屋に入ったのは事実にせよ、そこに悪意はない。完膚なきまでに真実で論破してやりたい欲に心臓が痒くなるほど気分が疼く。


 これぞ何も疚しい事を持たない人間ができる堂々とした強みだ。



「いいや上等だ。またと無い機会だ! 証明してやると、俺が空に浮かぶ雲よりも、がっつりつりつり白すぎる白だって事を!」


雄叫びを上げた和輝は、椅子に縛られ窮地に追いやられた人間と思えぬ態度と心で舌を鳴らした。





ぐっすりすりすり眠りたいので、ポイントお待ちしています(笑)

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