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第5話 天獄???と現実世界の狭間で

お母さんの弁当も食べたいですが、給食のカレーが恋しいです。

さて、そろそろ小説を書きましょうか。

誰か良い書き方教えてください。


 気絶し、何もない暗闇を漂流する和輝に再び意識が覚醒する。


(はぁ……本当に、何でこうなったかなぁ)


 現実世界で刺殺された上に、天国では魅力的な少女に殴られる二段炸裂コンボ。

 天国に到達した者とも思えぬ扱いだ。

 いや、天国ではなく地獄だったのかもしれない。天国という皮を被った地獄だったのだろう。

 何で地獄に落ちたのだろうかと考えれば考える程、思い当たる節は無かった。

 もしや悪を悪と自覚せず生きていた自分がいたというのだろうか?

 いや、そんなはずはない。あってたまるものか。

 人生、そこらの高校生より頑張って生きているはずだ。

 高校一年生で一人暮らしをしている事実が和輝にとって、自分は”少なくとも悪として生きてはいない”という自信の源だった。

 

 そんな現状に落胆する和輝の意識覚醒を出迎えるのは石のように硬い感触だ。上半身、下半身、顔面の右頬がその感触を感じている。うつ伏せ状態で和輝は地面に突っ伏している訳だ。

 フワフワっとした感触とは掛け離れていて、途轍もなく居心地が悪い。

 地面に手を付いて立ち上がった和輝は、即座に殴られた後頭部を確認する。

 

「全く……痛くねぇな……」


 意識を失うレベルで殴られたはずだが、和輝の頭は事のほか、頑丈に出来ていた訳か?

 満足いくまで両手で満遍なく頭部を弄り回すが、綺麗さっぱり痛みは無い。

 なんとなく腹部に再び触れてみるが、あの世に来たからにはやはり傷が無い。


「痛みがさっぱりぱりぱり無いのは、あの世だからっていう特権かぁ?」

 

 首を傾げて疑問を口にしていると、そこには目を瞠る光景が広がっていた。


 茜色の大きな空が視界を埋め尽くしていた。

 学校の帰りや、自分の部屋の窓で良く見た夕方を支配する空と同じ色。

 軽めの風が和輝の身体を撫でる。

 和輝は鈍重な動きで、よろよろと歩き始めた。


「は……え、、、ここって、俺が刺殺された公園!?」


 幻覚でも見せられているのだろうと思い、頬を何度か引っ叩く。

 頬を弾く花火のような音と、頬を叩いた手跡が軽く残るだけで視界の情報に変化はない。

 衝撃的な世界に冷や汗を掻き、周囲をぐるっと三百六十度見渡してみる。


 覗き込んだ世界は間違いなく刺殺された場所《池田宮公園》

 しかし、地面に血だまりも無ければ腹部に傷跡が無い。

 

 ワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイワケガワカラナイ


 血相を変えた和輝は、血の汚れ一つない制服を胸元まで捲し上げて、腹部を確認する。腹をさすったが、そこにあるのは傷跡のない腹部。果物ナイフで貫通したはずの腹部の面影は確認できない。


「夢? いや夢にしては、夢にしては、あの痛みは、余りにも生々しすぎた!」

 

 確かに記憶へと刻まれていた、サバイバルナイフで刺された時の感覚。あの想像を絶する痛みは夢で造る事が出来ない程に悍ましい。アレを”夢だったんだ”と一蹴するのは和輝にとって難しい選択だ。

 

「さっぱりぱりぱり意味が、意味が分からない!!!!!」


(こんなに心臓がバクバクするのは昔、車に轢かれそうになった時以来だ)


 まだ無邪気で幼稚だった四歳の頃、いまいち危険の概念を理解できずにいた和輝は赤信号の横断歩道を渡ろうとした。母親の「危ない」という制止を振り切って。

 確認を怠っていたのも然り、信号機が何の為に存在しているのかを理解していなかった。

 赤、青と交互に色が変化する看板の範疇で理解は止まっていたのだ。

 赤信号で横断歩道に足を踏み入れた時、運悪く法定速度50kmの道路を時速100km近く出た自動車が和輝に向かって走ってきた。

 本来であればそこで車に轢き殺される運命だったが、急に誰も予期していない突風が吹いた。突風の瞬間風速は40m/s。自動車は横転し、交差点の中央で腹を返した。幸いにも怪我人は誰も出ず、他の車が被害を被る事もなく、その自動車一台のみが大破。

 その日は天気は雲一つない快晴で、風もない日曜日だった――。

 

 その日、和輝は母親に抱き着いて思い切り泣いた。

 怖くて心臓が止まるかと思った。

 生きてて良かったと心の底から思えた。

 その日以来、和輝は青信号であろうと注意を払って横断歩道を渡った。

 あれ以上に心臓の痛くなる思いが起きるはずないと、思っていた。

 刺されたはずの自分が生きているのは何故なのか。

 納得の出来ない生存。

「生きていて不愉快だ」

 生きていて不愉快である、生きている事に対しての感謝ほど無作法な物はないと、現時点ではそれが適切な反応だと和輝は思った。

 

 夢だと一蹴すれば楽になれるはずなのに、和輝はどうしても腑に落ちなかった。

 

 ********************************************


午後四時。渋谷和輝は自宅に到着した。。


 和輝は自分の部屋へ入った。時刻は午後四時。空模様に対して相違ない時間帯。部屋に掛けてある時計の時刻も、机の上にあるノートパソコンさえも午後四時を指している。

 理解に苦しむ状況に、和輝は親指の爪を噛んで貧乏ゆすりをしていた。


(帰宅したのは昼過ぎのはず。自宅から学校までの距離は徒歩15分……それを考慮しても学校を出て家に着くまで2時間以上の空白がある……殺されたのが夢なら僕はうつ伏せで暢気に寝てたって言うのか!?)

 

 更にその思考に追い打ちをかけるかの如く、スマホからプオンと音が鳴る。

 充電器ケーブルに繋がれたスマホのご挨拶だ。

 スマホの画面を覗くと、【バッテリーが100%になりました】のメッセージが通知されていた。

 

「充電の形跡がある。今朝、俺が充電したスマホだ……じゃあこれは現実???」

 ただ呑み込むにも、魚の小骨が喉に引っかかったような違和感がまだ、和輝に残っている。


 スマホを胸に抱えて、ごろんとベッドに横臥する。体がだるい。表情が重い。充電満タンのスマホに辿り着けたのは、死んでいないからである。死んでいれば充電満タンのスマホとの対面は有り得ない。

 

 スマホと和輝は睨み合いをする。した所で、現実は変わらない。


 悪夢に魘されるよう、布団の中に潜った和輝は「あー、あ~~~、もう~~」と呻き声を上げた。

 素直に刺殺されていない事が現実だと受け入れれば楽なのに、その壁を越えられない。

 度胸や覚悟の問題かそれとも、意固地なだけなのか。

 結果的に生きているのだから問題はないはずなのに、現状の理解と納得に対しての抵抗は拭えなかった。

 やがて日は沈み、夜を迎える。

 和輝は理解の範疇を超えた一日に疲れ果て、自然と目を閉じて眠りに落ちるのだった。

 怒涛の第二学期一日目は波乱を残したまま、終わりを迎えた???

 

********************************************

 

 意識の覚醒と同時に欠伸が出た。

 やたらと長い暢気すぎる欠伸が出た。


「寝落ちした……か」


 既に日は落ちたのか周囲は真っ暗。窓ある自室に日が差し込んでいない証拠だ。電気も点けていないので、悉くな暗闇。街灯、街の木漏れ日一つ差さない、サバンナに放り投げられたような状態だ。

 一人、孤独を吐いたところで視界は晴れない。

 既に夜の七時、八時というところだろうか。あるいは深夜の可能性もある。

 寝た事で疲労はだいぶ解消できた気がする。寝落ち前と比較すれば少しは楽観的に物事を考えられるような、柔らかい頭が戻ってきたのは間違いなかった。


「とりあえず昼に食べ損ねた弁当でも食うか」


 仕事のため東京に戻った母が作り置きしてくれた弁当があったのは幸いだった。

 疲労が解消したとはいえ、今から夕飯を真面目に作る気も、コンビニへ弁当を買いに出かける気も無いのでラッキーな事だった。


 和輝は、家にいる前提でこれからの予定を愚かにも組み始めた。

 そんな母が残した弁当に有難みを覚えて起き上がろうとした刹那。

 違和感が生じた。


 (何故、俺は座っている?)


 ベッドに転がり、布団の中で苦悶の末、寝落ちしたのを覚えていた。

 しかし今は背筋を良く伸ばして椅子に腰を掛けている状態だった。寝相が悪かったとしても、こんな姿勢になるものだろうか?背中には椅子の背凭れと思われる存在が密接している。

 手を付いて起き上がろうにも、両手を少したりとも動かす事が叶わない。

 まるで椅子の肘掛けに両腕が縛り付けられているような感覚だ。

 感覚だけで、そうなっているのだと予想がつく。

 両手を藻掻かせる度に響くのは、ガシャンガシャンという鎖の音。

 舌打ちをした和輝は、自分が理不尽に捕縛された身であるのを理解した。


「なんだよ、これ……ふざけんなよ! 」


「やっと目が覚めたかしら不審者さん」


 暗闇で聞こえるのは透き通った女性の声だった。

 その声に続くようにバシャッと天井から注ぐスポットライト。和輝を中心にして、直径2メートルに及ぶ照射範囲。突然の眩い光に目を細めた和輝は、十数秒かけてこの明るさに目を無理矢理に慣れさせた。


 慣れた視界で拾える情報を一つ一つ整理する。まず現在地は正方形のスペースだった。360度鉄格子で張り巡らされたこのスペースは囚人の収容施設と相違ない。鉄格子の一部は錆で赤褐色に染まり、所々に蜘蛛の巣が出来上がっている。随分と古びた感じの施設で、少なくともこんな場所が自宅近辺には無い。

 

 そのうえ感覚通り、和輝の身体は椅子に拘束されていた。腕はガッチリ鎖で何重にも巻かれて肘掛けに固定されている。両足も足枷で固定されていて、まるで拷問されるかのような状況下だ。バタバタと足と腕を暴れさせても、破壊の「破」の字にも届かない。



 そして――。


 和輝を捉えた犯人が鉄格子の扉の先にて、仁王立ちで立っていた。

 瞳を鋭く尖らせ、眉根を顰め、敵意を剥き出しにて和輝を前に立ち塞がる人物。

 何処か見覚えのある顔、決して記憶から削ぎ落される事のない――それ。

 

「とっちめてやるんだから!」

 

 鈍器を使い、和輝の後頭部を殴り飛ばした少女だった。

 



わざわざ昼時、マックに長蛇の列並んだのに、シャカチキしか買いませんでした

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