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第13話 渋谷和輝の明かされる能力

夜勤で 夜勤後に寝てしまうので、マジで執筆できない。質もおちてら

「カズ君! い、今どこにいるの!?」


 友樹の慌てふためいた様子が電話越しから伝わる。

 原付バイクを加速させ続ける和輝は、風を浴びながら冷静に答える。 


「池田宮公園近くの住宅街だ。このまま直進すれば公園に出る!」

『直進、じゃあやっぱり……公園の近くでドガァァンってずっと凄い音がしてるけど……』

「あぁ、間違いなく俺だな。俺が他所んちの前を通ると家電製品というか電化製品というか、それが家から飛び出して追っかけきやがる。車もな。今、何処にいる?」

『カズ君の部屋のベランダ。二階から公園の方角が丁度見えてる! カズ君、公園に出てどうする気なの!? こんな状況に打開策でもあるの!?」


 「いいや」と首を横に振る。公園に出たからといって、後ろの奴らが追いかける動作を止めるとは到底思えない。住宅街と公園の敷地の境目に魔法で結界でも張ってるわけでもあるまいし。原付バイクのガソリンが尽きない限り、エンジンが故障しない限り走り続けるしかないのだろう。

 それでも公園を目指すには一つの理由がる。

 

「打開策なんてねぇよ。とりあえず住宅街は避けたいって話だ。これ以上、俺が家の前を通るたびに俺に吸い寄せられる物が増えるのは一溜りもない」


 現在、後ろに迫るのは大量の家電製品と自動車が十台程度。住宅の前を通るたびに数が増えていくばかりの追跡者共。これ以上に増え、原付バイクでも逃げ切れない程の局面に陥るのは避けたいのだ。


『なんかカズ君、磁石になったみたいだね……』

「磁石になったみたいだね……?」


 友樹がポツリと溢した発言を、和輝は疑問符を添えてオウム返しをした。

 逃げる事に必死だった和輝には持ってない観点だ。


『ほら、冷蔵庫とかテレビとか車もそうだけど磁石にくっ付くでしょ。実際、冷蔵庫だって、磁力で引っ張られてるみたいにカズ君の方向に向かってった』


「なら俺から磁力が発せられてるってのか!? そんな有り得るかよ」


『有り得ないと思う。。。けど何の処置も施されていない心停止状態から何事もなく復活したカズ君を見てしまった僕にとっては、有り得なくないんじゃないかって。馬鹿らしいけど、どうしても考えてしまうんだ。ねえ、カズ君を追いかけてる物に、磁力に反応しないであろう物は混ざってる?』


 友樹が神妙な声音で投げつけてきた質問に答えるべく、和輝はバイクのサイドミラーを確認する。後方に映る景色は、家電製品と十台程度の自動車。その中には金属製のラックも見られる。勢いを怯ませず走り続ける、それらの中には確かに全てが磁力に反応する物ばかりーーいや、物だけだ。

 家電製品は鉄や鋼などの素材で造られてる。また自動車に関しては車体のボディに使用されてる。

 これだけの数が引き寄せられているのに、布団や花壇やらペットボトルと言った磁力に反応しない製品は確かに無い。

 

「無い。そういえば俺の家の冷蔵庫の時もそうかっ!もし磁力に関わる物以外も吸い寄せるんだったら、ドレッシングの入った瓶も床に転がった野菜だって吸い寄せられててもオカシクない!」


 だがしかし、この磁力は余りにも理不尽ではないかと和輝は悲鳴をあげていた。


(こんな目にあうのは異世界転移が間違いないトリガーだ。俺が磁力を操る能力者にでもなったか? いやいや、そんな筈は無い。なら何で自分の能力でこうも死に目に合わなきゃならない?? ふざけんなよ! そこは漫画みたくちゃんと使わせろよ! 意識を失う度に転移するってんなら、そんくらいのサービスは……って、あ……?)


 池田宮公園から物凄い勢いでやってくるのは黒い鉄格子のような柵。一部、赤褐色に染まる錆びた状態の柵。

 それが前方から接近するという非常事態。

 このままバイクを走らせれば柵と衝突する確約プラン。それを恐れ減速させれば、迫る家電製品と車に押し潰される確約プラン。

 要はどうしようもない挟み撃ち。


「いや、まさか……」


 目を擦った。

 視界に映る物が実は目に入った埃だったわと笑い話にしたかった。しかし、その事実は揺るぎない。宙に浮いている柵が和輝を目掛けて飛来する事実は変わらない。

 このどうしようもない状況に陥った時、脳裏に過ぎるのはデジャヴだ。

 最近も、そう。こうして急に目の前に鉄格子のような物が飛んできたような……この記憶は確か異世界で意識を落とす直前。


(そうだ。俺は異世界で椅子に縛り付けられた状態で)


 レイシアに手枷と足枷を外してもらおうしてる最中に起きたトラブル。蝶番が外れた扉が吸い寄せられるように和輝の顔面目掛けて吹き飛んできたのだ。その結果、意識を奪われて現在に至る。

 それが和輝に由来する磁力の影響というのなら、あの鉄格子の扉が飛んできた理由も理解できる。異世界転移をトリガーに身につけた能力が現実世界でも機能しているという事だ。

 それも制御が利かないという太鼓判。

 意識を失う事で異世界転移(意識喪失は睡眠も該当)、制御が利かない磁力、この禄でもない二つの能力に溜息を溢していると、「おや?」と少し頭に引っ掛かる。


(待て。俺が初めてレイシアに気絶させられた後、レイシアは自力で俺を牢に運んで縛り上げた。意識を失えば異世界転移するというのなら、俺は気絶した時点で異世界から姿を消すはずだ)


 意識を失う度に異世界転移する事が和輝の持つ能力の一つであるのならば、レイシアは和輝を縛り上げる行為は不可能だ。気絶して現実世界に転移している最中でも、異世界にも同じように自分の身体が無ければ、レイシアが和輝を縛り上げる行為は成立しない。

 

 故に、異世界で気絶した後も体は異世界に残り続けているという訳だ。


(そのうえ、この磁力。俺の意識が目覚めている時だけ発生すると考えていいのかもしれない。自分の部屋のベッドで寝ている、つまり意識が喪失している間に磁力が発生していれば、友樹と対面した時には既に家の中がゴチャゴチャになっていても不思議ではないはずだ。だがそんな事は無かった、異世界も然り……)


 意識を失っていても異世界に身体があった場合を仮定とする。

 異世界では意識を失って椅子に縛り付けられている間に、扉が吹き飛んでこなかった。もし磁力の発生が和輝自身の意識が覚醒している事を条件とするのであれば納得がいく。意識が無い状態で異世界側で何かあれば、レイシアは間違いなく和輝に「今のはなんだ?」と聞いてきたはずだ。

 部屋でレイシアに殴られてから、椅子に縛り付けられた状態から解放されるまで和輝は不審者として扱われていたのだ。急に磁力が発生して、物体が和輝の方向に引き寄せられる現象を見れば、レイシアは看過できないはずだ。


不審者の和輝に対して「今のは何?何をしようとしたの?」問い詰める光景が浮かぶ。しかしそんな問い詰めが無かった以上、覚醒中以外で磁力の発生は無かったのだと推測できる。


(もし、そうなのだとしたら。この磁力の発動条件が意識の覚醒だとして、俺の身体が二つの世界それぞれに分かれているのだとしたら。意識が喪失すると、体は転移せず、意識だけが転移しているのだとしたら)


 

 意識の転移だけであれば、和輝の身体は異世界と現実世界を往来する事はない。つまり、そうなればレイシアが和輝を縛り上げる事が可能になる。


 頭の中で情報整理をすればするほど、解決されていく。和輝が脳内で生み出した仮定が正解なのだとしたら、この先で身に起こる顛末も容易く想像がつく。

 もし目の前に迫る黒い鉄格子のような柵と、後方から迫る磁力に引き寄せられた物達を運よく退けたとて、この地獄に鬼ごっこは何時までも続くのだ。

 だからこそ、この状況の打開策として正しい行為は一つしかない。 

 

 通話状態が継続されているスマホを強く耳に押し付けた和輝は覚悟を持って口にする。

 

「友樹、頼みがある。この状況を打開するための唯一の策だ。それを手伝ってほしい」

『唯一の策???』

「まず初めに、これから俺はわざと気絶する。そして気絶したのと同時にこのイカレタ家電製品とか自動車による怪異は止まると思う。同時に気絶した俺の心臓は再び心停止する」

『カズ君、君は一体なにを言ってるの!? ちょ、ちょえ、えぇと、全く理解できないんだけど』


 言葉を詰まらせる友樹は顔を歪ませて困惑している事だろう。無理もない上、即座に理解を示す者がいるはずないだろう。

 これは現実とは大きく乖離した現象だ。

 そこに理解を求める事自体間違っている。

 故に、和輝は話を続ける。

 友樹の困惑に慮ることなく。


「友樹の言う通り、こいつらは俺から発せられる制御不能な磁力に吸い寄せられてる。だが、それを発する本人が意識を失えば……恐らく、こいつらの動きは止まる」


『止まる……って、は? 待って。確証はあるの!? ファンタジーラノベ作品に影響されすぎだよ。僕だって、あぁは発言したけど、確証は無いんだよ。それに真に受けないでよ! カズ君が磁石みたいだって言ったのは例え話であって、そんな魔法というか超能力的な夢物語みたいな現象を』


 そんな事は有り得ないのだと、非現実な話を全力で否定する友樹。だがそこに理解を促す必要はない。

 

「理解を示してもらう必要はない。自動車や家電製品に追いかけられる現象、日本が誕生して以来の歴史上、こんな事が一度でも起こったか?」

『それは……無いけど、じゃあ心停止も……何か今回の件に絡んでるとかでも言うの!?』

「まぁある程度、見当はついたさ。けど安心してくれ、心停止してもまた平然と目覚める」

『なんで、そう平然と言えるの??』

「別に平然と言ったつもりじゃねえ。考えを重ねた結果論だ」


 謎の心停止。

 これについて和輝は推測していた。 

 異世界転移ではなく、意識だけの転移がなされたいるのだとしたら。池田宮公園での刺殺をトリガーに、異世界と現実世界の双方に渋谷和輝の身体が存在しているのであれば、この心停止に対する回答は自ずと浮かぶ。


「池田宮公園の周辺に気絶した俺が寝転がってるはすだ。だから今すぐ家を出て俺を回収しにきてくれ。そして回収したら約束して欲しいことがある」


『待って!何を言ってるか分からないよ!』


「分からなくていい。分からないのが普通なんだ。だから今から言う約束を守ってくれ。俺を回収したら病院にも学校にも警察にも連絡せずに、俺を自宅のベッドに戻して欲しい」


 気絶して心停止をした状態を部外者に知らされるのは面倒だ。心停止状態から復活した時の説明を要求される事態を避けたい和輝。和輝の身に起こっているイレギュラーが不特定多数に知れ渡り、これ以上自分の日常が更に奪われるなんて嫌だ。心停止から何の応急処置も無しに復活する人間がいるとなればニュースになって、マッドサイエンティストのモルモットになって終いだろう。

 ありとあらゆる可能性を恐れた和輝は他者の介入を嫌悪したのだ。


『は!? カズ君、ちょっと待ってよ!』


 友樹は素直に聞き入れず、何か言いたげだった。だが、そこに構う時間はない。構っていれば鉄格子のような柵と接触し、最後に伝えたい事を伝えきれずに意識を落としてしまう。

 だから友樹の言葉を押し除け、無理矢理にも最後にこう言うのだ。

 

「次目覚めた時には全てを話す、だから俺を信じろ、心停止の理由も全……!」


 バゴォォォォォォン!!!



************************


 通話の最後に聞こえたのは破砕音。何かと何かが衝突して砕けたような強烈な音。

 ガチャガチャッ!という雑音混じりなそれを最後にプーップーッという通話の終了を知らせる音楽が耳朶を打つ。

 何故、通話が終わってしまったのか分からない。

 強烈な音の正体も、何も分からない。

 分からない事だらけだ。

 。。。。

 和輝の身に何が起こっているのだろうか。

 分からない事だらけだからこそ、不安が脳裏を支配する。

 力の抜けた手からスマホが滑り落ちる。 


「信じろって言ったって、訳が分からなすぎるよ」


 心停止?磁力?自分の知る日常とは異なる世界が広がった今日。そこに理解という文字を、友樹は一つも見出せていない。

 理解の範疇を超えた何かが、起きている事は分かっているが、それを理解するための道に踏み込むのさえ怖い。これ以上、足を踏み込めば日常が瓦解するのではないか。そんな虫の知らせが友樹に届く。


「本当さ、勘弁してよ………本当に止まったじゃん…」

 

 天候は晴天。青空の下にて響く轟音が、忽然と終わりを告げる。それは正に通話が途切れた10秒後の出来事。磁力に吸い寄せられてるであろう物達の停止を意味する。

 有るべき現実に目を向けろと言わんばかりの比類無き事実が友樹に突きつけられた。

 

 


 

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