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第10話 VS冷蔵庫

仕事で疲れて筆がもう進みませんね。

あ~あ、あ~あ、あ~あ、あ~あ、あ~あ 


 時は再び現実世界、渋谷和輝と蓮田友樹との話に戻る。


 和輝は1階リビングにあるキッチン横のテーブルで弁当を食べていた。これは母が東京に戻る前に作り置きしてくれた弁当だ。本来であれば昨日、九月二日の木曜日に食べるはずだった弁当だ。

 しかし常識では罷り通らないなんやかんやがあって昨日は口に付ける事が出来なかったため、食べるのが今に至っている。

 厚焼き玉子、肉じゃが、豚の生姜焼き、冷凍食品で定番のグラタン、そして白飯。

 一日経った事で冷め切っている弁当だが親のお手製とは、どう転ぼうが旨いものだ。

 昨日は一度も食事をしていないからこそ余計に弁当が旨く感じられる。ムシャムシャムシャムシャと頬張り続ける和輝の前では、泣き止んだ友樹が血相を変えて、スマホに耳を当てていた。


「先程お電話させていただきました蓮田友樹と申します。先程、友人が心停止しているという通報をしたんですけど、ただ、その……寝ているだけでした」


『寝ているだけでした、というのは勘違いをしたという事ですか?』


「はい、本当にすいません。誠に申し訳ございません!!」


 スマホを耳に当てながら、ペコペコと頭を下げる友樹。通話先の相手は119番通報相手の消防だ。通話先相手の女性には溜息が混ざっていて、酷く呆れたような声音だ。


『勘違いなら私達も一安心です。しかしこれからは慌てず冷静に状況を判断してくださいね。向かわせた救急車には引き返すよう指示を出しますが……よく反省してください』


「はい、すいません。本当に申し訳ございません!」


『はい。今回の件をイタズラ電話だとは捉えないでおきますが、次は絶対にないように。本当に救いを求めている人を救えなくなってしまうので』


「はい、本当にすいません、すいません」


 通話越しで友樹はペコペコペコペコと頭を下げ続ける。


『では今回の件に関する話は以上になりますので。ただ最後に言えることはそうですね、人の命は謝罪では救えないという事を肝に銘じておいてください。それでは』


「はい、本当にすいません、失礼いたします」


 友樹は最後まで頭を下げるのを忘れず、対面で話しているかのような振る舞いで通話を終わらせた。

 プープープーっと通話の終了を示す音が鳴る。

 通話を終えた友樹は、ゆっくりと和輝の対面側にある椅子に腰を掛ける。友樹は少し不機嫌そうにして視線をジッと和輝に添えていた。

 ムシャムシャと弁当を食し箸を進めていた和輝の手が止まる。強い視線に耐えられなかった。食欲だけでは誤魔化せない美少女と思ってしまう様な可愛らしくもある視線。まさかこの状況で求愛行動を繰り出してきてるのではあるまいなと無粋な考えが脳裏を過ぎる。

 自分勝手に想像して照れくさく頬を赤く染めた和輝は、視線を逸らす。


「あの、俺にそんな愛くるしい視線を釘付けにしても何も出ないぞ」

「ちーがぁぁぁう! 何で顔を赤くしてるのか全く僕には見当も付かないけど、そういう意味で見ている訳じゃないから!」


  全力で否定の姿勢を作る友樹がテーブルをドンッッと叩いて立ち上がる。本来ならば少し吃驚するのが適切なリアクションなのかもしれないが、そんな友樹のムキになった仕草に愛嬌すら覚えた。

 だが、TPOもTPO。こういう事態になった元凶は全て和輝にある。

 何の医療処置もされていない和輝が心停止状態から当然のように復活した、常識外の現象で。

 一先ず、おふざけは辞めよう。


「悪い、少し場を和ませるためにふざけたって事にしてくれ」

「まぁ、今回はカズ君の言葉に乗ってあげるよ」

「それと有難うな。救急車に関してはマジで迷惑かけた」

「僕が勘違いしたという話では通したけど、僕の信用性は欠けただろうね。もし自宅が火事になったと連絡をしても、夢の中の話と勘違いしているんじゃない?と一蹴されるかも……ね」


 シュンと肩を縮めて俯く友樹。119番でスマホを介して話した相手から、叱責を受けた事で精神的なダメージを受けているのだろう。実は心停止していませんでしたと連絡を受けたことで、相手が持つ感想は少なくとも二つ存在する。

 一つは「無事でよかったですね」という純粋な安堵と安寧。

 一つは「心停止だと勘違いする意味が分かりません」「イタズラ電話をしないでください」という怒りを含む叱責。その中には通報者の人間性を疑う気持ちも乗っているだろう。

 友樹の言動からすれば間違いなく相手は後者の感想を示したのだ。

 だが、そうなる経緯に関して友樹に一切の非は無い。

 全ては心停止した和輝の身を案じて移した行為だ。

 それについて和輝は感謝と謝罪という二つの矛盾した思いを、苦悶の表情で募らせた。


「本当になんて言えばいいか、申し訳ないの一言に尽きる。けど心停止した俺の事を心配して救急車を呼ぼうとしてくれたのは本当に嬉しく思う。そもそも、そうだよな……俺が心停止しなければ……」


「でもね、カズ君! 電話では叱責された感じだけれど心に誓って断言できる。カズ君は間違いなく心停止していたんだ。それは嘘じゃないと誓える。だからこそ分からない。何でカズ君がこうも平然としていられるのか。もっと言葉を悪くすれば、平然と生きている意味が分からないよ」


 和輝の謝罪を遮ってまで食い気味に友樹が主張したのは、和輝が生きている事への不理解だ。

 首を横に振って、全力で目の前にいる友人の存在を否定している。


「俺だって分からねぇよ。昨日から分からない事だらけだ。俺の現状を取り巻く謎を一つ解いてもまた一つ謎が湧き出てくる。まるで、もぐら叩きのように」


「カズ君の言う謎が僕にはわからないけれど、そんな状況下でよく弁当を暢気に食べれるよね~」


 冷たく軽蔑するような「マジで有り得ないんだけど」という感情のこもる一言を頬杖ついて呟く友樹。


「別に暢気でいるつもりじゃない。腹が減ってるから食ってるだけだよ。暢気になるために喰ってるわけじゃない。食わなきゃ頭が回らないだろ。頭が回らなきゃ、心停止の件もどう説明付ければいいか何て思いつく訳もない」


「いや、どうやっても思いつく訳ないでしょ。AEDも何の処置もしてない心臓が勝手に動いて、当の本人が普通にしてるのを、どうやって説明が付くの? イレギュラーにしても度が過ぎるよ」


 友樹の持ちうる尺度で測れば心停止からの復活はイレギュラーを超えたイレギュラー。説明のつけようのない問題に説明を付けようとするのは愚かだ。弁当を食べて説明を付ける頭を回す事に念を置いたとて、全ては首を傾げて終わるのだ。


「これまでカズ君は授業中寝ている事はあったけれど、よく先生に叩き起こされてたよね。心停止で起きませんでした~なんて一度も無かったよ。もし心停止が起きてたら、誰かに起こされるってのも叶わないでしょう」

 

 しかし今回は起きなかった。そのせいで友樹は泣きじゃくるほど和輝の身を案じる結末に至った。

  

「だよな。あぁ分かってる。俺は分かってる。心停止というイレギュラーが急に起こったって事は、やはりその理由は自覚の有るイレギュラーとの関連を疑うべきだよな」


「自覚の有るイレギュラー? カズ君は何を言ってるの?」


 グッと眉根を寄せて疑問を投げる友樹だが、それに応えるための意志は和輝にとって蚊帳の外だった。


(俺は異世界転移をした……これを疑う理由はもうないだろう。ならば俺が今見ている景色は何だ? あぁ、多分これも現実なんだろう。夢と一蹴できない程生々しいこの五感の働き用は間違いなく現実だ。そんなところで次に現れた謎現象は俺の心停止だ。このタイミングも良すぎるよな。だとしたらなんだ?

異世界と現実世界を意識喪失で転移する事が俺の持つ能力だとして、そこに心停止はどんな役割をもって介入する? 二つの世界を往来できる代償か? それとも他に???)


 今、和輝の頭の中は心停止と異世界転移が関連しているのでは?という議題で盛り上がっていた。

 意味もなく身体が心停止するとは到底思えないが、異世界転移と絡めて考えるべき問題だというのは間違いないだろう。授業中に寝ていても心停止が無かったというのが不特定多数から確認されているのであれば、心停止のトリガーは異世界転移をきっかけと捉えるべきだ。


 疑問の回答を貰えずに終わってしまった友樹は、椅子を引いてガッと立ち上がる。

 椅子を引く音を聞いた事で漸く、頭の中の議論場から離脱した和輝は眼差しを友樹に向けた。


「あ、どっか行くのか?」


「どっか行くのって学校に決まってるでしょ。学校に鞄とか全部置いて来たんだから、どっち道戻らないとね。釈然としない部分が在り過ぎるけどカズ君の無事が確認できたし、一先ず良かったよ!」


 無理に、ぎこちない笑みを作る友樹は歩いて玄関の方へ向かっていく。安心と言いながらも、心停止の違和感を拭えない友樹は相当なシコリを残しているのだ。友樹は恐らく、再び心停止をしてしまうのではないのだろうかと、そんな不安も抱えているのだろう。まるで自分の身を案じるかのように和輝の身を案じた友樹の優しい所だ。


「待ってくれ、外まで送るよ」


 箸を置いて玄関に向かう友樹の方へと駆け寄る。既に友樹は靴を履いて玄関のドアに手を掛けた所だ。

「よいしょ」と言った友樹がドアを開けた先に広がるのは、いつもと変わらぬ午前中の住宅街。1台の配達バイクがブゥゥゥゥンと嘶きを上げて通り過ぎる馴染みのある日常だ。青空に浮かぶ太陽の光が優しく差し込み、世界を明るく照らす。

 太陽のスポットライトを浴びる友樹は空色の乱れた髪を掻き分けて振り返り、澄んだ瞳を向けてきた。


「僕達、待ってるから。今日学校を休んでも、また来週には元気で学校に来るって信じて待ってるから」


「ともき……」


 友人としての優しさの滲む一言を聞いた和輝は目を伏せ、悔し気に唇を噛み締めた。

 ”学校へ行く”今日の金曜日を休めば次は二日後の月曜日。”学校へ行く”とは、日常の一環として当然にこなした学生の本業、阿賀波高校に通学して学校生活を過ごす行為。何の懸念を抱える事もなく学校に行って授業を受けて友人とワイワイガヤガヤ話して、一日が終わる。

 学校生活は青春だ。学生だからこそ出来ない事がある。まだ高校一年生だし、卒業までまだ遠い。

 だが和輝はそれさえ、これまでのように当たり前にこなすのが難しい状況になっている。


 意識を喪失する事で異世界転移するであろう能力を前に、また来週元気に会えると自信をもって約束できる自分が心の何処にもいない。現実世界よりも生きることが厳しいであろう異世界で、殺される可能性だってある。

 寝て起きるたびに変わる世界。その世界と上手く付き合ってく術を見い出せていない和輝は、友樹の言葉に対して首を縦に振れなかった。

 しかし、ここで何も言わずに不穏な反応をすれば友樹の抱える不安を煽るだけだ。


 今後この世界と上手く付き合っていくには、やはり現状を告白すべきなのだろう。

 嘘のような本当の話だとしても、いずれ伝える時が来る内容だ。

 意識を失う度に転移するかもしれないというラノベの読みすぎだろと叱責されるのだとしても、この世界には最低一人の理解者が必要だ。


「ともき。俺、信じられないかもしれないけど実は」


 勇気を振り絞って、告白の第一歩に踏み込んだ。

 まぁ信じてもらえないだろうなという直感はあるが、その感覚には頼らない。

 しかし、それを遮る者が不意に訪れる。


「カズ君、後ろ! あぶなぁぁぁい!」


 まるで車に轢かれそうになってる人に注意を知らせるように、また後方から迫る凶器を持った不審者の存在を知らせるような必死さで、友樹は目を大きく見開き、声を張り上げた。


「あ??」


 後ろに何がある、ここは俺の家だぞ。

 絶叫するほどの恐怖が存在してるはずがないだろ。

 ごくり、と鳴らす。

 唾を飲み込んだのは、不覚にも一抹の恐怖を抱いたからという理由に至るのは1秒も掛からなかった。

 あるわけのない恐怖。

 

 振り返れば、そこに君がいた。


 ザザザザザザザザザザァ!っと轟音を奏でて家の廊下に足を引きずり、ガタガダガタガタ!っと身体を揺らしながら、一途な愛を持って和輝の元は突進してくる彼の名は?


 名前は冷蔵庫。


 本来の居場所がキッチンであるはずの冷蔵庫はそれを忘れ、廊下に引き摺り跡を刻んでやってきた。

 高さ約2メートルの冷蔵庫。扉は肩開き仕様だが、その扉は全開放されている。

 冷蔵庫の中からはスーパーで買ったペットボトル飲料水や食材が全て吐き出されている。野菜、肉、チルド食品、瓶に入ったサラダ用ドレッシングや醤油などの調味料。更には卵。多岐にわたるありとあらゆる食材が家の廊下にぶちまけられていた。


 瓶や卵はパリィィィン!と割れ、廊下一面をドレッシング、調味料、卵がミックスされたカオスな色に染め上がっている。

 食材が散乱する廊下はまるで山から降りてきた害獣に荒らされたような有様だ。

 貯蔵された食材を全て吐き出し切り、身軽になった冷蔵庫のスピードは更に加速する。


 ザザザザザザザザザザァ!


 床への引き摺り音を轟かせながら冷蔵庫は猪突猛進に和輝へ迫る。


 この異質な状況に唖然せずにはいられない。


「は?? は??? は???」

   

 思考にブレーキが掛かるとは、この事なのだろう。

 誰かが冷蔵庫を後ろから押している訳でもなく、何か道具を使って動かしているでもない。

 これは冷蔵庫が独りでに動き、自宅の廊下を滅茶苦茶に汚していく凶行だ。

 魔法の蔓延る異世界であれば納得できても、魔法が夢物語でしかないこの現実世界で起きているこの現実離れした現象にどう説明を付ければよいのだろうか。

 

 避ける動作もせずに棒立ちする和輝は容赦なく冷蔵庫に吹き飛ばされた。

 大きく弧を描くように宙へ投げられた和輝は自宅前の道路に、顔面から叩きつけられた挙句にうつ伏せ状態で倒れ伏す。


 ドバァァァァッ!!!


 と、負傷した鼻からは血がボダボダと流れ落ちる。道路に垂れる血液は言わば鼻血だが、傍から見れば殺人事件があったと疑われるような血痕ぶりだ。

 同時に口の中に広がる生暖かい血の味が及ぼす不快感に吐き気を覚える。


「う”っ、おえっ」


不快感と痛みに悶えながら辛うじて立ち上がるが、意識はまるで酩酊していた。視界が歪み、いつもの通りが粘土のようにグニャグニャと捻じれているように見える。


「カズ君! 大丈夫!?」


 鬼気迫る形相の友樹が玄関から急いで走り、道路で苦痛に顔を歪める和輝の腕を自分の肩に回した。


「カズ君、今のって一体何なの!? 冷蔵庫が勝手に!」


「知らねぇよ。マジで冷蔵庫に恨まれる覚えなんて一ミクロンもねぇぞ」


 鼻下を濡らす血を手で拭った和輝は、自宅の玄関に立つ扉が解放された冷蔵庫を睨み付ける。

 淀む視界の中で、冷蔵庫の存在だけは出来たばかりの恨みもあってか掌握できている。


「あの野郎。今は突っ立ってやがる。俺は夢でも見てんのか?」


「いや、夢じゃないと思うよ。何故なら僕もそれを今見ているからね。冷蔵庫は何だかまるで僕達を眺めているみたいだよ」


「物に魂が宿るって話は聞いた事あるけど、これは間違いない。典型的な悪い例だ」


「れい? 幽霊って事?」


「あぁ、そっちのレイもあるか。この際、どっちでも良い」


「ねぇカズ君、病院に行こう。早めに治さないともっと症状が酷くなるかも」

「あ、あぁ。その方がいいよな。救急車追い返したばかりだけど」


 負傷した和輝の容態を顧みる友樹の言葉。それに従って素直に病院に行くのがセオリーなのだろう。

 確かに、この血だらけでありながら平気な振りして学校に行ける訳も無いし、友樹に支えられているからこそ立っていられる。

 酩酊したような感覚は徐々に軽減されているが、容態としては依然変わりない。


 しかし直後。


 和輝は目端に物の挙動を捉えた。

 僅かに眉が上がる和輝は友人を守るためにも、反射的に友樹の提案と身体を支えてくれてる肩を強引に突っぱねた。

 酩酊感と痛みを抱えながら道路を突っ走り、友樹と自宅から距離を遠ざけていく。

 蛇行しながら走り、時には転びそうになりながらも和輝は後ろを振り返る事無く――。

 走ると言っても速度は酷い。

 走ったばかりだというのに、スタミナが切れて息を切らしている。

 幼稚園児と追いかけっこして負けるぐらいの、可哀そうなスピードだ。

 

「カズ君! 急にどうしたの!?」


「俺に近寄るな! 」


 走って追いかけようとしてくる足音。そんな友樹の動きを和輝は怒鳴り声だけで静止させる。

 まさかの言葉に不意を突かれた友樹は「え……」と立ち竦む。和輝が起こした急な行動に理解が追いつかない友樹は瞬きの回数が多くなる。

 

 そしてやってきた。

 玄関に突っ立っていた冷蔵庫が勢いよく飛び出し、道路に倒れこんだのだ。

 ガタァァァァァン!!

 住宅街の閑静を切り裂いて突然発生したこの異音は、すぐに違和感として住宅街に伝わる。

 近隣の住宅の二階から覗く小さな可愛らしい女の子。

 洗濯物を干そうと二階のベランダに出ようとしてる主婦。

 二階のベランダで煙草をすっている眼鏡をかけた男性。

 この時間帯に在宅していた住人の数名に覗かれる。


 道路に横たわる冷蔵庫。

 傍で立ちすくむ空色の頭髪をした女性みたく可愛らしい少年。

 血で顔を濡らしながら辛そうに逃げている少年。

 その少年二人の着ている制服は阿瀬波高校の制服だ。


 

 この風刺画にさえ描かれた事のない構図について、偶然にも覗いてしまった人達は何を思うのだろう。


 扉を閉じた冷蔵庫は息を吹き返したかのように、ゴロゴロゴロゴロとサイコロのように転がって和輝の元へ接近する行動再開する。

 地鳴りのように響く音。

 冷蔵庫が独りでに追うのは友樹でもなく他の誰でもなく渋谷和輝、ただ一人。


 住人達が恐怖に怯えた顔で部屋に戻り、事実から目を背けたのは、あっという間の出来事だった。


 前人未到の人類史上初の快挙となる冷蔵庫との鬼ごっこが幕を開ける。



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