土曜日
三題噺もどき―よんひゃくきゅうじゅうはち。
入場ゲートをくぐると、そこには海が広がる。
夏休みに入ったこともあってか、子どもが多いように見える。
一応、休日というのもあるからだろう。
ほとんど開館と同時に入れるように来たのだけど、この時間でこの多さならもう少し経てば入るのにも時間がかかりそうだ。
「はぐれないようにね」
「うん!」
今にも駆けだしそうになっていた甥っ子を引き留め、妹―母親の側にいるように促す。
まだ迷子になるほどの人混みではないが、念の為。離れてしまったあとでは遅い。
しっかりしている子ではあるが、子供であることにかわりはないのだから。
「……」
行き慣れた、水族館に来ていた。
妹はかなり久しぶりに来たらしい。
こんなにきれいになったんだね―なんて、いつの頃と比べているのかという声を漏らしていた。残念ながら義弟は急の仕事が入ったらしく、来ていない。夕方には帰ってくると言っていたらしいから、夏祭りには間にあうだろう。
「すごーい……」
巨大なアクアリウムの中を泳ぐ魚たちを前に、目を輝かせる甥っ子。
大きな目を更に大きく開いて、命一杯に眺めている。
かなり上の方を泳ぐ鯨に目を奪われ、ポカンと口が開いてしまっているさまが何とも可愛らしい。
「……」
ここの水族館の目玉は、確かにこの巨大なアクアリウムなんだけど。
この後もたくさんこんなものが見れると知ったら、きっともっと目を輝かせてくれるんだろうなぁ。なんて、親バカではなく叔母バカとでも言おうか……そんなことを思いながら私も私でアクアリウムを眺める。
「……」
今日のメインはこれだけじゃなくて、夕方に夏祭りも行く予定なので。
あまりはしゃがせると後の体力が持たないかもしれないが……この後昼過ぎに一度帰って休んでから、花火が上がるぐらいの時間に合わせて祭りに行くと言っていたから。
その間に少しでも休んでおけば大丈夫だろうと言うことになった。
明日もどうせ休みだし、いいよ、というのは妹談。
「つぎあっちいこ!!」
「ちょ、あぶな」
「ぉゎ―」
ぐいぐいと母親の手を引きながら、水族館の更に奥へと進んでいく。
気付かなかったが、私もいつの間にか服の裾を掴まれており、一緒にひかれていった。
危ないので手をつなぎなおし、邪魔にならないように広がりすぎないように進んでいく。
ぼんやりと暗い館内。
カラフルな魚も居れば、隠れることに特化した魚もいる。
眠っているのか動かない魚も居たりして。
甥っ子はどうやらクラゲがかなり気に入ったらしい。可愛いと何度も言っていた。
ふわふわと水の流れに合わせて漂う姿に魅入っていた。
さらに進むと真っ暗な、深海をイメージしたコーナーもある。
そこでは、夜空に浮かぶ星のような、真っ暗な中で光る魚がいたりして。それにはちょっと驚いたのか、茫然としていた感じだった。深海魚ってデフォルトだと可愛いなぁと思うが、こう実物を見ると驚くかもしれないな。
他にもアシカやペンギン、ラッコも泳いでいる。
ペンギンさん可愛いねぇなんて言う甥っ子が可愛かった。
もちろん、イルカショーやアシカショーもみた。
合図で手を振ったり、大きく飛んだり、ボールを乗せたり、トレーナーとものすごい勢いで横切ったり。水かけサービスもやっていたが、ちょっと濡れると困るのでかかりにくい場所に座った。それでも楽しそうにはしゃいでいたので、今度は濡れてもいいようにしてもいいかもな、なんて密かに思ったりもした。
「たのしかったー!!」
満面の笑みでそう言ってくれる甥っ子。
水族館に連れてきてよかったと心の底から思える笑顔だ。
「また来たい?」
「うん!!」
全力で頷いてくれるんだから、これは連れてこないといけないな、なんて思ってしまう。
このままここで昼食まで済まそうかと思ったが、存外人が多かったので売店で済ますことにした。ついでに、甥っ子に人形を一つだけ買ってあげた。
お姉ちゃんそれが目的でしょ……的な視線を送られたが、見なかったことにした。
館内での飲食は禁止されているので、外にある売店で軽く済ませた。
甥っ子と妹は、ホットドッグと、ポテトと飲み物。
私もホットドックにしようかと思ったが、あまりにも外が暑すぎてソフトクリームを注文した。あまりアイス系は頼まないが、こう暑くてはやってられない。
「んま」
カップに入れられたソフトクリームをスプーンで掬い、口に運ぶ。
ヒヤリと広がるミルクの甘さに舌鼓を打ち、溶け切る前に食べていく。
「食べる?」
甥っ子にも一口やり、ついでに妹にも一口上げる。
お礼にとホットドックも一口貰ったが、これもなかなかに美味しかった。
「さ、帰ってお祭りの準備しようか」
「やったー!!」
そうはしゃいでいた甥っ子が、車の中で眠っていたのは言うまでもない。
それだけ全力で楽しんでくれたのなら、よかった。
お題:夜空・アクアリウム・ソフトクリーム