港…1
アクトは港町に訪れた。
流石に黒コートは、地味な色とはいえ目立つから、パーカーにジーンズと一般的な服装をしていた。黒髪のカツラも装着し、トレードマークの赤髪も隠している。
港町というだけあり、魚貝類の屋台が立ち並び、魚市場では新鮮な魚を売る高らかな声が響きわたっていた。
食欲を誘う香ばしい匂いがアクトにも届いた。
「ホタテの醤油バター焼きはいかが~?」
「おばちゃん、一つ美味しいとこ頂戴。」
「毎度あり!」
仕事中とは打って変わった朗らかな彼は、誰も流星だなんて思わないだろう。ホタテを食べながら、足は倉庫へ向かっていた。
「や、止めてください!」女性の声にアクトは振り向いた。
「貴様ぁ、サカズキ様にぶつかっておいて謝って済むと思っているのかぁ?」
がたいの良い大男が、女性に剣幕の表情を向けている。その隣にいた白いワイシャツを着た男が、爽やかな笑顔で大男を止めた。
「僕は大丈夫だよ。そんなか弱い女性を脅かすなんて、ナンセンスだよゴウジ。…ご迷惑をお掛けしました。さっ行くよ。」
爽やかな男は女性に軽く頭を下げ、大男と共に歩き出した。
「…命拾いしたな女ぁ。」
「ゴウジ…。本当、お気になさらないでください。」
女性は、安堵の息をついた。アクトはその光景に、晴れない気持ちを抱いた。
「…ゴウジ、流星がいたぞ。お前が馬鹿みたいな罵声を上げるから、ヤツに顔を見られたかも知れない。お前と一緒に歩くと、ろくなことないな。」
爽やかな男は、笑顔のまま言った。
ゴウジは冷や汗だらけの頭を直ぐに下げた。
「申し訳ありませんサカズキ様!」
「まぁいいよ。流星の意外な変装姿も見れたし、まぁ良しとするか。今日、秘密で行われる国会会議の場所がここなんだ。そこにヤツが現れたということは、俺たちと標的は同じ…もしくはとんでもない事実が分かるかも知れないよ、ゴウジ。」
ゴウジは冷酷に変わっていくサカズキの笑顔に、鳥肌を立てた。
「(流石サカズキ様。一気に空気が変わったぜ…!)」