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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章5『憎しみの黒薔薇』編
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物語No.90『より深い混沌へ』

 バハムートは大きく足を振り上げ、次に大地を踏みつけた。

 地面がジグソーパズル型に幾つも吹き飛び、宙を舞う。


「あれは私の魔法です」


 夏目が言う。


「どんな魔法だ」


「ピースがぶつかれば魔法が発動し、その魔法は十種類あります」


「来るぞ!」


 一国が夏目に問いかけている間に、既にバハムートは翼を羽ばたかせてピースが一国らへ向かって降り注いでいた。


「『反射鏡(ルミラー)』」


 飛んできた二十のピース全てを周防が二十の反射鏡で跳ね返した。

 全てのピースがバハムートへ向かうが、バハムートもまた反射鏡を出現させ、ピースを跳ね返す。


「私の魔法まで……」


 周防はバハムートの魔法を見て反応した。

 ピースは先ほど召喚した周防の反射鏡に当たって跳ね返るが、幾つかは反射鏡をくぐり抜けて迫っていた。


「『王雷(エクレシウス)』」


 咄嗟に一国が三つの稲妻を放った。

 ピースは爆発するものもあれば、煙幕が吹き荒れるものもあり、その煙幕の中、十メートルの巨石が降る。


「『反射鏡(ルミラー)』」


 着地する前に巨石を反射鏡で横に吹き飛ばした。


 一瞬の攻防。


 だがピースはやまない。

 今度は反射鏡により一国へ飛ぶピースを、バハムートが翼の風圧で軌道を乱雑に逸らした。

 全てが反射鏡をくぐり抜け、十七のピースが一国らに迫る。


「『王雷(エクレシウス)』」

「『王雷(エクレシウス)』」

「『嵐槍(ランス)』」

「『龍撃砲(ドラゴンバスター)』」


 六つの稲妻がピースを六つ破壊し、風を纏った槍が二つのピースを破壊し、赤い光線がピースを一つ破壊した。


 突風や針が吹き荒れ、爆音が響き、氷が降る。

 それぞれのピースが魔法を発動させる中、破壊し損ねた八つのピースが迫る。


 それらを分厚い砂鉄の壁が防ぐ。

 爆発や巨石が全て防がれ、一国らは無事に今を迎える。


「はぁ、私抜きじゃ戦えないのか」


 体育館の壁に寄りかかりながら、逆万磁を握り締める十月がため息混じりに呟く。


「へえ、面白い魔法だね」


 一国が十月の発言に苛立つ中、二月はじっと十月の握る魔法剣を見ていた。


 二月の魔法は模倣魔法(アイズ)

 瞳に映したあらゆる魔法をコピーする。


「『万磁』」


 二月の全身から砂鉄が出現する。


「魔法のコピーか。魔法剣の魔法までコピーできるなんて、面白い魔法使いだ」


 十月は二月を興味津々に見つめる。


「ところで竜胆さん。さっき見せたあなたの魔法、もしかして対龍特化の魔法だったりする?」


「ああ。龍にのみ大ダメージを与える魔法。その他モンスターにはそんなダメージは入らない」


 話をしている間にも、バハムートは再び足を振り上げる。


 その動作を見て、竜胆が両腕をバハムートへ向けて伸ばし、両手を握り拳にし、その拳の背中同士を合わせる。


「『龍撃砲(ドラゴンバスター)』」


 真紅のビームがバハムートへ直撃する。

 直後、バハムートは体勢を大きく後ろへ崩した。


「チャンスだ」


 二月は竜胆の魔法をコピーし、バハムートへ向けて放つ。


「『龍撃砲(ドラゴンバスター)』」


 だがその軌道上を影魚が高速で塞ぐ。


 龍撃砲(ドラゴンバスター)は龍以外のモンスターに対しては威力は弱い。

 影魚は消滅するが、真紅のビームも影魚に衝突して霧散した。


 バハムートが体勢を崩す間、影魚が一国らへ襲いかかる。

 一国が稲妻で一掃する中、二月がバハムートへ向けて走り出した。


「おい、二月!?」


「ゼロ距離で『龍撃砲(ドラゴンバスター)』を浴びせる。それならあの龍も倒せる」


 既にバハムートは起き上がり始めていた。


「二月を援護する。全員散開して攻撃の集中を避けつつ、二月と竜胆の攻撃を援護する」


 起き上がろうとするバハムートへ、一国は背後の魔法陣から三つの稲妻を放った。

 影魚が進路上に群れるが、それらを滅しつつバハムートへ稲妻が直撃した。

 龍撃砲(ドラゴンバスター)ほどバハムートへダメージを与えることはできないが、それでもバハムートへダメージは入っている。

 ほんのわずかに。


 影魚は泳ぐ。

 一国の足下を。

 一国の足場に突如浮上した影魚は、そのまま前方へ泳ぎ、それにより一国は転倒する。

 稲妻もやんだ。


 そこへ容赦なくバハムートが火を吹く。


「『反射鏡(ルミラー)』」


 周防の反射鏡に跳ね返り、火炎は一国の後方へ吹き飛ぶ。


 その間、二月と竜胆はバハムートの懐まで迫っていた。


 バハムートは大きく翼を広げて上空へ逃げようとするが、二月はバハムートにくっつけた砂鉄を操り、引きずり下ろす。


「これで終わりだ」


 二月と竜胆はバハムートのすぐそばで両腕を構える。

 それに合わせ、四葉がバハムートへ光を集中させる。


「影も形もありはする。だから私たちが勝つ」


 直後、二つの真紅がバハムートへ放たれる。


「「『龍撃砲(ドラゴンバスター)』!」」


 二つのビームがバハムートへ直撃した。

 バハムートの身体は半壊し、地を揺らすほどの悲鳴を上げる。


(あと一息、このまま押し切る)


 再度竜胆が両腕を構える。

 その背後から、稲妻が襲いかかる。

 竜胆は稲妻に撃たれ、全身を硬直させる。


「……なッ!?」


 一国の攻撃を受けた。

 と疑い目だけを向けると、そこには一国の容姿をした影が立っていた。

 その横には二月の容姿をした影もいる。


「嘘だろ。さっき倒しただろ」


 確かに二人の影は倒された。

 倒された影は本人のところへ戻るが、この戦いの中で再び剥がされた影が再度ヒトの形をなして現れた。


 バハムートの周囲では、常に影が剥がされる。


「何度倒しても、無駄ってことかよ……」


 戦場に陰りが見え始める。

 闇の中で、龍は牙を研ぐ。

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