物語No.90『より深い混沌へ』
バハムートは大きく足を振り上げ、次に大地を踏みつけた。
地面がジグソーパズル型に幾つも吹き飛び、宙を舞う。
「あれは私の魔法です」
夏目が言う。
「どんな魔法だ」
「ピースがぶつかれば魔法が発動し、その魔法は十種類あります」
「来るぞ!」
一国が夏目に問いかけている間に、既にバハムートは翼を羽ばたかせてピースが一国らへ向かって降り注いでいた。
「『反射鏡』」
飛んできた二十のピース全てを周防が二十の反射鏡で跳ね返した。
全てのピースがバハムートへ向かうが、バハムートもまた反射鏡を出現させ、ピースを跳ね返す。
「私の魔法まで……」
周防はバハムートの魔法を見て反応した。
ピースは先ほど召喚した周防の反射鏡に当たって跳ね返るが、幾つかは反射鏡をくぐり抜けて迫っていた。
「『王雷』」
咄嗟に一国が三つの稲妻を放った。
ピースは爆発するものもあれば、煙幕が吹き荒れるものもあり、その煙幕の中、十メートルの巨石が降る。
「『反射鏡』」
着地する前に巨石を反射鏡で横に吹き飛ばした。
一瞬の攻防。
だがピースはやまない。
今度は反射鏡により一国へ飛ぶピースを、バハムートが翼の風圧で軌道を乱雑に逸らした。
全てが反射鏡をくぐり抜け、十七のピースが一国らに迫る。
「『王雷』」
「『王雷』」
「『嵐槍』」
「『龍撃砲』」
六つの稲妻がピースを六つ破壊し、風を纏った槍が二つのピースを破壊し、赤い光線がピースを一つ破壊した。
突風や針が吹き荒れ、爆音が響き、氷が降る。
それぞれのピースが魔法を発動させる中、破壊し損ねた八つのピースが迫る。
それらを分厚い砂鉄の壁が防ぐ。
爆発や巨石が全て防がれ、一国らは無事に今を迎える。
「はぁ、私抜きじゃ戦えないのか」
体育館の壁に寄りかかりながら、逆万磁を握り締める十月がため息混じりに呟く。
「へえ、面白い魔法だね」
一国が十月の発言に苛立つ中、二月はじっと十月の握る魔法剣を見ていた。
二月の魔法は模倣魔法。
瞳に映したあらゆる魔法をコピーする。
「『万磁』」
二月の全身から砂鉄が出現する。
「魔法のコピーか。魔法剣の魔法までコピーできるなんて、面白い魔法使いだ」
十月は二月を興味津々に見つめる。
「ところで竜胆さん。さっき見せたあなたの魔法、もしかして対龍特化の魔法だったりする?」
「ああ。龍にのみ大ダメージを与える魔法。その他モンスターにはそんなダメージは入らない」
話をしている間にも、バハムートは再び足を振り上げる。
その動作を見て、竜胆が両腕をバハムートへ向けて伸ばし、両手を握り拳にし、その拳の背中同士を合わせる。
「『龍撃砲』」
真紅のビームがバハムートへ直撃する。
直後、バハムートは体勢を大きく後ろへ崩した。
「チャンスだ」
二月は竜胆の魔法をコピーし、バハムートへ向けて放つ。
「『龍撃砲』」
だがその軌道上を影魚が高速で塞ぐ。
龍撃砲は龍以外のモンスターに対しては威力は弱い。
影魚は消滅するが、真紅のビームも影魚に衝突して霧散した。
バハムートが体勢を崩す間、影魚が一国らへ襲いかかる。
一国が稲妻で一掃する中、二月がバハムートへ向けて走り出した。
「おい、二月!?」
「ゼロ距離で『龍撃砲』を浴びせる。それならあの龍も倒せる」
既にバハムートは起き上がり始めていた。
「二月を援護する。全員散開して攻撃の集中を避けつつ、二月と竜胆の攻撃を援護する」
起き上がろうとするバハムートへ、一国は背後の魔法陣から三つの稲妻を放った。
影魚が進路上に群れるが、それらを滅しつつバハムートへ稲妻が直撃した。
龍撃砲ほどバハムートへダメージを与えることはできないが、それでもバハムートへダメージは入っている。
ほんのわずかに。
影魚は泳ぐ。
一国の足下を。
一国の足場に突如浮上した影魚は、そのまま前方へ泳ぎ、それにより一国は転倒する。
稲妻もやんだ。
そこへ容赦なくバハムートが火を吹く。
「『反射鏡』」
周防の反射鏡に跳ね返り、火炎は一国の後方へ吹き飛ぶ。
その間、二月と竜胆はバハムートの懐まで迫っていた。
バハムートは大きく翼を広げて上空へ逃げようとするが、二月はバハムートにくっつけた砂鉄を操り、引きずり下ろす。
「これで終わりだ」
二月と竜胆はバハムートのすぐそばで両腕を構える。
それに合わせ、四葉がバハムートへ光を集中させる。
「影も形もありはする。だから私たちが勝つ」
直後、二つの真紅がバハムートへ放たれる。
「「『龍撃砲』!」」
二つのビームがバハムートへ直撃した。
バハムートの身体は半壊し、地を揺らすほどの悲鳴を上げる。
(あと一息、このまま押し切る)
再度竜胆が両腕を構える。
その背後から、稲妻が襲いかかる。
竜胆は稲妻に撃たれ、全身を硬直させる。
「……なッ!?」
一国の攻撃を受けた。
と疑い目だけを向けると、そこには一国の容姿をした影が立っていた。
その横には二月の容姿をした影もいる。
「嘘だろ。さっき倒しただろ」
確かに二人の影は倒された。
倒された影は本人のところへ戻るが、この戦いの中で再び剥がされた影が再度ヒトの形をなして現れた。
バハムートの周囲では、常に影が剥がされる。
「何度倒しても、無駄ってことかよ……」
戦場に陰りが見え始める。
闇の中で、龍は牙を研ぐ。




