物語No.88『黄昏時に龍が吠える』
無数のパズルが飛び交う戦場。
バハムートは翼の一振りで大量のパズルを十月へ飛ばす。
十月は砂鉄を足場にし、上空へ回避する。
だがバハムートも逃がさない。
翼を巧みに振るい、上昇気流を発生させてジグソーパズルが上空にいる十月のもとへ。
「『万磁斬』」
十月は砂鉄を剣の形状で幾つも密集させ、パズルへ向かって降らせた。
砂鉄とパズルがぶつかり合い、爆発や放電、凍結や衝撃が起こる。
(ピースの種類は十種類。その中で気をつけるべきは凍結のピースのみか)
十月は砂鉄を密集させた足場を上空に幾つかつくり、その足場から足場へ飛んでバハムートの頭上まで迫る。
(ピースは一度に二十まで出現し、一種類二枚のピースが出来上がる。いくらランダムと言えど、結局は魔法。ある程度の法則は見えてくる)
既にピースは使いきっている。
十月はその瞬間を狙い、自身のそばに剣状に密集させた砂鉄を幾つも用意していた。
「剥がれた鱗を狙っちまえば、てめえの泣き顔を拝めるかな」
砂鉄の剣がバハムートへ降り注ぐ。
その間際、バハムートが口を大きく開く。
直後、螺旋の火炎玉が放たれ、砂鉄の剣とぶつかり合った。
砂鉄の剣はバラバラになり空中を霧散した。
「そういえばまだ影は幾つも吸収していたっけ」
十月は魔法剣に魔力を込め、戦闘でなくなる砂鉄を補給し続けていた。
十月の周囲を分厚い砂鉄が覆う。
「パズルの魔法は仕掛けを暴いた以上、迎撃は簡単だな。次なる魔法で私を楽しませてくれよ」
十月は迎撃準備を整え、次なるバハムートの攻撃を待つ。
ふと十月は空を見る。
既に時刻は襲い時間であり、日も沈み始めていた。
影が深く長く伸びる。
影は常時剥がれ、影魚となっている。
その影魚がバハムートへ近づき、鱗が剥がれた場所へ集まる。やがて影は鱗となった。
「影による再生能力を持っているのか。それに日も沈んできて影が増えればもっと厄介になる。名残惜しいが黄昏時だ」
十月は既にバハムートの鱗の内側へ無数の砂鉄を仕込んでいた。
それらを首のところまで移動し、そのまま一気に首辺りの鱗を砂鉄を使って剥がしていく。
バハムートが足を振り上げ、地面へ叩きつけようとしていた。
「させねえよ」
バハムートの足に付着した砂鉄が上へ引っ張り続ける。そのまま体勢を崩し、横転する。
「『万磁斬』」
鱗が剥がれた首もとへ、十月は剣状に密集させた砂鉄を次々と降らせる。
砂鉄の剣がバハムートの首へ突き刺さる。
夕暮れに龍の声が響き渡る。
「このまま首を落とす」
砂鉄の剣はやまない。
次々と首を直撃する砂鉄の剣に、バハムートも弱り始めていた。
それを上空で見ていた魔鍋。
「強いな。接続者って。そっか……」
魔鍋は悲しい表情でバハムートを見下ろす。
(分かってる。最初からこうなるんだってことは──)
魔鍋は魔神に伝えられていた。
もし悪魔が倒されそうになったのなら、最終手段があると。
「バハムート、私の命を持っていけ。だから──」
魔鍋は命を差し出した。
それによりバハムートは本来の力を発揮する。
バハムートの全身を影のように漆黒にし、水のように流動し、首を突き刺していた砂鉄の剣も地に落ちていく。
「なんだ?」
十月は危機感を抱き、バハムートから距離を取ろうと後退りしていたが、
「──は!?」
背後、まばたきもできない一瞬にバハムートが移動していた。
「嘘だろ……」
振り返り、冷や汗を流す十月。
次の瞬間、バハムートは十月の脇腹を喰らう。




