物語No.87『狂気は龍をも殺す』
十月撫子とバハムートは広い校庭にて、激しくぶつかり合っていた。
バハムートは無数の影魚を操りつつ、影を束ねて様々な攻撃を仕掛ける。
それに対し十月撫子は砂鉄の集合で攻撃を防ぎつつ、砂鉄を変形、操作して攻撃を繰り返していた。
「強すぎる……。あんな接続者もいるのか……」
穂琉三は壁に背を預けながら、バハムートと十月の戦いを見ていた。
サメの影魚に乗る魔鍋も、ただ戦況を見下ろすことしかできない。
「さあさあ、鱗を剥がしていこうか」
十月は戦いの中でバハムートの鱗の隙間に砂鉄を仕込んでいた。
それらの砂鉄を鱗の中で暴れさせ、鱗が一枚剥がれた。
「ふっ。良い音するじゃん」
十月は笑みを浮かべ、戦いを加速させる。
逆万磁に魔力を込め、魔法剣から次々と特殊な砂鉄が出現する。
十月の魔力が尽きるまで延々と出現する砂鉄。
バハムートは無数の影魚を螺旋状に突撃させるが、十月の分厚い砂鉄のバリアに防がれる。
時折一匹の影魚を密かに突撃させるが、砂鉄は影魚に込められたほんのわずかな魔力をも感じ取り、防いでしまう。
その間にもバハムートの鱗が二枚三枚と剥がれていく。
バハムートが追い詰められていく状況を見て、魔鍋は叫ぶ。
「バハムート、全部の影、使って倒して」
バハムートは吠える。
「全部の影? へえ、何が来るのかな」
十月はあえて攻撃を中断し、バハムートが何をするつもりなのか静観する。
バハムートが大きく口を開けると、そこへヒト型の影が幾つか吸い込まれるようにして消えた。
「あれは……」
十月は何が起こるかを推測した。
そして彼女の予想は当たった。
バハムートが大きく足を上げ、次の瞬間、地面へ向けて大きく足を振り下ろした。
その衝撃で地面が人間サイズの大きさのジグソーパズル型に弾け飛んだ。
「一体誰の魔法だい」
十月は分かっていた。
バハムートが飲み込んだヒト型の影は、この学園に来ている接続者の影であるということを。
その影を飲み込んだバハムートは、その接続者の魔法を使うことができる。
パズル型に飛び散った地面。
その一つをバハムートは十月へ向けて蹴り飛ばす。
砂鉄がパズルに向けて集まり、パズルが砂鉄と衝突する。
次の瞬間、パズルは爆発した。
「なるほど。爆発する地面か。だが何をやっても無駄だと……」
バハムートは翼を大きく動かし、突風を起こしてパズルを次々と十月へ飛ばしていた。
「だから無駄だと……」
二十を超えるパズルが十月へ向かう。
十月は自身の周囲を砂鉄で覆い、防ぐ構えを見せた。
「どうせ爆発。それじゃあ私を──」
パズルが砂鉄に触れた瞬間、氷が砂鉄を覆った。
「……っ!?」
十月は一瞬龍のそばに魔道書があるか探したが、龍が使用している魔法はそれではないため、魔道書は見つからない。
次に氷に覆われた砂鉄へぶつかったパズルが引き起こした現象は放電。
十月は咄嗟に魔法剣に魔力を流して砂鉄を生成するが、薄い砂鉄の防御を掻い潜って電気が十月の左腕に触れる。
それでもパズルはやまない。
次に来たパズルは砂鉄に触れて爆発を起こし、その次は突風を引き起こした。
十月は魔力を流し込んで砂鉄を生成し、次々と来るパズルを防いだが、今までのように無傷とはいかなかった。
左腕には電気を受け、右頬には火傷、左足には針が刺さり、右足には植物が絡みついている。
(なるほど。パズルごとに発動する魔法が異なる。だから発動するまでどんな魔法が来るかは分からない)
十月は周囲を見渡すが、既にパズルはなくなっていた。
だがバハムートは再び足を大地へぶつけた。
飛び散る地面はジグソーパズルの形をしていた。
自身の周囲をジグソーパズルが飛び散る中、十月は──
「やっと、楽しくなってきた」
十月は笑っていた。
今日一番の笑顔でバハムートを見る。
「成長ってのはいつだって死地の中にある。だから、今この瞬間が愛おしい」
死地の中で彼女は快感に浸る。
その先に己の成長を見据えて。




