物語No.86『VSバハムート』
魔鍋は願った。
だからバハムートは穂琉三と愛六へ吠える。
体長十八メートルの漆黒の龍。
その龍の周囲には影魚が泳ぎ、終始その龍の周囲の影が剥がれていき、魚となって空間を影魚が埋め尽くす。
「やっぱり犯人は奈落さんじゃなかった」
龍のそばにいる魔鍋を見て穂琉三は安堵した。
「奈落さんはどこだ」
わずかに魔鍋の瞳孔が開く。
「君、奈落さんの何?」
「僕は……」
「教えてくれないんだ。じゃあいいや」
無数の影魚が一斉に穂琉三へ襲いかかる。
「『火拳槌』」
炎の拳が影魚を燃やす。
その上、愛六が水玉を惑星のように体育館を動き回らせ、影魚を次々と消失させていった。
「バハムート!」
バハムートが動く。
翼を大きく広げ、愛六へ向かって足を伸ばす。
愛六の周囲を影魚が囲み、逃げ場を奪っていた。
「愛六!」
穂琉三はサポートへ入ろうとするが、既にその時にはバハムートの足が地面へ足跡を刻んでいた。
「愛六……」
不安になる穂琉三。
その視界の隅にはフィギュアスケートのように床を滑る愛六がいた。
愛六は足を水で覆いつつ、水を放出することで床を滑るように移動していた。
高い機動力により影魚の群れをかわしつつ、バハムートの足も避けた。
「結局悪魔を召喚した彼女を倒せば良いんでしょ」
愛六はそのまま魔鍋へ迫る。
だが魔鍋はサメ型の影魚に乗り、上空へ逃げる。
「どこまで逃げても私からは逃げきれないよ。『水槽の君』」
突如、魔鍋の頭を水玉が覆う。
しかし素早く動くサメによって水玉から抜け出してしまう。
愛六も水玉を追尾させるが、追いきれない。
「速いな」
愛六が魔鍋へ集中している間にもバハムートが動く。
「結局その巨体じゃこの狭い空間で自由に動けない。だから隙だらけだ」
穂琉三が燃える拳をバハムートへ叩きつけた。
わずかに怯んだが、まるで攻撃が効いていないのかすぐに反撃に出るバハムート。
振るわれた翼は穂琉三を容易く吹き飛ばす。
「くっ。月一の解放を使うか。ヒルコ」
「いや、それでもまだ勝機が見えない。それにここじゃ人質の生徒を巻き込む。今はまだ相手を観察分析するべきだ」
赤い光球が助言し、穂琉三も冷静になって人質の生徒を一瞥する。
「避難させたいが、そんなことできるのか……」
穂琉三と愛六はバハムートを前ににらめっこ状態。
「どうすれば……」
そんな最中、魔鍋が驚いた表情を見せる。
「嘘だろ……!? 四人の影を使ったのに……」
直後、風穴が空いた体育館の上空から砂鉄を周囲に浮かせた少女が現れた。
少女は一瞬で体育館全容を見回し、笑みを浮かべる。
「『万磁』」
少女を覆う砂鉄が次々とバハムートへ向けて降り注ぐ。
砂鉄はバハムートへくっつく。
すかさず少女はバハムートへくっついた砂鉄を操り、バハムートごと砂鉄を持ち上げて校庭へ突き落とした。
「さあ、龍の見た目をした悪魔なんだ。私を楽しませてくれるんだろうな」
笑みを浮かべながら十月はバハムートへ飛びかかった。
「バハムート!」
魔鍋はサメの影魚に乗ったまま、体育館上の風穴を通って校庭へ飛び出す。
「今の内に人質を解放するよ」
愛六は人質をバハムートから距離を取らせるため、先陣切って避難誘導をさせた。
その間、人質の中に奈落がいないことに気づいた。
穂琉三は体育館を探し回ろうとしたが、バハムートが体育館の壁を破壊しながら倒れた。
穂琉三は吹き飛ばされ、反対側の壁際まで転がる。
「なるほど。頑丈にはできているみたいだな」
バハムートは身体の所々に砂鉄をくっつきながらも、身体に傷はあまり見られなかった。
バハムートの全身を覆う漆黒の鱗がダメージを最小限に防いでいた。
十月はそれを見て余計にやける。
「となると召喚者を狙うか」
十月は一瞬魔鍋を見たが、すぐに視線をバハムートへ戻す。
「いいや、俄然やる気が出るね。お前の鱗を一枚一枚剥がして、真っ裸にすれば攻撃は届くだろ」
十月はジャンプを繰り返して準備運動を行った。
「退屈させるなよ。黒廻ちゃん」
十月はバハムートへ飛びかかった。
その敵意は快楽のため。




