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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章5『憎しみの黒薔薇』編
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物語No.77『崩壊の初音』

 六月一日。


 七時。

 奈落は異境学園の寮を出て、黒薔薇学園へ向かった。

 行き来にはケーブルカーなどを使い、一時間以上かけて黒薔薇学園へついた。


 奈落はしばらく学校を休んでいたため、久しぶりの登校だった。

 彼女はあまり学校で馴染めておらず、長い休暇の後の登校ということもあって緊張していた。


「そんな緊張すんなら来なきゃ良かったんじゃねえの」


 黒い光球が奈落のそばに出現し、そう言う。


「相変わらず勝手に出てくるよね。ミタマは」


「良いじゃねえか。やっぱ外は気持ちが良いからな。だが学校は居心地が悪いだろ。それなのに通うって、気持ち悪くなるだけだ」


 ミタマは平然と暗いことばかりを口にする。


「そうだね。きっと昔の私なら通うことはしなかった。でもね、変わりたいと思ったんだ」


「変わる……?」


「少しでも彼に誇れるように。そうやって私は一歩を歩もうと思ったんだ」


 前を向いてそう意気込む奈落をミタマはじっと凝視する。


「へえ、お前少しは変わったんだな。日向とかいう少年のおかげか」


「うん……」


 奈落は嬉しそうに照れる。


 奈落は下駄箱へ行き、同じクラスの生徒と目が合う。しかし挨拶を交わすこともなく、その生徒は教室へと向かった。


「はぁ、疲れる」


 深くため息をこぼし、全身に疲労感を抱く。


「いけんのか?」


「頑張るよ」


「そうかい」


 奈落は両頬を叩いて気合いを入れ直す。

 顔を上げ、教室へ向かって歩みを進める。


「ほら、私頑張れる」


 奈落は徐々に教室へ近づいていく。

 だが教室の前で足が止まる。

 扉に手をかけはしたものの、その手が動くことはない。


「大丈夫だよ。だって私は、頑張れるんだから」


 奈落は勢いよく扉を開けた。

 その瞬間、教室中の全員の視線を浴びた気がした。


「大丈夫。大丈夫」


 そう自分に言い聞かせ、自分の席へつく。


 しばらく経っても誰も彼女に声はかけない。

 奈落は周囲の生徒が自分を見てクスクス笑っている錯覚に陥るが、深呼吸して呼吸を整える。


 やがてホームルームが始まり、そして終わると同時に急いで女子トイレへ駆け込んだ。


「はぁ、疲れたぁ」


「大丈夫か」


「うん。思ったより平気。だから、全然大丈夫だよ」


 奈落は鏡の自分と向き合い、両頬を持ち上げて笑みをつくる。


「うん。大丈夫。私なら大丈夫」


 必死にそう言い聞かせる。

 そして彼女はトイレを出ると、すれ違いで女子生徒が入ってくる。


 ふと振り返るが、既にその女子生徒は個室へ入っていた。


「どうした?」


「ねえ、今何となく悪魔の気配を感じた気が……」


「そんなわけねえだろ。つまりここに魔神やその仲間の女がいるってことになるだろ。そんなリスク冒す意味が分からん」


「そ、そうだよね。気のせい……だよね」


 奈落は気になりつつも、視線を逸らした。


 その後も奈落が授業を受け続け、四限の体育の時間、体育の先生が二人組を組むように言った。

 奈落が一人動揺していると、一人の女子生徒が奈落のもとに近づいてくる。


「奈落さん、私と一緒に組みませんか」


 頭の左右に巻き髪をした黒髪の少女。

 彼女は優しく奈落に手を差し伸べた。


「私は魔鍋(まなべ)綺羅(きら)。よろしくね」


 奈落が彼女の手をとり、一緒に体育の授業を受けた。


 今回の授業はテニスだった。

 奈落は多くへ飛んだ玉にも素早い速さで追いつき、高く飛んだ玉も高い跳躍力でラケットに収めた。


「奈落さん運動神経良いね。何かやってたの?」


「うん。ちょっとね」


 奈落は魔鍋が変に飛ばしたボールも上手く相手の打ちやすい位置へ飛ばすため、長いラリーが続いた。

 そのため二人は楽しい時間を感じていた。


「奈落さんが結構とってくれるから、めっちゃラリーが続いて楽しかったよ」


「私も魔鍋さんとラリーできて楽しかったよ」


 二人は熱い握手を交わした。

 昼休みは一緒に食事をとり、その後の授業も持ってきていない教科書を見せてもらい、休み時間に他愛もない会話をして、そうやって放課後を迎えた。


「今日はありがとう。またね」


 二人きりの教室。

 楽しく話している間に放課後を迎えていた。

 魔鍋が帰ろうと奈落へ手を振ったところで、奈落は意を決して口を開く。


「ねえ、どうして魔鍋さんの中には悪魔がいるの」


 魔鍋は目を見開き、奈落を凝視する。

 その後、悲しげな目でため息をこぼす。


「あ~あ、せっかく友達になれたのに」


 直後、魔鍋の背後から漆黒の龍が現れる。


「ごめんね奈落さん」


 やがて龍は学園中の窓を破壊するほどの大音量で雄叫びを上げる。


「始めるよ。バハムート」

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