物語No.77『崩壊の初音』
六月一日。
七時。
奈落は異境学園の寮を出て、黒薔薇学園へ向かった。
行き来にはケーブルカーなどを使い、一時間以上かけて黒薔薇学園へついた。
奈落はしばらく学校を休んでいたため、久しぶりの登校だった。
彼女はあまり学校で馴染めておらず、長い休暇の後の登校ということもあって緊張していた。
「そんな緊張すんなら来なきゃ良かったんじゃねえの」
黒い光球が奈落のそばに出現し、そう言う。
「相変わらず勝手に出てくるよね。ミタマは」
「良いじゃねえか。やっぱ外は気持ちが良いからな。だが学校は居心地が悪いだろ。それなのに通うって、気持ち悪くなるだけだ」
ミタマは平然と暗いことばかりを口にする。
「そうだね。きっと昔の私なら通うことはしなかった。でもね、変わりたいと思ったんだ」
「変わる……?」
「少しでも彼に誇れるように。そうやって私は一歩を歩もうと思ったんだ」
前を向いてそう意気込む奈落をミタマはじっと凝視する。
「へえ、お前少しは変わったんだな。日向とかいう少年のおかげか」
「うん……」
奈落は嬉しそうに照れる。
奈落は下駄箱へ行き、同じクラスの生徒と目が合う。しかし挨拶を交わすこともなく、その生徒は教室へと向かった。
「はぁ、疲れる」
深くため息をこぼし、全身に疲労感を抱く。
「いけんのか?」
「頑張るよ」
「そうかい」
奈落は両頬を叩いて気合いを入れ直す。
顔を上げ、教室へ向かって歩みを進める。
「ほら、私頑張れる」
奈落は徐々に教室へ近づいていく。
だが教室の前で足が止まる。
扉に手をかけはしたものの、その手が動くことはない。
「大丈夫だよ。だって私は、頑張れるんだから」
奈落は勢いよく扉を開けた。
その瞬間、教室中の全員の視線を浴びた気がした。
「大丈夫。大丈夫」
そう自分に言い聞かせ、自分の席へつく。
しばらく経っても誰も彼女に声はかけない。
奈落は周囲の生徒が自分を見てクスクス笑っている錯覚に陥るが、深呼吸して呼吸を整える。
やがてホームルームが始まり、そして終わると同時に急いで女子トイレへ駆け込んだ。
「はぁ、疲れたぁ」
「大丈夫か」
「うん。思ったより平気。だから、全然大丈夫だよ」
奈落は鏡の自分と向き合い、両頬を持ち上げて笑みをつくる。
「うん。大丈夫。私なら大丈夫」
必死にそう言い聞かせる。
そして彼女はトイレを出ると、すれ違いで女子生徒が入ってくる。
ふと振り返るが、既にその女子生徒は個室へ入っていた。
「どうした?」
「ねえ、今何となく悪魔の気配を感じた気が……」
「そんなわけねえだろ。つまりここに魔神やその仲間の女がいるってことになるだろ。そんなリスク冒す意味が分からん」
「そ、そうだよね。気のせい……だよね」
奈落は気になりつつも、視線を逸らした。
その後も奈落が授業を受け続け、四限の体育の時間、体育の先生が二人組を組むように言った。
奈落が一人動揺していると、一人の女子生徒が奈落のもとに近づいてくる。
「奈落さん、私と一緒に組みませんか」
頭の左右に巻き髪をした黒髪の少女。
彼女は優しく奈落に手を差し伸べた。
「私は魔鍋綺羅。よろしくね」
奈落が彼女の手をとり、一緒に体育の授業を受けた。
今回の授業はテニスだった。
奈落は多くへ飛んだ玉にも素早い速さで追いつき、高く飛んだ玉も高い跳躍力でラケットに収めた。
「奈落さん運動神経良いね。何かやってたの?」
「うん。ちょっとね」
奈落は魔鍋が変に飛ばしたボールも上手く相手の打ちやすい位置へ飛ばすため、長いラリーが続いた。
そのため二人は楽しい時間を感じていた。
「奈落さんが結構とってくれるから、めっちゃラリーが続いて楽しかったよ」
「私も魔鍋さんとラリーできて楽しかったよ」
二人は熱い握手を交わした。
昼休みは一緒に食事をとり、その後の授業も持ってきていない教科書を見せてもらい、休み時間に他愛もない会話をして、そうやって放課後を迎えた。
「今日はありがとう。またね」
二人きりの教室。
楽しく話している間に放課後を迎えていた。
魔鍋が帰ろうと奈落へ手を振ったところで、奈落は意を決して口を開く。
「ねえ、どうして魔鍋さんの中には悪魔がいるの」
魔鍋は目を見開き、奈落を凝視する。
その後、悲しげな目でため息をこぼす。
「あ~あ、せっかく友達になれたのに」
直後、魔鍋の背後から漆黒の龍が現れる。
「ごめんね奈落さん」
やがて龍は学園中の窓を破壊するほどの大音量で雄叫びを上げる。
「始めるよ。バハムート」




