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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.74『奈落魔宵救出作戦/漆黒』

 結界の崩壊とともに現れた一国千代。


「クリスタルさん、彼女は一体……」


 片目を閉じたまま無月がクリスタルへ問いかける。


「彼女はかつて掟を破り、異世界流しの罰に遭ったかつての接続者だ。そして彼女もまた、魔神と同様黒廻家と契約を交わした接続者だ」


「黒廻家……」


 クリスタルが彼女を見る中、魔神が呟く。


「無月、お前はまだ若い。だからこそ魔法戦には慣れていないのだろう」


 無月は片目だけを魔神へ向ける。

 表情は変えず、黙って彼の言葉を聞く。


「結界の強度は内側から外側への強度に全振りした。俺の仲間がいないと思い込み、俺個人を捕らえるためだけに結界強度をそうした。それがお前の敗因だ。もし外側からの攻撃にも強度を強く設定していれば、俺を捕らえ続けることはできたのにな」


 魔神のもとへ龍が降りる。

 魔神は龍に乗る。


「お姉ちゃん」


 千代のもとへ一国百が駆け寄る。


「よお百、元気にしてたか」


「お姉ちゃん、どうしてその男なんかと……。その男は接続者狩りなんだ」


「そうだな。それは知っている。だから、協力したんだ」


「……え?」


「私は彼とともに現代の魔法界を崩壊させる。そのために私はこれから戦う」


「それって……」


「私は魔神とともに世界を破壊するってことだ」


 千代が語ることを、百はただ呆然と聞くことしかできなかった。

 かつて尊敬した姉が、今では悪へ堕ちようとしている。


「駄目だ……、駄目だよ……」


 百は正義の味方として生きようとした。

 けれど、自身の姉が悪へ堕ちたのを前に、その悪を打倒することはできなかった。

 歩みを進めることもできず、ただ呆然と立ち尽くす。


「…………」


 千代は百から視線を逸らす。


「結局俺を捕まえられなかったな、十星騎士団。その上、戦力の一人であるシュヴァルは死んだぞ」


 魔神の視線はクリスタルを貫く。


「魔法界じゃ俺は殺せないか」


「今殺してやる」


 クリスタルは魔神の周囲へ水の槍を出現させる。

 しかしそれらは全て黒い霧によって消失した。


「なぜディアボロスが二体も……」


「多分あれは本体のコピーです。黙示録の魔術は悪魔のコピーを出現させることもできます」


 奈落がクリスタルに告げる。


「厄介だな」


「だからな、こういうこともできるんだよ」


 千代が微笑み、両手を祈るようにして構えた。

 次の瞬間、クリスタルの背後に炎を纏った龍が出現した。


「くっ……、まさか……!?」


 突如背後に出現した炎龍にクリスタルは驚きを隠せない。

 すぐそばには奈落もいる。


「燃やし尽くせ」


 炎龍の口から青い炎が波のように押し寄せる。

 クリスタルは自身の前方に分厚い水の障壁を出現させる。

 特大の火炎と特大の水流がぶつかり合い、激しく水蒸気が入り乱れる。


 クリスタルは咄嗟に奈落を掴み、吹き飛ばされないように支えた。


「『必中(クリティカル)』」


 千代の右腕を弾丸が貫き、炎が止んだ。


「必中魔法……チートだな」


 千代は自身の腕を回復系の悪魔の能力で癒しつつ、戦況を俯瞰する。


「この場には十星騎士団は五人。その上厄介な必中魔法もある。早く撤退しなければ危険なのは変わらない」


「そうだな。では早急に撤退するか」


 魔神は黒い霧を遠隔地へと出現させようとしていた。

 だが──


「『結殿』」


 再び無月の結界が覆う。


「早い。あんな短時間で結界を再構築したのか」


「逃がさない」


 無月は右目を閉じたまま魔神を見つめる。


「いや、再構築を急いだ分、雑な結界になっているぞ」


 魔神は結界へ向けて火炎、稲妻、暴風を放つ。

 結界は軋む音を立てながらも、必死に原型を維持している。


「意外としぶといな……」


 空中で結界を攻撃し続ける魔神。

 そこへ水の槍が雨のように吹き荒れる。


「なんて魔力出力……」


 咄嗟に千代が黒い霧で防ぐが、その圧に押されていた。


「黒い霧でも分解できる限界はあるだろ。だからこそ威力の高い攻撃には黒い霧を集中させていた」


 クリスタルはこの短時間で黒い霧の突破口を見出だしていた。


「水溶液と一緒だ。このまま攻撃を浴びせ続ければお前は直に耐えられなくなる」


「まだ結界は壊れないのか」


 千代は魔神へ訴えかける。

 魔神のもとには魔法剣と魔法槍を持った二人が息の合ったコンビネーションで攻めてきていた。


「いつの間に……」


 魔神は攻撃をかわしつつ結界を破壊しようと試みるが、攻撃を完全にはかわしきれない。

 息の合った連携に次々と攻撃を浴びてしまう。


「仕方ない。あいつを使う」


「……っ!」


 千代は魔神が何をするつもりか理解していた。

 剣と槍をそれぞれ振るう二人は、より一層速度を加速させる。


「何をするつもりか知らないが、ここでお前を倒──」


 魔神が両手の手のひらを下に向け、重ねる。

 手のひらからこぼれ落ちるのは赤く輝く球状の火だった。


「…………」


 特大の爆発が周囲一帯を飲み込む。

 爆発的な威力に、十星騎士団の面々は皆全身を黒く焦がして倒れている。

 結界は爆発によって崩壊し、爆発の余波は結界外にも響いた。


 外にいた奈落や二月らも爆風に飲まれ、火傷を負った。


 千代と魔神も全身を黒い霧で覆ったが、あまりの爆発の威力を分解しきれず、全身に激しく火傷を負っていた。

 だが十星騎士団の面々ほどではなく、まだ動くことはできる。

 しかし二人が乗っていた龍は死亡し、二人は落下していた。


「この手を使わせやがって……」


「すぐに龍を召喚し、撤退する」


 千代は祈るように手を組み、ディアボロスの分身が召喚される。


「まずい。今のでほぼ魔力使い切った。ごめんだけどあとは頼んだ」


 千代は龍に乗り、魔神も乗り込もうとしていた。


「お姉ちゃん!」


 唯一、百は爆風の傷はなかった。


「お願い、戻ってきて」


「私は決めた。魔法界を滅ぼすと。だからもう、戻れない」


「戻ってこれないわけないじゃん。お姉ちゃんはボクを爆風から守ってくれたんでしょ。でなきゃボクが無傷なはずがない」


 百は必死に訴えかける。

 しかし千代は目を閉じ、必死に顔を逸らした。


「ごめん。私は──」


「死ね」


 魔神が百へ稲妻を放とうとしていた。

 刹那、黒い霧が百を覆い、魔神が放った稲妻はかき消された。


「これは……そうか。奈落がいたな」


 百は奈落を驚いた目で見る。

 奈落のそばには傷を負ったディアボロスがいる。


「奈落、お前がまだ戦うのは誰のためだ。黒廻はお前のために喜ばない。誰もお前のために喜んでくれはしない。なら、てめえは誰のために戦ってんだよ」


 魔神は奈落へ鋭い言葉を投げた。

 感情的になり、窮地に追い込まれた戦いが勝利目前という過信もあり、魔神の魔力感知は緩んでいた。


 だからこそ、彼の背後に膨大な魔力を纏った拳を纏いながらも、直前まで気付かれずに接近できた。


「──っ!?」


 燃える拳を握り締めて──


「『火拳槌(カグヅチ)』」


 穂琉三の右拳に纏われていた膨大な魔力は全て炎へ変換され、その拳を勢いよく魔神へ叩きつけた。

 魔神は魔力による防御も黒い霧による無効化もできず、ただただ吹き飛ばされた。


「貴様っ!」


「てめえが奈落さんを知った風に語るんじゃねえ。彼女はとても優しいんだ。その優しさを利用して、傷つけてんじゃねえよ」


 穂琉三は怒っていた。


「弱者が吠えるな」


 魔神は青く燃える炎を手のひらに宿し、穂琉三へ突撃する。

 穂琉三もまた真っ赤に燃える拳を握り締め、前方の魔神へ一直線に駆ける。


「てめえはここで殺す」


 青い炎が穂琉三へ放たれようとしていた。

 それを見て、全身を黒く焦がしながらも、無月が手を伸ばした。


「ようやく魔力の底が見えてきたな」


 無月の手は魔神へ。


「『魔籠(まごもり)』」


 魔神の手に宿っていたはずの青い炎が消えていく。

 それどころか、魔力を練れない。


「これは……アタナシアの……」


「やっちまえ」


 無防備に身体をさらけ出した魔神へ、穂琉三の拳が叩きつけられる。


「『火拳槌(カグヅチ)』!」


 魔神は顔を焦がしながら吹き飛んだ。


「っ!!」


 吹き飛んだ先では龍に乗った千代が受け止める。


「日向穂琉三……」


 魔神を受け止めた千代はそのまま浮上した。

 全員の頭上で、魔神は言う。


「間もなく世界は悪意で満ちる。君たちはその世界でどう生きるんだろうね」


 魔神のその言葉はどういう意味なのか。

 全員が知ることはなく、魔神は千代とともに龍に乗って去っていった。


 やがて魔神の仕込んだ闇が、世界へ向けて放たれる。

 その時、彼らは──

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