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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.73『奈落魔宵救出作戦/陸』

 シュヴァルは死んだ。

 魔神は笑みを浮かべて死体を見下ろす。

 それを見て、一国は感情を見失っていた。


「どうして……お前が……」


 二月は薄く目を開けて問いかける。


「言っただろ。俺は魔法使いは全て殺すと。だから殺しただけの話だ」


「全部……お前の狙いどおりだってのか……」


「そうだな。奈落魔宵は自首をする。そうするよう誘導したからな」


 奈落は驚いた目で魔神を見る。


「そう驚くな。そもそもお前を接続者に選んだのは最初からこのためだ。お前は黒廻冥に母親としての存在価値を見出だし、結果、黒廻を利用して自首させただけのこと」


「ぁ…………」


 奈落の目は曇る。

 瞳から涙が溢れる。


「まさか本気で黒廻がお前を愛してくれていると思っていたのか。お前、何も見えていないんだな。最初から黒廻冥はお前に何も抱いていない。ただ俺の命令を遂行していただけだ」


「あぁ…………」


 涙が止まらない。

 溢れるばかりの涙を奈落は押さえる。


「泣いている暇はないぞ。次はお前らだ。ここでお前ら全員殺す」


 魔神は微笑み、全員を見る。


「さあ、全員仲良く、死んじゃえよ──」


 魔神の手に青い焔が灯る。

 直後、振るわれる青い焔。

 一瞬で場を青い炎が埋め尽くした。


 ──かに見えた。


「……は?」


 目の前の光景を見て、魔神は疑問符を浮かべる。

 視線は宙に浮かぶその存在へ。


「おいディアボロス、何のつもりだ」


 闇龍の悪魔(ディアボロス)が黒い霧で奈落たちを覆い、青い炎を防いでいた。


「他の接続者がどうなろうと構わないが、奈落魔宵だけは殺させない」


「おい、この先に起こすことは伝えたよな。その上で、これがお前の判断か」


 魔神の声は怒りに震えていた。


「その通りだ。私は奈落魔宵についていく」


「なら、お前も殺そうか」


「やってみるか。ガキ」


 ディアボロスと魔神の間を殺意が行き来する。

 魔神は両腕に青い炎を浮かべるとともに、ディアボロスも全身に黒い霧を覆う。


「てめえの霧はあらゆる魔法を魔力へ分解する。その上、黒い霧にはワープ能力もある。魔力や剣などによる攻撃も別の場所に出現させた黒い霧へワープさせる。じゃあどうすればお前を殺せるか、簡単な話だろ」


 魔神は水流のように地上を移動する。


「今のお前は奈落に召喚された。だったら完全顕現は不可能だし、いつまでも魔力が持つはずがない」


 魔神は大量の炎をディアボロスへ浴びせる。

 ディアボロスは必死に黒い霧で防ぐ。


「いつまで持つかな。ディアボロス」


「グッ……」


 ディアボロスは全身を黒い霧で覆っていたが、炎を浴び続けたことでわずかに隙間ができた。

 魔神はそれを見逃さない。


「落ちたな」


 黒い霧の隙間を縫って、青い炎がディアボロスの鱗へ届く。

 鱗の隙間を縫って、炎が悪魔の身体を焦がす。


「アアアアアアアアア」


「終わりだ」


 魔神は畳み掛けようと火力を強めた瞬間、空から雨が降る。


「は……?」


 視線を泳がすと、奈落が両手で祈るようなポーズをとっていた。


雨の悪魔(レイン・デビル)


「低級悪魔で俺を止められると思ったのか。なあおい、火に油って分からないかな」


 魔神は鋭い眼光を向ける。

 それでも奈落はやめない。


「私の仲間を傷つけないでよ」


「うるさいな。たかが贄が」


 魔神は雑に腕を振るった。

 その動きとともに青い炎が奈落を襲う。


「『王水(アクルシウス)』」


 分厚い水の壁が炎の到達を防いだ。

 魔神は魔力感知により新たに戦場に現れた気配に気付いていた。


「もう来たのかよ。十星騎士団ども」


 奈落の背後には、青い髪をポニーテールで束ねた女性が立っていた。

 服装は白く、背中には星座が刻まれている。

 その他にも五名の魔法使いが新たに現れる。


「魔神零。ここで貴様を確実に捕らえる」


「ちっ。てめえか。アルス家の女」


「貴様はこの私、クリスタル・アルスが捕らえる」


「やってみろよ。血統だけの魔法使いがっ!」


 魔神の背後に突如出現した水の槍。

 水が螺旋状に渦巻いており、それが槍の形状を維持している。

 間もなく、魔神へ槍が放たれる。

 魔神は自身の背後に黒い霧を出現させ、水の槍は黒い霧に飲み込まれて消失した。


「なるほど。黙示録の魔術は悪魔の力を自身で引き出すこともできるわけか。だが、いつまで魔力が持つかな」


 水の槍が無数に飛び交う。

 魔神は全てを黒い霧で防ぎ続ける。


(ちっ、早く遠くへ転移を……)


「逃がすなよ。無月(むつき)


 クリスタルのすぐそば、右目だけを閉じる男が指を結う。


「『結殿』」


 半径三十メートルを巨大な半透明の結界が覆う。


「ちっ。アタナシアか」


 魔神は結界に向けて稲妻を放つが、結界が崩壊することはない。


「今回の結界強度は花園とは格段に違いますよ」


 魔神は逃亡が失敗に終わる。

 その背を、二人の魔法使いが襲いかかる。

 一人は剣を握り締め、もう一人は槍を構えている。


 魔神は水流のような移動で二人の斬撃をかわしていく。


 ──が、


「『雷電(サンダーボルト)』」


 かわした剣からは電気が弾け、魔神へ向けて稲妻が放出される。

 黒い霧を正面に集中させ、なんとか稲妻を防いだ。

 だが背後、槍が迫る。


「『氷結(フリーズ)』」


 冷気が流れ、魔神の足を氷が覆い始める。

 咄嗟に上空へ飛んで回避するが、


「『必中(クリティカル)』」


 遠くから放たれた弾丸が魔神の左腕を貫いた。


(厄介……)


 魔神は魔力感知により敵五人の居場所を完全に把握した。

 既に奈落や穂琉三らは結界の外に移動されており、人質にはできない。


(この場にいるのは王家魔法のアルス家、魔力操作のアタナシア家、魔法剣一族のソードクイン家二人、そして必中魔法のアブソリュー家)


 魔神は両足の氷を溶かしつつ、冷静に状況を俯瞰していた。


 ディアボロスの黒い霧を結界外へ出現させ、外へワープすることも考えたが、無月の造り上げた結界は優れていた。

 内側から外側へ魔力を通すことができない。それほど精巧に練られた結界。

 そのため、黒い霧によるワープも行えない。


「この状況じゃ俺は死ぬな」


「当然だ。格上の魔法使い五人の包囲されて、生き残れると思っているのか」


 未だ冷静な魔神に対し、クリスタルは煽るように言った。


「当然だ。俺はあらゆる事態を想定している。だから──」


 結界は崩壊する。


「壊れた……?」


 無月は驚き、片目を閉じたまま空を見上げる。

 空には巨大な龍が浮かんでいた。


「あれは……」


「ディアボロス……!?」


 奈落は驚き、空を見上げる。

 なぜなら奈落のそばには火傷を負ったディアボロスが倒れていたからだ。


「あれは一体……」


 新たに出現したディアボロス。

 それを見て驚く者がもう一人。


「お姉ちゃん……」


 一国の視線は龍の背、そこに乗る女性に向けられていた。


「久しぶりだな、百。元気にしてたか」


 一国千代。

 かつて異世界流しに遭った彼女は、闇龍の悪魔に乗って現れた。

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