物語No.72『奈落魔宵救出作戦/伍』
闇の龍が戦場に舞う。
体長は五メートルはある。
その巨体が闇とともにシュヴァル目掛けて落下する。
「あれは……」
シュヴァルは目を細めて悪魔を見る。
「そういうことか」
龍の巨体を真正面から受け、シュヴァルは百メートル以上吹き飛んだ。
幾つもの建物が倒壊し、瓦礫が降り注ぐ。
「あの悪魔は……」
一国は薄目を開けて悪魔を見る。
身体の所々を闇で覆った龍の悪魔。
瓦礫に埋もれたシュヴァルは、全身から雷を放って瓦礫を吹き飛ばした。
シュヴァルの身体は傷を負っていた。
「あくまでも魔法防御に特化した鎧。物理攻撃は効いているみたいだな」
立ち上がったシュヴァルを見て、一国がそう呟く。
「ちっ。相変わらず厄介な能力だな」
シュヴァルは悪魔を見て不敵に微笑む。
「『王雷』」
シュヴァルの背後の魔法陣から、稲妻が悪魔に向かって轟く。
しかし稲妻は悪魔を覆う黒い霧に阻まれ、消失した。
「本当に厄介だな。あらゆる魔法の無効化は」
闇龍の悪魔が纏う闇は、あらゆる魔法を無に帰す。
「だが、結局のところ魔法の無効化というのは、魔力によって構築された魔法を、再び魔力へ戻す回帰的なもの。つまり魔力による攻撃は通してしまう」
シュヴァルは人指し指に魔力を集中させる。
魔力は圧縮され、やがて悪魔目掛けて放たれる。
「……っ?」
シュヴァルは魔弾を放った。
だが悪魔を覆う黒い霧は、魔力の弾丸も飲み込んだ。
「てっきり魔法の無効化だと思っていたが、魔力をも無効化させたか……」
シュヴァルは自身の推測が外れ、笑みを消した。
巨体が突進を仕掛ける。
シュヴァルは稲妻のような速度で回避するが、悪魔はシュヴァルを追いかけ続ける。
(この黒い霧の中じゃ魔法による速度上昇も効果が薄れる。……はずなのに、なぜ奴の霧は魔力をも飲み込む)
悪魔の突進をかわし続けるシュヴァルだったが、悪魔に動きを読まれて重い突進を受けてしまった。
シュヴァルは瓦礫に叩き落とされる。
そこへ悪魔が巨体を突撃させる。
激しく瓦礫が舞い、砂ぼこりが激しく吹き荒れる。
悪魔が飛び上がって瓦礫を眺めていると、シュヴァルが顔や腕から血を流しながら現れた。
黄金の鎧にも亀裂が走っている。
(分からない。なぜ魔力まで……。まさか魔力による全ての攻撃を無効化できるのか……いや……)
シュヴァルが考えている最中にも、悪魔が突進を仕掛ける。
寸前でかわすが、折り返した悪魔の翼撃に撃たれた。
(まずい……。なんとかしなければ……)
吹き飛ぶシュヴァルの視界に映ったのは、穂琉三のもとでしゃがみこんでいる奈落の姿だった。
(悪魔を召喚したのはあいつだったな)
シュヴァルの瞳は怪しげに奈落を見る。
その間にも悪魔が翼を広げて追撃を開始していた。
「さて、どう攻略するか」
シュヴァルは策を巡らす。
その間、静かに、ひっそりと、闇に潜んだ彼が指を向ける。
「『魔弾』」
闇を突き進む弾丸が、シュヴァルの鎧の亀裂が入った部分へ直撃した。
魔弾は鎧を砕き、心臓を貫いた。
「……っ!?」
シュヴァルは心臓を押さえ、溢れる血が付着した手を眺めて呆然とする。
「シュヴァル・アルス。お前は花園で姿を見せなかったから九年ぶりか」
「その声……」
闇の中、シュヴァルの心臓を撃ち抜いたのは──
「あれは……魔神零……!」
一国はシュヴァルの背後に立つ人物を垣間見た。
シュヴァルの背後に、魔神が黒い霧を纏って現れた。
「ずっとお前のことは殺そうと思っていた。だがお前には俺じゃ勝てない。だから、策を立てた」
「どこからが……お前の策だ……」
心臓を押さえながら、ゆっくりと振り返る。
苦しむシュヴァルを見て、魔神は微笑む。
「さあ、どこからだろうな」
魔神は人指し指を銃口のようにシュヴァルの後頭部に突きつけた。
「じゃあ死んでお別れだな。俺の嫌いな魔法使い」
シュヴァルの頭を魔力の弾丸が貫いた。
頭からは血がドクドクと噴き出し、死体が一つ横たわる。
「あーあ、死んだら王冠は空虚に帰るのに、どうして王にこだわったんだろうね。君は」
死に行く彼を、魔神は見下した。




