物語No.71『奈落魔宵救出作戦/肆』
シュヴァルVS愛六の戦いが始まる。
シュヴァルの背には電気で魔法陣が描かれ、愛六の周囲には無数の水玉が浮かぶ。
「『王雷』」
シュヴァルの背の魔法陣から稲妻が放たれる。
愛六へ真っ直ぐに向かう稲妻だったが、愛六の周囲の水玉をなぞって軌道が逸れた。
「厄介だな」
雷は愛六へ当たらない。
「なら、別の魔法を使えば良い」
シュヴァルの背の魔法陣が赤く変色する。
「『王炎』」
背の魔法陣から真っ赤な炎が腕のように愛六へ向かう。
「ちっ」
炎は愛六の周囲の水玉を容易に蒸発させ、愛六はすぐさま横へ飛んで回避する。
そこへすかさず、
「『王雷』」
「──っ!!」
間一髪、水玉を生成して稲妻の軌道は逸らした。
だがギリギリ。
あとコンマ一秒でも遅れていれば雷は直撃していた。
「粘るだけ無駄だ。すぐに死ぬ」
背後、雷が光る。
「『嵐槍』」
風を纏った槍が雷と衝突する。
雷は霧散し、槍は潜んでいた男のもとへ戻る。
五蝶のもとに戻ってきた槍は手もとへは行かず、足下へ着地する。
「さすがに槍には触れられないか。だったらもう投げられないな」
槍は雷を浴びて帯電している。
そのため触れれば電気が流れる。
「瀧戸家の娘も、いつまでも魔力が持つわけじゃない。そうやって最後まで凌ぐつもりか」
会話の途中で愛六はシュヴァルの後頭部に水玉を出現させ、即座に膨らませた。
──が、水玉が出現する以前に、遠距離で魔法を放つ際に生じる空間の歪みを感じ取り、たった数歩動いてかわした。
「全て無駄だ」
「槍よ、あの男を貫け」
五蝶は足下に落ちている槍には命令し、槍は風を纏ってシュヴァルへ突撃した。
「投擲に比べて遥かに劣る速度だな」
槍は稲妻に叩き落とされた。
「アリア家の詠唱魔法はお前では百パーセント扱えない。というのに、健気に魔法を極めているのか」
続けて五蝶へ稲妻が降る。
しかし金髪金眼の二月が雷手で弾いた。
「そんなはずはない。誰だって無限の潜在能力を秘めているんだから」
「二月、お前が言っても説得力にはならないだろ。だってお前は才能を持っている側の人間。才能を持っていなかった奴が才能を発揮して初めて、それが言えるんじゃないか」
二月の周囲を稲妻が圧縮された小さな玉が飛び交う。
「あれは……」
稲妻の玉は膨張し、稲妻が周囲に解き放たれる。
二月は飛び交う稲妻を防ぎきれず、全身が浴びる。
「少しやり過ぎたか」
全身が麻痺してもおかしくないほどの電流を受けた。
倒れるかと思われた矢先、二月は高速で大地を疾走し、シュヴァルのすぐ正面まで迫った。
「死んでいてもおかしくないというのに。これはヒーリング家だな」
二月の手のひらから爆発するように稲妻が解き放たれる。
しかしシュヴァルの鎧は稲妻を吸収した。
「効かないと言っていなかったか」
シュヴァルの拳が二月の腹に深くめり込む。
二月は嗚咽を漏らし、吹き飛んで地面を転がる。
「さて」
シュヴァルは魔力感知により、夏恋の居場所を発見する。
「対電気属性の魔法、並びに回復魔法による支援。支援魔法を扱う魔法家の中でも、ヒーリング家はあらゆる支援に精通している。さすがと言ったところだな」
夏恋の頭上に稲妻が発光する。
夏恋は自身に対電気属性魔法〈解雷〉を付与する。
〈解雷〉は自身に触れた魔法によって生成された電気を、魔力へと戻す。
「生憎と、意識を一つに割けば隙ができる」
夏恋は頭上に意識を集中させ、足下が疎かになっていた。
足下を火炎が迸り、真っ赤な柱が立ち上る。
同時に雷も落ちる。
「へえ、寸前で防いだか。それと、君も反応していたんだね」
夏恋は咄嗟に四肢以外を対火属性魔法〈耐火〉で覆っていた。
「なるほど。重要な心臓や頭を守り、四肢の防御は捨てたか」
その上、愛六も夏恋の足下から火炎が放出されるのに気付き、夏恋の足下に水玉を生成していた。
それでも夏恋は重傷を負った。
四肢は焼け焦げ、顔は傷だらけ。
「対魔法は完全に防げるわけではない。あくまでも君の魔力量に依存する。俺の魔法は少しずつお前を殺していく」
夏恋は回復魔法で傷を治すが、治りは遅い。
「回復してもまた攻撃するだけだ。それに支援魔法では支援をするだけ。他が倒れれば無意味だ」
「無意味なんかじゃない。きっと、もう少しで……」
夏恋は魔力の激しい消耗によって疲労感に襲われた。
足が立つ気力を失い、地面に倒れる。
「恋する乙女は……最強……なんだよ…………」
必死に全身に力を込めようとする。
しかし身体は動かない。
「さあ、掃討だ」
空には再び百の雷。
愛六が再度水玉を無数に生成するが──
「だめっ……。捌ききれない」
百の雷が降り注いだ戦場には、立っている者はシュヴァルだけだった。
「この程度だ。所詮、子供が私に敵うはずはなかった。最初から分かってほしかったんだがな」
シュヴァルはため息をこぼしながら、穂琉三のもとへ向かう。
「まずはお前から殺す」
シュヴァルの手には電気が溜まっていく。
やがて電気は激しく動き回り、シュヴァルの手から放たれた。
電気は穂琉三を──
「──お願い」
刹那、漆黒の霧が戦場に満ちる。
電気は霧に殺されていき、やがて漆黒の巨体が空に出現する。
「これは……」
空に浮かぶ漆黒の龍。
「みんなを助けて。〈闇龍の悪魔〉」
「その願い、聞き届けた」
奈落の願いを聞き届け、闇を纏いし龍が降る。




