物語No.70『奈落魔宵救出作戦/参』
隣接した工場でネクロVS愛六、五蝶、夏恋の戦いが行われる中、
雷によって崩壊したビル群が瓦礫となり地面に積もった戦場にて、
シュヴァルVS一国、二月の戦いが行われていた。
「『王雷』」
「「『王雷』」」
シュヴァルの雷と、一国と二月が放った雷がぶつかり合う。
シュヴァルの雷の威力は、一国と二月が揃って放った雷にも優るほどだった。
「おい百、本気で俺を倒すつもりだったのか。この程度でよく俺に挑めたな」
残る魔力量でもシュヴァルが優る。
全てにおいて、一国と二月はシュヴァルには敵わない。
「はあ、やっぱりお前は強い」
「分かっていたことだろ。その様子だと、本気で俺に勝てると思っていたんだな」
シュヴァルは深いため息を漏らす。
「今ここでお前を終わらせる。悲しいよ」
「そうだな。じゃあ──」
一国の魔力は膨れ上がる。
やがて空には十の魔法陣が出現する。
「『十重奏・王雷』」
シュヴァルの周囲を十の落雷が襲う。
しかし全てがシュヴァルに当たるわけではなく、そのほとんどがシュヴァルの周辺に落ちてしまっていた。
シュヴァルは自分に命中する雷は巨大な黄金の盾で防ぐ。
「範囲を拡大しただけの技なんか、大量の雑魚を葬る時しか役に立たないって分かってないのかな」
半ギレでシュヴァルは言う。
だが一国は続ける。
更に畳み掛けるように、二月も十の雷を降らせた。
「二人揃って魔力の無駄遣い。そんなんだから死ぬんだよ」
シュヴァルは右手を二月へかざす。
手には魔力が集まり、ビリビリと放電し、その電気が手の中に圧縮されている。
「死ね」
間もなく電気が放たれようとした刹那──
「『火拳螺』」
シュヴァルの背後から、落雷をくぐり抜けた少年が激しく燃える炎の拳を顔面に叩きつけた。
燃える拳は渦を巻き、シュヴァルを一歩後ろに下がらせた。
炎拳の主はカラスに乗った穂琉三だった。
「作戦通り。一気に畳み掛けるぞ」
シュヴァルの足は片足だけが地面についている。
今のシュヴァルはまともに回避できないと判断した一国と二月は、放っていた十の雷の軌道を曲げ、盾を横切りシュヴァルに浴びせた。
全ての雷が命中する。
一国が微笑みを浮かべる中、カラスに乗って上空へ避難していた穂琉三は違和感を感じていた。
「なんだ……!? まるで炎が通らなかった」
穂琉三は奇襲によってシュヴァルに一撃を入れた。だがまるで見えない鎧を纏っていたかのような感触だった。
(炎の拳は気付かれていて、防がれた……!?)
穂琉三の脳裏にそんな推測が浮かぶ。
二十の雷に撃たれたシュヴァルへ目を向ける。
「な……っ!?」
シュヴァルは無傷だった。
その代わり、全身を黄金の鎧で覆っていた。
「何だ……あれは……!?」
シュヴァルの手は穂琉三へ向けられる。
「お前らの策は全て分かっていた。だが、お前の一撃は、ほんのわずか俺の想像を上回った」
シュヴァルの手から圧縮された電気は雷のように放たれた。
電撃はカラスを消滅させ、穂琉三の左腕の甚大なダメージを負わせた。
「カラスから飛んで直撃を回避したか。だがあまりにも無防備だ」
穂琉三の頭上に出現する雷。
雷は穂琉三へ降る。
だが一国が雷をぶつけ、軌道を逸らした。
落下する穂琉三を二月が受け止めた。
「その武装は何だ……」
一国は悔しさを噛み締めながら問う。
一国が見つめるのはシュヴァルが纏う黄金の鎧。
垂れていたはずのシュヴァルの金髪がかき上げられ、瞳は黄金に輝いている。
「王鎧。真に王家魔法に選ばれた者が獲得できる王の武装だ。この武装はあらゆる魔法を防ぐ絶壁の鎧」
だからこそ、二十の雷を受けても尚、シュヴァルは無傷だったのだ。
「策が分かっていたと言っていたな」
「当然。お前らは多くの雷を降らせることで、外から侵入していたあいつを魔力感知で悟らせないようにした。だが俺の魔力感知はそんな精度の低いものじゃない。魔法特有の魔力の中に人の魔力があっても気付ける」
「…………」
一国は策が最初から通用しなかったと悟ってしまった。
──敵わない。
一国の脳裏には過ってしまった。
「当然あいつの接近を気付いていたから、拳が当たる寸前で顔に魔力を集中させた。君たち程度なら魔法を使うまでもなく、魔力防御で足りると思った。だが、彼は俺の想像をほんのわずか、些細な程度上回った。それによって体勢を崩し、二十の雷を浴びかけた」
しかし無傷だった。
「本当はこの鎧を使うつもりはなかった。子供相手に大人がナイフを持って戦うようなものだからね。でも仕方がなかった。そうしていなければ重傷を負っていた」
シュヴァルは握り拳を見つめる。
「だから殺そう」
シュヴァルの殺意は穂琉三へ向けられる。
彼の行く手を一国と二月が塞ぐが、素早い身のこなしと打撃によって気付いた頃には地面に倒れた。
「……っ!」
一国と二月は立ち上がろうとするが、全身が痺れて立ち上がれない。
二月の腕から落ちた穂琉三を、シュヴァルは蹴り飛ばす。
地を転がりながらも、薄れ行く意識をなんとか保っていた。
「しぶといな。だが、もう終わる」
穂琉三の上空には百の雷が出現する。
「『百重奏・王雷』」
轟轟と降り注ぐ雷。
一国は死に物狂いで手を必死に伸ばすが、魔力は既に空っぽだった。
「日向……」
雷は穂琉三へ落ちる──
「『水面流し』」
雷の落下地点には無数の小さな水玉が出現し、それらは穂琉三から離れた場所へと連なる。
雷は水玉に沿って移動し、百の雷は一つも穂琉三に直撃しなかった。
「おいおい、私のダチに何してんだよ」
声の先、そこには瀧戸愛六がいる。
「瀧戸家の娘か」
シュヴァルは愛六を睨む。
愛六は動じず、一歩ずつ歩みを進める。
「ダチに手ぇ出したんだ。私の怒りを受けてもらうぞ」
愛六の周囲に出現する無数の水玉。
大してシュヴァルの背後には電気で魔法陣が描かれる。
「邪魔をするなよな。瀧戸」
「邪魔はお前だ。私たちの青春に割り込んだことを、後悔させてやる」




