物語No.65『一国百の答え』
ボクの正義はあの日、潰えたんだ。
あの日、姉は異世界流しに遭った。
でも仕方がない。
姉は掟を破ったんだから。
ボクはルールを破る人間が嫌いだ。
だから、姉も……
ボクの正義は正しかったのかな。
今でも考えている。
いや、とっくに答えは出ているんだ。
ボクは正義なんていらない。
ボクのそばには姉がいてほしかった。
ボクがルールを信じたのは、理不尽に不幸になる未来から遠いと思ったからだ。
でも、それは悪用もされる。
全てを裁けるわけじゃない。
ボクの姉はそのせいでいなくなった。
だから、変わるべきなんだ。
変わらなきゃ、大切な人を失ったあの日ままだ。
またボクは同じことを繰り返してしまう。
日向穂琉三。
ボクもお前のように戦い続けるべきだったんだ。
異世界に流された姉を救うために、あの男たちと。
力がなければ……。
部分的に間違っていたか。
お前のように仲間がいれば、ボクも姉を救えたのかな。
まだボクはやり直せる。
まだ道はある。
だからお姉ちゃん、待ってて。
必ずお姉ちゃんに会いに行くから。
♤♡◇♧
一国と穂琉三らとの戦いは終わった。
一国はしばらく床に仰向けになり、空虚を眺めていた。
やがて彼は答えを見つけた。
「なあ、日向」
一国のそばには穂琉三、二月、夏恋、愛六がいる。
既に穂琉三と二月は夏恋の支援魔法によって傷を治していた。
「何だ?」
「ボクも協力してやる」
「……え?」
「だから、ボクも奈落の救出に手を貸すって言ってんだ」
驚いたのは穂琉三だけじゃなかった。
二月も夏恋も、一国の言動の変化に驚いていた。
「どういうつもりだ」
「考えが変わったんだ」
「ねえ、君は言っていたよね。誰を信じようと、誰を守りたいと思おうと、全部無駄だって。君の過去に何があったの」
穂琉三は見抜いていた。
一国の抱える苦しみを。その涙を。
一国はしばらく考え、重い口を開いた。
「ボクの姉は十星騎士団によって異世界流しに遭った」
全員が驚愕する。
「姉は掟を破ったけど、その掟を伝えられていなかった。あの時、すごく辛かったんだ。苦しかったんだ。でも、どうしようもなかったから。あの時のボクは接続者じゃなかったから。だから、救えなかった」
一国の口調からどっと後悔が伝わる。
「それなのに奈落を救おうとする日向を見て、嫌だったんだ。ボクは姉を救えなかった。なのにもし奈落が救われたら……、あの時のボクは何だったんだって…………、そう思ってしまうから……」
一国の痛切な思いの吐露を見て、全員が一国に対しての敵意を失っていた。
一国の敵意の意味を知ってしまったから。
「力がなければ世界は変えられない。それが嫌いだったから、ますます救おうとするのが嫌だったんだ。力が全てなんて……そんなの、残酷だ」
一国の瞳からは涙が溢れる。
「でも、力を合わせれば、きっと……。ボクは今まで、他人が嫌いだった。ルールを守らない、悪を振りかざすだけの他人が嫌で嫌で仕方がなかった。だからこそ、見ようとしていなかったんだ。その中にも、正義を貫こうとしている者がいることを」
(本当は気づいていた。ずっと前から……。でも、気づかないようにしていた。見ないようにしていた。言い訳にしていた。でも、いい加減それを捨てるべき時が来たんだ。変わるべき時が来たんだ。救える人になりたいのなら)
「日向穂琉三、ボクは正義の味方になりたかったんだよ。ボクの正義は失くなった。けれど君には正義がある。だからボクは、君の味方になる」
「ありがとう。一国百」
穂琉三は一国に手を差し出した。
一国は一度手を引っ込めるも、穂琉三の手を掴む。
「奈落を救おう。みんなで力を合わせて」




