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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.64『VS一国②』

 魔法戦において必要なことは何か。

 一国のような圧倒的魔力量か、それとも──


 一国は全身に電気を纏い、それにより圧倒的敏捷性を手に入れた。

 対して穂琉三は夏恋による敏捷性向上の魔法が付与されているものの、電気のような速さで動く一国とは雲泥の差である。


「てめえは本気で奈落を救いに行く気か」


「当然だ」


「分からねえな。奈落魔宵は罪人なんだ。お前は罪人を救うのか」


「救うよ。だって僕は、奈落さんがやっていないって信じているから」


「そんなの分からないだろ。お前は奈落魔宵の何を知っている」


 一国は否定する。

 否定する。


「優しいことを知っている」


「優しさ……ね。そんなもの分からない。分からないんだよ」


 一国が纏っていた電気の一部が爆発したように弾ける。

 その勢いのまま、一国は穂琉三に突撃する。

 当然かわすこともできず、一国の電気を纏った拳が穂琉三を吹き飛ばす。

 窓ガラスを割って校舎内に転がる穂琉三を見て、一国は呟く。


「力がなければ結局無意味だ。誰を信じようと、誰を守りたいと思おうと、全部無駄なんだよ」


 一国は夏恋と愛六に目を向ける。


「次はお前らだ」


「私はこの程度で負けるはずがないと思っているんだ」


 愛六は微笑みながらそう口にする。


「あ?」


「お前は言ったな。かっこいい男にしてくれと。今のお前は以前に比べて格段にかっこよくなった。そんなお前がこの程度で死ぬはずない。私はそう信じているよ」


「何言っているか知らんが、お前も終わ──」


 愛六へ手のひらを向けた一国の頬に、燃え盛る右ストレートが炸裂した。


「てめえ……」


 吹き飛ばされたはずの穂琉三。

 だが彼は拳を燃やし、一国に一撃を浴びせた。


「信じることが無駄なんて、そんなはずないだろ。信じてくれる人がいるだけで強くなれる」


「世界はそんな優しさに満ち溢れちゃいない。だからお前はここで死ぬんだ」


 一国は穂琉三の顔を掴み、そのまま校舎へ突撃した。穂琉三は壁に衝突し、壁をぶち破って床に転がる。

 一国は穂琉三と距離をとり、自身の背後に雷を出現させる。

 穂琉三は人サイズの瓦礫を蹴り上げ、そこへ一国の雷が衝突する。雷は四方八方へ飛散し、その間に穂琉三は前に出る。


「無駄だ」


 穂琉三の動きの何倍も速く動く一国。

 穂琉三の後頭部に衝撃が走り、次の瞬間には腹部に激痛が走る。見えない速度で動き回る一国が無慈悲に攻撃を浴びせ続ける。

 最後にかかと落としで穂琉三を地面に倒した。


「こんだけやれば死んだだろ」


 一国は背を向け、夏恋のもとへ行こうとしていた。

 だが──


「この程度じゃ、僕は殺せねえよ」


 身体のいたるところに激痛が走り、その上全身には痺れが走っている。

 それでも彼は立ち上がった。


「立てるはずがない。あんだけ殴られて、どうしてそこまで……」


「大切なんだよ。奈落さんは。だから、僕は奈落さんを救うまで戦い続ける」


「無理だ。無駄だ。子供じゃ大人には勝てないんだから」


「僕一人じゃ無理だ。でも──」


 一国は意識を穂琉三に集中していた。

 だからこそ、背後から迫る彼女には気づかなかった。


「『火拳槌(カグヅチ)』」


 燃える拳が一国の背中に直撃する。


「がっ……、そうか……」


 背後には、真紅の髪に真っ赤な瞳をした二月がいた。

 一国の身体が前に吹き飛ぶ。


 正面には激しく燃える拳を構える穂琉三がいる。


 一国は全身から放電を行うが、突如一国の周囲をたくさんの小さな水球が囲む。

 電気の軌道は水球に沿ってズレ、穂琉三には当たらない。


 無防備な身体が穂琉三へ差し出される。


「力を合わせれば勝てるだろ」


 燃える拳が一国の腹を直撃する。


「くそが…………」


 一国は戦意を喪失し、床に倒れる。


(何が力を合わせれば勝てるだ。ボクが本気を出していれば……)

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