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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.61『迷い苦しみ、その先で』

 異世界流し。

 それは踏み入れれば死ぬと判定された異世界へ罪人を流す処罰のこと。

 異世界流しに遭った多くの者が、異世界にて死を遂げている。


 奈落の異世界流しが決定したことを知った穂琉三は、二十四時以降の異世界との接続を終わらせた後、神妹のもとへ向かった。


「神妹、どういうことだ。なんで教えてくれなかった」


「いずれ知ると分かっていましたよ。だから私から伝えることはしませんでした」


「違う違う違う。なんで、なんで、なんで……どうして……」


 穂琉三は声を荒くする。

 感情をむき出しにする穂琉三を、神妹は初めて見た。


「僕は……奈落さんを守りたいと思った。大切に思っていたから、何か困ったことがあれば助けたかったんだ。なのに……」


 穂琉三はその場に膝から崩れる。


「あなたが私に会いに来た理由はそれですか」


「奈落さんの居場所を教えてくれ」


「そうですか」


 神妹はしばらく沈黙する。


「居場所を教えても構いませんが、それであなたはどうするつもりなのですか」


「助けに行く」


 穂琉三は真っ直ぐな眼差しで答える。


「一つ伝えておきますが、奈落は十星騎士団の精鋭によって監視されています。十星騎士団は歴代魔法十家の精鋭によって構成された最強の魔法部隊。あなたが魔法を磨いたのはたった二ヶ月。もし助けに行くというのなら、あなたよりも長く魔法を磨いた者にケンカを売るということです。それでも行くのですか」


「行くよ。でなきゃ、何のために強くなったんだ」


 神妹はこれから穂琉三がケンカを売ろうとしている相手がどれほどの存在かを丁寧の伝えた。

 しかし穂琉三の目は揺らがない。

 未だ闘志を宿している。


 ──どうして。


「そもそも、奈落魔宵は罪を自白した。そのために捕まっている」


「犯人は奈落じゃない。そうだろ」


 穂琉三はそう信じていた。

 奈落と接して、そう感じた。


「死にますよ。罪人を救うということはそういうことです」


「構わない。それでも、僕は助けたいんだ」


「どうして?」


「僕は奈落さんに命を救われた。それだけじゃない。僕に魔力の使い方を教えてくれた。僕と仲良くしてくれた。僕にも優しくしてくれたんだ。だから、奈落さんが困っているのなら、僕は助けたいんだ」


 ──分からない。


 感情の意味を知らない。


 穂琉三の真っ直ぐな眼差しを見て、神妹は戸惑う。


「それが……あなたの選択なのですか」


「約束だからね」


「約束?」


「一緒に強くなろうって約束したんだ。だからね、そばに奈落さんがいてほしい」


 穂琉三を見た神妹は思わず口が動いた。


「黒薔薇山の廃墟地帯。そこに奈落魔宵は拘束されている」


「ありがとう」


 神妹にお礼を言うと、穂琉三は学校を飛び出した。


「てっきり不干渉だと思ったんだがな」


 部屋にはまだ赤い光球が浮かんでいた。


「ええ、私はそのつもりでしたよ」


「じゃあなんでだ?」


「私は全てを知っている……わけではないんですよ。当然知らないこともある。それを知りたいと思ったから、こうして私は人の行動を見ている」


「それで?」


「私は感情の意味を知らない。思いの意味を知らない。なぜ思いが人を強くするのかを知らない。日向穂琉三は思いの強さで奈落魔宵を救おうとしている。そこにどれだけ強大な壁が立ち塞がっているかを知ったはずなのに」


 神妹には分からない。


「だから私は見たいと思ったんです。日向穂琉三が進む先にあるものが一体何なのか」


「そうか」


 ヒルコは驚いた。

 神妹という人物を今まで知らなかった。

 神妹は多くを語らない。だからこそ神妹という人物が分からなかった。

 だが今、少しだけ分かった気がした。


「なら見ていると良い。この先の結果を」


 ヒルコは去った。

 一人残った部屋で、神妹は呟く。


「結果は知っている。だが、その意味が分からない。そばで彼らを見ていれば分かるものだと思っていたんだけどな……」



 ♤♡◇♧



 学園の外。

 校門で穂琉三は足を止めていた。

 そこには三人の少女が立っていた。

 一人は愛六、残りは花園で集まった十一人の接続者の二人だった。


「穂琉三、奈落さんは──」


「神妹から聞いたよ。花園での事件の自首をしたんだろ」


「神妹が……!」


「居場所も聞いた。僕は今からそこへ行く」


 穂琉三は三人の間を縫って黒薔薇山へ向かおうとしていた。

 その肩を黒髪の少女が掴む。


「つまり、十星騎士団にケンカを売るということか」


「ああ」


「そうか。では私たちも行こう」


 穂琉三は驚き、振り返る。


「当然だろ。一人で十星騎士団数人と戦うのは無理がある」


「でも……」


「問題ない。そもそも私たちが君に会いに来たのはそれが理由なんだ。君の是非を問わず、私は同期の接続者を助ける。なぜなら私たちは誰も、彼女が花園の事件の犯人であると思っていないからね」


 黒髪の少女は真っ直ぐ穂琉三へ告げた。


「ありがとう。ありがとうございます」


 穂琉三は黒髪の少女へ感謝を伝えた。

 彼女はにこりと微笑む。


「私はアイズ家と契約し、模倣魔法を扱う。二月(きさらぎ)銀だ」


「私はヒーリング家と契約して支援魔法が使えます。四葉(しば)夏恋(かれん)です。よろしくお願いしますね」


 黒髪の少女と赤髪の少女が穂琉三に自己紹介をした。

 穂琉三も自己紹介をしようとしたが、


「おい、本気で十星騎士団と戦うつもりか」


 校舎の方から一国が歩いてくる。

 一国は鋭い眼光で四人を見る。


「そうだね。仲間のためならそのくらいするさ」


 二月が一国へ一歩踏み出す。


「愚かだな。お前ら」


「仲間を救うことが愚かなのかい」


「愚かだな。救えるはずがない。相手はあの十星騎士団なんだから」


 一国は穂琉三らが奈落を救い出せるとは微塵も思っていない。


「それでも助ける」


 穂琉三は強く一国へ叫ぶ。


「不可能だ。勝てない。戦う前に分かっているはずだ」


「分からない。お前がなぜそこまで敗北を確信しているのか、その方が分からない。お前が異世界を求めた理由と関係があるのか」


 二月のその台詞に一国の表情が曇る。

 殺気が電気のように穂琉三らに伝わる。


「うるさいな。黙れよ」


 一国は殺意が漲る目で二月を凝視する。


「十星騎士団が罪人と認定したのなら、その者は罪人で確定する。だからこそ裁かれるべきだ。お前たちがやろうとしているのは、罪人を罰から逃れさせようとしているだけだ」


「奈落さんはやってない」


 穂琉三が叫ぶ。

 それがますます一国の怒りのボルテージを上げる。


「どうでもいい。罪人への罰の邪魔をするのなら──」


 一国の魔力が揺らぐ。


「わざわざ十星騎士団の手間をかけさせない。ここでお前ら全員殺してやる」


「相変わらず感情的だな。それじゃあただの接続者狩りになると分かっているのか」


「どうでも良い。どうでも良いんだ」


 一国は思い出す。

 そして──


「『開国』」


 王家魔法は開かれる。


「本気かよ」


 一国の全身を膨大な魔力が覆う。


「ボクは正義を執行する。正義が勝つ世界。それがボクの理想の王国。だから、お前らみたいな悪は全て、滅する」

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