物語No.58『目覚める悪魔』
二十四時になる少し前、奈落は黒廻冥が滞在している家に行っていた。
その家は襲撃に備え、黒廻が悪魔を召喚し、常時警戒させていた。
しかし奈落は知っている。
黒廻が落ちこぼれの魔法使いであることを。
彼女が召喚した悪魔は全て劣化版コピー。
しかし倒せば侵入したことに気づかれる。
奈落は鼠の悪魔の劣化版コピーを九体出現させ、黒廻がいるリビングへ侵入させた。
幸い黒廻はお酒の飲みすぎで眠っており、鼠の悪魔を警備している悪魔の死角をついて移動させていた。
黒廻は召喚した悪魔の視覚の共有や操作が可能。
同時に操れる数は九体。
とはいえ、悪魔の強さによっては一体しか操れない場合もある。
黒廻はリビング中を探し回り、黒廻が眠るソファーの下に分厚い書が隠されているのを見つけた。
鼠の群れで書物を運び、悪魔にバレないまま外へ持ち出した。
「良かった。バレずに持ち出せたよ」
その事を誰よりも喜んだのは黒い光球の姿をした悪魔のミタマだった。
「さすがだぜ。せっかくだし一体くらい呼び出してみたらどうだ」
「えー、でも……」
「もしもの時は俺がフォローしてやる」
「それじゃあ──」
♤♡◇♧
二十四時。
異境学園は異世界と接続する。
異境学園には穂琉三、奈落、一国が集まっていた。
二十四時になるとともに、稲荷は扉の出現を感知した。
「扉はどこだ?」
「はい。扉は……」
一国が威圧的な口調で稲荷に問うと、稲荷は脅えながら答えようとする。
「ちょっと待って。また一人で行くつもり」
穂琉三が稲荷と一国の間に立ち、一国を真正面から見る。
「何だ?」
「共闘しよう。今後の戦いにおいて連携は必要になるはずだ」
「神妹がそう言ったからって盲信しやがって。ボクはお前らみたいな雑魚と組む気はない。第一魔力操作もできないお前なんかとやるかよ」
「魔力操作ならできる」
一国はじっと穂琉三を凝視する。
一国は漏らした吐息で微笑を奏でる。
「奈落に教わったんだろうが、まだその程度か。ボクと組みたきゃあと一年足りねえな」
一国は穂琉三との距離を詰め、額がつくほど顔を近づける。
穂琉三は一歩も退くことなく、一国と目を合わせ続ける。
「嫌いな目だ。弱いくせにボクを見るなんて、征服してやる」
穂琉三は一国の殺意を感じ取った。
一国自身、膨れ上がる殺意を抑えきれずにいた。
暴走する一国の感情。
「『開国』」
王家魔法は開かれた。
奈落は見た。
一国の全身を纏う膨大な魔力を。
「圧倒的なまでの魔力……。これが……一国……!!」
一国が纏う魔力は穂琉三や奈落を遥かに凌駕する。
これほどの魔力が全て魔法に変換されたなら、どれほどの威力が放たれるだろうか。
「『王雷』」
花園で大量のモンスターを殲滅した一撃が、穂琉三の頭上で稲光となって現れる。
間もなく放たれる絶死の一撃。
穂琉三はとっさに全身を魔力で覆ったが、防ぎきれるはずもない。
そして、雷は落ちる。
雷光が学園中を照らし、激しい電撃が周囲に弾ける。
そこに残っているのは黒焦げになった穂琉三の死体──
──ではなかった。
「……はっ!?」
驚いたのは一国。
そして穂琉三だった。
穂琉三の頭上には、漆黒の霧を纏った巨大な龍が飛んでいた。
身体の所々が黒い霧に覆われており、その霧はまるで筆で描いたような感じだった。霧から覗かせる龍の肉体はこの上ない黒みをしており、瞳は吸い込まれそうなほどの深淵だった。
「ボクの電気を……無効化したのか!?」
「奈落、この龍は君が……?」
驚く一国と穂琉三。
だが最も驚いていたのは奈落だった。
「まさか……ホントに来てくれるなんて……」
龍は奈落のもとへ移動する。
空中へ滞在したまま、奈落を見る。
「この私の初仕事が壁役とは。随分と面白いじゃないか」
丁寧な話し口調で、どこか穏やかさがありつつも、その中に隠された強さのようなものを感じる。
「ごめん。でも必要だったの」
「何も私は怒っているわけではない。少し感心してしまってな。まだ若い少女が、私の召喚に成功したのだから」
龍は微笑む。
龍が微笑む理由を奈落は察していた。
奈落は少し前に龍の悪魔を召喚した際に契約を交わしていた。
召喚する際の条件は魔力の消費。
どれほどの魔力が持っていかれるのか知らなかったが、相当な量であることは想像に難くない。
だが今、奈落は龍の悪魔の召喚に成功した。
「これからも契約は続行だ。いつでも召喚してかまわない」
「ありがとう。〈闇龍の悪魔〉」
やがて闇龍の悪魔は消えた。
「あの龍を……。やはり黙示録の魔術は災いを呼ぶ」
一国は奈落を睨む。
「ますます協力なんてできないな」
そう言うと、一国は二人のもとを去ってしまった。
周囲を見ると、既にモンスターが空や地上を闊歩している。
「早くしないとモンスターだらけになっちゃうよ。早く扉を……」
歩こうとしたところで、奈落は膝をつく。
「奈落さん?」
「ごめん。さっきので魔力を使いすぎたみたいだ」
奈落の魔力は底を尽きていた。
「とにかく今は扉を塞いで。でなきゃモンスターばかりになっちゃうよ」
「いや、今回は一国に任せるよ」
既に周囲にはモンスターがうろついていた。
その内の数体が奈落を見つけ、襲いかかる。
だがそのモンスターは魔力を纏った拳に沈められる。
「奈落さんが命を救ってくれたんだ。なら、今度は僕が君を守るよ」
近づくモンスターを穂琉三は次々と打ち倒す。
しばらくして、学園中にいたモンスターが光の柱に貫かれ、学園を覆う結界は消失した。
学園は再び零時から時を刻み始める。
「奈落さん。今日は送っていくよ」
「大丈夫。魔力がないだけで普通に動けるから」
そう言うと、奈落はゆっくりと立ち上がった。
「今日はありがとう」
奈落は穂琉三に背を向け、立ち去ろうとした。
その後ろで、穂琉三はモジモジしていた。
「ね、ねえ、奈落さん……もし良ければ僕の部屋に泊まってく? 寮だから、すぐ近くなんだ」
「……え!?」
奈落は目を丸くし、振り返る。
言った後で、穂琉三は顔を真っ赤にした。
「ど、どうかな……」
「そ、それじゃあ……泊まっていこうかな」
二人は緊張した面持ちで寮へ向かった。




