物語No.57『秘密の特訓』
五月十六日。
放課後。
学校を終えた穂琉三は校門である人物を待った。
やがて校門に、目にもかかりそうなほどの紫紺の髪を揺らしながら少女が現れた。
黒を基調とした制服を着た少女。
「こ、こんにちは。日向くん」
「や、やっほー。奈落さん」
二人とも緊張気味だった。
「えっと、どこで魔力の使い方を教えよっか」
「近くにあまり人の来ない森があるから、そこでどうかな」
穂琉三はそう提案する。
「そこにしよっか」
奈落が肯定し、二人でその森へ行くことに。
その背中を校舎から愛六が眺める。
「ふーん。コミュ障脱却してるじゃん」
愛六は微笑む。
「じゃあ私も秘密の特訓に行こうかな」
やがて奈落と穂琉三は森についた。
その森は誰もおらず、近くにも神社があるが、そこにも人はいない。
「じゃあ始めよっか」
奈落と穂琉三の秘密の特訓が始まる。
この特訓の前、奈落に魔力操作について教わってからずっと、穂琉三は魔力が全身を流れる感覚に浸っていた。
そのためか昨日よりも魔力操作の技術は向上していた。
「へえ、大変だったでしょ」
「うん。でも僕は強くなりたいんだ」
「そっか。強く……か」
奈落はじっと穂琉三の目を見る。
「日向くんは強くなって何かになりたいの?」
「えっとね……」
穂琉三は少し考える。
「僕はね、異世界に行きたいんだ」
「そういえば、異世界に行けるのは上位十人だからね」
「……え!?」
穂琉三は驚く。
「もしかして、神妹さんから聞いたことと違ってるの?」
「う、うん。僕らはあの学園に愛六と二人で戦ってた。それでより多くポイントを稼いだ方が異世界に行けるって……」
「なるほど。神妹さんは徹底的に他の接続者のことを隠していたんだね」
「いや、多分伝えていなかった……。というより、どんな情報も自分達で集めさせようとしてた」
「手は貸さないってことか。もしかして神妹さんは、公平に行こうとしていたのかもね」
「公平?」
「神妹さんって何でも知っているんだよ。だからもし知っている全てを伝えちゃったら、君たちは他の接続者よりも圧倒的に強くなる。だから、神妹さんは一切を伝えないってことにしたんじゃないかな」
奈落の推測に穂琉三は納得できる部分もあった。
「まあ、そっか」
「きっとそうだよ。とにかく今は鍛えよう。強くなるために」
穂琉三は様々な疑問を圧し殺し、特訓を開始した。
まずは魔力の一点集中。
穂琉三は魔力操作技術が向上したおかげで、自分の意思で操れる魔力が増加した。
そのため、今穂琉三が拳に集めた魔力は昨日よりも多い。
「成長が早いね。というより、今まで感覚でやっていたことをより鮮明に感じられているって感じかな」
奈落の説明を受けるまで、穂琉三は魔力の感覚をいまいち掴めていたなかった。
おぼろげな魔力の感覚を掴んでいるだけだった。
だが今は違う。
奈落のおかげで魔力が鮮明になっていく。
今の穂琉三は魔力というものを鮮明に感じている。
「じゃあ次はそれを人差し指に移動してみようか」
穂琉三は拳に集中させた魔力を指先へ移動させる。
徐々に人差し指に集まる魔力。
だが──
指先に溜まった魔力はその状態を維持できず、風船が破裂するようにあちこちに弾け飛んだ。
「あれ?」
「まあ最初はそうなっちゃうよ。魔力の一点集中は、その密度が大きくなればなるほど押さえ込むのが難しくなる」
「確かに。なんとなく魔力に押された感じがした」
「魔力を圧縮すればするほど威力は大きくなるけど、その分押さえ込むのも難しくなる。でも習練を積めばできるようになる。魔力操作ってのはそういうものなんだ」
その後も穂琉三は指先への魔力集中を試した。
しかし何度やっても指先で魔力を維持することはできなかった。
「難しいね」
「私もできるようになるまで一ヶ月はかかったからね」
奈落は魔力を指先に集中させる。
穂琉三には魔力が見えていない。
「今私は人差し指に魔力を集めているんだけどね、この魔力を一点に解放すると、」
奈落は指先を近くの木に向けた。
やがて奈落の指先から放たれた魔力が木に指差しサイズの風穴を空けた。
「これが『魔弾』」
分厚い木に空いた風穴を穂琉三は呆然と眺めた。
「遠くにいても誰かを救える。そんな技なのかもね」
穂琉三の言葉に妙に残ったその言葉。
その日、穂琉三は魔弾を習得できぬまま、二十四時を迎えた。




