物語No.50『花園決戦/伍』
詠唱魔法。
言葉を発することで発動する魔法。
物体の名前とその物体が行う行動を言葉にすると、その通りになる。ただし熟練度やその他の要因による例外もある。
また詠唱文が降りてくることもあり、その詠唱を唱えると特定の魔法を発動できる。
長文になるにつれて魔法の威力は上がる。
詠唱文は降ってくる。
最も多く詠唱文が降ってくる瞬間は──
♤♡◇♧
死にそうだ。
もう肉体が悲鳴をあげている。
既に限界だと身体が言っている。
だけど心が言うんだ。
まだ戦え。
立って戦え。
足はとっくに動かない。
腕はとっくに上がらない。
全部気合いで乗り越えろ。
俺は五蝶嵐。
楓夏のためなら命を懸けろ。
全てを懸けて楓夏のもとへ。
駆けろ。
操った風でこの身を浮かせ、悪魔へ突撃させる。
悪魔は拳を構え、迎撃の構えに出る。
終わらせる。
「風よ。
この一撃に思いを乗せて。
再会の道を開け。
『風花』」
握りしめた槍には螺旋を描く風が纏われる。
最後の力を振り絞り、俺は槍を悪魔目掛けて投擲する。
悪魔は回避しようと羽を広げるが──
逃がさない。
空中へ回避する悪魔へ、槍は追尾する。
風が悪魔の方へ進路を変え、どこまで行こうと逃がさない。
螺旋を描く風とともに、槍は悪魔の心臓を貫いた。
悪魔の心臓には風穴が空き、その背後にあった巨大な木にも風穴が空いた。槍に圧縮された空気は解放とともに爆発を起こし、悪魔も木も爆発的な突風に全身を砕かれる。
悪魔が塵となって消えるとともに、木も塵となって消えていく。
俺は楓夏のもとへ駆け寄る。
既に楓夏の肉体は崩壊をしており、今にも消えてしまいそうだ。
「楓夏」
「嵐」
俺は優しく楓夏の身体を抱く。
楓夏の身体に力はなく、意識も薄れている様子だった。
きっと彼女は抗っているんだ。
あの時寿命に抗ったように。
今も必死に抗っている。
いつだって楓夏は俺の側にいてくれた。
それなのに俺は一度だってちゃんと伝えられていなかった。
だから伝えよう。
十数年の気持ちを込めて。
「楓夏、俺の妹になってくれてありがとう」
ずっと伝えたかった『ありがとう』を。
ようやく伝えられた。
楓夏はにっこりと笑った。
久しぶりに見た楓夏の笑顔は、ひまわりのように咲き誇っていた。
「私も同じことを伝えたかった。私の側にいてくれてありがとう」
俺は笑みを浮かべる。
楓夏から伝えられた言葉に、俺は心から喜んだ。
このまま楓夏に触れていたい。
ずっとそばにいてほしい。
また楓夏と一緒に花を見よう。
俺はいつだって楓夏のそばにいたいんだ。
楓夏の手をぎゅっと握りしめる。
楓夏の手は溶けていく。
行かないで。
ずっとそばにいて。
「私は嵐の妹になれて幸せだったよ。私はもう消えてしまうけど、嵐は生きてね」
「楓夏……」
やがて俺の腕の中で、五蝶楓夏は光球になって消えていった。
漂う光の粒を抱きしめ、泣いた。




