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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『花園で眠る君に』編
54/110

物語No.50『花園決戦/伍』

 詠唱魔法(アリア)

 言葉を発することで発動する魔法。

 物体の名前とその物体が行う行動を言葉にすると、その通りになる。ただし熟練度やその他の要因による例外もある。

 また詠唱文が降りてくることもあり、その詠唱を唱えると特定の魔法を発動できる。

 長文になるにつれて魔法の威力は上がる。


 詠唱文は降ってくる。

 最も多く詠唱文が降ってくる瞬間は──



 ♤♡◇♧



 死にそうだ。

 もう肉体が悲鳴をあげている。

 既に限界だと身体が言っている。

 だけど心が言うんだ。


 まだ戦え。

 立って戦え。


 足はとっくに動かない。

 腕はとっくに上がらない。

 全部気合いで乗り越えろ。


 俺は五蝶嵐。

 楓夏のためなら命を懸けろ。

 全てを懸けて楓夏のもとへ。


 駆けろ。


 操った風でこの身を浮かせ、悪魔へ突撃させる。

 悪魔は拳を構え、迎撃の構えに出る。


 終わらせる。


「風よ。

 この一撃に思いを乗せて。

 再会の道を開け。

 『風花(ふうか)』」


 握りしめた槍には螺旋を描く風が纏われる。

 最後の力を振り絞り、俺は槍を悪魔目掛けて投擲する。

 悪魔は回避しようと羽を広げるが──


 逃がさない。


 空中へ回避する悪魔へ、槍は追尾する。

 風が悪魔の方へ進路を変え、どこまで行こうと逃がさない。

 螺旋を描く風とともに、槍は悪魔の心臓を貫いた。

 悪魔の心臓には風穴が空き、その背後にあった巨大な木にも風穴が空いた。槍に圧縮された空気は解放とともに爆発を起こし、悪魔も木も爆発的な突風に全身を砕かれる。

 悪魔が塵となって消えるとともに、木も塵となって消えていく。


 俺は楓夏のもとへ駆け寄る。

 既に楓夏の肉体は崩壊をしており、今にも消えてしまいそうだ。


「楓夏」


「嵐」


 俺は優しく楓夏の身体を抱く。

 楓夏の身体に力はなく、意識も薄れている様子だった。


 きっと彼女は抗っているんだ。

 あの時寿命に抗ったように。

 今も必死に抗っている。


 いつだって楓夏は俺の側にいてくれた。

 それなのに俺は一度だってちゃんと伝えられていなかった。


 だから伝えよう。

 十数年の気持ちを込めて。


「楓夏、俺の妹になってくれてありがとう」


 ずっと伝えたかった『ありがとう』を。

 ようやく伝えられた。


 楓夏はにっこりと笑った。

 久しぶりに見た楓夏の笑顔は、ひまわりのように咲き誇っていた。


「私も同じことを伝えたかった。私の側にいてくれてありがとう」


 俺は笑みを浮かべる。

 楓夏から伝えられた言葉に、俺は心から喜んだ。


 このまま楓夏に触れていたい。

 ずっとそばにいてほしい。

 また楓夏と一緒に花を見よう。

 俺はいつだって楓夏のそばにいたいんだ。

 楓夏の手をぎゅっと握りしめる。

 楓夏の手は溶けていく。

 行かないで。

 ずっとそばにいて。


「私は嵐の妹になれて幸せだったよ。私はもう消えてしまうけど、嵐は生きてね」


「楓夏……」


 やがて俺の腕の中で、五蝶楓夏は光球になって消えていった。

 漂う光の粒を抱きしめ、泣いた。

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