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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『花園で眠る君に』編
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物語No.49『花園決戦/肆』

 今、五蝶嵐は木に埋まって眠っている五蝶楓夏を視界に捉えた。

 だが眼前には悪魔がいた。

 背中から邪悪な翼を生やした黒い悪魔。頭は鳥、胴体は牛、手足も生え、嵐より一回り大きく威圧的。


「ちっ。またお前か」


 嵐は舌打ちをしつつ、槍を握り締め、戦闘態勢に入る。

 呼吸を整え、

 走る。


 銀翼蝶が風を纏う。

 風を纏った槍を握り締め、眼下にいる悪魔へ槍を振るう。

 悪魔は軽快に回避し、攻撃へ移ろうとするが、嵐はさせまいと攻撃の手を緩めない。

 風に流されるままに、槍を縦横無尽に振るう。

 時折直撃する攻撃は、悪魔にとってはかすり傷。致命傷には至らず、悪魔の肉体を深くえぐることはできない。


 次第に悪魔も嵐の攻撃に慣れてきたのか、槍撃の間隙を狙って攻撃を行う。

 悪魔が振り下ろした拳、嵐は空中にいた。

 回避は困難。

 思考するよりも身体が反射で動き、槍を地面に突き刺し、再び空中へ飛ぶ形で回避した。

 再度悪魔が空中の嵐へ攻撃をくわえようとするが、嵐は至近距離で詠唱する。


「守りたい君のために──」


 槍には今まで以上に風が絡みつき、突風を吹かす。


「『嵐槍(ランス)』」


 至近距離からの槍の投てき。

 悪魔は回避しきれず、突風吹き荒れる槍の直撃を受けた。

 悪魔の左腕は消失していた。


「仕留めきれなかったか。だが──」


 地面に突き刺さった槍を抜き、腕を失い硬直している悪魔へ二撃三撃を与える。

 既に悪魔の肉体への攻撃は致命傷には至らないと知っている。だが失った左腕からなら悪魔にとっての手痛い一撃となる。

 悪魔は左腕の断面に攻撃を受け、傷口が広がっていく。


「このままいける。お前を倒せ──」


 直後、地中から飛び出した木の根が嵐を直撃した。

 不意の一撃に体を浮かせ、無防備に宙を舞う。

 そこへ容赦なく、悪魔の蹴りが炸裂する。

 巨体から放たれる蹴りは嵐の骨を粉砕し、蹴りを受けた箇所からは出血をしている。

 そのまま地面を転がり、やがて動かなくなった。


 悪魔が一歩一歩、倒れている嵐へと足を進める。

 悪魔は嵐の側まで近づき、手を伸ばそうとした。


「『火拳槌(カグヅチ)』」


 炎を纏った拳が悪魔の顔面に直撃する。

 悪魔は後ろに数歩下がり、攻撃を与えた穂琉三を直視する。

 殺気を纏った悪魔の目。

 穂琉三は気圧され、思わず一歩後ろに引いてしまう。


「少し遅かったみたいね」


 穂琉三の背後、無数のモンスターが倒れる中から現れた愛六。

 彼女は倒れている嵐を見て、そう呟いた。


「この悪魔が出てくるとは思ってたけど……やはり強いか」


 穂琉三は一度悪魔と対峙したから分かる。

 悪魔の圧倒的な威圧感。

 嵐は悪魔との戦いばかりに意識を削がれ、木の根での攻撃をすっかり意識の外に追いやってしまっていた。


「愛六、奴は自在に木を操る。地面の中から突然木の根を出してくる。警戒していなければ避けられない」


「随分と厄介な相手ね」


 穂琉三と愛六は悪魔と対面する。

 対面して直感する。


「遠くから見ていた感じ、何度か嵐の槍が悪魔を攻撃したが、かすり傷程度しかついていない」


「硬さも備えているってことね」


 穂琉三は自分が見た情報を愛六に伝える。


「ってかこのままだと周囲のモンスターからも攻撃受けるよ」


「どうせ僕らと奴の戦いに割り込めるモンスターなんかいない。激しい戦いをすれば、大抵のモンスターは近づくことを恐れる」


「だね。じゃあ暴れちゃおっか」


 穂琉三は拳に炎を纏い、愛六は自身の周囲に浮遊する水玉を動かす。


「『火拳螺(カグラ)』を当てれば倒せるか」


「『水槽の君』で溺死させちゃえばすぐよ」


 二人が戦おうと足を踏み出した瞬間、背後から激しい風が吹いた。

 二人は驚き、背後を見た。


「楓夏を──」


 致命的な一撃を受けたはずの嵐は、風に背中を押され、立ち上がった。


「──返せ」

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